トップ新編生物I 改訂版>第5部 体液と恒常性>第3章 ホルモンと自律神経による調節A ホルモンの働き

A ホルモンの働き

 

ホルモン (Hormone)

ホルモンとは,細胞が生産する特定の有機物質で,通常体液 (血液)によって運ばれ,他の細胞・組織に対し,その活動を調節する効果をもつ。このホルモンをつくる細胞を含む器官が内分泌器官であり,形態的には無導管腺という特徴をもつ。活動の調節を受ける器官が標的器官であり,内分泌器官と標的器官とは同一個体内にある点がフェロモンと異なっている。標的器官の細胞は,ホルモンがなくても活動を続けるが,その速度は非常に遅い。ホルモンは標的細胞の機能レベルを促進あるいは抑制する効果をもつ。

 

ホルモンの化学構造

ホルモンは化学的に大きく2つに分けられる。副腎皮質と性腺はステロイドホルモンを産生し,それ以外の内分泌腺は,タンパク質・ペプチド・アミノ酸誘導体のホルモンを産生する。

aステロイド系ホルモン

性ホルモンや副じんホルモンで,いずれも分子中にステロイド環をもっている。

b.タンパク質・ペプチド・アミノ酸誘導体のホルモン

下垂体前葉から出るホルモン,下垂体後葉から出るバソプレシン,すい臓からのインスリン,グルカゴン,腸からのセクレチンはペプチド〜タンパク質。

 アミノ酸としては,甲状腺のチロキシン,副じん髄質のアドレナリン,松果体のメラトニン等があげられる。

 タンパク質系のホルモンは経口的に与えると,消化液によって分解され,無効になってしまう。したがって,薬としては注射薬とか座薬等で利用される。

 

セクレチン(secretin)

セクレチンは酸性の胃の内容物やタンパク質の消化物の刺激によって,十二指腸よび小腸上部の粘膜から分泌され,主としてすい臓に働いて,すい液,ことに重酸塩と水の分泌を起こすホルモンである。

●セクレチンの少量投与の場合の生理作用

(1)すい臓からの水と電解質の分泌  (2)肝臓から胆汁への水と電解質の分泌増加

(3)噴門括約筋の抑制  (4)胃内容物の輸送遅滞  (5)胃酸分泌抑制

(6)胃ペプシンの分泌刺激  (7)十二指腸運動の抑制

●セクレチンの大量投与の場合の生理作用

(1)インスリン放出  (2)十二指腸腺刺激  (3)じん臓のNaKの排出増加

(4)心拍出量と内臓の血流量の増加  (5)脂肪細胞における脂肪分解の促進

 

ホルモンの作用のしくみ

ホルモンが多様な働きを示す場合がある。例えば,チロキシンは代謝を促し,腸管におけるグルコース吸収を促し(ほ乳類),鱗へのグアニン沈着を促し(魚類),変態を促す(両生類)。一種のホルモンの多様な効果をどう説明すればよいか。このような疑問に対し,放射性標識ホルモンを用いた研究から,ホルモンは特定の標的細胞や組織に選択的に集積されることがわかった。一般にあるホルモンに対し,最も強く反応する組織は,そのホルモンを最も多くとりこみ,最も長く保留する。

 現在におけるホルモンの作用のしくみの話題はサザーランドの説である。彼の説は1960年頃にはじまっているが,日本で話題となったのはノーベル賞受賞(1971)によってである。この学説のもとになったのはサイクリックAMPの発見である。この研究はアドレナリンとグルカゴンがどのようにして肝臓におけるグリコーゲンからグルコースの生成を促進するかを知ろうとしたことに始まる。まずホルモンの受容体が細胞の表面にあって,膜にある酵素(アデニル酸シクラーゼ)を活性化し,これによってATPからサイクリックAMP(cAMP)をつくる。そしてcAMPがグリコーゲンを分解するグリコーゲンフォスフォリラーゼの活性化をもたらす結果,グルコースの生成が促進される。

 この働きは上記の2つのホルモン以外に,ACTHLHTSHMSH,副甲状腺ホルモン,後葉ホルモンなども同じようにcAMPの増加を起こさせることによってその作用を現すことがわかった。一方,インスリンはcAMPを減少させるように働く。このようにペプチド系のホルモンはほとんどの例においてcAMPを介してホルモン作用を現すことがわかったので,サザーランドはホルモンを第1メッセンジャー,cAMPを第2メッセンジャーとよんだ。

 ここでサザーランドが第2メッセンジャーとよんだ考え方に重要な意味をもつと考えられる。それは,この表現がある意味ではベイリス,スターリングらがセクレチンの働きとして用いたケミカルメッセンジャーということばを,60年ぶりに復活させたことである。しかもSecond meseengersと複数で示されていることに注意したい。つまりこれはcAMPという特定の物質をさすのではなく,情報物質としての一般化の意図が含められている。つまり,ホルモンが生体活性物質としてではなく,情報物質として見直され始めた1つのステップをつくったといえる。

 

フィードバック系

(feed-back system)

簡単な自動調節装置として,定温器を考えてみる。これは,ヒーター・温度計・リレーからできている。定温器内の温度が上下すると,温度計とリレーがしかけ点からの温度のずれ(情報)をキャッチしてヒーターに指令を与える。この場合,器内の温度はヒーターの活動に支配されるが,同時にそれはヒーターの作動を支配する。このように,一方が他方の原因でもあり結果でもあるような関係のなりたつ系をフィードバック系という。

 ウィーナーによれば,「機械をその予定の行動によってではなく,実際の行動に基づいて制御する」ことがフィードバック機構であるという。上の例でいえば,予定の行動とは,しかけた温度のことであり,実際の行動とはしかけた温度からのずれである。

 こうした意味の自動調節のしくみは,生体内に数多くみられる。たとえば,恒温動物は外界温度の変化をキャッチして,これに対応する機構を働かせて,ただちに体温を一定値にもどす。血糖の調節や血液中の水分・塩分・ホルモン量についても,同様な方法で動的なバランスが保たれている。

 フィードバック系には,プラスのそれとマイナスのそれとがある。生体内の実例でいえば,前葉―甲状腺の働きあいは,マイナスのフィードバックである。つまり,甲状腺刺激ホルモンが多量に出れば多量の甲状腺ホルモンが分泌され,このホルモンは,前葉に対しては抑制的に働く。したがって,両ホルモンの分泌量はほぼ一定に保たれる。

 プラスのフィードバック機構はバランスを保つというよりは,ある働きを最大限に発揮させることに関係している。たとえば,解糖系で2分子のATPが消費されて,4分子のATPが新生する。その一部がフィードバックされ,解糖系に加わる。このようにして,そこでの機構の許される最大限のATPの生産が行われることになる。

 

甲状腺とチロキシン

ヒトの甲状腺(thyroid)は約25gの重さがあり,約10mgのヨウ素を含んでいる。ここから分泌される甲状腺ホルモンは,体の成長,成熟および正常な生理機能の維持に必要で,各種の代謝,特に異化作用の促進に影響をもっている。

 甲状腺の構成は大小のろ胞で,ろ胞は腺細胞からできたふくろで,ふくろの中(内腔)にはコロイドが含まれている。腺細胞の分泌物(ホルモン)はろ胞内腔に蓄えられる。これは他の内分泌腺に見られない特徴である。必要に応じて再び腺細胞に吸収されたホルモン(チロキシン)は毛細血管に放出される。

 甲状腺の活動は,脳下垂体前葉からの甲状腺刺激ホルモンによって刺激されるが,その甲状腺ホルモンは逆に,甲状腺刺激ホルモンの分泌を抑制する(マイナスのフィードバック)。地下水中にヨウ素分が少なく,海からの食塩をとることの少ない地方は,ヨウ素の摂取量が少なくなる。そのため,チロキシンの分泌が不足し,脳下垂体前葉に対する抑制力が減るので大量の甲状腺刺激ホルモンが分泌される。その結果,甲状腺が異常に肥大(機能は低下)した患者がみられることになる。

 甲状腺ホルモンが代謝に及ぼすはたらきには次のものがある。

1.糖の代謝の促進;グリコーゲンの分解を増し,組織でのグルコースの利用を促進し,また腸管からのグルコースの吸収を促進

2.タンパク質合成の促進

3.酸素消費増加,酸化的リン酸化促進

チロキシンはサイロキシンともいう。物質名はテトラヨードチロニンで,ヨウ素を含む一種のα‐アミノ酸である。腺細胞から分泌されたチロキシンは血液中で大部分が血しょうタンパク質と結合して存在し,わずかに解離している遊離チロキシンが末梢組織に働くと考えられている。

オタマジャクシの変態*を促進するものとしてチロキシンは知られているが,これには他のホルモンも関与する。副じん皮質ホルモンも分泌が盛んになりチロキシンの作用を強める。また,脳下垂体からのプロラクチン(哺乳類では黄体刺激ホルモン)も関与し,これは変態抑制として働く。したがって,チロキシンとプロラクチンが拮抗し,これに副じん皮質ホルモンが関与すると考えられるが,まだ詳細な研究は進んでいない。

 

ホルモン分泌の異常と病気

下垂体性小人症 小児期の脳下垂体障害か視床下部の成長ホルモン分泌細胞の障害による。ヒトの成長は三期に大別され,乳幼児期の成長には甲状腺ホルモン,インスリンなどが必須である。次の学童期の成長には成長ホルモンが必要であり,思春期以後は男性では雄性ホルモン,女性では雌性ホルモンにより成長が促される。

 成長ホルモンのみの欠乏の場合は身長が低い以外は正常な大人となる。人種的に小人の場合,例えば,ピグミー族は成長ホルモンは普通に分泌されているが成長ホルモンの標的器官の1つである肝臓,骨組織に成長ホルモンの受容体が欠損しているため,身長が低いとされている。

 20歳前後で身長の伸びが止まるのは,雌性ホルモンや雄性ホルモンが多量分泌されて骨端線が閉鎖するからである。思春期以前に性ホルモンが多量分泌されると,骨端線が早期に閉鎖して身長は短くなる。

巨人症・末端肥大症 下垂体の成長ホルモン分泌が骨端線閉鎖前に多量に分泌し始めると巨人症になる。閉鎖後,すなわち成人してから発病すると身長の伸びが不可能なので末端部の肥大を起こし,あご・ひたいが出て末端肥大症となる。

 成長ホルモンはインスリンと拮抗性があるので,成長ホルモンの分泌を促す方法として,インスリンを与えて血糖を低下させたり,大量のタンパク質(アルギニンなどのアミノ酸でもよい)を経口的にとる等が考えられる。

尿崩症 多尿(10リットル以上/),のどのかわき,多飲等が症状で,視床下部の抗利尿ホルモンの産生障害で起こる(下垂体後葉はこのホルモンの貯蔵場所と考えられている)。抗利尿ホルモンの主作用はじん臓の集合管上の細胞に作用し,尿中の水の再吸収を促進させる。このとき,ホルモンが標的細胞の受容体と結合し,細胞内のcAMPを増加させ,膜透過性の変化によりホルモン作用を現すとされている。細胞の受容体が遺伝的に欠けているのはじん性尿崩症といわれ,多飲が乳児期から始まる。ウォーターベビーと称される。

甲状腺機能低下症 生まれつきの甲状腺ホルモン欠乏によって起こる小人症は特にクレチン病といわれ,治療しないと小人症のみならず知能が著しく低下する。症状は,疲れやすく,ねむたがり,夏でも寒がり,脱毛,皮膚の乾燥,顔は浮腫状となる。クレチン病の場合は生後6か月までに治療を要する。

バセドー病 甲状腺機能亢進症,2040歳,女性に多い。眼球突出・甲状腺肥大を伴う。多くはやせて汗かき,心悸 ()亢進,精神的不安定となる。

アジソン病 副じん皮質機能低下症で初期は全身倦怠感,易疲労感,体重減少,悪心,下痢等の症状がみられる。特徴的なのは皮膚の色素沈着で,血中の副じん皮質ホルモン減少のためフィードバックが作動し下垂体からACTHMSH(メラニン産生細胞を刺激するホルモン)が多量に分泌するため皮膚の色が黒くなる。

 

 

 








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