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〔実験7〕 ニンジンの組織培養

              教科書p.9495  配当時間 13時間

 

 

【指導目標】 バイオテクノロジーの分野で広く応用されている組織培養を体験してみよう。この技術には,無菌操作のための設備が必要だが,完全な設備がなくても工夫次第で,かなりの成功を収めることができる。この実験は長期にわたる継続実験となるので,バイオテクノロジーについての興味を喚起したり,無菌操作の意味を考えさせたりすることにも有効であろう。

【準備】 材料 ニンジン,バーミキュライト

 器具 ピンセット,コルクボーラー,メス,ペトリ皿,ピペット,試験管,三角フラスコ

 薬品 寒天,MS培地,2,4D,スクロース,70%エタノ−ル,漂白剤

【準備上の留意点】 

(1) 水1lを加熱しておいて,MS(Murasige-Skoog)培地4.8g,スクロース30g2,4D(ジクロロフェノキシ酢酸)1mgを加え,さらに寒天10gを溶かす。乾燥しやすい場所に保管する場合は,寒天を8g(0.8%寒天培地)にしてやわらかく固めておくとよい。ただし,少し古くなった寒天は,0.8%では固まらなくなるので,その場合は寒天はできるだけ新しいものを使用する。培地はとくにpHの調節は行わなくてよいが,必要ならば1Nの塩酸や水酸化ナトリウム水溶液でpH5.8にする。

(2) 培地の調整のとき,2,4Dは水に溶けないので100mg2,4Dをエタノールまたは1Nの水酸化ナトリウム水溶液に溶かした後,水を加え100mlにした1mg/mlの原液をつくり1mlを使用する。2,4D(ジクロロフェノキシ酢酸)は天然のオーキシンであるIAA(インドール酢酸)と働きと構造が似ている。また,2,4DIAAより熱に強いので,加熱して寒天を溶かす際にも安心できる。

(3) 培地を分注した試験管のふたをするアルミホイルは密閉しないで,高圧蒸気滅菌を行う。23日して培地の表面の水分がなくなってから使用する。

(4) 使用するピンセットやメスは1つずつアルミホイルに包み,缶に入れて乾熱滅菌しておくと保管が楽である。

(5) クリーンベンチや無菌箱がない場合は,オープンスペースで実施してもよいが,箱を利用して簡易無菌箱をつくる方法もある。段ボール箱のふたを折り曲げ,内側にビニルシートなどを張り,入り口にも透明なビニルシートを下げる簡単なものでも,クリーンベンチ風になる。ただし,箱の内側とビニルシートは,実験直前に70%エタノールを霧吹きでスプレーして消毒しておかなければ無菌箱の意味がないことはいうまでもない。また,箱の中でバーナーやアルコールランプを使用する場合は,それなりの補強や火に強い材質が求められるので危険のないように作製する。

 

【方法上の留意点】

(1) ニンジンは厚さ2cmくらいに輪切りにする。さらし粉溶液(5)の代わりに,家庭用塩素系漂白剤を4倍に希釈した液を使用したり,次亜塩素酸ナトリウム(アンチホルミンという)液を0.51%にうすめて(原液を100200倍に希釈して)使用してもよい。ニンジンの表面が白くなるまで長時間つけすぎないようにする。

(2) 無菌操作は,机上でオープンスペースで行ってもかなりの確率でうまくいく。その場合は窓を閉め,立ち歩いたりしゃべったりしない。70%エタノールを含ませた綿で机上をふく。できるだけ滅菌したペトリ皿の中で作業を進めるなどの配慮が必要である。さらにガスバーナーやアルコールランプで,ときどき火炎滅菌しながら行うとよい。

(3) 25℃の培養条件で,10日過ぎくらいからカルスが形成されはじめ,40日後には不定胚誘導用培地(最初のカルス誘導用培地から2,4Dを除いたもの)に植えかえが可能になる。カルスはあまり大きく成長させない方が,分化の成功率がよい。大きくなりすぎたカルスは23分割して,植えかえる。また,カルスを逆さ向きにして植え継ぐと根と茎が逆さに分化してくるので注意する。

 

(4) 不定胚誘導用培地に植え継いだカルスは,25℃,1500ルクス16時間照明で,さらに1か月培養すると,緑色になり多数の不定胚が分化し,幼植物体に育っていく。試験管からカルスの固まりごと蒸留水を入れたペトリ皿に取り出し,少しずつカルスをほぐして幼植物体を傷つけないように1本ずつ取り出す。幼植物体は,バーミキュライトを入れたフラワーポットに数本ずつ仮植えする。乾燥を避けるため,水を張ったバットに浸し,フィルムでおおう(透明なコップをかぶせてもよい)

(5) フラワーポットに植えた幼植物は,湿潤に管理し,本葉が12枚生じたら,おおいを取り,徐々に外気に慣らした上で,ふつうの養土に植える。

 

【考察】

(1) カルスは未分化で不定形な細胞の集まりである。カルスとはもともと植物体に傷がついたとき,傷の周辺に生ずる癒傷組織をさしていた。実験ではニンジンの形成層をねらって打ち抜いて培養しているので,未分化な細胞の塊が生じやすい条件になっている。

(2) カルスは未分化な細胞塊で,例えば表皮のように外部から植物体を守るような組織に分化していない。また,培地はカビや細菌類には格好の生育環境を与えることになる。これらの微生物から,無防備な細胞塊を守るために無菌状態が必要である。

 

 










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