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第3節 細胞間の情報伝達に働くタンパク質

 

A 神経と情報伝達物質

膜輸送タンパク質

神経細胞は情報の伝達と処理に電気現象を用いるが,その際,重要な働きをするのが細胞膜に存在する膜輸送タンパク質である。細胞膜は脂質二重膜が基本となってできており,脂質二重膜は酸素や二酸化炭素などをのぞき,ほとんどの分子を通さない。しかし,膜中にさまざまな膜輸送タンパク質があり,これらの働きにより,特定の分子が膜を横切って運ばれて膜を透過できることになる。

膜輸送タンパク質には2種類のものがある。運搬体タンパク質(carrier protein)とチャネルタンパク質(channel protein)である。運搬体タンパク質は,特定の分子を結合し,一連の構造変化を行うことにより,その分子を膜を横切って運ぶ。その際,ATPのエネルギーを使う場合がある。チャネルタンパク質は膜を貫通する小さな孔を形成する。この孔は開閉することができ,開いた時に,この孔を通って特定のイオンなどが膜を通過する。

 

Na+- K+ポンプ

細胞の内側と外側とでは,イオンの濃度が異なっている。細胞の内側にはカリウムイオン(K+)が外部より1020倍多く,逆にナトリウムイオン(Na+)は内側が少ない。これは膜の運搬体タンパク質であるNa +- K+ポンプがK+を内側に運び入れ,Na+を外へと運んでいるからである。Na+- K+ポンプはNa+- K+ATPアーゼとも呼ばれるのは,このタンパク質が運搬に際してATPを分解するからである。

このATPアーゼは,ATPを分解し,ATPの末端にあるリン酸基を,自分自身のアスパラギン酸残基に転移する。つまり,自己をリン酸化する。次いで,リン酸がはずれる。リン酸化と脱リン酸化にともないタンパク質のコンホメーション変化が起こってイオンが運ばれる。

このような自身のリン酸化を行うポンプはP型輸送ATPアーゼ(P-type transport ATPase)と呼ばれ,Ca2+を運ぶポンプやH+を運ぶポンプもこの仲間である。これらのATPアーゼは10本の膜貫通α-へリックスをもっている。P型輸送ATPアーゼがどのようにイオンを運ぶかが,東大の豊島近らにより最近解明された(2000, 2002)。使った材料は骨格筋の筋小胞体Ca2+ポンプのタンパク質,使った装置は兵庫県にある大型放射光施設SPring-8である。このタンパク質の立体構造をX線結晶解析により調べ,カルシウムを結合した状態(Ca2+を運搬する前の状態)と,カルシウムを運搬し終わった状態(Ca2+は結合していない)を比較したところ,ポンプタンパク質が極微スケール(大きさ14ナノメートル)の手押しポンプのようにしてCa2+を運搬していると想像された。

 

◆イオンチャネル

細胞膜には,刺激がなくてもいつも開いているK+漏洩チャネル(K+ leak channel)が存在する。K+濃度はNa+- K +ポンプの働きにより細胞内が外より高く保たれているため,K+は濃度勾配に従い,漏洩チャネルを通って外へと出て行く。K+が出れば,それだけ細胞内はマイナスの電位になるから,そのマイナスが,プラスの陽イオンであるK+がさらに出て行くのをひきとめる。結局,K+の濃度勾配によりK+が出ていこうとする力と,細胞内のマイナス電位によるK +を内部に引き留める力とが釣り合ったところで,K+の移動は見かけ上止まる。こうなった時の電位がK+による平衡電位であり,静止電位は,ほぼK+の平衡電位に等しい。

K+チャネルがどのようにしてK+だけ透過させるのかは,細菌のK+チャネルタンパク質のX線結晶解析から明らかになった(Doyle et al, 1998)。チャネルは膜を貫通する全く同じサブユニット4本からできている。4本が四方の壁をつくり,真ん中に小孔があいてチャネルを形成している。4本は細胞の外から内に向かって孔が狭くなるような傾きをもって配置されており,この配置が変わることにより,孔が狭まったり広がったりでき,それによりチャネルの開閉がおこる。

Na+K+とを比べると,もつ電荷は同じで,大きさはNa+の方が小さい。そのため,K+の通る径の孔ならNa +も通過できそうなものだが,K+チャネルはK+だけしか通さない。K+だけを選択的に通す仕組みは,各サブユニットから突き出たループが構成する,孔の狭い部分にある。ループ上にはカルボニル基が存在している。このループのつくる隙間は非常に狭く,小さなイオンであるK+であっても,水和水を失わなければ通過できない。水を失う際にカルボニル基の酸素原子との相互作用が必要であり,Na+はそれができないためK+チャネルを通ることができない。

このようにチャネルは,開いたり閉じたりするゲート(gate)の部分と,どのイオンを通すかという選択フィルター(selectivity filter)の部分をもっている。

 

◆アセチルコリン受容体

イオンチャネルのゲートは閉状態と開状態をとる。ほとんどのゲートは,普段は閉じており,刺激に応答して開く。どの刺激に応答するかにより,電位作動性チャネル(膜電位の変化に応答する),機械刺激作動性チャネル(変形などの機械的刺激に応答する),リガンド作動性チャネル(特定の分子が結合すると応答する)などに分けられている(リガンドとは,タンパク質に特異的に結合する低分子物質のこと)

神経軸索上を活動電位が伝わる際の主役は電位作動性Na+チャネルである。内耳の有毛細胞は機械刺激作動性チャネルをもっている。脊つい動物骨格筋の神経筋接合部では,神経末端からアセチルコリンが放出され,それがシナプス間隙を横切って,筋細胞の後シナプス膜にあるアセチルコリン受容体に結合する。アセチルコリン受容体はアセチルコリンをリガンドとするリガンド作動性チャネルである。

脊つい動物骨格筋のアセチルコリン受容体は,5本の膜貫通サブユニットが輪状に並んで真ん中の孔をとりまいている構造をしている。5本のサブユニットのうち,2本は同一のものであり,これにアセチルコリン結合部位が1個ずつある。計2つあるアセチルコリン結合部位の両方にアセチルコリンが結合するとゲートが開く。このチャネルはNa+チャネルやK+チャネルと違い,一種類のイオンのみを通すのではなく,Na+K+も,そして少量のCa2+も通す。そのため,このチャネルが開いても,それだけでは活動電位は発生しない。このチャネルが開くと脱分極(膜電位が0に近づく)が起こり,それにより,近傍にあるNa+チャネルが開くことによって活動電位が発生する。この活動電位が筋細胞の膜を伝わっていき,収縮を引き起こす信号となる。

受容体に結合したアセチルコリンはたちどころに分解されてしまい,ゲートは1ミリ秒以内に閉じる。もし分解されずに結合したままだと,いったん開いたチャネルは約20ミリ秒後には閉じ,チャネルは不活性化される。

このようなチャネルと一体化している受容体は,チャネル連結型受容体と呼ばれる。骨格筋のアセチルコリン受容体はニコチン性アセチルコリン受容体であるが,同じアセチルコリンと結合する受容体であっても,ムスカリン性アセチルコリン受容体はGタンパク質連結型受容体である。

同一の神経伝達物質に対して,複数の種類の受容体があることが多い。アセチルコリンを神経伝達物質として使用するシナプスでは,受容体に大別してニコチン性アセチルコリン受容体とムスカリン性アセチルコリン受容体に分けられる。アセチルコリンの代わりにニコチンを作用させても同様な反応が得られるのがニコチン性受容体,ムスカリン(キノコからとれたアルカロイド)を作用させて同様な反応が得られるのがムスカリン性受容体である。ムスカリン性アセチルコリン受容体には何種類かあるが,どれもGタンパク質と共役している。

アセチルコリンがカエルの心筋のムスカリン性アセチルコリン受容体に結合すると,静止膜電位がゆっくりと過分極し(よりマイナスの電位になる),それが数秒続く。過分極はK+チャネルが開くことによる。受容体へのリガンドの結合とK+チャネルの開閉との間に,膜のGタンパク質が介在している。Gタンパク質(三量体GTP結合タンパク質)GαGβGγという3つのサブユニットからなる三量体であり,GαGTPが結合する。三つのサブユニットが一体化していてGαGDPが結合した状態だと,Gタンパク質は不活発である。受容体にアセチルコリンが結合すると,Gαに結合しているGDPGTPに置換され,三量体がGαGβγ複合体とに分かれて活性化する。活性化したGαGβγK+チャネルに結合すると,チャネルが開く。

心筋の場合は活性化されたGαがチャネルに直接働くが,Gαがアデニル酸環化酵素やホスホリパーゼCの活性に影響して,細胞内の環状AMPCa2+濃度の変化を起こし,これを介して効果を表す場合も多い。

 

B.ホルモンと情報伝達物質

ホルモンの標的細胞には,そのホルモンの受容体が存在する。受容体は細胞表面に存在するものが多く,そのような受容体のほとんどは膜貫通型タンパク質である。受容体が細胞の中に存在する場合もある。この場合には,ホルモンが細胞膜を通過する必要があるため,小さくて疎水性のホルモンの場合に限られる。

 

◆核内受容体

受容体が細胞の中に存在する代表的なホルモンはステロイドホルモン(コルチゾール・エストラジオール・テストステロン・昆虫のエクジソンなど)やチロキシンである。これらは疎水性のため,血液中では運搬体タンパク質に結合して運ばれ,運搬体からはずれて標的細胞の細胞膜を拡散により通過し,細胞内の受容体と結合する。受容体はDNAに結合して,ある特定の遺伝子の転写を調節する。

受容体はみな似た構造をもっており,核内受容体スーパーファミリーとしてまとめられている。これらはすべてDNAに結合して効果を表すが,コルチゾール受容体のように細胞質中に存在しており,リガンドであるコルチゾールと結合してから核に移動するものもあれば,チロキシン受容体のように,最初から核内のDNAに結合していて,リガンドが結合すると立体構造が変わって効果をもつものもある。

これら核内受容体に結合する疎水性ホルモンは,水溶性ホルモンと異なり,効果の持続時間が長いという特徴がある。通常のホルモン(水溶性ホルモン)の場合,血中に分泌されてすぐ(数分以内)に除去されるが,ステロイドホルモンでは数時間,チロキシンの場合は数日間も血中に存在して持続的な効果をおよぼし続ける。

 

◆細胞表面受容体

細胞表面に存在するホルモン受容体の主なものは,Gタンパク連結型受容体と酵素連結型受容体である。

Gタンパク連結型受容体をもつホルモンは多い(アドレナリン,グルカゴン,ガストリン,バソプレシン,副腎皮質刺激ホルモンなど)

酵素連結型受容体は膜貫通タンパク質であり,リガンド結合部が細胞外表面にあり,細胞質基質側には酵素活性をもつ部位をもつか,酵素と直接結合している。インスリン受容体は,「受容体チロシンキナーゼ」に分類される酵素連結型受容体である。この受容体は四量体で,細胞表面にあってインスリンと結合するαユニット2個と,膜を貫通するβユニット2個とから成り立っている。βユニットの細胞内に突き出た部分がチロシンキナーゼ活性をもつ。インスリンが結合すると,二つのチロシンキナーゼドメインが近づき,互いにチロシンをリン酸化してホスホチロシンにするとともに,インスリン受容体基質-1(IRS-1)という特別なタンパク質のチロシンをリン酸化する。こうしてできたホスホチロシンに,SH2ドメインをもつ細胞内シグナルタンパク質(GRB2PI-3キナーゼ,チロシンホスファターゼなど)が結合し,これらのシグナルタンパク質が,その下流にシグナルを伝達する。現在まで明らかになっている伝達経路としては,Ras/MAP kinase経路・PI 3-kinase/Akt経路などがあり,これらを介して多様なインスリンの生理活性が発現されると考えられている。(Aktはインスリンにより活性化されるセリン・スレオニンキナーゼであり,グリコーゲン合成や脂肪分解抑制などのインスリン作用に関与している。)

 

 








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