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第2節 個体群の構造と変動

 

 

A 生命表と生存曲線

◆生存曲線と生命表

生存曲線とは,縦軸に個体数(生存数)を,横軸に年齢をとったときに示される曲線である。この生存曲線を描くもとになるのは,生命表(life-table)とよばれるものである。

生命表は,もともと人口学で生まれたもので,統計資料をもとに,10万人の新生児が年を追ってどのように減っていくかを計算して,表に示したものである。この表を検討すれば,どの発育時期に,どういうように死亡が起こっているかが,全体との関連でつかめるし,死亡をもたらした主要な原因を究明する手がかりを得るのにも役立つ。したがって,生命保険会社などでは,生命表はきわめて重要な資料である。

生命表という研究手段は,1930年代から動物の個体群の研究にも用いられるようになった。発育中に著しい変態がみられる節足動物(特に昆虫類)などの生命表は,単位時間(月など)で区切るよりも,発育段階別にしたほうが,実際的である場合が多い。その理由は,発育段階により食性,捕食される動物,病気,生活空間などさまざまな要因が異なるからである。害虫の研究などでは,発育段階別の生命表がつくられ,個体数の増減の要因を追及するのに役立っている。

 

アメリカシロヒトリは太平洋戦争が終わった1945年秋,東京都大田区で発見された。おそらく無検疫で羽田空港に発着した米軍機により持ちこまれたものと考えられている。1949年には東京中でクモの巣のように網でからげられた枯葉をつけた街路樹が認められ,全国へ拡がっていった。その後,個体数の増減をくり返し,大発生をするとその後,ややおとろえ,また大発生をする。

アメリカシロヒトリの発生を研究するために,東京西ヶ原にあった農業技術研究所内と,東京郊外の府中の東京農工大学内に,ステーションがつくられた。ステーションとは,約1アールの面積をもち,その中にサクラの木2本とプラタナス7本が植えこまれ,まわりを低く囲い,老齢幼虫の脱出を防ぐために囲いの上部に粘着剤がつけられた場所をいう。これらのステーションで,環境の改変や農薬の散布を行わず,内部の個体数の変動が調べられた。特に,卵,17齢の幼虫,さなぎの個体数を調べ,どのくらい羽化するかを数えた。その一例では,9,528個の卵のうちで,羽化し成虫になったのはわずか10個である。大体12齢幼虫の死亡率は低いが,幼虫が老齢化するにつれて死亡率が著しく高くなる。これらの死亡の原因となるのは,前図に示したようなもので,鳥類やアシナガバチにより捕食されるのがもっとも大きな死亡原因である。

一般に,小鳥・クモなどの多食性の捕食者は,害虫を低い密度に保つ上に重要な役割を果たす。これらの捕食者は,特定のえさ動物との間に周期的な増減関係を示さず,対象とする害虫が減ったときにも,他の代用となるえさを食べたり,共食いをしたりして最少の個体数を維持する。したがって,多食性捕食者は,対象害虫が少ないときには有効に働き,他の原因でいったん害虫が増加し始めると多食性捕食者はもはやこれを止められない。したがって,ある臨界点をこえた害虫は,他の要因が働くまでどんどん増加する。

生存曲線を描く場合,横軸を相対年齢とし,全個体が死ぬときを100として表す場合と,平均寿命を0とし,そこから百分率偏差で値をとる場合がある(下図)Aはヒトのようにだいたい多くの個体が平均寿命付近で一生を終える動物である。Cは多数の産卵を必要とする魚などで,成体になり得たものは比較的に平均寿命より長く生きる。

生命表はその動物の捕食量を知るためにも必要である。発育段階,齢によって捕食するえさの種類が異なることもあるし,摂食する量も異なる。したがって,生態を明白にする上でも欠かすことができないが,これをつくるのはなかなかむずかしい。

 

トウヒノシントメハマキガの生命表(Morris Miller,岩波「生物学辞典」より)

x (発育段階・齢)

lx (期間最初の

個体数)

olxF(死亡要因)

olx(期間内の

死亡数)

100qx

(死亡率)

174

捕食・寄生など

19

11

若齢幼虫

155

分散など

越冬中の死亡

116.6

13.7

75

9

中老齢幼虫

24.7

捕食・寄生・病気など

23.4

95

さなぎ

1.28

捕食・寄生など

0.46

36

成 虫

0.82

 

B 齢構成

◆齢構成

個体の生存率や産仔数をもとめるには,ある年に生まれた個体を追跡調査して得られる生命表や生存曲線から求めるのが望ましい。しかし,寿命の長い生物ではそのような調査が困難であり,齢構成から推定することが多い。その際,年変動の比較的少ない安定した齢構成であればよいが,不安定な齢構成であれば,不安定性をもたらしている要因などを考察し,補正が必要となる。もともと不安定な環境に生息する生物では齢構成も不安定であるが,比較的安定な環境に生息する生物では,たとえ台風,疫病,山火事などによって一時的な撹乱を受けても,本来の齢別生存率と齢別出生率が回復すれば,比較的短期間のうちに安定齢構成に達することが明らかとなっている。

 

◆生活史の進化の研究

生物が生まれて成長し,繁殖後死に至る過程を生活史という。これが進化学の研究テーマとして取り上げられるようになったのは,個体群の齢構成に着目した生命表解析の理論化が進んだ1930年以降で,盛んになったのは,マッカーサーとウィルソン(1967)によるrK淘汰概念の提出がきっかけとなっている。1970年頃から,生活史進化の問題は「生活史戦略」という言葉が用いられるようになった。この言葉は,ある個体群の繁殖開始の齢や寿命,繁殖にまわすエネルギー分配量などの生活史の諸形質が相互に関連していて,一つの環境条件のもとで諸形質がセットとなって進化することから,そのセットを戦略(strategy)という言葉で表わした。彼らは個体群密度に依存しない死亡が強くかかる環境では高いr(個体群の大きさの変化の瞬間速度の尺度,個体当たり,単位時間当たりの数で表され,〔1/時間〕の単位をもつ)をもつ個体が,逆に,資源をめぐる競争に強く,密度に依存した死亡が強くかかる環境では高いK(環境収容力)をもつ個体が,それぞれ選択されると考えた。これを各々r淘太,K淘太という。

 

r淘汰とK淘汰の特徴(出典;Pianka (1970)より一部省略)

 

r淘汰

K淘汰

気候

変化に富み,または(あるいはそれに加えて)不規則に変化する。

安定しているか,または(あるいはそれに加えて)規則的に変化する。

死亡

破壊的に起こることが多い。密度に依存しない。

密度に依存する。

生存曲線

III型が多い。

I型,II型が多い。

個体数

変化甚だしく,平衡がなく,通常環境収容力よりずっと低いレベルにあり,飽和していない生物群集中にある。すなわち生態的空白,毎年再侵入がある。

安定しており,平衡状態にあって,環境収容力の限界に近い高密度。生物群集は飽和していて,再侵入なしに個体群を保つ。

 

 








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