トップ新編生物I>第5部 体液と恒常性>実験1〔観察〕 運動による体液・心拍・呼吸の変化

実験1〔観察〕 運動による体温・心拍数・呼吸数への影響

教科書p.121  所要時間1時間

 

 

指導目標 恒常性の維持という概念は,多くの生徒にとって理解しにくいも

のである。そこで,身近な自分の体に起きる現象として,恒常性の維持をとらえ,

これからのこの単元の学習の動機づけとしたい。

【準備】 体温計,脈拍計または心音拡大器,鉛筆,薄い紙,ストップウォッチ,

測定記録用紙,縄跳びや昇降用の椅子

【準備上の留意点】

(1) 体温は,わきの下,口中,耳の鼓膜で計る。時間を追って速やかに体温を測

定する必要があるので,耳式体温計やディジタル温度計があるとよい。

(2) 耳式体温計(電器店,薬局などで入手)は,実験前に操作に慣れさせておく。ま

た,慌てて耳の中を損傷することのないよう充分注意を与える。複数の者が同じ体

温計を使用する場合,専用の使い捨てカバーを使用したり,アルコール綿で使用ご

とに清拭する。

(3) 脈拍の測定は,手首の内側(橈骨動脈)でみればよい。わかりにくいときは,頚

部の斜め前方からそっと揃えた指を当て,頚動脈の脈波を感じてもよい。

 まわりの者も客観的に知る方法として,脈拍計を使用するのもよい。心音拡大器

は,心臓自体の拍動の音を拡大するもので,さらによい。

(4) ティッシュペーパーなどの薄い紙を1cmほどの幅に裂き,その一端を鉛筆の

先に軽く刺して垂らしておく。これを被験者の鼻の先にもっていくと,呼吸のたび

にゆれるので,これで呼吸数を知る。

方法上の留意点

(1) 運動前の体温・心拍数(脈拍数)・呼吸数の測定は,測定前に走ったり歩いたり

運動した者は,充分おさまって,安静の状態で測定するように注意する。

(2) 運動の種類は何でもよい。2分ほど汗ばむほどの運動をする。椅子の昇降の

繰り返しは,場所をあまり取らず,適当な運動量が得られるので勧められる。

(3) 体調のよくない者は無理に運動させないように注意する。

(4) 運動直後およびそれから2分おきに,体温,心拍数(脈拍数),呼吸数を測定す

る。

時計係,測定係,記録係などを決めておき,手際よく行うことが肝要。

(5) 演示実験でもよい。生徒の有志あるいは教員が被験者になる。運動は,椅子の

昇降などが場所をとらないでよいが,教壇上でする場合は,落下に注意する。体温

計はディジタル表示のものがよく,心拍数は,心音拡大器があるとよい。

【結果の整理】

(1) 結果を,測定記録用の表に書き込ませる。

(2) 測定結果をもとにして,時間の経過とともに,体温,心拍数(脈拍数),呼吸数

の変化するようすをグラフに表す。(教科書の図参照)

【考察】

(1) 測定している体温(わきの下・口中・鼓膜)は,体の内部の温度,すなわち,細

胞を取り巻く内部環境としての温度として測定していることを確認したい。

(2) 実験結果から,激しい運動をしているときも,また,運動後,体がほてって

感じられているときも,体温はほとんど変わっていないことがわかる。つまり,内

部環境としての体温は,激しい運動をしているときでも,ほぼ一定に保たれている

ことがわかる。恒常性が保たれている一つの例として注意を喚起したい。

(3) 脈拍は,心臓の拍動の波動が動脈を伝わってきたものである。したがって,

脈拍数はふつう心拍数に一致すると考えてよい。

(4) 心拍数と呼吸数は運動時に急激に多くなり,運動終了とともに漸減し,やが

てはじめの数値に戻る変化を示す。この運動時に心拍数と呼吸数の増加することに

ついて,内部環境との関係から推察させたい。

呼吸数増加は,肺における酸素の取り入れ,二酸化炭素の排出というガス交換の増

進を意味する。さらに,心拍数の増加すなわち循環血液量の増加によって,全身の

特に運動によって働いている筋肉の組織に速やかに酸素が送られ,また,組織から

の二酸化炭素の回収が促進される。循環血液量の増大によって,組織・細胞で消費

されるグルコースなどのエネルギー源の運搬も増加するものと推察される。このよ

うにして,組織の細胞にとって,充分な酸素の供給がもたらされ,二酸化炭素が除

去され,グルコースが供給され,よい環境が維持されているというようなことを考

えさせたい。

(5) 心臓の拍動は,血圧や血液中の化学成分の状態を感受する受容器が,その情

報を延髄の血管心臓中枢に伝えることによって,自律神経を介して増減が行われる。

化学受容器は,頚動脈の分岐点にある頚動脈体および大動脈弓付近の大動脈にあり,

酸素,二酸化炭素,pHの状態を感受する。運動による血液性状の変化は,このよ

うなしくみを働かせ,心拍数増加につながったと考えられる。

一方,呼吸については,延髄にある呼吸中枢や,頚動脈の分岐部付近および大動脈

弓付近にある受容器が,血液の性状を感受する。運動による血液中の二酸化炭素の

増加や酸素の減少は,このようにして,呼吸運動を活発にさせる。

また,呼吸数増加と血液循環量の増加によって,これらの状態が改善されると,フ

ィードバックされて,心臓の拍動減少と呼吸運動の減少をもたらす。

(6) 体温が一定に保たれるのは,自律神経やホルモンなどが働く巧みで複雑なし

くみがあるが,ここでは,あまりくわしいしくみには触れず,実験結果と,教科書

に示したサーモグラフィーを使って,考察させたい。

運動すると体験的に体にほてりを感じる。ところが,実際には,体温(体内部の温

)は上昇していない。サーモグラフィーによると,このとき,体表面の温度が上

昇している。これがほてりとして感じられていたものと考えられる。体表面では,

血管が拡張し,たくさんの血液が流れて,ここから熱を体外に放出していることが

わかる。心拍数の上昇は,血液循環量を増やし,体内部からの温度を体表面に運ぶ

効果があると考えられている。

(7) 恒常性の維持というと,体外の環境の変化に対して内部環境は一定に保たれ

るという言い方をすることがあるが,本実験のように,体内に起ころうとする変化

に対しても,生体は内部環境を一定にしようとするしくみを働かせる。

 

【発展】

(1) 運動以外の条件のときにも,体温・心拍数・呼吸数の変化を測定してみよう。

たとえば,風呂やプールに入ったとき,暑い,もしくは寒い部屋に入ったときなど。

 

 










本サイトに掲載された記事や画像の無断転載を禁じます。
Copyright(C) 2007 SHINKOSHUPPANSHA KEIRINKAN CO.,LTD. All rights reserved