トップ新編生物I>第6部 環境と植物の反応>第2章 植物の反応と調節A 成長の調節

A 成長の調節

 

◆植物の運動

植物の運動には,その運動をひき起こすメカニズムによって成長運動・膨圧運動・

乾湿運動がみられる。また,単細胞植物や群体をつくる植物では,変形菌の変形

体にみられるアメーバ運動,クラミドモナスやボルボックスにみられるべん毛運動

がある。

運動の種類

運 動 の し く み

植物体の一部が他よりすみやかに,あるいは大きく成長するために,植物体が一定の方向へ屈曲していく運動。

植物の屈性,傾性の多くは

この成長運動である。

成長とは関係のない運動で,植物体の一部の細胞に膨圧の変化が起こり,その結果,植物が屈曲あるいは変化する運動。

 オジギソウの葉の接触による運動。ネム・ハギなどの睡眠運動。気孔の開閉。

湿

湿度の変化によって起こる物理的運動であり,多くは死細胞の細胞壁の含水量の変化によるのびちぢみ運動である。

ホウセンカの果皮のはじける運動。シダの胞子のうのはじける運動。スギナの胞子の4本の突起の運動。

タヌキモの捕虫のうでは,水やイオンの能動輸送によって,のう内が陰圧になっている。刺激

により入口が開くと水の流れによって虫が入り込む。この場合は細胞そのものの膨圧変化が捕虫

運動を行うのではない。

 

◆屈性と傾性

外部からの刺激を受け,この刺激源の方向に対して一定の方向をとって曲がる性

質を屈性という。この際,刺激の有無(増減)が問題となり,(刺激の加わる方向には

関係なく)一定の屈曲が生ずる場合を傾性という。

 

◆ダーウィンなどの実験

10の実験は進化説のチャールズ・ダーウィンと,その息子フランシス・ダー

ウィンによるもので,芽の屈光性研究のさきがけとなったものであり,1900(

13)に発表されている。材料はクサヨシ(カナリーソウ)で地中海沿岸原産のイ

ネ科植物である。イエンセンやウェントの実験に用いられたものはAvena sativa L.

でエンバク(燕麦)またはマカラスムギである。これはカラスムギに起源をもつ栽培

種と考えられる。幼葉鞘(子葉鞘)は第一葉をおおう鞘状の部分で,2枚の子葉と考

えられる。もう1枚の子葉は胚盤として胚乳の中にさしこまれている。

 

 

◆オーキシン

オーキシンは,ウェント(1928)のエンバクの屈光性についての研究から発見さ

れた物質で,成長素・成長ホルモンともよばれる。この物質の化学的本体について

多くの研究がなされ,オーキシンa,オーキシンb,ヘテロオーキシンなどが発見

されたが,自然の植物体に存在して働いているのは,ヘテロオーキシン(β-インド

ール酢酸)であることがわかった。β-インドール酢酸は,植物体内でトリプトファ

(アミノ酸)から合成されることが明らかになった。

その後,オーキシン的効果をもつ合成植物ホルモンが多数発見され,これらを総

称してオーキシンとよぶようになった。しかし,単にオーキシンという場合には,

β-インドール酢酸(IAA)をさすことが多い。

オーキシン類の働きをまとめると,次のようになる。

(1) 細胞壁の伸長――細胞壁の伸長を促してその容積を増すので,これが“成長”

 として現れ,不均等な成長が起これば屈性が現れる。根では茎の伸長を促す濃度

 では,かえって伸長が抑制される。

(2) 離層形成の抑制――秋に葉でつくられるオーキシンの量が減ると,離層が形成

 されて葉が落ちる。濃度を適当に調節することにより,果実の早期落果を防いだ

 り花期を長くしたりするのに用いられる。

(3) 茎からの不定根の条生――挿木に利用する。

(4) 側芽の抑制(頂芽優勢)――頂芽からのホルモンによって,側芽はその成長が抑

 制されている。頂芽が除かれると,側芽がかわって成長する。

(5) 子房発育の促進――自然状態でも,受粉の刺激によってホルモン生産が増加す

 る。

 光屈性の原因となる,光によるオーキシンの不均等分布の機構については,

光側への移動,光による分解または不活性化の両説があったが,現在は説が定

説となっている。オーキシンは光照射により移動し,光の当たらない方には,光

の当たる方の約2倍のオーキシンを含むようになる。機序の詳細は不明である。

 オーキシンの作用については上に(1)(5)まであげてあるが,これらはオーキシン

を与えてから比較的時間がたってから現れる。多くの場合,オーキシンを与えた直

後にまずタンパク質や核酸の合成が進み,その後に現れてくるので2次的効果と考

えてよいだろう。RNA合成阻害剤とともにオーキシンを与えると,最初のうちはす

でに合成されているRNA,タンパク質などを用いて成長するらしく,成長の阻害

はないが,時間とともに阻害の効果が現れてくる。

 

◆オーキシンの分布と移動

植物には生重量1g当たり5100ngのオーキシン(IAA)が含まれている。IAAは遊離型

あるいは結合型として存在するが,とくに種子では結合型が多い。IAAの含量は茎の先

端ほど高いことが多く,茎の先端で合成されていると考えられている。ただし発芽した

ばかりの芽生えでは,種子のなかに貯蔵されていた結合型IAAが先端に運ばれて遊離型

となる。生長が進むと葉や根でもIAAは合成されるようになる。

 茎の先端で合成されたIAAは基部方向に求底的に運ばれ,さらに根の先端部に向かっ

て求頂的に移動する。このような極性移動はIAAの特徴で,他の植物ホルモンには見ら

れない。根の先端への移動は中心柱を通って行われるが,先端に達したIAAは皮層組織

を通って基部方向へ移動する。また葉で合成されたIAAは同化産物と同じように師管を

通り,根で合成されたIAAは道管中を蒸散流によって上昇することが報告されている。

 

◆オーキシンと根の重力屈性

横たえられた根の示す正の重力屈性は,IAAが根の下側に過剰に蓄積し,そのため

に成長を阻害した結果と考えられる。根で重力を感じるのは根冠部の特別な細胞群(

軸細胞)であるが,これには大きなデンプン粒が含まれており,このデンプン粒が重力

方向に移動して小胞体を刺激することで重力を感知する。刺激された小胞体からはCa

イオンが放出され細胞の下側の原形質膜にあるオーキシンポンプを活性化する。その

ため細胞の下側にIAAが放出され,根の下側でIAAの濃度が高くなり,伸長阻害が起

こると説明されている。

 

◆ジベレリン

イネの草たけの異常徒長をひきおこすカビ(馬鹿苗病菌,Giber-ella fujikuroi)から抽

出された物質で,最初黒沢(1926)により発見され,その後,住木・薮田ら日本人学者

の手によって研究が進められ,ジベレリンと名づけられた。

 ジベレリンは多くの化学物質,すなわち,GA1GA9などのジベレリン酸(GA)に分

離され,カビばかりではなく,高等動物にも存在している。

 ジベレリンの働きは,IAAと同様に,細胞壁伸長に特に効果があるが,IAAとの共

存によって作用するといわれる。トウモロコシの短茎種にGAを与えると,普通種な

みの草たけにまで成長するが,普通種に与えても効果はみられない。このことは普通

種の植物体内には多量のGAが生産されているが,短茎種はGA,またはこれと同様

な働きをもつ物質の生産が非常に少ない遺伝子をもつためと理解されている。(全て

の短茎種がGA不足というのではない)

ジベレリンはまた,IAAと同様に果実の肥大に有効で,とくに種なしブドウは,

GAを噴霧することによってつくられる。これはたんに種子をつくらないのみならず,

天然のものより着果率も高く早く酸味がとれ,早く出荷できるので,農業上有益であ

る。

 ジベレリンについてもう1つ重要な作用は,植物の開花,特に長日植物の開花促進

に有効であることであろう。ホウレンソウやキャベツなどは長日植物であるが,これ

を長日処理しないでも,GAを与えると花芽の形成を始める。このことは,フロリゲ

ンと仮称されていた物質が,GAでないかということを想定させるが,短日植物にま

ったく効果のないことや,植物の種類によっては他のオーキシンによって花芽をつく

ることが知られていることなどから,フロリゲンには,GAを含めた多くの化学物質

があることが予想されている。

 ジベレリンと遺伝子の相互機序については次のような考え方がある。DNA

mRNA生産過程を抑制するシステムには染色体を構成するタンパク質,ヒストンも関

係している。

抑制システムのうち,この部分の解除にジベレリンが関与しているということである。

※ジベレリン(1/10万の水溶液)を開花前の蕾とその後と2回作用させる。子房壁が肥大して無種子

の果実となる。おもに利用されているのは小粒のデラウエアという品種で,開花がそろう点と2

の処理ですむという点に経済性がある。

 

◆サイトカイニンとエチレン

サイトカイニンはヌクレオチド塩基の1つ,アデニンの誘導体で,IAAと協力して

細胞の分裂を促進している。サイトカイニン中もっともよく知られているのはカイネ

チンである。やはりサイトカイニンも細胞内でのRNA合成に関与していることは確実

で,とくにtRNAの機能と関係しているという説もある。

 エチレンは単純な物質であるがやはりオーキシンと協力して植物体の成長に関与し

ている。また,葉の老化や果実の成熟を促進している。

サイトカイニンの一例

エチレン

 

◆アブシシン酸

Addicottが,ワタの果実の離層形成を促進し,落果・落葉を早める物質を発見し,離

層形成(abscision)にちなみabscisin(アブシシン・アブサイシン)と命名した。

 一方,Wareingらが樹木の芽の休眠を促す物質を発見し,これに休眠(dormancy)にちな

dormin(ドルミン)と命名した。後に,アブシシンとドルミンは同一物質であることが

わかり,アブシシン酸として統一された。アブシシン酸は,一般にオーキシン・ジベ

レリン・サイトカイニンなどの働きを抑制する。

 

植物ホルモンの働きの比較

これら4種の植物ホルモンは,植物の広い意味での“相関”に関係し,せまい意味で

は細胞の“伸長”成長と細胞分裂を制御している。この4種のホルモンの主な作用を

簡単に比較すると,次のようになる

 

 +・・・促進 −・・・抑制 0・・・作用なし

グループ名

オーキシン類

ジベレリン類

サイトカイニン類

アブシシン酸

ホルモン名

インドール酢酸

ジベレリンA1
A2A3など

ゼアチン

アブシシン
ドルミン

同効物質→

生理作用↓

ナフタレン酢酸
24-Dなど

 

カイネチン

 

細胞の伸長

0(+or−)

細胞分裂

発  根

0or−)

離層形成

−(or+)

0

0

単為結果

0

0

光発芽種子の暗発芽

0

0

葉の老化防止

0

 

 

植物ホルモンの研究史

 植物ホルモンヘつながる研究の幕あけはチャールズ・ダーウィンによってもたらされ,実験生物学の華やかな19世紀末から20世紀前半にかけて数々の研究へとつながっていった。もちろん,ダーウィンのころはまだ植物ホルモンの概念は完成していなかった。植物も動物のようにホルモンをもっているらしいということは,フィティングの研究で示された。彼はランの花粉から抽出した液を,そのランのめしべの柱頭にぬりつけると子房が成長していくことを発見し,花粉の中に花粉ホルモンがあるとした。

 これはオーキシン,あるいはジベレリン様物質の発見につながることにもなるのだが,研究の主流はやはり屈光性の追及からのものであった。このことについてはボイセン=イエンセンの研究が重要であった。雲母片をさしこむ実験で,成長を促進する物質があるということをつきとめたからである。

 このあと,いろいろな研究が重なりあうことで,多くの物質が植物の成長や開花に関与していることがわかってきたが,やはり,日本人の発見したジベレリンについては触れておきたい。現在の遺伝子工学では日本人の業績は大きなものがあるが,当時としてはすばらしい発見であったのだから。

人物紹介

ダーウィン

Charles Robert Darwin18091882イギリス)

  博物学者であり進化論学者 ビーグル号で世界

  一周し「種の起原」を著す。

ボイセン=イエンセン

Peter Boysen Jensen 18831959デンマーク)

  コペンハーゲン大学教授 植物生理学者 生産

  生態学の基礎をきずく。光合成と呼吸の関係を

  解明。

ウェント

Frits Went 1903〜オランダ生まれのアメリカ人)

カリフォルニア工科大学教授からネバダ大学,

アベナ屈曲試験法の糸口をつけ,その後生態

学的研究に移行する。

1880年 チャールズ・ダーウィ

 ンとフランシス・ダーウィン

 屈光性を発見

1909年 フィティング

 ラン花粉の抽出液が子房を肥大。

 植物ホルモンの発見

1910年ごろ ボイセン=イエン

 セン 雲母片を用いて屈光性

 を調べる

1919年 パール 子葉鞘の先

 端部を切り,ずらせてのせる

 と屈性を示すことを発見

1920年 ガーナーとアラード

 光周性の発見

1926年 黒沢英一

 ジベレリンの発見

1928年 ウェント

 植物成長ホルモンが寒天中に

 移行することを発見

1933年 ケーゲル

 人尿中よりオーキシン分離