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第2節 環境と適応

 

◆環境と適応−気候適応の法則

生命が誕生して以来,生き物たちは,子供を作って自己の遺伝子を次世代に伝えていくという営みを続けてきた。そこでは,繁殖に有利な形質を発現する遺伝子をもつ個体が,そうでない個体よりも多くの子供を作り育て上げてきたはずである。したがって,世代が繰り返されることで,そのような遺伝子は個体群全体に拡がり,ついには個体群中に固定されると考えられてきた。すなわち,個体群は過去から現在まで連綿と続いてきた環境によって自然選択を受け,結果的に,「環境に最も適合した形質」をもつ個体で構成されるようになるのである。ここで,環境によって選択されて遺伝的に固定された形態や生理,習性などの諸形質と環境との適合を,「生態学」は「適応」と定義してきた。

環境とは,もちろん,生物的環境要因と無機的環境要因の両者を指している。前者においては,配偶者の獲得能力や餌の発見効率,捕食者からの逃避行動能力を高めることなどが重要であり,これまでに記載されてきた多種多様な動物の行動や植物の形態のほとんどは,「如何に自己の遺伝子を次世代へ伝えるか」という問題に対するそれぞれの種の解答なのである。その結果,我々の目の前で繰り広げられる生き物の営みは,よりよく成長し,よりたくさん子供を産み,より生残確率が高くなるように生き物たちは努力している,という前提で解釈されるようになってきた。

生命の営みとしての生物的環境要因に様々な種内・種間関係が生じているとはいえ,それぞれの種個体群はある一定の分布範囲をもち,その境界は,大枠として,日射や気温,水分といった無機的環境要因によって決められている。種によって,強い日射に対する防御や寒冷地における体温調節,乾燥に対する防御などの生理・生態学的能力には,それぞれ限界があるからである。これらに対する適応の結果,ほ乳類の同一種や近縁種で比べると,温暖で湿潤な地域よりも低温で乾燥した地域になるほど体色は明るい色調を呈するというグロージャーの法則や,手足や耳,鼻などの体の突出部分が寒冷地で小さく短くなるというアレンの法則,寒冷地になるほど体が大型化するというベルクマンの法則,などの存在が知られてきた。確かに,体表面積と体重や体積の関係を考えれば,一般的に,寒冷地では体が丸い方が体表面からの放熱量を少なくして体温保持に対して適応的であるなどと,これらの3つの法則は気候に対する適応の主要因としてうまく説明できるので,気候適応の法則と呼ばれている。しかし,例外も多く,経験則に過ぎないと見なされるようになってきた。

なお,生き物は,多かれ少なかれ,気候などの無機的環境要因に対して,可能な限り適した形質を同じ遺伝子型であっても発現する能力をもっている。これは個々の個体の表現型の可塑性による環境への応答であり,順化と呼んで,遺伝子型による応答である適応とは区別されることに注意されたい。典型的な例として,赤血球数の増加によるヒトの高地順化がある。

 

 








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