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第2節 光合成の場

 

A 葉緑体の構造

◆葉緑体

外部形態 色素体の一種である葉緑体は,ふつう直径5μm,厚さ3μmほどの凸レンズ状の粒子で,高等植物では1細胞内に50100個ほどある。しかし,藻類などでは,らせん状(アオミドロ)・板状(ヒザオリモ)・星状(ホシミドロ)・半球体(コンテリクラマゴケ)などで,大きさも100200μmで,1細胞内の数も1個または数個

で,数が少ない。

内部構造 ホウレンソウなどの葉緑体では,外側は厚さ10nmほどの半透性の膜に包まれ,この内側にストロマとよばれる基質があって,この中にグラナという円板状の小粒が4060個ほど入っている。電子顕微鏡によれば,このグラナは直径400600nm,長さ500800nmの円筒形を示し,11つのグラナの中には十数枚の袋状の円板(チラコイド)が層状に重なって見られる。これの表面膜は厚さ57nmほどの薄板でチラコイド膜とよばれている。他方,ストロマの中にもグラナを結合させるチラコイド膜がある。クロロフィルは層状構造を示すチラコイド膜の中に存在する。

 

成分 葉緑体は緑色の粒であるが,その成分は約70%の水と約30%の乾燥物質からなっている。乾燥物質は約60%のタンパク質と30%ほどの脂質からなり,7%ほどのクロロフィルabのほかに,少量のカロテン・キサントフィルなどの色素も含んでいる。

葉緑体はプロプラスチドから成長してできたり,白色体が光を受けて変わったりすることもあるが,多くは葉緑体自身が2つに分裂して自己増殖をする。その上,細胞外に取り出しても光合成を行うことができるので,葉緑体は高い自律性をもつ細胞内の1つの単位と見ることができる。

 

植物に含まれるクロロフィル

植物群

a

b c

d e

ラン藻類

 

 

ミドリムシ・緑藻・輪藻・コケ植物・シダ植物・種子植物

 

ケイ藻類・褐藻類

 

紅藻類

 

不等毛類

 

 

◆チラコイド膜

葉緑体は直径46μm,厚さ23μmの凸レンズ形をしている。葉緑体全体は,外()膜と内()膜の二重の膜に包まれている(図参照)。外膜は電子顕微鏡的にほとんど粒子の観察されない平滑な膜である。内膜は内部の膜構造であるチラコイドに似ており,膜内には多くのタンパク質粒子が観察できる。葉緑体の内部のチラコイドは複雑に入り組んだ膜系で,光化学反応に関与するタンパク質複合体などがこのなかにある。また,チラコイドは何層にも積み重なった部分と,ここから突き出た部分で構成されており,前者をグラナラメラ,後者をストロマラメラとよぶ。

内膜とチラコイドの間の空間はストロマとよばれ,カルビン.ベンソン回路に関係する酵素が存在する。近年の電子顕微鏡の発達と,凍結割断法(フリーズエッチング)の開発,免疫化学的な研究などによって,チラコイドの膜構造のどの部分に,どのような成分が局在するかが明らかにされた。上図に示すように,光化学系I()と光化学系II(),この2つの系をつなぐシトクロム複合体(),そしてATP合成系(ATPアーゼ)()がチラコイドの膜のなかに不均一に分布している。

内膜は葉緑体内でつくられた光合成産物の透過に対して厳密な選択性をもつ。それは膜に含まれたタンパク質粒子が膜を介した物質の輸送に働いているからである。これに対して外膜は物質に対してほとんど選択性を示すことなく通過させる。

 

B 光合成色素

◆緑葉中の色素(同化色素)

高等植物の葉緑体には,クロロフィルやカロテノイドが含まれている。

クロロフィル クロロフィルはタンパク質と結合してチラコイド膜に存在する。前表(植物に含まれるクロロフィル)のように,クロロフィルには,abのほかに,cdeが知られているが,このうちもっとも普遍的なものはクロロフィルaで,細菌と菌類を除くすべての植物に含まれている。クロロフィルbは,ミドリムシ・緑藻とそれ以上に進化した高等植物群以外には含まれていない。クロロフィルabとの緑葉中の含有率は,植物の種類にもよるが,ほぼ(23)1で,aのほうを多量に含んでいる。

クロロフィルは中心にMgを含み,ヘモグロビンのヘムと類似した構造をもっている。このことは,動物と植物の進化的なつながりを暗示する。

クロロフィルa(C55H72O5N4Mg,青緑色)

クロロフィルb(C55H70O6N4Mg,黄緑色)

 

カロテノイド カロテノイドは動植物界に広く存在する色素で,これらの構造から大きく分けると,炭化水素カロテノイドすなわちカロテン類と,酸素を含むカロテノイドすなわちキサントフィル類とで,それぞれには次のようなものが属している。

・カロテン類−α-カロテン,β-カロテン,γ-カロテン,リコピンなど

・キサントフィル類−ルテイン,ゼアキサンチン,ビオラキサンチン,クリプト

キサンチンなど

このうち葉緑体の中に見いだされるのは,カロテン類では主としてβ-カロテンで,それにわずかのα-カロテンを伴い,キサントフィル類ではルテインが主で,ほかに植物の種類によってビオラキサンチンやゼアキサンチンなどを含んでいる。紅藻や褐藻の葉緑体は,紅色のフィコエリトリンや褐色のフコキサンチンなどの色素をもっている。これらの色素は,カロテノイドとともにクロロフィルの働きを助けているので,補助色素(accessory pigment)とよばれる。

 

◆作用スペクトルと吸収スペクトル

メタノールやアセトンに細かく切った緑葉を浸しておくと,葉に含まれている緑色の色素が抽出される。この抽出液にプリズムを通した連続スペクトルをあてると,特定の波長の光をよく吸収する。この吸収の度合いをグラフにしたものが吸収スペクトル曲線である。吸収スペクトル曲線によって,430nm(青紫色)660nm(赤色)付近の光がよく吸収されることがわかる。あまり吸収されなくて反射する光の波長は黄色から緑色のところであり,これが葉の色である。

一方,緑葉に一定の強さの光を照射したときに得られる光合成速度が,波長によってどのように変わるかをグラフにしたものが,作用スペクトル曲線である。クロロフィルabの吸収スペクトルと作用スペクトルの2つの曲線がほぼ一致することから,光エネルギーが葉緑体中のクロロフィルに吸収され,それが化学エネルギーに変えられているとみなすことができる。ただし500600nmあたりの両曲線のずれは,カロテンやキサントフィルなどの補助色素の吸収された光も光合成に使われていることを示している。

補助色素はクロロフィルaの吸収できない波長域の光を吸収し,その光エネルギーをクロロフィルaに効率よく伝達する。このようにして植物は光合成に利用できる光の波長域を拡大している。

 

 








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