トップ>新編生物I>第5部 体液と恒常性>第3章 ホルモンと自律神経による調節>C 血糖量の調節-ホルモンと自律神経の協同作用
C 血糖量の調節-ホルモンと自律神経の協同作用
◆糖尿病とその検査法
糖尿病 グルコース(ブドウ糖)が尿に現れるほか,インスリンの不足によって高血
糖になる。糖を与えてもインスリンの追加分泌がないので,糖の利用ができなく,
高血糖でありながら組織としては糖不足の状態になっていると考えられる。組織内
の糖不足をおぎなうため,脂肪組織の中性脂肪がどんどん分解して遊離脂肪酸とし
て血中に現れる。これはインスリンの助けをかりずに代用的エネルギー源として筋
肉組織などに利用される。また,肝臓では,この遊離脂肪酸を利用してエネルギー
生産に使うほか,これを糖に転化して血中に補給するので,ますます高血糖になる。
また,肝臓での脂肪酸分解に伴うケトン体がアセトンを始めとして酸性物質として
生産され血中に現れる。これが尿中に入るので,糖尿の人の尿は甘ずっぱいリンゴ
のくさった様な独特の香りがする。高血糖のため動脈硬化・糖尿性昏睡・渇き・易
疲労感・多尿・多飲・神経痛等々の症状が出る。やせ型糖尿病はインスリンによる
治療,肥満型糖尿病は食餌療法を主体とした治療が行われる。
検査法 糖尿病であるかどうかを診断する助けとなるための検査としては (1)尿糖
検査 (2)血糖検査 (3)その他すい臓内分泌機能の検査がある。糖尿病が疑われると
きには,まず尿糖検査をするのがよく知られている。
尿糖の検査は糖質を多く食べた後,1〜2時間後の尿で実施することが大切である。
血液中のグルコース(ブドウ糖)は腎臓の糸球体でほとんどろ過されるが,じん細管
で再吸収される。この再吸収能を上回って糖がろ過されると尿の中に糖が出ること
になる。軽い糖尿病患者の場合,空腹時の血糖値が高くないときには尿中に糖が出
ない。したがって,尿糖の検査は必ず食後に実施する。
尿糖の検査には還元反応(ニーランデル反応)を応用した方法と,酵素反応を利用
した試験紙(テステープ,ダイアステックス,コンビステックス等)を用いる方法の
2通りがあるが,現在は後者が大部分である。
試験紙にはグルコースのみに特異的に反応する酵素がしみ込ませてある。尿中の
グルコースがこのグルコース酸化酵素の作用を受け,生じた過酸化水素が,これも
試験紙中の過酸化水素分解酵素の作用を受けて酸素を放出する。この酸素が試験紙
のオルトトリジンを酸化して呈色する。尿を浸して正確に1分後の色調の変化で判
定する。グルコースが多いほど(したがってOが多いほど)色が黄緑色から青緑色
に変化する。

◆血糖量の調節
ヒトの血液の中には,通常100cm3について約0.1gのグルコースが含まれている。
すなわち,だいたい0.1%含まれる(これを血液学では100mg%と表す)。食事後には,
血液中にグルコースが増加し,一時は過血糖の状態になる。しかし,しばらくの間
に正常の値にもどされる。ところが,常にその増加が多すぎて180mg%をこえる状
態になると,糖が尿に出て血糖が減ってくる。この180mg%の境界はかなり厳密で,
これを限界値という。すなわち180mg%に達しないうちでは,ふえても糖は尿に出
てこない。そして,肝臓や筋肉などにグリコーゲンとしてはいるほか,グルコース
の形のまま,皮膚や皮下組織にはいって,結局血糖はだいたい100mg%に保たれる
ことになる。このように血糖が調節されるのは,肝臓の機能によるとともにホルモ
ンが関係している。すなわち,ある程度の調節は,肝臓の機能にもよるが,さらに
大きな調節は,ホルモンの作用によっている。
血糖がグリコーゲンに合成されて,肝臓や筋肉にたくわえられるのは,インスリ
ンの作用による。したがって,インスリンの分泌が不十分であると,血糖は増加し
たままになり,腎臓の細尿管の再吸収の能力をオーバーするので,尿にたえず出さ
れる。これがすなわち糖尿病である。
また,運動をして筋肉を使うと,血糖が筋肉にとり入れられて減ってくる。この
とき,肝臓などにたくわえられたグリコーゲンは,糖に分解されて血液中に出てく
る。これは,副腎髄質からのアドレナリンの作用による。血糖が減ってくると,視
床下部にある糖中枢が興奮し,交感神経を経て副腎髄質に刺激が伝えられ,アドレ
ナリンが血液中に出るためである。
血糖が減りすぎてもからだに異常が起こる。70mg%ぐらいまで下がると,空腹
感・無力感・疲労感がまず起こり,さらに進むと脈が速くなったり,冷汗,瞳孔の
拡大,けいれんなどが起こり,さらに45mg%になるとこん睡状態に陥る。しかし,
特別の病気でなければ,このような低血糖は起こらないし,激しい運動を続けても,
70mg%以下に下がることはない。
要するに,組織の活動に対する適切な血糖量の限界が決まっていて,それはだい
たい70〜180mg%であり,これが保たれるのは,種々の器官の活動によるのであり,
糖尿も血糖の恒常性を保つ働きの現れといえる。

◆インスリンとグルカゴン
インスリン すい臓のランゲルハンス島にはA(α)・B(β)の両細胞がある。アロキ
サンを与えるとB細胞が壊れ,インスリンの分泌が止まるので,インスリンはB
細胞から分泌されることがわかった。インスリンは分子量約6000,51個のアミノ
酸(A鎖21,B鎖30)からなるポリペプチドである。インスリンは次のようにして血
糖を減らす。
a 筋細胞におけるグルコースのとりこみを増す。細胞内に入ったグルコースは
グルコース-6-リン酸になり,これは細胞外には出られない。
b 肝臓細胞でのグリコーゲン合成酵素の活性化。c 細胞での糖の酸化促進。
グルカゴン グルカゴンはすい臓のランゲルハンス島のA細胞から分泌されるペ
プチドホルモンで,29個のアミノ酸からなり,分子量は約3500である。グルカゴ
ンの主な作用は,肝臓のグリコーゲンを分解して血液中に放出し,血糖値を上昇さ
せることである。また,タンパク質の分解および脂肪の分解も促進する働きをもっ
ている。また,糖の新生も盛んにする。正常な状態では,グルカゴンの分泌と血糖
濃度との間には逆関係があって,過血糖でグルカゴンの分泌が抑制され低血糖で分
泌が増加する。

上図は,炭水化物の多い食事をしたときのグルカゴン分泌の抑制とインスリンの
分泌増加を示している。タンパク質を食べると,グルカゴンの分泌は増大する。こ
れは,タンパク質によってインスリンの分泌が促されるから,低血糖になるおそれ
があるが,同時にグルカゴンが分泌してこれを防いでいる。また,グルカゴンは,
脂肪組織に働いて,脂肪分解を促す作用がある。
このように,インスリンとグルカゴンは同じすい臓のランゲルハンス島にある細
胞から分泌されながら相反する作用をもっていて,互いに協同して血糖濃度を調節
し,あるいは脂肪の交代に関与して,全身の細胞へのエネルギー補給にあずかって
いる。
