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第1節 食物連鎖の収支

 

 

A 生態系のなりたち

◆生態系

生態系の概念の中には,物質循環やエネルギーの流れが組みこまれている。また,生態系を構成している生物群集相互,さらにそれをとりまく無機的環境との間で各種の情報も交換され,伝達され,それらによって生態系は成立しているのである。生態系は,自然生態系,農地生態系,都市生態系などに分けられる。自然生態系は海洋生態系,森林生態系,砂漠生態系など,群系によって分類されている。

 

◆生産者と消費者

植物(生産者),植食者(一次消費者),捕食者(高次消費者)の個体数や現存量を規定する要因を説明する仮説として,提案者であるヘアーストン,スミス,スロボトキンの3名の頭文字をとったHSS仮説がある。彼らによると,ある植物種の現存量は植食者の個体数よりも光をめぐって競争する他の植物種の現存量により大きく左右される。しかし,食物量に比較的恵まれている植食者の個体数は競争者よりも捕食者の数によって規定されている。より高次の捕食者になると食物となる被食者の数が限られてくるため,再び捕食者同士の種間競争が個体数を規定する第一要因となる。つまり,栄養段階が上がるにつれ,生物種の現存量や個体数を規定する種間関係が競争→捕食→競争と交互に変化するというのがHSS仮説の特徴だが,特に捕食者の個体数を規定する種間関係として競争よりも捕食という場合も少なくない。

 

B 植物による物質生産

◆植物群落の生産量

生態系で利用される物質の基礎になるのが生産者の純生産量(Pn)である。純生産量は,水界では植物プランクトンを含む一定量の水を明びんと暗びんに入れ,それらをもとの水界の同じ深さの地点につるしておき,溶存酸素の変化量(=見かけの光合成量)として求められる。しかし,陸上の植物群落では森林などをすっぽりビニル袋で覆うことは不可能なので,「つみあげ法」とよばれる方法が用いられる。これは,森林内に設置した落葉うけ(リタートラップ)にたまった落葉枝量(D),糞量等から推定した被食量(C),さらに調査期間の最初と最後に測定した樹木の幹直径や樹高から推定した成長量(G),以上の3つを積算するものである。これに植物体の各器官の重量(推定)と気温から求めた呼吸量(R)を加えれば,総生産量(Pg)が求められる。つまり,

 PnDCGPgPnRという関係式になる。 

 

◆草原と荒原

陸上植物の現存量は地球全体で1837Gt(ギガトン:109t)と見積もられているが,サバンナ,ステップ,ツンドラなどの草地や荒原の植物現存量は79Gtで,全体のわずか4.3%にすぎない。しかし,年・uあたりの純一次生産力はサバンナで900g,ステップで600gであり,北方針葉樹林の800gとほとんど同じである。また,サバンナとステップを合わせた面積は24×106km2であり,熱帯雨林の17×106km2や北方針葉樹林の12×106km2よりもはるかに広い。さらに,イネ科草本植物は二酸化炭素の肥料効果を受けやすく,二酸化炭素の吸収源として森林と同じくらい重要である。

 

◆水界

水中の有機物は粒状有機物と溶存態有機物に分けられるが,溶存態有機物は分解者の働きで無機化されることによって植物に利用されると考えられていた。しかし,近年,バクテリアの研究が進み,溶存態有機物の多くが従属栄養型のバクテリアによって直接摂取され,ベン毛虫や繊毛虫を通じてさらに高次の動物プランクトンに利用されていることが明らかとなってきた。これらの微生物を通じた食物連鎖は微生物ループとよばれ,植物→一次消費者→高次消費者という古典的食物連鎖とともに水界における物質循環やエネルギー流を支えていると考えられるようになった。

 

 

 動物の同化量・生産量

◆動物の同化量・生産量

消費者が取り入れる有機物の総量が摂食量であるが,不消化のまま排出されるものを除いて体内への吸収される量を同化量とよび,生産者の総生産量に相当する。動物はこれらの有機物の一部を分解して生活活動のエネルギーをつくり,また一部は肉食動物に食われ,死亡するものもあって,残りが群集全体の成長量となる。これらの量はすべて一定地域の全生物群集を対象にするものなので,何匹かの個体が食われたり死んだりしても,残った個体が成長していき,それらの総量として表されるという点に留意したい。

 

D 生態ピラミッド

◆生態ピラミッド

生態ピラミッドのうち生産力ピラミッドはしばしばエネルギーのピラミッドとよばれる。また,栄養段階が1つ上がるときに失われることなく引き継がれるエネルギー量の割合を生態転換効率と言い,生産量の比で表す。生態転換効率は10%という値が平均的な値として用いられているが,実際には栄養段階や生態系によって異なり,たとえば水界では1%から25%までの変異を示すという。

 

 生物濃縮

◆生物濃縮

(1) えら呼吸による濃縮  水中の非常に微量の殺虫剤が,短時日のうちに魚を死に至らしめるほどに高濃度に濃縮されることを示した実験がある。ホールデン(1966)は,ディルドリンを2.3ppb含む水でニジマスを飼ったところ約3週間でニジマスは死亡した。死亡したニジマスのえらと肝臓からは,それぞれ18ppm16ppmのディルドリンが検出された。3週間の間に実に8000倍近い濃縮が起こった計算になる。与えた水の2.3ppbという濃度は,25mプールに約1gの殺虫剤原体を混入した程度にすぎない。なぜこのようなことが起こったのだろうか。バス(1959)が行ったえら呼吸による濃縮の簡単な計算がこれを説明してくれる。ニジマスの代謝に必要な酸素量は,体重1kg当たり300mgである。かりに,えらの酸素ろ過率を100%とすると,1l10mgの割合でとけている酸素を必要量とるためには,ニジマスは1日に700 lの水をえらで濾過しなければならない。この水に含まれる農薬のろ過率も100%とすると,1週間で約5000倍に濃縮されるはずである。これでホールデンの実験結果も十分納得できる。

汚染物質も薄めれば問題はないのではないかと安易な考えを否定するもう一つの例がある。下の表に,いろいろの濃度に薄めた海水でホヤを飼育した時のホヤ体内でのDDTの濃縮率を示した。これでみると水中の濃度が低いほど,ホヤによる濃縮率は明らかに高くなり,最も低い0.01ppbの濃度の海水からは,なんと100万倍の濃縮が起こっている。

ホヤによるDDTの濃縮(USDI1964)

 

水中濃度〔ppb

ホヤ体内濃度〔ppm

濃縮倍率

100

20

200

 10

10

1,000

   0.1

20

200,000

    0.01

10

1,000,000

(1ppb×10001ppm1ppmは百万分率を示す)

 

これらの例は,分解し難い物質が自然の循環系に流れ出せば,たとえ非常に微量であっても大変危険なものになり得ることを示している。むしろそれが微量であるために生物は急性中毒死せず,長期にわたって濃縮していくのである。死亡個体は自然界の分解の経路に入るが,生存しつづけることにより,生態系内の食物連鎖の経路を通じて上位の生物へと受けつがれていく。南極のペンギンもこのような魚を食べたにち

がいない。

(2) 食物連鎖を通じた濃縮  生物が互いに食う・食われるの関係(食物連鎖)でつながっていることは,生物界でみられる最も普遍的な法則である。また,農薬の生物濃縮も,主としてこの食物連鎖を通して起こるのである。

 

 








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