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1節 調査研究の注意事項

 

A 調査の目的と仮設の設定

まず,調査の目的に応じてテーマを選定することになるが,調査研究の場合は調査時期や学校の周辺の環境によってもテーマが限定されるため,実施可能なテーマを選定する必要がある。テーマの選定にあたっては,さまざまな方法で情報を収集することが必要であり,図書館やインターネットでの情報収集や,園芸店や農家・ペットショップで聞いたり,博物館・動植物園・水族館などの生物教育施設,大学や研究機関などに問い合わせてアドバイスを受けるとよい。また,生徒のやりたいテーマを実施するのが理想ではあるが,現実には生徒自身で適切なテーマを選んだり,まったく自由に多数のテーマで課題研究を実施することが困難な場合も多いので,次のような方法も考えられる。

(1) まず,全員で同じ実習を行ってから,各班ごとに生じた問題点や疑問をもとに異なるサブテーマを設定する。全員で植物群落調査を実施してから,班ごとに異なる環境条件の場所を選んで,仮説を設定して同様の方法で実施する。明所と暗所・乾燥地と湿めった場所・踏みつけの強弱などで比較するとよい。

(2) 調査全体を全員で取り組み,データ解析の段階で班別に分かれて,結果を予測して検討させる。例えば,セミのぬけがら調査を,全員が自宅の近くで行い,その結果を持ち寄って,学校と公園のデータを比較したり,平地と山地を比べたりする。

B 調査方法と記録のとり方

野外の生物は,無機的な環境や他の生物とも密接な関係をもっているため,教科書で学習した事項や文献から調べた知識だけから調査を行ってもうまくいかないことが多い。そこで,あらかじめ調査場所へ出かけていき,予備調査を行い,その結果をもとに調査方法を手直ししたり,仮説を変更して本調査の計画を立てるようにする方がよいだろう。まず,最初はやってみたい内容の研究計画書を提出させ,教員がチェックしてから予備調査を行い,その結果をもとに再度研究計画を書き直して提出させる。予備調査でうまくいかない場合はテーマの変更が必要な場合もあるかもしれない。また,野外での生物調査では,実験研究以上に記録が重要であり,調査記録をもれなく書き込めるような調査用紙を印刷したり,小型のノートを準備して気のついたことを記録することが重要である。このとき,調査日時はもちろん,そのときの天候や気温,調査地点の略図などが必要である。データはできるだけ客観的な数字で表すとともに,必要に応じてカメラやビデオを使って記録しておくとよい。

C 結果のまとめと報告書の作成

調査を行ったら,その日のうちにデータを整理して,わかりにくい点を確認しておく。また,グループで調査した場合は,あらかじめ打ち合わせをして,同じ方法で調査を行って,記録のとり方も同じようにしなければならない。調査結果は表にまとめて,平均値を求めたり,適当な幅で頻度分布を求めたりするなど,データ処理を行う。結果はわかりやすいグラフにして表すとよい。調査研究ではこのデータ処理がとくに重要であるが,具体的に指導しないと,データを有効に利用できる生徒は少ない。データ量が多いときには,電卓だけではなく,コンピュータの表計算ソフトを活用するように指示する。

データ処理が終われば,「調査報告書」をまとめるとともに,研究発表会を設定して,結果を発表しあうとよい。報告書の書き方は前に触れたが,他の人がそのレポートと同じ調査(追試)を行えば,同じ結果が得られる(再現性がある)ものでなければならない。

◎ 野外調査のルール

調査研究によって自然を傷つけることのないように,次のような最低限のフィールドマナーについては,調査の前に生徒たちに話しておきたい。

(1) 農地や植林地などの私有地は当然,公園や墓地などで調査をする場合も,管理事務所などに事前に届け出て,許可を得てから調査を行うこと。

(2) 調査地の自然は調査後ももとと同じ状態に保つことがマナーである。植物群落調査では踏み荒らしたりしないよう,河川や海岸の調査では動かした岩や石をもと通りに戻しておくこと。また,調査中にゴミを捨てるなどはもってのほかである。

(3) 調査地がその地域の人たちの生活の場になっていることも多く,調査の時期や時間帯を配慮して迷惑がかからないように注意する。また,その地域で生活している方がその場所の自然環境や生物について詳しい情報をもっている場合も多いので,迷惑にならないように注意して話をうかがってみるのもよい。

(4) 野外調査では生物名を調べることが必要になる場合が多いが,図鑑などを利用してできるだけ現地で種名を同定したい。それでもわからないときは,最低限のものを採集して持ち帰って詳しく調べたり,詳しい人に教えてもらうことになる。

◎ 事故に対する注意

教科書でも触れておいたが,野外ではいろいろと危険なことも多い。指導者としては,次のような事項に注意して,調査中に事故が起こらないようにしたい。

(1) 野外では天候に注意する必要があり,あらかじめ気象情報などを聞いて把握するとともに,天候の急変にも備えて雨具の準備などを指示しておく。とくに河川での調査時の急な増水や,海岸での調査時の高波などに注意するようにしたい。

(2) 危険な動物として次のようなものに注意を払う。

・毒ヘビ:マムシやヤマカガシなど(沖縄ではハブ類)にかまれた場合は,毒で腫れてくるのでわかるが,安静にして速やかに医師の診断を受ける必要がある。

・カやハチ類:夏の調査ではカに悩まされることが多いので,衣服は必ず長袖・長ズボンを着用。また,ハチではスズメバチやアシナガバチ類による秋季の被害が多く,集団で攻撃することもあるので,野外では注意して巣などに触れないようにしたい。

・海岸動物:岩礁にはフジツボ・カキ・カメノテなどが付着し,水中にはウニなどが潜んでいる。水中を歩く場合は,裸足ではなく履き古した運動靴を履き,手には軍手をはめて調査する。クラゲやゴンズイ・ウツボなどにも注意したい。

(3) 植物にも危険なものがある。とくに次のようなものに気をつけたい。

・ウルシ類:触れると皮膚がかぶれたり,赤く腫れたりする。これも,あまり皮膚を露出しないような服装で防止する。

・とげのあるイバラや葉の縁が鋭いススキなどでも切り傷がつくことがある。

・また,花粉アレルギーの原因となる植物や,調査中に食べることはないと思うが,ドクウツギやシキミなどの実・毒キノコやトリカブトなどは口にしないこと。

 

 

 

 








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