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〔実習〕 選択が働く場合の遺伝子頻度の変動

              教科書p.182  配当時間 1時間

 

 

【指導目標】 自然選択の例として特定の遺伝子に選択が働く場合に,遺伝子頻度の変動を計算し,グラフ化する。

【方法】 表計算ソフトの一種Microsoft Excelを利用して,世代ごとのA遺伝子の頻度を計算すると,自動的にグラフ化するので変動のようすが直感的に理解できる。データは添付CDROMの「実験ワークシート」フォルダ中の「遺伝子頻度の変動」ファイルを用いること。

【考え方】

(1) このファイルの最初の表の設定はA遺伝子の頻度p0.5a遺伝子の頻度q

1p,各遺伝子型AAAaaaをもつ個体の表現型の適応度に差がない(どの個体の適応度も100)としてある。ハーディー・ワインベルグの法則がなりたつ条件である。このような設定ではA遺伝子の頻度pは変動せず一定である。

(GRAPH

表示用)

 

Gene A頻度

 

Gene a

頻度

 

AA

適応度

Aa

適応度

aa

適応度

 

 

 

 

 

p

q

W1

W2

W3

pp

2pqW2

qqW3

次世代p

0

0.5

0.5

100

100

100

25

50

25

0.5

1

0.5

0.5

100

100

100

25

50

25

0.5

 

(2) 灰色の項目(表計算ソフトではセルという)に異なる値を入力し,出力表示された遺伝子の頻度の変動やグラフの結果を記録していく。

【結果の見方】

(1) 遺伝子頻度p0.5で,aaの適応度W3が低い場合

 このように劣性ホモ接合体に淘汰が働く場合でも,ヘテロ接合体に劣性遺伝子が隠されるため,劣性遺伝子の頻度はある程度までは減少するが,少なくなればなるほどその頻度を減らすには時間がかかる。断種や優性政策に十分な効果がないことの証明にもなっている。

 クローの名著『遺伝学概説』(培風館)によれば,劣性ホモ接合体に完全に淘汰が働く場合には,n世代で劣性ホモ接合体の頻度q2は, である。ここでq0は劣性遺伝子の最初の頻度。           

 

(2) ヘテロ接合体の適応度が低い場合

 ヘテロ接合体の適応度が低い例として,母親−胎児液型不適合があげられる。胎児がRh不適合のために溶性疾患を起こすとき,胎児は必ずヘテロ接合体である。このような状況では,どの集団もはじめに頻度の高かった方のRh対立遺伝子についてホモ接合になる傾向がある。Rh遺伝子は東洋人でもアメリカインディアンでもオーストラリア原住民でもほとんど失われかけている。西ヨーロッパに由来する集団では0.4である。理論的には頻度の低い方の遺伝子が失われるはずなのに,RhRhが共存する事実をどのように説明したらよいだろうか。もっとも妥当な説明は,ヨーロッパ人の集団は雑種起源と考えることである。過去に東洋から西洋への移住があったことが知られている。これによってRh遺伝子がもち込まれたのであろう。もし,もとのヨーロッパ居住民がRhであったなら,遺伝子共存の起源を説明することができるだろう。

(3) ヘテロ接合体の適応度が高い場合

 鎌状赤球症の異常ヘモグロビンSはマラリア病原虫が赤球内で生存するのに不利な環境を与える。マラリア,とくに致死的な悪性マラリアが風土病として発生する地域では正常なA型ヘモグロビンだけをもった個体は不利である。鎌状赤球のホモ接合対も悪性貧である。ヘテロ接合体は悪性貧にもならないし,マラリアにもかかりにくい。

 マラリアは重大な病気であるため,進化に大きな影響を与えた。鎌状赤球症と同様の分布を示す遺伝子がほかにもある。G6PD欠損を起こすX染色体上の劣性遺伝子や別種の貧を起こすサラセミアの遺伝子などである。

 U.S.A.はマラリアの流行地域ではないので,鎌状赤球症のヘテロ接合体に適応度の有利さはない。

【発展的な考察】

(1) 適応度が頻度依存選択する場合

 この実験の設定は適応度が接合体の頻度に無関係に一定である。しかし,実際には接合体の適応度は頻度に依存して変化する可能性がある。例えば,劣性ホモ接合体が頻度が小さくなることによって,珍しい個体が選抜されるという性質をもつ集団の場合には適応度が上がることが考えられる。キイロショウジョウバエでは稀な雄が雌に選り好みされるというrare male effectが知られているので,前記のような事例は決して絵空事ではない。

(2) 遺伝的浮動の効果

 集団のサイズが小さい場合は,例えば,配偶相手を得られるかどうかに関して,偶然の要素が大きくなる。適応度に差がない個体でも運が悪くて,子孫を残せない可能性がある。このような偶然の効果を考慮したときの,遺伝子頻度の変動を遺伝的浮動とよぶ。遺伝的浮動をする場合の変動は確率過程として計算することができる。

 例えば,N頭の2倍体生物のつくる配偶子を2Nとして,優性遺伝子Aの割合が0.6だとした場合,コンピュータに01.0の範囲で乱数を発生させ,その乱数がi番目に0.6以下の数字を出したときだけその配偶子が残り,それ以外では消失するものとする。これを1番目から2N番目の配偶子まで記録する。そして,次世代のA遺伝子の頻度を求める計算をくり返して行うと,Nが小さいほど遺伝子頻度が浮動しやすいことが一目瞭然でわかるだろう。

 このようなプログラムを,表計算ソフトに慣れた人ならば,マクロを利用して組むことができるだろう。

 遺伝的浮動のプログラムと前述の適応度と組み合わせたり,さらにA遺伝子が一定の比率でa遺伝子に突然変異を起こす比率を組み合わせて,計算をしたり,グラフをかかせたりすることも,コンピュータの表計算ソフト上のプログラムでできるはずである。

【参考文献】 『遺伝学概説』 クロー 培風館,『集団遺伝学入門』 ハートル 培風館

 

 










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