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第3節 種内関係

 

 

A 群れとその効果

◆群れとその効果

草食獣は群れて捕食者の接近や攻撃から身を守り,肉食獣の中にも群れて捕食効率を上げようとするものが少なくない。しかし,一般に,草食獣の群れサイズは非常に大きくなりやすいのに対し,肉食獣の群れサイズは比較的小さいのはなぜだろうか。図Aに示すように,個体あたりの平均適応度は群れが小さすぎても大きすぎても低く,平均適応度が最大(Fm)となる群れサイズMが存在すると考えられる。しかし,群れのメンバーが余計な個体の参加を拒まない限り,この最適群れサイズMは実現しないだろう。なぜならば,単独個体の適応度FsFmよりも低く,単独で行動している個体が群れの中に入っていこうとするからである。単独個体の利益を考慮すると,この群れはメンバーの平均適応度が単独個体の適応度とほぼ一致するサイズJまで大きくなるだろう。これを実現個体群サイズと呼んでいる。一般に,肉食獣では単独個体の適応度Fsが大きいのに対し,草食獣のFsは小さく,それだけ実現群れサイズは大きくなってしまうと考えられる。

A 群れサイズと1個体あたり適応度との関係を表す概念図。Mは最適群れサイズ,

Jは実現群れサイズ。

 

◆鳥の渡り

地球上の多くの地域では,気温や降水量,日射量などの季節的変動が,毎年,同じような様相で繰り返し生じている。この季節性を結果的に予測して生活史に組み込んで進化してきた適応を季節適応と呼ぶ。寒い冬や暑すぎる夏,極端に乾燥した季節において見られる休眠は,生活に不適な季節をしのぐための生活史戦略といえよう。特に温帯以北に生息する昆虫類では,冬季にどのような発育段階で休眠するのかと同時に,どのようなときに休眠が打破されて,発育を開始するのかは,重要な問題であり,それらをうまく解決し進化させた種が,現在まで生き残ってきたと考えられている。彼らは日長と気温という無機的環境要因を組み合わせて利用していたのである。

鳥類に見られる渡りも,季節適応の例と考えられている。昆虫類よりは能動的に長距離を移動できる鳥類は,異なった地域の環境を季節的に組み合わせて利用し,1カ所に留まっていてはできない生活を可能にしていると言えよう。すなわち,秋の南下は,冬でも餌を得ることのできる温暖な地域への移動であり,春の北上は,温帯や亜寒帯地域における昆虫類の大量発生を利用するためである。したがって,鳥の渡りとは,無機的環境要因の季節変化に伴って,繁殖地と越冬地の間の移動を生涯にわたって毎年繰り返すことと定義できよう。クジラ類が摂食海域と越冬海域(≒繁殖海域の場合もある)を往復する場合もこれに当たる。なお,サケなどが生まれた河川から大洋に出て,数年後に再び母川に帰って繁殖するような,生涯に1度だけ往復移動する場合を回遊と呼ぶ。また,北米大陸のオオカバマダラのように,異なる生息地間を,世代を繰り返しながら,毎年往復移動する場合も「渡り」と名付けられることがあり,注意が必要である。

鳥の渡りの開始は日長により,渡るべき方向は,太陽の位置や星座,地磁気,風向などによって定められていることが明らかにされてきた。一般に,日中移動する種は,太陽コンパスを使い,夜移動する種は北極星とその周辺の星を頼りにしているらしい。かつては,足輪や首輪などを付けて標識再捕獲することで移動経路を調べていたが,現在では,鳥に超小型送信機を付けて,人工衛星(主としてアメリカの気象衛星・ノア)で追跡されている。この追跡方法は,鳥だけでなく,クマやシカ,クジラ,ウミガメなどにも用いられるようになった。

 

B 縄張り

◆縄張り

縄張りは「直接防御あるいは警告を通じた排斥により,個体あるいはグループが排他的に占有する地域」(ウイルソン,1975)と定義されている。縄張りは,その大きさおよび何を防衛しているかによってA(隠れ場所,求愛,交尾,造巣,大部分のえさ集めを行う大きな防衛地域)B(すべての繁殖行動を行い,ある程度のえさをとる大きな防衛地域)C(巣とそのまわりの小さな防衛地域)D(求愛と交尾のための防衛地域)E(防衛される休息場所と隠れ場所)F(繁殖と無関係に食物を保証する防衛地域)などに分類されている(ウイルソン,1975)

かつて縄張りは,えさの食いつくしをふせいで種の個体数を調節するために発達したといわれたこともあった(Wynne-Edwards1962)。しかし,多くの縄張り行動は上の例のように,雄が自分の交配相手の雌をできるかぎり多く確保するために発達してきたようである。A型縄張りを持つ種では,縄張りを持てなかった個体はえさの少ない場所で生活せざるをえない。そのとき,それらの個体の死亡率が増せば,縄張りが個体数抑制の役割を果たしていることになる。しかし,これは縄張りの存在の「結果」であって,縄張り制進化の「原因」ではない。縄張り行動の進化の究極要因は,「縄張りを持った個体の方が縄張りを持とうとしなかった個体よりも多くの子どもを残せたから」ということでなければならない

とは言え,えさや異性など,子孫を残す上で重要な資源に恵まれた縄張りを認める行動が,これほど多くの動物に見られるのはやはり不思議な現象である。メイナード・スミスはその理由をゲーム理論によって説明した。闘争好きをタカ派戦略,闘争嫌いをハト派戦略,資源を相手が先に得ていた時にはハト派戦略をとり,自分が先に得ていた時にはタカ派戦略をとるようなやり方をブルジョア戦略とすると,ブルジョア戦略は進化的に安定な戦略(ESS:evolutionarily stable strategy)として選択され易いという。縄張り行動とは,まさにブルジョア戦略者の行動である。

 

 順位制とリーダー制

◆順位制

群れの中の関係を調べると順位があることが多い。雌のニワトリの群れでは,1位の鳥は他の全個体をつつき,2位の鳥は1位を除くすべてをつつき,最下位の鳥は全然つつかないというほぼ直線的な関係が見られる。ネズミや魚の群れでは,最上位の個体だけがはっきりしていて,他は皆同等にみえる場合が多い。これを独裁制とよんでいる。鎌倉市内の森にすむタイワンリスの順位行動が研究され,えさ場での勝敗表(次表)がつくられている。(田村他,1988)

この場合,かなり直線的な順位になっている。とくに,1位の個体は勝率100%で,最下位の勝率は0%である。そして,雄は雌より,年齢の高いものは低いものより順位が高い傾向がみれる。雄のえさ場における順位は,配偶行動にもそのままあらわれた。各雌は異なる日に発情するが,発情した雌のまわりにはたくさんの雄が集まり,順々に交尾した。この交尾の順番がえさ場での順位と一致していたのである。

このように,順位の高い個体は,群れの中で一番先にえさを食べたり,優先的に雌と交尾したりして利益を得ることが期待される。一方,群れの中に順位が確立すると,低順位の個体は高順位の個体を見ただけで避けたりして,群れ内の闘争の頻度は減ることになる。このため,順位制も,縄張り同様「種の繁栄のために進化した」という誤った考え方がされてきた。しかし高順位を保つにも縄張り同様コストがかかり,各個体は,自分の力やその置かれた社会的状況に応じて,自分の適応度を高めるべく行動を決めているはずなのである。なお,ニホンザルの社会に関する最近の研究は「サルはなぜ群れるか」(杉山幸丸,1990,中公新書)が参考となる。

 

D 社会性昆虫

◆社会性昆虫

どんなに単独生活を愛していようとも,動物の場合,繁殖のためには雌雄が出会い,交尾・産卵せねばならないため,多かれ少なかれ,雌雄間には何らかの相互作用が生じ,さらに,繁殖相手を巡っての雄同士・雌同士の相互作用が生じるため,どのような種においても社会関係が生じている。しかし,「社会性昆虫」はその範疇から逸脱した異なる定義によって理解されている種群である。すなわち,集団(=コロニー)で生活し,構成員には明確な繁殖的分業が生じており,普通,1頭ないし少数の個体が繁殖し,その他多数の個体は不妊のワーカーや兵隊として働いている場合を指す。現在までに,膜翅目のうちのミツバチやアシナガバチ,アリが,同翅目のうちの兵隊カーストをもつアブラムシ,等翅目のシロアリ,総翅目のうちの兵隊カーストをもつアザミウマ,鞘翅目のうちのワーカーをもつキクイムシが社会性昆虫として知られてきた。

社会性昆虫のコロニーにおいて,最も個体数の多いカーストはワーカーであり,巣作りや育児,採餌活動,給餌活動などコロニーの維持全般に関わった仕事をこなしている。兵隊カーストは防衛活動を専門とする個体で,体の形態を特化させている。ただし,ハチ類に兵隊カーストは存在しない。これらのカーストの個体は,普通,生殖能力を欠くことが多く,特攻隊となることもあり,結果的に,他個体の繁殖を助けている。このような利他的な性質の進化には,血縁個体の存在が重要であると考えられている。

今,他の個体の適応度をBだけ大きくし,自分の適応度をC減らす性質を考えてみる。この性質をもつ遺伝子は自分に不利なので,普通は進化できない。しかし,もし利他的性質の利益Bの受け手である他個体を,この遺伝子をもつ可能性の高い特定の個体(=血縁個体)に限定できれば,自分の適応度の損失CBでカバーし,結果として自分の遺伝子を増やせる可能性が生じる。そこで,血縁関係の強さを血縁度と呼びrで表わすとする。rは血縁個体と祖先を共有するために同じ遺伝子をもつ確率である。ハミルトンは,利他的性質が進化する条件はrBCという単純な式で決まると提唱した(ハミルトンの規則)。このように,次の世代への遺伝子の伝達を,自己の子孫だけでなく,他の血縁個体を経由して伝達することを考慮した自然選択を血縁選択という。その結果得られる個体の適応度を,特に,包括適応度と呼ぶ。

普通の動物は二倍体の生き物のため,父親と母親に血縁関係のない場合,片親−子供や子供−子供の血縁度は0.5になる。ところが,社会性昆虫として知られる膜翅目は,半倍数性という特異な性決定様式をもっている。すなわち,二倍体の個体は雌となり,半数体の個体が雄となるのである。その結果,姉妹間の血縁度は0.75と高く,血縁選択による利他行動の進化を考慮すると,自分の娘よりも妹に利他行動を与える方が価値が高くなってしまうことになる。したがって,半倍数性の社会性昆虫のワーカーが全て雌であることは,血縁選択による進化の結果と考えられるのである。

 








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