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〔実験11〕 コアセルベートの形成

              教科書p.143  配当時間 1時間

 

 

【指導目標】 コアセルベートを形成し,細胞との類似点と相違点を考察する。

【準備】 材料 2%アラビアゴム水溶液,2.5%ゼラチン水溶液,50%グリセリン水溶液

 器具 pH

 薬品 0.2%塩酸

【準備上の留意点】 ゼラチンはタンパク質の一種であるが,アラビアゴムは生物起源ではないので,生物の起源を考察させる実験としては適当ではないという批判がある。オパーリンが『生命の起原』(1924)で例示しているコアセルベートの材料はゼラチンと卵白レチシンとか,ゼラチンとプロタミンなどいろいろあるので,オパーリンのコアセルベート説をアラビアゴムという素材の点で否定しようという論旨は見当外れである。ここで使用している素材は学校で簡便に入手できて安価で,かつコアセルベート形成の条件がゆるやかで成功率が高いために選ばれているのである。

 ただし,ゼラチンは実験直前につくること。温かい状態でないと凝固してしまい,うまくコアセルベートが形成されない。

【方法上の留意点】 高分子化合物はコロイド粒子となる。コアセルベートはコロイド粒子に富む流動性の層と,コロイドを含まない液相に分かれた状態で,液滴の集塊である。コアセルベートが生ずる条件は,コロイド粒子に近い水分子を強く引きつけ,離れた水分子を引きつける力が弱いほどよい。コロイド粒子は正または負に帯電しているので,溶液のpHによってその正負の電荷の数が変わる。あるpHのもとでは正負の電荷が等しくなって,コロイド粒子全体としては電荷が失われる。このときのpHの値を等電点とよぶ。等電点より高いpHでは粒子は負に帯電し,低いと正に帯電する。

 ゼラチンの等電点は4.8付近であり,アラビアゴムの等電点は1.5付近である。したがってpH1.54.8の間にあればゼラチンは正に,アラビアゴムは負に帯電する。両者が会合してコアセルベートがつくられる。反対の荷電をもつコロイドの混合でできるコアセルベートは複合コアセルベートと分類される。pH3.64.0あたりが適当。アラビアゴムとメチレンブルーのコアセルベートでは,アラビアゴムが負に,メチレンブルーが正に帯電する。

 生じたコアセルベートは界面が形成されているし,外界の物質を取り入れて,液滴内部でのさまざまな化学反応も可能である。また,成長・融合・分裂を起こす。これらは細胞と類似した点である。

【発展】

(1) オパーリンの『生命の起原』より(オパーリンの『生命の起原』1924より引用[山田坂仁訳,河出書房版1955]をわずかに現代用語に修正)

 親水性コロイドには凝結以外にもう1つの分離現象が知られていた。この現象は過去数年に渡ってド・ジョンが注意深く研究した。彼はこの現象を通常の凝結すなわちコロイド粒子の沈殿を指すコアギュレーション(現代の化学では,疎水性コロイドで凝析 coagulation,親水性コロイドで塩析salting-outとしている)と区別してコアセルベーションとよんだ。またコロイドに富む流動性の層をコアセルべートとよび,非コロイド状溶液を平衡液とよんだ。多くの場合,このコアセルべートはコアギュレートとは違って液状の集塊,液滴をなすものである。コアセルべートにおいても平衡液においても溶媒は水であるが,しかしコアセルべートの小滴は明瞭に判別できる表面によって周囲の溶媒から区画されている。コアセルべートは相互に融合するが,平衡液とは決して混合しない。この現象は原形質塊が植物細胞からしぼり出されるときに観察される現象に酷似している。……コアセルべートの実験室での形成例とその形成理論を略す……地球の最初の水溶液中に現れた有機物質は,炭化水素の酸素と窒素誘導体に付与された種々の化学的潜勢力のおかげで,ある1つの決まった方向にのみ化学変化を起こす必要はなかった。前の章で述べたような化学反応に従うと,地球の原始水圏には単に1個の物質が生成したのではなく,原始タンパク質,脂質,炭水化物,親水性コロイド等,各種の高分子化合物の複雑な混合体が生成したのであった。いいかえると,地球の原始水圏には複合コアセルベートの形成が不可欠であった。おそらく複合コアセルベートの形成はきわめて簡単な条件で足り,単に2個あるいはそれ以上の高分子化合物の混合を必要とするにすぎないからである。地球の原始水圏にこのような混合体が存在したことは当然許容せねばならないし,また知る限り,我々は地球の原始的海洋におけるコアセルべート形成の可能性を拒否する理由をもたない。地球の原始水圏においてこれら有機物の濃度が非常に低かったということはコアセルベート形成の障害にはなりえない。おそらく,コアセルベーションは非常に希薄な溶液の中においても起こるからである。……

(2) トラウベの人工細胞

 モーリッツ・トラウベMoritz Traube(18261894)はドイツの生理学者で筋活動における化学反応理論を提案した。トラウベは酸素が血液から血管壁を通して筋繊維に入り,そこで酸化が行われると信じていた。

 また,発酵が生物体内の反応であると主張するパスツールに対して,1858年に「発酵は必ずしも生命活動が不可欠というわけではなく,(生物体から抽出できた)無機的酵素による触媒反応である」という考えを提出した。この見解は正しい。残念ながら彼は発酵にかかわる細胞成分の単離を試みなかった。

 ダーウィンに宛てた書簡「物理化学的用語での細胞成長に関する観点と細胞膜形成を説明する処理」(1867)も残されている。大きな分子やイオンは透過できず小さな分子が透過できる人工的な細胞膜の「原子の」理論を提出したのはトラウベであった。

 硫酸銅(II)とヘキサシアノ鉄(IV)酸カリウム(フェロシアン化カリ)の化学反応式は次のようである。

    2CuSO4 K4Fe(CN)6   2K2SO4 Cu2Fe(CN)6

 生じたヘキサシアノ鉄(IV)酸銅(フェロシアン化銅)の膜は水は通すが,銅イオンや硫酸イオンは通さない半透膜である。硫酸銅溶液濃度が低いと反応が進みにくく,できる膜も粗雑である。一方,硫酸銅溶液濃度が高いと膜の内外の浸透圧差が小さいため,人工細胞の吸水が悪く成長が悪くなる。

 

 










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