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C 形成体と誘導
◆形成体
脊椎動物の初期発生で予定外胚葉に働きかけて,中枢神経の形成を引きおこすと
共に,それ自身は,頭部中胚葉・脊索・体節に分化し,胚の形成の中心として働く
胚の部分を指す。形成体の存在について最初に気づいたのはシュペーマンであるが,
つづいて,マンゴルド,ホルトフレーターなどのドイツの学者によって著しく研究
が発展した。形成体のはたらきの本質については,すでにいろいろな説があるが,
形成体と反応を受ける組織とを,ミリポア・フィルターでへだてても誘導が成立す
るような物質であることは事実である。「この物質はタンパク質で,タンパク質分
解酵素によって作用がそこなわれる。作用部位はかなり不安定な性質らしく,放置
すると誘導そのものが変わってくることがある」というのが大体の現時点での理解
である。
◆誘 導
形成体の項で述べたように,誘導は形成体に含まれている特殊な物質によるとい
う見解に対しては,いわゆる誘導物質によって,組織の状態に変化がおこり,その
ような状態が誘導をおこすのであって,特定の誘導物質など考えられないとする反
対論もある。
また,細胞の内部にまではいりこんで情報を伝えるなんらかの活性物質の存在に
よると考えるより,分化すべき細胞の表面へのある種のはたらきかけによるものと
みたほうがよいとする考えもある。
◆分化
1924年,シュペーマンとマンゴルドによって発生運命の決定のしくみの大要が示
された。現在では2つの細胞群が接触したとき一方が他方の発生運命を決定する誘
導作用が連鎖的に起こって,各胚葉からいろいろな組織や器官が形成されていくと
考えられている。オルガナイザー(形成体)発見とその誘導連鎖の解析は,最初両生
類で行われたが,原索・脊椎動物全般にわたってその機構が明らかになり,発生の
根本原理として認められている。
◆興味ある話 形成体の本体はなぜはっきりわからないのか
シュペーマンが,1924年に形成体を発見して以来,分化をひき起こす形成体の本
体についての研究が,60年以上にもわたって行われてきた。タンパク質,脂質,核
酸などいろいろ取り上げられては,次々と否定されていき,結局わからずじまいと
みなされるに至った。それには理由があった。シュペーマンの発見後40年して明
らかになった遺伝子情報は,生命現象の基本をなすものであるが,その情報発現が
どのように調節されているかは今日でもまだ解明されていない。形成体の作用とは,
まさに遺伝子情報発現の引き金となるしくみのことである。この見地に立って新し
い角度からの研究が進行中である。名古屋大学の高田健三の実験によれば,形成体
から糖を結合したタンパク質が出され,それが未分化の細胞表面の受容体に結合し
て,これがシグナルとなって,細胞核中の特定の遺伝子を活性化するという可能性
がでてきている。