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第1節 個体群の成長と変動

 

 

◆個体群

個体群populationとは同種個体の集団であり,同一個体群内の個体は交配や個体間相互作用を通じて密接な関係にあり,同じ種であっても異なる個体群とはやや隔離された地域集団と定義される。集団遺伝学では個体群を進化の単位とするため,特に交配可能性を強調するが,生態学でも個体群を交配集団と捉えておくことは重要である。しかし,どの程度隔離されれば異なる個体群とみなすかという基準はなく,さらに小単位の交配集団に分割できる個体群をメタ個体群,各小集団をデームとか分集団と呼ぶことも多い。

このような個体群の構造は近縁種の種間関係にも影響する。たとえば,競争関係にある2種が同一地域に生息すると競争排除則によりどちらかが絶滅するが,生息地がたくさんのパッチに分かれ,両種がメタ個体群を形成していると,競争には強いが分散力の劣る種と競争には弱いが分散力に優れる種の共存が可能となる。

 

A 個体群密度

◆個体群密度

密度は一定面積あたりの個体数と定義され,また,一定面積あたりの同種生物の総重量のことを生物量(biomass)または,現存量(standing crop)という。単位面積は,それが平面,あるいは立体空間であるだけではなく,1本の木,あるいは1枚の葉でも成立する。この空間は限られた空間であるから,ここに生活する個体の数,すなわち個体群密度で個体の総数を推定することはむずかしい場合がある。この空間に隣接している空間で同じ個体群密度を保有しているとは限らないからである。しかし,一般にはある単位空間の個体群密度を基準にして,個体群の消長を論じることが多い。

 

 

B 個体群密度の変動

◆個体群密度の変動

個体群密度の変動要因を明らかにすることは,個体群生態学の主要テーマであり,さまざまな分析法が用いられてきた。中でも,モリスの主要因分析法(キーファクター・アナリシス)では,個体群密度の変動パターンと様々な環境要因の変動パターンを調査し,個体群密度と統計的に有意な相関関係を示す環境要因を抽出する方法である。この方法は,いろいろな動物の個体群変動要因を明らかにする上で大きな貢献をしたが,相関関係から因果関係をどのようにして明らかにするかが課題となっている。

 

 

C 個体群の成長曲線

◆個体群の成長曲線

 指数曲線は,時間tにおける個体数をNt1個体あたりの平均増殖率(1個体あたりの出生率と死亡率の差。内的自然増加率とも言う)rとすると,dNtdtrNtと表される。つまり,個体数の瞬間増加率(Nttによる微分)は個体数にrをかけたものになるはずである。この微分方程式は以下のように解くことができる。

dNtdtrNt

1NtdNt = rdt 両辺を積分すると,

logeNt = rtC  (1Ntの積分はlogeNt)

Nt = ert×ec

t0における個体数(初期個体数)N0とする,ecN0

∴ Nt = N0ert

この式は,マルサス型増殖モデルと呼ばれることが多い。

成長曲線(S字状曲線)は, dNtdtr(1NK)Ntと表すことができる。つまり,個体あたりの増殖率を密度依存型とし,個体数が環境収容力Kに近づくほど小さくなるようにしてある。尚,この微分方程式は解くよりもこのままの方が分かりやすく便利であるため,微分型ロジスティック式と呼ばれている。

 

D 密度効果と相変異

◆密度効果

個体群にみられる個体間の競争・協同関係と,個体群の生活を保持する上で必要な環境要因(光・温度・栄養など)に対応して個体群密度は決まってくる。生物の生活に対して,個体群の密度がおよぼす密度抑制機構を密度効果という。ある一定の個体群密度で,生物の生理的・形態的性質の発現が最適になる場合を,最適密度が認められるといい,おもな研究者Alleeの名をとってアリー型密度効果という。昆虫類・等脚類,きょく皮動物,原生動物・細菌などでこの型の密度効果が認められる。また,密度が増加するにつれて増殖率が急激に減少するなどの悪影響がみられるショウジョウバエ型,アリー型とショウジョウバエ型の中間型(アズキゾウムシなど)がある。最適密度の場合,個体数の増加だけでなく,一つの個体の生存時間,発育速度などがもっとも高くなる。無脊つい動物などでは個体間の相互関係,協同がそれぞれの個体の生存を確保し保証することがあるからである。このように個体群密度が個体あたりの増加率に促進の効果を及ぼす場合,これをアリー型密度効果という。

 

◆相変異

多くの昆虫の個体は生息密度(こみあい)の程度で体重や行動や産卵数などに多少の変化をみせるものだが,野外でしばしば大発生する昆虫の中に,形態,色彩,生理,行動などが顕著な変化をする種が知られている。トノサマバッタ,ヨトウガ,ウンカ,アリマキ類などに見られ,そのような現象を相変異といっている。このような種では密度に対応した(低密度と高密度の両方向に)適応的反応が出現するのであるが,それは遺伝的にプログラミングされたものであると考えられる。

相変異の例として最も顕著で有名なものは,トノサマバッタの場合である。トノサマバッタ類は,高密度状態では群生相(phase gregaria)となり群飛するのに適した形態や生理状態になる。すなわち長翅で集合性がつよく褐色で飢えに対する耐性が強い。一方,低密度状態では孤独相(phase solitalia)となり,小型で短翅で緑色である。このようなトノサマバッタ類は10種ほどが知られ,主に世界の砂漠地帯の周辺のステップ地帯に分布している。そのようなところでは雨量の年次変動が大きく,年による草の生育状態に大きな変化がある。トノサマバッタ類はそのような環境変化の大きい場所に,特に移動力を強大にして適応していると考えられる。孤独相から群生相への移行のきっかけは,前線性の風による吹き寄せや,寄せあつめられた成虫が集中産卵し,しかも孵化率が高くまた天敵による抑制も十分に働かなかったことによるものと考えられている。そうなると幼虫密度が上昇して,発育時の相互刺激により群生相へと変化していく。行動上は,幼虫期には学習によって集合性や行進行動の能力が高まり,成虫になったときもなお高密度のままであれば集合性がさらに強化されて群飛行動を行うようになる。そして,大発生の状態が何代も持続し,気象要因や天敵による個体数の減少を招くまで,大規模に移動していくのである。

 

E 植物の密度効果

◆最終収量一定の法則

個体群の成長に伴い,その生息場所における密度が上昇すれば,1個体あたりの物理的な生活空間は減少し,餌などの資源量も減少していく。初めのうちは資源を分け合って利用することもあるだろうが,個体数の増加と共に,いずれは個体間で競争することになってしまう。充分な資源を得られずに死んでしまったり,天敵が集まってきて捕食されてしまったり,他の生息地へと出て行ってしまったりと,動物の場合,個体数の増加には,何らかの歯止めのかかるのが普通である。その結果,動物の個体群における密度効果は,出生数と死亡数,移入数と移出数の4つの要因に分けられて考えられてきた。教科書では,個体数の増加に伴って,1雌あたりの産卵数が減少したり,相変異によって他の生息場所への移出が起こったりする例が載せられている。

種子から一斉に芽生えたような植物の場合,移動できないので,密度効果のうちの移入数と移出数については考える必要はない。また,通常は,天敵によって,まるまる1個体がきれいさっぱりと捕食されてしまうこともない。しかし,限られた空間に根を張って栄養塩類や水分を獲得し,葉を展開して上からしか落ちてこない光エネルギーを手に入れねばならない生活形をもっているため,動物とは異なる特異的な密度効果の法則性が存在している。

植物の1個体の大きさには可塑性が大きく,高密度になるほど,個々の個体に対する資源配分量(栄養塩類や水分,光など)は少なくなるため,生育初期の平均個体重は密度に関わりなく等しくても,生育の経過と共に平均個体重は低密度の方が高密度よりも大きくなっていく。この現象は競争−密度効果(C-D効果),単位面積あたりの収量(植物体の重量)から見た場合は収量−密度効果と呼ばれている。収量は,生育の経過に伴い,どのような密度であろうとも差がなくなり,最終的には一定の上限値に達するのが普通である。この現象を最終収量一定の法則という。

高密度で成長を始めた植物個体群の場合,個々の個体の生物量の増加に伴って,捕食ではない枯死個体が増えていく場合がある。このようにして,結果的に密度を低下させる枯死を自己間引きという。空いた空間は残存個体が成長して占めるようになり,最終収量一定となろうとするので,密度の減少によって個々の個体は大きくなっていく。この時,横軸に密度の対数を,縦軸に1個体あたりの重量の対数をとると,−3/2を傾きとする直線が得られる。この状況は,小さくても大きくても相似形となる個体で構成される個体群を考えると理解しやすいだろう。密度は2次元,重量は3次元と言えるからである。したがって,この法則は,森林や草地などの陸上植物群落だけでなく,海藻類や固着性貝類,ある特定の環境下の魚類などにも当てはまることになる。

 

 








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