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〔実験1〕 カタラーゼの働きと条件

教科書p.17  配当時間 1時間

 

【指導目標】 カタラーゼによる過酸化水素(H2O2)の分解反応について,発生する酸素量を測定し,生体触媒としての酵素の性質を調べる。また,無機触媒である酸化マンガン(W)を用いて同様の実験を行い,酵素との働きの違いを比較する。

【準備】 材料 酵素液(ブタなどの肝臓をすりつぶし,水で200倍に希釈したもの)

 器具 試験管,試験管立て,ピンセット,駒込ピペット,線香,マッチ

 薬品 酸化マンガン(W)(粒状)3%過酸化水素水,10%塩酸,10%水酸化ナトリウム溶液

【準備上の留意点】

(1) 酵素液の調整では,肝臓片を乳鉢と乳棒を使ってよくすりつぶすことが大切である。すりつぶす前に包丁でみじん切りにしておくとよい。また,小型のミキサーがあれば,それを用いると簡単である。よくすりつぶした後に,ガーゼでろ過して組織片を取り除く。ろ液を水で200倍に希釈して酵素液とする。酵素液は冷蔵庫に保存すればしばらくは酵素活性は失われないが,つくり置きはできるだけ避けたい。

(2) 酸化マンガン(W)は,粉状のものは扱いにくく,小さな粒状のものを使った方がよい。

(3) 3%過酸化水素水は,市販の30%過酸化水素水を10倍に希釈する。過酸化水素の分解は室温でもわずかに進むので,冷暗所に保存し,実験に用いる少し前に実験室に移して室温に戻す。

(4) 酵素液の代わりに,肝臓片や生の植物体(ダイコン,ジャガイモ,タマネギなど)の組織片を用いる方法もある。この方法では肝臓片を用いるのが一般的である。肝臓片は,実験に使用する大きさの小片に小分けにしておき,1.5mlコニカルチューブに入れて冷蔵または冷凍保存すると,授業での扱いが簡単でよい。実験に用いる少し前に実験室に移して室温に戻す。生の植物体の組織片はカタラーゼの酵素活性がやや低いが手軽に使用できる。

【方法上の留意点】

(1) この実験では,酸素発生量を定性的に観察している。酸化マンガン(W)とカタラーゼのそれぞれについて,個別に,酸素発生量の程度を判断させる。酸化マンガン(W)とカタラーゼの活性の比較は,この実験ではできない。

(2) 気泡の発生量は,酸化マンガン(W)からは非常に多量であるので,生徒はカタラーゼより酸化マンガン(W)の方が触媒作用が強いと判断する場合がある。肝臓片に含まれるカタラーゼ分子の絶対量は不明であるが,肝臓片の表面にあって触媒作用にかかわるカタラーゼ分子は微量であることを考えさせるとよい。すなわち,原形質の成分のほとんどが水で,その中の溶質分子の1つにカタラーゼがあるに過ぎないことを考えさせる。

(3) 過酸化水素は,アルカリ性で分解しやすくなるから,試験管Fで少しずつ気泡が発生する場合がある。このようなアルカリによる分解がある場合には,過酸化水素を加える前の状況(すでに気泡が生じているか,その程度はどうか)を,事前に観察させておく。過酸化水素添加の前後を比較させると定性的な観察ができる。

(4) 駒込ピペットは,酵素液用・塩酸用・水酸化ナトリウム用の3種類を用意する。この場合,酵素液のカタラーゼ活性は高いので,駒込ピペットをきちんと使い分けることが重要になる。

(5) 試験管Bと試験管Dでは,1005分間の加熱後,試験管ごと水道水で冷やすか,そのまま放置するなどして,ほぼ室温に戻してから,過酸化水素を添加するように指導する。1005分間の加熱は触媒への熱の影響をみるためであり,反応時の温度条件は,他の試験管と同じにする。

【結果】

(Bの観察例)

 

 

(Cの観察例)

 試験管Aと試験管Cともに,線香の炎が大きくなり(助燃性),気泡が酸素であることが確かめられる。触媒作用が終了した試験管に,新たに基質を加えてやると,再び気泡状の酸素が発生する。

【考察】

 試験管Aと試験管Cより,生体触媒である酵素(カタラーゼ)と酸化マンガン(W)は,過酸化水素の分解を同様に促進することがわかる。しかし,両者の触媒作用は,反応条件の違いによって異なっている。試験管Bと試験管Dより,酵素は熱により失活するが,無機触媒の活性は変化しないこと,試験管Eと試験管G,試験管Fと試験管Hより,酵素の活性は酸やアルカリなどの影響を受けるが,無機触媒はそのような影響を受けないといえる。

 酵素の主成分はタンパク質であり,酵素の種類ごとに特定の立体構造をもち,そのため特定の基質とだけ結合して酵素反応が進む(基質特異性)。タンパク質の立体構造は高熱や酸・アルカリによって壊れる。これをタンパク質の変性とよぶ。変性により立体構造が変化したタンパク質は基質と結合できなくなり,酵素としての働きを失うことになる。これを酵素の失活という。

 触媒作用が終了した試験管に新たな基質を加えると,再び気泡状の酸素が発生した。これは,触媒自身は反応の前後で変化しないためである。

【発展】

 酵素カタラーゼの最適pHは中性付近である。多くの酵素の最適pHは中性付近であるが,タンパク質分解酵素であるペプシン(最適pHは約2。胃液に含まれる。)やある種のプロテアーゼ(最適pH910付近。枯草菌などから発見され,洗剤などに配合されている。),また,最適温度では,耐熱性DNAポリメラーゼ(70℃付近でも熱変性しない。高温菌などで発見されている。)など,特殊な例もある。

 










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