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B 中枢神経系の働き

 

◆脊椎動物の中枢神経系

魚類・両生類・は虫類・鳥類・ほ乳類の順に,大脳が発達してきている。ほ乳類では中脳・間脳が大脳によって包まれ,外部からは見えなくなっている。大脳の表面にしわが見られるのはほ乳類だけである。魚類・鳥類の中脳・小脳が比較的発達しているのは,水中・空中での姿勢の保持に関連がある。また,両生類では,反射の実験として“脊髄ガエル”のような実験が可能であるが,ほ乳類のイヌやネコではそれができない。それは,神経に関していえば,イヌやネコはカエルに比べて神経系の集中化が進み,脊髄だけでは筋肉の働きをまとめることができなくなっているためと考えられる。

 ほ乳類の大脳での外側から見える部分は新皮質で,組織的には6層に区別される。6層にならない部分を原皮質や古皮質といい,発生的には新皮質より髄鞘化が早い。原皮質・古皮質は,は虫類などでは大脳の表面にあるが,ほ乳類では新皮質に包みこまれている。この部分の機能は,本能的・情動的行動に関係している。

 

大脳

下位神経系の統合という面から,中枢神経系は,@脳幹脊髄系 A大脳辺縁系 B新皮質系の3つに区別される。ヒトでは新皮質が発達し.4葉に区別される。特に発達が目だつのは,前頭葉(41)である。前頭葉を除いても,知能や記憶の能力にはほとんど障害はみられない。しかし,積極的な意欲を失い,計画性を欠くようになるので,創造・企画などに関係する機能がここに存在すると考えられる。つまり,新皮質の後半部にインプットされた諸情報が処理・統合されて,頭頂葉から具体的な行動としてアウトプットされると考えられる。古代人類や乳幼児では,前頭葉の発達が悪い。ニューロンどうしのからみあいや軸索の髄鞘化は,脳幹部,古皮質・原皮質で早く起こり,新皮質で遅く起こる。新皮質でも高次の精神活動の座とされる連合領 (特に前・側頭葉)で遅く起こる。

 脳の神経細胞の数は約140億とされ,生後その数はふえない。もし,なんらかの原因でこわれても再生しない。したがって,誕生後の脳重量の増加は,髄鞘の増加やグリア細胞の増加による。

 成人の脳は日本人の男子が1,3501,400g,女子は1,2001,250gほどである。

 側頭葉ないしその深部の海馬領域が,記憶,特に最近のできごとの記銘と再生に関係していることは,臨床上および実験的裏づけがある。

 側頭葉の一部を刺激すると,最近の記憶の再生が起こる(Penfield1952)

 コルサコフ症状(古い記憶は正常で,注意力や推理力,知能指数も変わらないのに新しいできごとの記銘と再生ができない)は,海馬領域の欠陥と関係が深い。

 海馬領域を両側切除すると,新しい記銘ができなくなる。

 

◆大脳半球における機能分化

1981年度ノーベル医学・生理学賞受賞のR.Sperryは,右脳と左脳をつなぐ脳梁を手術で切断された患者の了解を得て,右脳・左脳の働きの違いを調べ,図のように左右は形,大きさでは対称であるが,その機能ははっきり分化していることを明らかにした。

 

 このような患者を対象とした観察について,スペリーは次のように報告している。「……手術から覚めると彼は割れるような頭痛を訴え,またウトウ卜した状態で早口ことば“Peter Piper picked a peck of prikled peppers”をくり返すことができた。しかし,次のような注目すべき変化がみられた。体の左側はごくまれにしか自発的行動を示さなかった」「患者の右手の中に物をおくと,見ないでもそれがどういうものか説明できた。しかし,左手の中において同様に説明を求めたが,物はわかっていながら言葉ではいい現すことができなかった。しかし,左手の中にあるものの形や大きさなどは認識していることは,いろいろの形や大きさのよせ集めたものの中から,左手中にあったものと同じものを選び出すことができた」

 このようにして,左手の感覚神経がはいる右脳は「物の形を認識し,立体感覚を司る」ことに関与しているのが明らかとなり,逆に左脳で「話すこと」が司られているという結論が得られる。このような観察や実験は,その後電気ショックを与えて調査研究するようにして進められたが,図に示すような機能分化は確かなものとなった。なお,生まれつき左利きの人の場合,その大脳半球の機能分化が左右逆となっている例も知られている。

 日本人の脳の機能は西欧人と若干の違いがあり,これが日本文化の特異性とも関連するという報告(1970)がある。たとえば,邦楽は左脳,洋楽は右脳で日本人は鑑賞することを実験で見い出したという。しかし,アメリカ人の脳研究グループが調べたところそうした結論は得られなかったことから,上の考えは現在疑問視されている。

 

◆脊髄

脊髄は節状の構造をなし,H字状の灰白質が中心にあり,白質がこれを取りまいている。中心管は脳室に連絡している。31個の節の左右から1対の脊髄神経が出ているが,根もとでは前根 (腹根),後根(背根)に分かれている。

 前根は運動性,後根は感覚性のそれぞれの神経が通っている。

 その働きとしては,反射運動の中枢 軸索の連絡路または中継所があげられる。

 膝蓋腱(しつがいけん)反射や屈筋と伸筋の拮抗反射の中枢がここにある。

 

◆反射弓

ある反射が起こる時に関わっている神経経路を反射弓とよぶ。つまり,受容器の興奮が求心性神経(感覚神経)を通って反射中枢に達し,折り返し遠心性神経(運動神経)を通って効果器に達するという,反射の全行程が反射弓である。反射弓においてはニューロンが直列につながっている。

もっとも単純な反射弓では,膝蓋腱反射のように,1個の感覚神経と1個の運動神経とが脊髄中で直接接して反射弓がなりたっている。つまり2個のニューロンしか関与していない。

膝蓋腱反射は,大腿四頭筋の腱をたたくことによって起こる。 足が前に出るのは下腿を伸展させる大腿四頭筋が収縮しているためである。腱を叩くと腱が引き伸ばされ,それにともない大腿四頭筋も伸ばされて,結局,筋中の筋紡錘が引き伸ばされて刺激が生じ,刺激はグループIa繊維(感覚神経)を通って脊髄に入る。グループIa繊維は,その筋を支配する前角細胞(運動神経)とシナプス結合しており,刺激が前角細胞を興奮させ,興奮は前角細胞の軸索を伝わって,大腿四頭筋に収縮を起こさせる。

膝蓋腱反射の場合は,反射弓は2個のニューロンでできているが,屈筋反射では,脊髄中に存在する介在神経が,感覚神経と運動神経との間をつないでいるため,計3個以上のニューロンが関与している。このように,反射弓では1個〜数個の介在神経が関わるものが多い。

 

神経連絡路の左右交さ

大脳半球と体の左右との結びつきは,左右逆になっている。その交さの起こる場

所は,延髄(下図)と,脊髄に入るレベル(下図)である。はけい部以下の筋

肉の場合,は頭の筋肉にいく場合の経路を示す(ともに延髄錐体を経由するため,

ともに錐体路系とよばれる)は皮膚の痛覚・冷覚・温覚・触覚の一部が伝わる感

覚神経路である。は残りの触覚と筋紡錘からの神経連絡路である。

 したがって,上図でAを切断すると反対側の感覚障害・運動障害が起こる。また,

Bを切断すると切断部以下における,切断した側と同側の運動・触覚・筋紡錘障害

と,反対側の痛覚・冷覚・温覚・触覚(一部)障害が起こる。

 

 

 








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