トップ新編生物I 改訂版>第1部 生物体の構造と機能>第2章 細胞の機能B 選択的透過性と物質の出入り

B 選択的透過性と物質の出入り

 

受動輸送

細胞膜を通しての物質の輸送を,受動輸送,能動輸送,膜動輸送に分類することがある。受動輸送(passive transport)は拡散による輸送で,エネルギーの供給を必要としない。物質は濃度の高いほうから低いほうへ移動する。能動輸送(active transport)は濃度勾配に逆らっての移動でエネルギーの供給を必要とする。膜動輸送 endocytosis または exocytosis)は食作用(phagocytosis)や飲作用(pinocytosis)のような膜全体を動かして行われる物質の移動である。

特定の物質に対する透過性の違いを細胞膜の選択的透過性と呼ぶ。まず,脂質二重層という細胞膜の特性が選択的透過性をもたらす。細胞膜の中層部は疎水性のため,疎水性(非極性)分子は脂質二重層に溶け込んで容易に膜を通過することができるのに対し,イオンや親水性(極性)分子は膜を直接通過することは妨げられる。酸素や二酸化炭素,炭化水素などの非極性分子は容易に細胞膜を通過するが,グルコースのような親水性分子はゆっくりとしか通過しないし,小さな分子である水でさえ,極性分子であるがゆえに透過はあまり速くない。

親水性の物質については,膜を貫通する輸送タンパク質を経由することで,脂質二重層と接触することなく通過できる。細胞膜には水分子を通過させるアクアポリン(aquaporin)だけではなく,多くのイオンや物質を通す輸送タンパク質(transport protein)が発見された。アクアポリンは水を通す通路を提供しているだけだが,輸送タンパク質のなかには,物質をつかんで反対側に輸送できる運搬体タンパク質(carrier protein)がある。こういった物質に特異的な輸送タンパク質は細胞膜の選択的透過性をもたらす。たとえばグルコースの運搬体タンパク質はグルコースだけを運ぶことができ,フルクトースを運ぶことはできない。輸送タンパク質の助けによって濃度勾配を下るように輸送される受動輸送を促進拡散(facilitated diffusion)とよぶ。

運搬体タンパク質には,ATPのエネルギーを使って働くものがあり,能動輸送及び輸送体タンパク質の項目でさらに説明する。

受動輸送と能動輸送

 

能動輸送

生物の体内でも,細胞の内と外では,イオン濃度が大きく異なっている。これは,まだ塩分の濃くなかった原始海洋で出現した細胞が,そのときの塩組成をそのまま保持してきているからとみなされている。しかし,そのために濃度勾配に逆らって塩組成を保つしくみを発達させることになった。つまり,細胞は生活に必要な物質の吸収やイオン濃度の維持を,単なる拡散によって受動的に行っているのではない。たとえば消化管ではグルコース濃度の勾配に逆らって吸収することもあるし,褐藻類のあるものでは海水中に少ないIBrを多量に濃縮している。濃度の勾配や電位差に逆らって物質やイオンが細胞膜を出入りすることを能動輸送という。能動輸送にはエネルギーが必要で,ATPが消費される。このことはATP生産反応(呼吸や発酵)を阻害すると,能動輸送の能率が急激に低下することからも理解される。

典型的な能動輸送の例は細胞膜にある運搬体タンパク質の一種,ナトリウムポンプ(またはナトリウム-カリウムポンプ)である。これはATP分解酵素を持ち,ATP分子を分解する際に,ナトリウムイオン3分子を細胞外へ,カリウムイオン2分子を細胞内に移動させる。

哺乳類細胞と血液のイオンの濃度差のデータを下に示した。差が明瞭になるようにグラフで示したり,比を計算させるとよい。

 

哺乳類細胞と血液のイオン組成〔mmol

イオン

細胞内

血液

K

140

5

Na

10

145

Cl

5

115

Mg2+

1

1

Ca2+

10−4

1

 

能動輸送(ナトリウムポンプのしくみ) 

@A Naがナトリウムポンプ(輸送タンパク質)に結合すると,ATPによってポンプがリン酸化される。 

B リン酸化によってポンプが構造変化を起こし,Naが細胞外へ排出される。続いて,Kがポンプに結合する。

C Kがポンプに結合することによって,リン酸基はポンプから離脱する。そして,Kは細胞内へ運搬された後,ポンプは@の構造へ戻る。

 

発展:チャネルとイオン−輸送タンパク質

すでに「動物細胞と浸透」,「受動輸送」,「能動輸送」の項目でチャネルとイオンについて触れてきた。

細胞膜中に選択的透過性をもたらすさまざまな輸送タンパク質が埋めこまれており,特定の分子が膜を横切って運ばれて膜を透過できることになっている。

輸送タンパク質にはチャネルタンパク質(channel protein)と運搬体タンパク質(carrier protein)の2種類がある。チャネルタンパク質は単なる通路を提供するだけなのに対し,運搬体タンパク質は,特定の分子を結合して一連の構造変化を行うことにより運ぶ。

チャネルタンパク質の孔は小さい。あまり大きいと何でも通過してしまってチャネルの意味がないからである。また,なんらかのゲート()を持っているチャネル(ゲート付きチャネル gated channel )が多く,イオンチャネル (ion channel)の多くはゲート付きである。ゲートはふつう閉じており,電気的,機械的または化学的な刺激によって開く。刺激の種類により,電位作動性チャネル(膜電位の変化に応答する),機械刺激作動性チャネル(変形などの機械的刺激に応答する),リガンド作動性チャネル(特異的にタンパク質に結合する低分子物質=リガンドに応答する)などに分けられている。神経軸索上を活動電位が伝わる際の主役は電位作動性Na+チャネルである。内耳の有毛細胞には機械刺激作動性チャネルがあり,脊つい動物骨格筋の神経筋接合部の筋細胞の後シナプス膜にはアセチルコリンをリガンドとするリガンド作動性チャネル,アセチルコリン受容体がある。

さらに通常,チャネルは通過できるイオンや物質を選択するフィルターを入口近くに持っている。

チャネルを構成する膜貫通タンパク質は幾重にも折れ曲がったペプチド鎖である。ナトリウム,カリウム,カルシウム,塩素,サイクリックヌクレオチド感受性陽イオン等々のイオンチャネルが知られている。

運搬体タンパク質には促進拡散に関係するもの,能動輸送に関係するものなど様々なタイプがある。「生物U」に出てくる運搬体タンパク質としては前述のナトリウム−カリウムポンプ,ミトコンドリア内膜の電子伝達系におけるプロトン(水素イオン)ポンプがある。運搬体タンパク質の構造と輸送のしくみなど詳細な研究が日本の研究者によってなされている。

 

 








本サイトに掲載された記事や画像の無断転載を禁じます。
Copyright(C) 2009-2012 SHINKOSHUPPANSHA KEIRINKAN CO.,LTD. All rights reserved.

本サイトに掲載された記事や画像の無断転載を禁じます。
Copyright(C) 2009 SHINKOSHUPPANSHA KEIRINKAN CO.,LTD. All rights reserved.