トップ新編生物I 改訂版>第4部 動物の受容と反応>第1章 刺激の受容と反応C 感覚器官

C 感覚器官

 

◆感覚受容細胞

感覚器は,感覚受容細胞と付属器官によって構成されている。感覚受容細胞は,外界のさまざまな刺激を膜電位の変化という電気的エネルギーに変換するものである。感覚受容細胞によるエネルギーの変換過程には,次の4ステップがある。

@第1のステップ:刺激のエネルギーが受容体タンパク質分子の構造変化を引きおこした後,直接的に,または,細胞内のセカンドメッセンジャー系を介して間接的に,膜のイオン透過性を制御しているチャンネルタンパク質に作用する。

A第2のステップ:チャンネルタンパク質の構造変化の結果,膜のイオン透過性が変化して膜電位が変化する(通常,脱分極方向)。この膜電位変化を受容器電位という。

B第3のステップ:受容器電位が受容細胞膜のケーブル特性にしたがって,電気緊張性に広がる。

C第4のステップ:電気緊張性に広がってきた脱分極性の受容器電位により,インパルスが発生する(シナプス部位で伝達物質が放出される場合もある)

 第1のステップで,エネルギー変換される刺激の種類は受容細胞の種類により異なっている。各受容細胞に有効な刺激を適刺激という。受容細胞を適刺激の種類によって分類すると,@光受容細胞,A機械受容細胞,B温度受容細胞,C化学受容細胞の4グループに分けられる。

 

◆視細胞の働き

視細胞のうち,錐体細胞は黄斑(黄点)を中心にして分布し,網膜の外縁に向かって少なくなり,逆に外縁部にはかん体細胞が多い。物体を注視するときは光が黄斑に入り,ここは錐体細胞の密度が最大(かん体細胞はない)なので視力が大きい。暗所では(錐体細胞が働かないので)注視するとかえって見えなくなる。光度の低い星をよく見ようとすると見えにくく,夜道では少し前方を見るほうがつまずかないことが説明できる。

 かん体細胞の外節の袋には視紅(ロドプシン)という色素タンパク質が含まれている。この赤い色素(シス型レチナール)は光を受けると変色し,レチネン(トランス型レチナール)とタンパク質に分離する。このとき外節の小胞からCa2が放出され,視細胞が興奮する。

 暗順応――レチネン(トランス型レチナール)から視紅への合成は暗所で促進。

      暗所では視紅の合成が進み,感光性が増す。

 明順応――明所では視紅が減少し,かん体細胞の感光性が減っている。(しかし

      錐体細胞が働いているのでそれに気づかない)

 

明所から暗所に入った場合,最初はよく見えないのに,しだいによく見えてくる。これはかん体細胞の感光性が減っている明所(錐体細胞が働いているのでそれに気づかない)から暗所に入ったのでよく見えない。しかし,しだいに視紅の合成が促進されるので感光性が増してよく見えてくるのである。

 明所から暗所に入ったときの感光性の増加の状態を示したのが次の図である。

 

 曲線aで示される感光性の増加は瞳孔の拡大に伴う錐体細胞によるものであり,b曲線で示されるのはかん体細胞中のロドプシンの増加による暗順応を示すものである。約30分後に平衡に達するゆっくりした変化である。ビタミンA不足によってロドプシン合成が不十分であるとb曲線による感光性の増加がみられず,7000マイクロルクス以下ではよく見えないことになる(c曲線)。これが夜盲症であり夕暮れどきの暗順応能力低下を特徴とする(人工照明下では錐体細胞が働くので,この能力低下がめだたない)

 

◆色彩感覚と錐体細胞

 イギリスのヤングは「網膜の光感受性のある部位にそれぞれ特有な波長に完全に同調して振動する受容器の種類が無限に存在するとは考えられない」とし,受容器の種類を三つと想定した(1801)。この考えを発展させたのがドイツのヘルムホルツで,赤の光に感受性のピークをもつ受容器,緑の光に感受性のピークをもつ受容器,青の光に感受性のピークをもつ受容器があると考えた(1868)。このヤング・ヘルムホルツの三原色説はニュートンの理論がもとになっており,赤,緑,青の光を適当な強さで混合すると任意の色の光が得られるという事実を色覚説に応用したものである。

 実際にヒトの網膜の錐体には三種類のものがあることが確かめられている。L錐体(長い波長に感度の高いもので,かつては赤錐体と呼ばれていた),M錐体(中間の波長に感度の高いもので,かつては青錐体と呼ばれていた),S錐体(短い波長に感度の高いもので,かつては緑錐体と呼ばれていた)の三つである。各錐体のピーク感度はLが565nm(),Mが545nm(黄緑),Sが440nm()であり,赤,緑,青とはかなりずれている。また,網膜における各錐体の存在比率は,L:M:S=40201であり,Sが非常に少ない。

 光を直接受け取る視細胞(錐体)のレベルでは三原色だが,それを色として感じる段階においては,話はそう単純ではない。色は最終的には脳で感じられるものである。ドイツのヘリングは,色をじっと見,その見え方をもとに考えた。紫は青と赤に分解できる。だが,青も,赤もこれ以上分解できない。柿色は黄と赤に分解できる。だが,黄はこれ以上分解できない。もうこれ以上分解できない色は赤,黄,緑,青の四つだけである(これらをユニーク色という)。そして赤と緑とは反対色であり,この二つは決して一緒には知覚できないし,また黄と青も反対色であり,これらも決して一緒には知覚できない。だから見える色はユニーク色かそれらの混じったものであり,かつ反対色の組み合わせの色はない。網膜に赤緑に反応する受容器と青黄に反応する受容器を想定し,赤緑は赤に感じるが緑には抑制される(もしくは逆)と,黄青は黄に感じるが青には抑制される(もしくは逆)と考えた。これがヘリングの反対色説(四原色説)である(1890)

 その後の研究で,錐体のレベルでは反対色説は成り立たないが,錐体より高次の情報処理のレベルでは,あてはまりそうだという証拠が得られている。水平細胞とは錐体や桿体から信号を受け取る細胞である。コイの網膜の水平細胞に微小電極を挿入して電位を測ると,600nmより短い波長の光には負の反応を示し,より長い光には正の反応を示す細胞があった。もし正の反応が生じた時に赤の知覚が生じ,負の反応が生じたときに緑の知覚が生じるとすれば,ヘリングの想定した赤緑受容器に対応するだろう。黄色の波長に正の反応をし,青の波長に負の反応を示す水平細胞も見つかった。金魚の網膜の神経節細胞においても,長波長で興奮,短波長で抑制を示す細胞が見つかっている。さらにアカゲザルの大脳の月状溝においても,ある波長に興奮,別の波長には抑制という反応を示す細胞群が見つかった。ただし赤緑と黄青というヘリングの想定したものそのままではなく,たとえば紫に興奮し橙で抑制されるもの,紫で興奮し赤で抑制されるもの,その逆のもの,緑に興奮し赤で抑制させるもの等々,いろいろなものがある。以上の電気生理学的な研究はすべてヒトを用いたものではないので,ヒトについて提案された反対色説を支持することにもならないし,また反対色説そのままの結果にもなっていないが,錐体での三原色が,そのまま色覚とはならないのは確かなことである。

 錐体の三原色にはない黄色がユニーク色になる機構は,次のようなものだと想像されている。L,M,Sの錐体の,光の波長と感度の関係を描くと,おのおの特定の波長の光に最高の感度を示す裾野の広がった山形になる。575nmの波長の光()に対しては,S錐体は感じない。MとLは同程度に感じる。MとSから同程度の出力があった場合,それに「黄」というラベルを貼るように情報処理がなされていれば,黄がユニーク色となるだろう。

 

耳小骨

中耳には,鼓膜に付着しているツチ骨,それにつながるキヌタ骨,およびアブミ骨の3つの耳小骨が宙づりの状態で存在する。それぞれ,物をたたく道具のツチ,布をうちやわらげたり,つやを出すための木()の台のキヌタ,馬に乗る際に足をかけるアブミから,その名がある。

 

 

音を伝えるのは,主に鼓膜と耳小骨連鎖によるが,これにより,広い面積をもつ鼓膜で受けた空気の振動を狭い面積のアブミ骨底板で卵円窓を通じて,うずまき管のリンパ液に伝える。

 アブミ骨には,アブミ骨筋につながる腱がある。アブミ骨筋は人体で最も小さい筋で,顔面神経によって支配され,過大な音が入ってきたときに,反射により収縮を起こし,アブミ骨を動きにくくして,音のエネルギーを減らす働きがある。

 ほ乳類には,中耳に耳小骨が3つあるが,は虫類では,アブミ骨だけしかない。は虫類では,ツチ骨とアブミ骨は,あごの関節を作る骨となっている。ほ乳類の耳小骨のツチ骨,キヌタ骨は,もともとあごの骨であったと考えられる。

 

音波の受容

中耳の3個の耳小骨はてこの働きによって音の振動を拡大し,うずまき管内のリンパ液の振動に変える。うずまき管を引き伸ばして模式的に示すとA図のようになり,基底膜を中心にして上下2つの管になり,この管は先端の小孔で連絡している。前庭窓を経て伝えられたリンパ液の振動によって基底膜が振動する。基底膜が振動すると,その上のコルチ器官中の有毛細胞の毛が傾いて有毛細胞の細胞内電位に変化をもたらす。この電位変化が神経によって大脳に伝えられる。

ベケシー(1943)は体外に取り出した内耳を直接顕微鏡で観察することとモデル実験とにより,基底膜の振動は,うずまき管の基部側(前庭窓側)から管の先の方へと振動の波が伝わっていく進行波であることを見いだした(B)。波は伝わって行くにつれて振幅が大きくなり,最大に達して急速に振幅が減衰する(下図)。低音ほどうずまき管の先端側が最大の振幅を示す。高音になるほど最大の振幅を示すのが手前側になり,波はうずまき管の先端までは伝わって行かない。このような振動の特性はおもに基底膜のコンプライアンス(弾性率の逆数,軟らかさに対応)によってほぼ決まっており,基部から先端へと基底膜のコンプライアンスは指数関数的に増加している。振動特性には内耳液の粘性も関係している。ベケシー以後,生きた内耳を使った観察が行われ,進行波の山はベケシーのものよりシャープになるという結果が得られているが,彼の結論は現在でもおおむね支持されている。

 音の強さは進行波の山の高さにより,音の高さ(周波数)は山の最大になる基底膜の位置により検出される。

 基底膜上にある有毛細胞が振動を感じる感覚細胞である。この細胞は上面に毛の列が生えており,そのためにこの名がある。基底膜が振動するとふだんは垂直に立っている毛がおおい膜に押しつけられて傾く。すると毛の先端にあるカリウムチャネルが開いて有毛細胞の電位が変化する。有毛細胞は求心性神経とシナプス結合をつくっているが,この電位変化により,神経伝達物質の放出量が変わり,情報が神経に伝わることになる。

 ヒトの耳は1Hzの違いをも聞き分けられるが,基底膜の進行波の山はずっとなだらかなもので,ある周波数ならある位置の有毛細胞だけが感じるというようにはなっていない。多数の隣り合った位置の有毛細胞からの情報が処理されていく過程で,周辺抑制システムなどを介して周波数の違いが細かく弁別されるようなるのだと考えられている。

 

 

 

ミューラーの法則

目には光が,耳には音がそれぞれの感覚器に適した刺激(適刺激)であるが,それ以外の刺激でも十分に強ければ感覚細胞を興奮させることができる。機械的刺激が網膜や視神経に加わっても,生じる感覚は“視覚”である。この法則性をミューラーの法則という。

 

味覚

味には,塩辛味,酸味,苦味,甘味の4種類が知られており,体にとって,それぞれ役割がある。毒物の多くは苦味をもち,また,腐敗物は酸を含む。このことより,生体にとって有害なものをしりぞけるための一つの働きとなる。酸味は,だ液分泌の反射や消化管の運動といった自律神経の反射,さらに,インスリン,成長ホルモンなどの分泌に関する内分泌系の反射に関係すると考えられている。塩辛味は,体に必要なミネラルを検出する味である。甘味は,エネルギーの源の糖質を検出するものであるが,近年では,サッカリン,アスパルテームなどの人工甘味料や,ステビア,モネリンなどの天然甘味料が知られている。この4種類の他に,グルタミン酸ナトリウムやイノシン酸ナトリウムなどで生じる旨(うま)味を基本味に加えようという気運が日本の研究者を中心に高まっている。

 食塩,塩酸,キニーネ(苦味),砂糖の4種類の味刺激が多くの味神経にどの程度反応したかを実験し,4種の味スペクトルを重ねあわせると次の図になる。

 ラットに砂糖水を飲ませた後,塩化リチウムを注射すると,ラットは砂糖水を嫌うようになってしまう。ハムスターを用いて同様の実験(味覚嫌悪学習法)を行うと,それぞれ,類似の味を持つ物質を嫌うことがわかる。ヒトの味の分類(4種類の基本味覚)とハムスターの味の分類とが同一であることがわかる。

 

 

 








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