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第2節 実験研究の具体例;呼吸量の測定

 

 研究テーマの選定

植物や動物の呼吸量は,比較的簡単に測定することができるし,発展させて類似装置で光合成量を測定することも可能である。定量実験を行うことにより,扱えるテーマも多いので例示した。 生鮮野菜は生きたまま販売されているため,その品質保持にはいろいろな工夫がされている。大久保増太郎『日本の野菜』(中公新書,1995)には品質保持法として,予冷・キュアリング(貯蔵前に傷を治す)MA 包装(気体を透すフィルムで包む)CA 貯蔵(低酸素調節大気で貯蔵)など多くの例があげられている。

アスパラガスについては,次のような記述がある。

横置きすると穂先が立ち上がるために呼吸によってエネルギーを消費するだけではない。基質も使われるので味や栄養価が低下する。ビタミンC とクロロフィル含量が急速に低下する。低温保存は効果があるが,アスパラガスは低酸素障害を受けやすいため,ポリエチレン袋では針で穴を開ける必要がある。

野菜の呼吸は大きく3つのタイプに分けられる。

@ 収穫直後の呼吸がもっとも旺盛で時間の経過とともに低下するタイプ…キャベツ・ホウレンソウ

A 収穫当初は低く,末期になって上昇するタイプ…イチゴ

B 収穫後いったん下がった呼吸がある時点から急速に上昇・最大値を記録して低下するタイプ(クライマクテリック型)…トマト・リンゴ・バナナ

 

 資料の検討

下に簡易な呼吸量測定装置の例を示した。装置が簡単で準備しやすいものの,液滴はほんの少しの気温や圧力の変化に対しても敏感なので,得られた結果はそのままでは呼吸量を正確に表さない。したがって,同様の装置1 個だけで測定してはならない。補正のためにも,KOH溶液の代わりに水だけを入れたブランクの(空の)対照実験の設定が必要である。

精密な実験にはワールブルグ検圧計を用いることができる。ただし,この検圧計の原理は簡易測定装置と同じであり,ガス代謝量を圧力の変化として測定するものである。別に,液体の圧力を測定できるマノメーター(検容計)も利用可能だが,高価な機器を購入せず,自作することも可能である。あり合わせの枝つきフラスコや容器,ガラス管やゴム管のほか,東急ハンズなどで切りかえコックつき連結管を購入する。

また,医療用の手軽な呼吸機能検査器は呼吸量測定装置として流用することができそうである。

水生生物の呼吸量を測定する方法として溶存酸素量を測定するウィンクラー法を使うことができる。

 

C 実験I 呼吸量測定実験装置の工夫

【指導上の目標】 発芽種子の気体変化量を求めるために,必要な実験装置,実験方法,データのまとめ方について考える。

【準備】 三角フラスコ,ガラス管,ピンチコック,ものさし,水酸化カリウム溶液,水,種子

【指導上の留意点】 この実験装置では着色液滴の一方が大気と接している。実際にこのような装置では赤い液滴の大きさを一定にできないため正確な目盛りの読み取りはもちろん,測定も正確にはできない。実際に実験する場合には,下記に示す実験Vのハムスターの呼吸量測定装置にあるように,赤色の着色液を吸い上げるようにして液滴が大気と接しないようにしないと正確に測定することは不可能である。

・液滴が通る管はできるだけ細い方が精度が増す。

・同じ装置で,明条件では見かけの光合成量を測定することができる。

 

D 実験II 植物(野菜)の呼吸量の測定

【指導上の目標】 アスパラガスの置き方による呼吸量の違いを調べ,仮説が正しいかどうかを検証する。

【準備】 三角フラスコ,ガラス管,ピンチコック,アスパラガス,水酸化カリウム溶液,アルミホイル

【準備上の留意点】 簡易装置なので付加すべき点はあまりない。KOH溶液が途中で倒れないように容器の底をテープでフラスコの底に貼りつけることが必要である。

教科書の例では,縦置きと横置きと2つの実験系を設置している。2つの実験条件を比較するのが目的だからこれでもよいが,正確な考察のためにはやはりブランクの(アスパラガスを入れず,KOH溶液の代わりに水を入れておく)条件が必要である。そして同時に実験を開始して,ブランクの値を補正値として各実験条件の値から引く。

【結果の整理と考察】 アスパラガスの呼吸量の測定結果から,Iさんたちの第1班は仮説は正しいと結論づけているが,データをよく見るとこの判断には問題がある。測定値は,10分後からあとは横置きでも縦置きでも呼吸量はほとんど同じ速度で増加していて,決して横置きの方が呼吸量が大きいという結果にはなっていない。

この結果からすると,測定開始5 分間の縦置きと横置きの大きな差は植物の置き方以外の何らかの他の影響だった可能性がある。仮説が正しかったかどうかは,このような場合は何度か測定して確認する必要がある。

 

E (発表例)実験III えさの違いによるスナネズミの呼吸商

【指導目標】 飼育小動物について,呼吸量測定装置によって,O2 吸収量とCO2 放出量を求め,呼吸商を算出する。呼吸商から体内で消費された呼吸基質を推測し,さらに,摂取したえさとの関係を考察する。

【準備】 デシケーター(褐色),ガラス管,メスピペット,ゴム管,ピンチコック,ビーカー,布,10%水酸化カリウム溶液,赤インク,ワセリン,ストップウォッチ,スナネズミ,えさ

【準備上の留意点】

(1) 密閉できる容器ならよいが,デシケーターが最適である。通常のデシケーターは,ネズミ類などを入れるのに大きさが適当であり,また,ふたが大きく,出し入れが容易である。水酸化カリウムは劇薬であるので,動物によってその水溶液の容器がひっくり返されたり,動物が薬品に触れたりしないようにしないといけない。デシケーターは,「すのこ」によって上下が仕切られているので,都合がよい。

(2) 動物が動き回ると,呼吸量が安定しないため,安静に保つ必要がある。筆者の経験では,無色のデシケーターでは,動物が落ち着きなく動き回ったが,褐色のデシケーターを用いたところ,落ち着いた。

(3) デシケーターのふたやゴム栓に少しでもすきまがあると,測定できない。ワセリンを接合部に塗りつけ,しっかり密閉する。デシケーターのふたは,すり合わせ部分にワセリンを塗った後,合わせてから,ふたを回転させると密着させやすい。

(4) 気体の変化は微量なので,容量の小さいごく細いメスピペットを用いる。1 mlのメスピペットならば,0.01mlまでの目盛りがついていて測定に都合がよく,また,変化が目に見えてよい。メスピペットのない場合は,変化の読み取りは相対値でもよいので,細いガラス管にものさしを添えるか,目盛りを書き込んだ細いガラス管を用いればよい。

(5) 小動物の体温によって容器内の温度が上昇すると,気体の膨張につながり,適正な測定ができないことが考えられるので,デシケーターをぬれた布で包む。予備実験として,容器内に温度計を挿し込み,温度変化のないことを確認する。

【方法上の留意点】

(1) すべて用意がととのってから,ピンチコックを閉じる。

(2) 赤インクの液面にまったく動きがないときは,容器のふたや,ガラス管,ゴム管のどこかにすきまがあることが考えられるので,この密閉をチェックする。必要があれば,接合部にワセリンを塗る。

(3) はじめの数分は,容器内の気体の状態が安定しないので(例えば,おそらく呼気中の二酸化炭素が,すのこの下の酸化カリウム溶液に安定して吸収されるまでに時間がかかる),測定は少ししてから開始する。

(4) 測定の開始は,赤インクの液面が,どこか目盛りと一致したところから始めればよく,そこからの気体の変化量を測定すればよい。

(5) 実験IIIでは,同じような条件を備えた複数個体で構成された実験群を2 つつくり,それぞれA B という条件でデータを取ったが,この呼吸商は,ある個体内での呼吸を調べるので,同一個体で,すなわち水酸化カリウム溶液を入れたもの(条件A)と,すなわち水酸化カリウム溶液の代わりに水を入れたもの(条件B)を,続けて行う。

 

【結果の整理と考察】

(1) 呼吸商計算に必要なのは,酸素吸収量と二酸化炭素放出量である。条件A のときの気体の減少量をa,条件B のときの気体の減少量をb とすると,酸素吸収量と二酸化炭素放出量それぞれの値は次のようにして求めることができる。

a の意味するもの(条件A…水酸化カリウム溶液を入れたもの)

スナネズミは酸素を吸収し,二酸化炭素を放出する。ところが,放出された二酸化炭素は水酸化カリウム溶液に吸収されてしまい,容器内の気体の増減に影響を与えないと考えられる。したがって,容器内の気体の減少量a は,吸収された酸素量を意味する。

a=吸収された酸素量 ……@

b の意味するもの(条件B…水酸化カリウム溶液の代わりに水を入れたもの)

スナネズミは酸素を吸収し,二酸化炭素を放出する。ところが,放出された二酸化炭素は条件A と違い,吸収されることがないので,容器内の気体の減少量bは,吸収された酸素量から放出された二酸化炭素量を減じた量を意味する。

b=吸収された酸素量−放出された二酸化炭素量 ……A

@,Aより

放出された二酸化炭素量=ab
したがって,

 

 

(2) abの求め方

abの値は,一定時間後にそれぞれの値を読み取ってもよいが,経時的にその変化を追ってみると,その値が不安定なところもあり,長い時間をかけてある一定時間後に求めたab が必ずしも平均的な数値を求めるに相応しいものといえない。

そこで,横軸に「時間」,縦軸に「容器内の気体の減少量」を取ったグラフをつくり,1分ごとに,その時点に示された気体の減少量をプロットしていく。最後に,これらの点の間を平均的に通るような直線を引く(直線の上と下にプロットした点が目分量で平均的に散らばるような直線を引く。統計学的にプロットしたこれらの点からもっとも離れていない直線を求める計算法もあるが,ここでは割愛する)。その傾きから,1分間の気体減少量を求め,平均的な気体減少量とする。

(3) 呼吸商から体内で消費された呼吸基質を推定する。炭水化物:1.0,脂肪:0.7,タンパク質:0.8 から推定する。実際には,食物の中にいろいろな成分が入っているので,単純に炭水化物,脂肪,タンパク質のいずれと決められないと考えられる。筆者の実験例では,ヒマワリを主体としてコムギなども混じっているハムスターフードを与えたところ,0.7に近く,脂肪を多く含むヒマワリの種子との関連をうかがわせる結果となった。これを改善するには,餌はヒマワリの種子のみを与えるなど単純化させたほうがよい。サツマイモのみを与えたものは,1.0となり,主成分である炭水化物との関連を強くうかがわせる結果となった。

【発展】

(1) 食物の種類をいろいろに変えて,呼吸商を求める。たとえば,主成分がタンパク質と考えられるチーズなど。

(2) 植物の発芽種子の呼吸商と,同一種子を動物が摂取したときの呼吸商を比較する。

 

 








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