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第1節 進化の証拠

 

 

A 化石が示す証拠

◆化石

化石の英名fossilはラテン語のfossilisに由来し,「掘り出されたもの」という意味である。18世紀には鉱物もフォッシルとよばれていたが,19世紀になると,岩石中に残された生物の遺骸を指すようになった。遺骸としては動物の骨格や殻,植物のセルロースなどの硬い組織のほか,それらが置換されたもの,その印象が残っているもの等がある。

ときには氷漬けになったマンモスのような例もある。生物体が保存された体化石のほか,生活活動の跡が記録された生痕化石がある。氷河時代の最後の氷期以降,ほぼ1万年より新しいものは慣習的に化石とはよばない(下表)。化石を研究する学問を古生物学という。

化石化作用は生物群集が遺骸群に変わる前半の過程と,遺骸群集が化石に変わる後半の過程に分けることができる。前半の過程では,生物群集は死後,分解者による分解や腐食性の捕食者による破損,水流や泥流による運搬,摩滅などの作用を受ける。運ばれてきた遺骸は,湖や浅海地域にゆっくりと堆積していく。後半の過程では遺骸は種々の続成作用,すなわち上に重なる堆積物の圧密作用,殻や骨を溶かす溶解作用,別の鉱物で置換される交代作用などを受けるし,さらに変成がおきたりして変化していく。昆虫やクモなど節足動物の体(外骨格)は残りにくく,コハク(樹脂が固化したもの)の中の化石が貴重である。

新生代(初期〜中期)の生物たち:稀有な保存の例が,ドイツのメッセルの沼地に堆積した地層に見られた。約5000万年前の始新世に堆積した地層で,地上生の大型動物だけでなく,鳥やコウモリなどの飛行性動物も化石となっている。沼地からの有毒ガスにより死んだとも言われている。動物の毛やコウモリの羽根のうすい膜まで保存され,甲虫の翅は輝きさえ失っていない。魚や花の化石も産出する。

 

◆地球の歴史と生物の歴史

地球の歴史は地層に刻まれている。層位学では,新しい地層は古い地層の上に重なり,地球の歴史を順序よくたどることができると考える。古生代(Paleozoic era),中生代(Mesozoic era),新生代(Cenozoic era)は生物相の大きな変化によった分類であり,示準化石で特定する。このような相対的な年代区分に対して,絶対年代の測定は主に放射性元素の壊変速度(半減期)を利用している。

半減期の長い(4.5×109)ウラン238やカリウム40などは古い地質時代の年代測定に利用され,半減期の短い(5.7×103)炭素14は,数万年前以内という比較的新しい地質時代の年代測定に利用されている。

カリウムは,一般の岩石中の長石や雲母に主成分として含まれている。40Kは,γ崩壊により,40Arになるが,原子数が半分になる期間(半減期)12.5億年である。この2種が半々に含まれていれば12.5億年前の岩石であるといえる。

化石などの研究から,年代の変遷と生物の変遷は,次の通りである。

 

相対年代の名称の由来

カンブリア紀;イギリスのウェールズ地方のラテン名から。

オルドビス紀;ウェールズ地方の古代ケルト民族のオルドビス族にちなむ。

シルル紀;ウェールズ地方の先住民族シルルSilures族にちなむ。

デボン紀;イギリス南西部デボン州にちなむ。

石炭紀;大森林が石炭化しているところから。

ペルム(二畳)紀;ロシアのペルム地方にちなむ。

三畳紀;ドイツで異質な3つの岩石層が発達していたところから。

ジュラ紀;フランスとスイスの国境にあるジュラ山地に発達していることから。

白亜紀;フランスのチョーク層(白亜,ラテン語名クレタ)から。

第三紀;18世紀に化石を含む層を第一紀,第二紀とよんでおり,その上の層だから。第一紀は現在のデボンからジュラ紀に相当し,第二紀は白亜紀に相当する。

第四紀;18世紀に第三紀とよんでいたところを新生代とし,その層をさらに分割した。

 

◆示準化石

古生代の示準化石

フデイシ Graptolites≫ 半索動物門,フデイシ綱に属する絶滅生物。頁岩の表面に羽ペンのような形態で残されている。カンブリア紀中期〜石炭紀の海で大繁栄した。地質学的に個々の種の存続期間は短く,カンブリア紀からデボン紀前期の化石は細かく分類されている。

三葉虫 Trilobites≫ 節足動物門,三葉虫形亜門に属する古生代の海に栄えた絶滅生物。魚類の繁栄と逆相関の様相があり,生態的に競合したと思われる。1771年にワルチがTrilobiteとよんだ。tri(3) lobe(聡,肋) -ite()3の意味は,背甲が頭・胸()・尾板と3分され,さらに中軸部と両肋()3葉からなることに由来している。

フデイシ()と三葉虫()

 

フズリナ Fusulinids≫ 紡錘虫とも言う。原生動物門,有孔虫目,フズリナ上科に属する。石炭紀前期末に出現し,ペルム紀末に絶滅するまでの約1億年間,世界各地の熱帯から亜熱帯の浅海で発展した。

中生代の示準化石

アンモナイト Ammonites≫ 軟体動物門,頭足綱,アンモナイト亜綱に属する。古生代デボン紀に出現し,中生代白亜紀末に絶滅するまで,世界各地の海洋に繁栄した。

ソテツ Cycadales≫ 裸子植物亜門,ソテツ植物綱。出現は石炭紀だが,中生代に繁栄した。現在も熱帯から亜熱帯にかけて10100余種が現生する。

新生代の示準化石

カヘイセキ Numlites≫ 原生動物門,根足虫網,有孔虫亜綱の1属。両凸レンズ〜円盤形の殻をもち,底生性で,貨幣に似る。新生代第三紀暁新世に出現し,漸新世

前期までにはその大半が絶滅した。

 

絶滅

絶滅extinctionとは「1種または数種の全個体が全滅すること」である。このような絶滅は地質時代に何回も起こった。特定の非常な短期間に特定の地域で多数の種が絶滅したこともあった。これを「大絶滅mass extinction」とよぶ。古生代末のペルム紀の大絶滅,中生代末の白亜紀の大絶滅が有名だが,最近の研究では先カンブリア代の末やオルドビス紀末,デボン紀末にもあったと推定されている。

大絶滅の特徴は@陸上と海洋の生物双方に起こった。A陸上では動物に繰り返し絶滅が起こったが植物には抵抗力があった。B熱帯生物が選択的に消滅。C特定の動物群が繰り返し絶滅の被害を受ける傾向がある(三葉虫,フデイシ,アンモナイト)

絶滅の原因として考えられたものは,@海退に伴う海生生物の絶滅 A地球規模での気候変化 B海洋での酸素と塩分の不足 C地球外要因(隕石の衝突)などである。しかし,現生生物の適応能力から短時間の異常に耐えられなかったとは考えにくく,大絶滅はそれ以前にも2回もあった。〔スタンレー『年物と大絶滅』より〕

 

B 生きている化石

◆生きている化石

生きた化石,遺存種,またはレリックともいう。古生物となんらかの関連がある現生生物を指す。一般用語としての具体例が先行したもので,厳密に定義された科学用語ではない。@遠い地質時代に生きた祖先形との形態類似が著しいもの。古生代型=シャミセンガイ(腕足動物。カンブリア紀に出現。現生の種は有明海の泥底に群生),シーラカンス,トクサ。中生代型=カブトガニ,イチョウ,オウムガイ,ウミユリ,ソテツ,ウオレミア。新生代型=ネオトリゴニア(三角貝),メタセコイア。

A直接の祖先形は化石で知られていないが,部分的に強い祖型を保つもの。ナメクジウオ,ガロアムシ。B氷河時代の遺物。ライチョウ,ナキウサギ。C直系ではないが,大分類単位で古生物と類縁関係があり,現在分布が限られているもの。ワニ,ムカシトカゲ。D化石による系統が十分にさかのぼれるわけではないが,ムード的にも大分類上も一応古生物の子孫であることが了解されやすいもの。イグアナ,コモドドラゴン,ムカシトンボ,淡水イルカ。

 

◆シーラカンスの発見

19381222日,南アフリカのカルムナ川河口の町イースト・ロンドンで,トロール船の漁獲物の中に,体長1.5m,体重58kgの大きな魚が取れた。連絡を受けた,町の博物館の女性学芸員のラティマーさんは,魚類学者のローズ大学のスミス博士にスケッチを送り,標本を見てもらうことにした。それは,今まで化石でしか知られていない「シーラカンス」であることが判明した。学名は,ラティマーさんの名前とカルムナ川河口で取れたことから,ラティメリア・カルムナエ(Latimeria chalumnae)とつけられた。2頭目が取れたのは,14年後の1952年であった。シーラカンスは化石の属名,コエラカントウスCoehlcanthus(Coela;中空,Acanth;脊柱)からきた英語名である。なお,1997年にインドネシアのスラウェシ島で,新たな種が発見され,ラティメリア・メナドエンシスと名付けられた。

シーラカンスは進化を忘れたわけでもないだろうが,いかにも適応的な形態を獲得したからこそ変わる必要がなかったのだ。一番古い化石は37000万年前というから古生代デボン紀のもので肺魚が両生類へと進化していった時代である。魚類の中で,シーラカンスと肺魚だけが胸びれと腹びれに筋肉のついた柄()の部分がある。これが長くなり4足に進化したと考えられている。

 

ヒトや両生類の祖先は肺魚かシーラカンスかという議論には決着が着いていないが, 肺魚もシーラカンスも共に総鰭類(そうきるい)(ヒレの中まで骨が入りこんでいる)の仲間で,両生類はその総鰭類から分かれて進化したのであろうというM.M.チャンの説(下図)には説得力がある。最初の脊つい動物とされる無顎類(むがくるい)という魚類から条鰭類(じょうきるい) (ヒレの中までは骨は入りこんでいない)と総鰭類が分岐したと想像すると下図右のようになる。下図左に肺魚から両生類が進化したとするローゼンの説を示す。

 

C 形態の比較

◆無顎類と板皮類

上下の顎を持っていない無顎類(無顎魚綱)は,古生代カンブリア後期に現れ,古生代に栄えた。シルル紀に大繁栄し,デボン紀には滅びてしまったカッチュウ魚(甲皮類)は無顎類の代表であり,形態は千差万別であるが,共通した特徴は硬い外骨格のよろいが頭部から胸部を覆っていること,顎がなく両側に目をもつこと,頭頂部に第3の目をもつこと,鼻孔が一つであること等である。甲皮類のなかの頭甲類は大きく偏平な頭部をもち,口が腹側に開いた典型的な底生動物であった。おそらく泥になかばもぐって,泥中の有機物を食べていたと思われる。代表はケファラピスやヘミキクラスピス。異甲類(アングラスピスなど)は尾の形やボート形の体型から水面を泳ぎまわってプランクトンを食べていたものと考えられる。無顎類の現生種はヤツメウナギ目とメクラウナギ目であるが,どちらもよろいはない。この祖先はすでに石炭紀に化石が知られている。

板皮類(板皮魚綱)はデボン紀前期に現れ繁栄し,石炭紀に絶滅した。頭胸部が硬い甲に覆われ,顎の骨がなた状に露出して歯の役目を果たしていた。(エナメル質に覆われた)本当の歯ではない。ドゥンクレオステウスは肉食性で体長6mにも達した。板皮類から軟骨魚類(サメやエイなど)が進化したと考えられている。

 

◆相同

相同は進化の証拠として最も重要な概念である。グリーンランドのデボン紀後期の地層から発見された原始的な両生類イクチオステガIcthyostegaと頭部の骨格が非常によく似ているのが,硬骨魚綱,総鰭亜綱のユーステノプテロンEustenopteronである。この化石魚は両生類の祖先にもっとも近い魚類として注目を集めてきたが,近年になって両生類にある内鼻孔が総鰭類のシーラカンスにないことが分かり,ユーステノプテロンの内鼻孔と考えられてきたものは,下顎の円錐歯がおさまるくぼみであり,両生類は肺魚から進化したという肺魚説が唱えられるようになった。両生類の祖先が総鰭類か肺魚か,論争にまだ決着はついていない。

四足動物の前肢の骨格の相同関係は鳥の手羽先の骨格標本の作成,中耳の相同関係は魚類の顔の骨の解剖などの実習を通して理解を深めることができる。

【実習1】烏の前肢の骨格標本の作成

@鳥の手羽先を購入する。 A筋肉が骨に結合している様子などを観察した後で,水煮する。ピンセットを使って大きな筋肉を骨から除く。Bさらに10%程度の水酸化ナトリウム水溶液(強アルカリで劇薬である。十分扱いに注意する必要がある)で煮た後,よく水で洗い,歯ブラシなどを使ってこまかい部分の肉を除く。C図に従って台紙に並べてボンドなどで貼り,ヒトの骨格と相同関係を調べる。

【実習2】魚の顔の骨と中耳の耳小骨との相同

@体長10cm以上の魚を購入する(魚が小さいと解剖しにくいため)。A先細ピンセットを使い,図を参考に魚の顔の骨を解剖していって,舌顎骨(大きく分かりやすい),接続骨(小さく紛失しやすい),方骨(特殊な形をしているので分かりやすい)を探す。

Bコイ科の魚で浮き袋に連結した聴覚器であるウエーバー器官は中耳との関連はなく,相似器官である。

 

◆相似

相似器官は,昆虫の翅とコウモリの翼のように共通祖先から由来したとは考えられない構造を表す。他にも脊つい動物の目と軟体動物頭足類(イカやタコ)の目は,共通の機能と似た構造を持つが発生が異なっており(脊つい動物の網膜は脳由来だが,軟体動物の網膜は表皮由来),相同ではなく相似器官の例である。

 

◆適応放散と収れん

相同の例であげた脊つい動物の前肢の形態の違いはどのような要因で進化したのか。これはそれぞれの生物が生活環境に適応した結果と考えられる。つまりトリやコウモリは空中に,クジラは海中にといったように。また,収れん(収れん進化)はこれまで進化の項目で取りあげられない場合もあったが,適応放散と合わせて理解することができる。環境に適応して同一の祖先が多様化していくのが適応放散だとすれば,異なった祖先が環境に適応して一様化していくのが収れんである。クジラの流線形の体は水中生活に適応しており,同様に水中生活に適応した魚竜の体形と類似している。このように系統的に離れた生物が同様の形態をとることを収れんconvergenceという。

オーストラリアの有袋類は適応放散と収れん進化の絶好の例である。

 

 

オーストラリア

フクロモモンガ

タスマニアデビル

フクロオオカミ

フクロネトビネズミ

フクロネコ

コアラ

 

他の地域

モモンガ

クマ

オオカミ

カンガルーネズミ

ヤマネコ

ナマケモノ

 

◆歯の適応

適応の例は多いが,ここではほ乳類の歯の形態と適応の例を紹介する。歯には餌となる食物に適応した形態が見られる(下図参照)。ほ乳類型は虫類のキノドン類の頬歯には3個の尖頭があり,獲物を引き裂くことはできるが,真性ほ乳類のような噛み合わせはできない。21千万年前に出現した真性ほ乳類は下顎がやや狭くなって,上の歯と下の歯が接触し,左右だけでなくやや前後にも顎を動かすことができるようになった。つまり,顎を閉じることができ,食物を切り分けられるようになった。12千万年前に初めて見られた獣性ほ乳類(単孔類を除く,有袋類以上のほ乳類をこうよぶ)では噛み合わせのできる型の歯が増えた。オポッサムのような雑食性のほ乳類では,すでに基本的に三角形の歯をもっていた。

 ライオンのような肉食動物になると特殊化した噛み合わせで,引き裂くことのできる歯をもつ。このような歯は裂肉歯として知られている。

 霊長類のような雑食性の動物(例.チンパンジー)では臼歯の咬頭はやや平たくなり,茎のような繊維質の多い食物をそしゃくすることができる。

 雑食性動物から進化した草食性の動物(例.シカ)では,臼歯上面に高い凸部があり,草をかみくだくことができる。

◆痕跡器官

生物の体内にあって,ほとんど機能していない,退化した痕跡的な器官。人体中には100余りもあると言われている。痕跡器官は系統学上重要な意義を持っている。すなわち痕跡器官を持つ生物はその器官がよく発達して十分な機能を営んでいた生物から由来した証拠となる。例えばクジラの痕跡的な骨盤はクジラが四足動物から由来したことを物語る。

痕跡器官の意義を最初に指摘したのはダーウィンである。彼は『人間の由来』(1871)で,痕跡器官はきわめて変化しやすく変異性に富むが,反面ほとんど生活に関係がないために選択(淘汰)が加わりにくいことを指摘し,ヒトが下等な動物から由来した証拠として,ダーウィン結節(耳の先端のとがりの痕跡)など多くのヒトの痕跡器官をあげている。例えば耳を動かす筋肉,瞬膜,嗅覚,体毛,第三大臼歯,虫垂,尾骨,男性の乳房など。

 

 

 








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