トップ新編生物I>第4部 動物の受容と反応>第3章 動物の反応と行動A 雌に誘引されるガの行動

A 雌に誘引されるガの行動

 

◆走性

動物の動きに関する研究は,ロイブ(Jacques Loeb 18591924),フェルウォル

(Max Verworn18631921),ジェニングス(Herbert Spencer Jenning 18681947)

により進められ,とくにロイブは,動物が左右対称の受容器をもつことに注目し,

動物は体の体軸の両側に受ける刺激の強さが等しくなるように自分の体を強制的

に刺激源に定位させるように機械的に運動しているという強制運動説〈forced

movement theory〉またはtropism(すう性説)を提唱した(ロイブ,1918)

 当時,tropismに対する定義は研究者によりさまざまだったが,キューン(Alfred

Kühn18851968)は,一般に生物がある刺激に対して自由に場所を移動して,一

定の定位運動を示す場合を場所的運動反応と呼び,自由移動性動物の場所的運動反

応をtaxisと名付けてtropismと対立させた。しかし,本来,taxistropismを動植物

の違いによって区別したり,生物が定着性であるかどうかによって区別するような

ことは,反応の本質からいえば意味のないことである。

 現在では,移動性生物が外部からの刺激に反応して全身的な運動を起こし,体軸

を特定の方向に強制的に向ける性質をtaxis(走性)と呼び,刺激に向かって進む走性

を正の走性,刺激源から遠ざかる走性を負の走性と呼んでいる。日本では,かつて

tropismをすう性と訳していたが,今日では,植物の場合のすう性ということばを屈

性に置き換えて使用している。

 走性は,刺激の種類によって分類する場合,化学走性,光走性などのことばが用

いられ,刺激源を見分けながら進む動き方によって,屈曲走性,転向走性,目標走

(保目標性),保留走性(対刺激性),記憶走性などが区別されている。

 ところで,動物の動きの研究が盛んに行われていたところ,原生動物を使って各

種の研究を進めていたジェニングスは,ゾウリムシがある刺激源,たとえばCO2

気泡に定位する過程を観察して,その動きが走性によく似ているが走性とは異なっ

ていて,試行錯誤的な運動を繰り返しているうちにCO2の気泡から一定の距離を隔

てた場所に大部分のゾウリムシが集まる現象を観察した(ジェニングス,1906)

 この運動は,ゾウリムシの体軸と刺激(水中を拡散してくるCO2分子)のくる方向

に一定の関係が認められず,明らかに走性とは異なるので,このような運動を無定

位運動性(kinesis,“運動”の意味)と呼んでいる

 

◆行動と反射の違い

行動と反射とは,混同されることがある。いずれもある刺激に対して起こる反応

という点では共通しているが,違いもはっきりとある。反射は,ある一つの刺激に

対して体のある部分が単ーの動きをすることである。それに対して,行動はある刺

激が原因となって,ひとまとまりの動作が引き出せることである。その場合,ひと

つの刺激が原因となって反射が起こり,さらにそれが刺激となって一連の反射が起

こるが,その場合,合目的に見える行動が生じるのは,そのような動作の組みあわ

せが,遺伝的にプログラムとして組みこまれるためであると言われているが,まだ

はっきりしていない。

動物の行動の研究史

19世紀以前は,動物の行動についての研究は,学問と見なされることはなかった。しかし,20世紀に入って現れた3人の動物行動学者によって,自然科学における位置を確保することになった。オーストリア生まれのドイツのフォン・フリッシュ(Karl von Frisch18861982),オーストリア生まれのローレンツ(Konrad Lorenz19031989),オランダ生まれのイギリスのティンバーゲン(Nikolaas Tinbergen19071988)3人である。

 動物行動学(ethology)は,エソロジーであり,行動生物学とも言われる。動物の行動を研究することにより,行動の総合的な理解をめざすものである。エソロジーは,もともとヒライアー(1859)の造語である。その定義は生物の本能・習性およびその他一般に生物が表す行動と外部環境との関係を研究する科学である。

 フォン・フリッシュは,ミツバチのコミュニケーションに関する研究で有名である。彼はハチに印をつけて,その行動をガラスばりの特別な観察用箱を使って研究した。その結果,働きバチがなかまにえさ場の位置を,円形ダンスと8の字ダンスで知らせることを発見した。また,ミツバチが,時間や色を学習できることも研究している。フォン・フリッシュは,これらの研究のほかに,ミツバチや魚類の視覚と化学感覚に関する研究も行っている。

 ローレンツは,エソロジーの創始者と言われている。特に鳥類のコクマルガラスとハイイロガンについて研究を行った。彼の有名な「刷込み」の論文(1935)の中で, 「ヒナがふ化直後の短時間の間に最初に目にした動く物体を,同種の仲間と認め,その物体に刷込まれる。」ことを発表した。

 また,後のティンバーゲンとともに,その後,鳥類の研究を続け,猛きん類に対する小鳥類の反応を模型を使って,明らかにしている。著書『攻撃』(1963)において,彼の鳥類についての研究成果を,人間の行動の特に攻撃性に適用している。

 ティンバーゲンの研究で有名なものは,イトヨ(トゲウオの一種)に関するものである。繁殖期の雄の求愛または攻撃行動がおこるメカニズムを実験を通して解明した。『セグロカモメの世界』(1953)では,カモメのテリトリー行動などの社会行動を書いている。また,人間の攻撃行動について,人の攻撃性は,植物食から,狩猟を行うようになってから発達した遺伝的本能であると考えた。

 これら,3人は,その成果により,1973年にノーベル生理学・医学賞を受賞した。

1919年 フォン・フリッシュ

 ミツバチの味やにおいの区別

 について報告

1935年 ローレンツ

 「刷込み」を発表

1943年 フォン・フリッシュ

 ミツバチのダンスの研究発表

1951年 ティンバーゲン

 『本能の研究』で,トゲウオ

 の求愛・攻撃行動を発表

1973年 3人でノーベル生理学

 医学賞を受賞

 「個体的ならびに社会的行動

 様式の組織と誘発の研究」

 

 

昆虫フェロモンの作用様式による分類

 

リリーサー・フェロモン(解発フェロモン)

この種のフェロモンによる情報は嗅覚を通じ,神経中枢に送られ,中枢は直ちにフェロモン受容個体に特異な行動を解発させる。

(1)性フェロモン――配偶行動に関与するフェロモンで,一般に雌が分泌し,雄がそれを感受して配偶行動が解発される。(カイコガ,ミツバチ)

(2)警報フェロモン――集まって生活している昆虫では,その集団の一部の個体が他の動物によって攻撃されると,その個体はある種の化学物質を分泌発散させて,集団のなかまに危険の迫ったことを知らせる。(ミツバチ,シロアリ,アブラムシ)

(3)道しるべフェロモン――アリ,ミツバチ,シロアリのような社会性昆虫では,食物のある場所を巣内のなかまに知らせるのに,食物をみつけた個体は,巣への帰り道にある種の化学物質をつけておく。(ミツバチ,ハキリアリ)

(4)集合フェロモン――集団を形成するのに必要なフェロモン。(ゴキブリ,キクイムシ)

 

プライマー・フェロモン(引き金フェロモン)

情報が経口的に味覚を通じて神経中枢に送られ,受容個体の内分泌,発生生理のメカニズムに作用し,形態および行動の変化をもたらす引き金的役割を担っている。

(1)女王物質――ハチ,アリ,シロアリなどの社会性昆虫の集団を構成する女王,王,働きバチなどの階級の分化と維持をコントロールする物質。交尾の際に雄を誘引する働きや新コロニー形成時に働きバチを安定させる作用もある。

 

 

 










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