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節 調査研究の具体例

植物群落と人による踏みつけの強さ

教科書p.282 288

 

 

この節では,生徒たちが試行錯誤しながら,課題研究のテーマを決めて,研究を進めていく過程がわかるように記述したつもりであるが,生徒たちが読むだけで理解できるだろうか。一緒に読み進めながら,先生方から補足説明をしてやって理解を助けてほしい。その際に参考になると思われる事項を述べておきたい。

 

◆課題の選定

調査研究を実施する際の問題点の1つは,どこを調査場所とするかということがある。その点でもっとも実施しやすいのが,学校内であると思われる。校内ではグラウンドや中庭の周辺にいくらかの植物が生育しているものである。課題研究のテーマを植物調査に絞るのなら,調査前の1〜2か月は除草を控えておく方がよい。植物群落の調査法としては,次の2つの方法があり,調査の目的に応じてそれぞれを使い分けるとよい。

(1) 方形枠を調査場所にランダムに配置する方法:ほぼ均質な環境をもつ場所の植物群落を調査し,いくつかの場所を比較したり,時間を追って調査して比較する。

(2) 方形枠を1本の巻尺にそって設置する帯状調査法:環境条件が連続的に変化する場所で,環境条件の変化と植物の種類変化との関係を調べる。課題研究の際には環境との関連を探究的に扱える点で,⑵の帯状調査法の方がすぐれている。発展として,班によって,例えば,次のような環境条件が連続的に変化する場所を調査して比較するのもよい。

@ 校舎の北側で,建物と直交するように方形枠を設定することで,1日の日照時間が連続的に変わる場合の植物群落の変化を調査する。

A 池や河川の周辺で,土壌の含水率が連続的に変化するように方形枠を設定することで,植物と水分の関係を調査する。

 

◆仮説の設定と予備調査

この場合は踏みつけの強さと植物の種類や生育との関係を調べることになる。フェンスの近くほど草丈の高い植物が多く,あまり踏みつけられていないことはわかるので,この点に注目して仮説を設定するとよい。調査方法については,教科書本文でも示したように,予備調査を踏まえて帯状調査法を採用することにする。このように頭の中だけで調査法を考えるのではなく,必ず現地に出かけて予備調査をすることが重要である。植物群落の変化とともに,環境条件として踏みつけの程度を定量的に表すことが必要であるが,これはなかなか難しい。土壌の硬さは「土壌硬度計」で調べることができるが,備品としてもたない学校も多いと考えられるので,別の簡便法を工夫して土壌の硬さを調べるようにするとよい。例えば,次のような方法が考えられる。生徒たちには少しヒントを与えて考えさせるとよい。

@ 重りをつけた鉄製のくいを一定の高さから落下させて刺さり具合(地下何cmまでか)を調べる。

A 同様に,大工道具のきりを用いてもよい。

B ボールを落下させて,はずみ具合を調べる方法も考えられる。

C 移植ごてや木切れなどで土をつついたり,掘ったりして手応えをみる。

D 半分に切った空き缶で一定容積の土壌を採取して乾燥させ,土壌密度(=乾燥重量÷土壌容積)を計算する。密度が大きいほどよく詰まっている。

 

◆生育形

植物の生育形は,広い意味での生活形の1つであり,植物の生育の形(とくに地上部の外部形態や構造)から植物を類型化したものである。生活形としては,ラウンケルが提唱した休眠形がよく知られているが,それら以外にも,種子や果実の散布様式を分類した散布形(風散布・動物散布・重力散布など)や,地下の器官(根や地下茎)の形態を類型化した根茎形などがある。

生育形をいかに分類するかについては,さまざまな考え方があるが,古くにはシュトレッカー(1914)が人工牧野を造成するときに,さまざまな生育形の牧草を適宜組み合わせて栽培すべきことを論じた際に提唱したものがある。これは,芝生状・そう()生状・ほふく(匍匐)状,および草丈について高茎草本・低茎草本などに分類したものである。

その後も草地診断の手段として,牧野の荒廃状態や過放牧か否かを判断するために,ある地域の植物の生育形の組成を用いるという方法がいくつか提案されている。植物がその生育地の環境に何らかの形で適応した形態を示していることから考えると,適切に分類された生育形の組成から,その地域の環境を知ることができるのは当然のことであろう。

その後もさまざまな方式が利用されているが,日本ではギミンハム(1951)のものをもとに,沼田(1954)が改良した次のような分類がよく用いられている(下図参照)

@ そう生形(t):株になって地表にむらがるもの。主にイネ科草本。チガヤ等

A 分枝形(b):茎は直立するが,下部で多く枝分れをする。ヤハズソウ等

B 直立形(e):地上部の主軸がはっきりと直立するもの。シロザ等

C ロゼット形(r):地表面に根から出た根生葉が広がるもの。タンポポ等

D 部分ロゼット形(pr):地表面のロゼットと直立する茎の両方をもつもの。ヒメジョオン等

E ほふく形(p):地上を茎がはい,節から根が出るもの。シロツメクサ等

F つる形(l):他物に巻きついて成長するつる性の植物。ヤブガラシ等

このうち,Dについてはオニタビラコのように,開花期に花茎を伸ばす際にもロゼット葉が残っているものをにせロゼット形(ps)と分類して,ヒメジョオンのような最初はロゼット葉だけで花茎が伸びるとロゼット葉が枯れる一時ロゼット形(pr)とを区別することもある。また,沼田は草原ではとげ植物形を区別する方法も提案している。教科書では,前記のうち,D部分ロゼット形は調査時点では茎が直立してしまっているとB直立形との区別が困難なので,その場合はBに含めるものとした。まだ茎が伸びていないときはCロゼット形になる。また,A分枝形はB直立形や@そう()生形とわかりにくいことや量的にも少ないことを考慮して省略した。

 

◆調査結果の整理と考察

 結果については,すべて起点(フェンスや壁側)からの距離を横軸にとったグラフに表して比較するようにした。種類別に被度階級の変化を示すだけだと,出現頻度の低い種が多いときはグラフがかけなくなってしまう。また,踏みつけにともなう環境の変化と植物の種類組成の変化について考察する際には,各種類の植物の形態と関連づけて検討することが重要なので,それぞれの植物の生育形を現地で調べ直してみる方式をとった。極端にいえば,種名を調べなくても最初から生育形別に被度や高さを調べて集計しても,十分に結果の考察(仮説の検証)が可能である。

考察の段階では,教科書のスペースの関係もあって示していないが,横軸に土壌硬度をとって,縦軸に群落高や植被率・土壌含水率をとったグラフ(下図参照)を作成してもよい。そうすると,土壌硬度が高くなるほど,群落高や植被率が低下することがはっきりする。また,同様に土壌硬度と各植物種の被度や同じ生育形の種の被度の合計との関係をグラフ化すると,踏みつけと植物の分布との関係が直接考察できる。このあたりは生徒たちにいろいろと工夫させるとよい。

また,調査結果をもとに,次のような共通指数を計算して,それぞれの方形枠に出現する植物の種類組成がどの程度似ているかを比較することで,どの方形枠どうしの環境条件が似ているかを判断することができる。方形枠どうしの植物の種類の類似性を判断する共通指数には多くのものがあるが,ここでは,比較的簡単なゼアレンゼンの共通指数を利用したい。今,ある方形枠Aに出現する種類数をa,別の方形枠に出現した種類数をbとし,A・B両方に共通に出現する種類数をcとすると,下記の式で求められる。この係数は0〜1の間の値をとり,まったく共通種がなければ0,2つの方形枠に出現する種類が完全に同じであれば1となり,係数が大きいほど2つの枠の類似度が高く,環境も似ていると考えられる。

ゼアレンゼンの共通指数:

 

例えば,教科書p.285の調査結果で,方形枠1と3の共通指数を求めようとすれば,枠1の種類数は4種類,枠3の種類数は10種類,両方に共通に出現する種は3種類あ

るので, となる。

 

この方法ですべての方形枠どうしの共通指数を計算して,類似度の高い枠(CC0.55)を抜き出すと,次の表のようになり,当然ながら隣り合う2つの方形枠の間で類似度が高いことがわかる。また,678どうしの類似性と,8910どうしの類似性が高く,踏みつけが強い6〜10の方形枠に出現する植物の種類が互いに似ている傾向が強いことがわかる。

方形枠番号(A)

 

1

2

3

6

6

7

8

8

9

方形枠番号(B)

 

2

3

5

7

8

8

9

10

10

共通指数:CC

 

0.57

0.7

0.67

0.57

0.83

0.67

0.6

0.57

0.57

 

◆仮説の検証と今後の課題

得られた結果を考察した結論として,最初に設定した仮説が正しいといえるかどうかを判断することになる。正しいと判断しその根拠を具体的なデータにもとづいて証明する。その際には,観察事項や調査中に気づいたことで,その仮説を裏づける事実であれば,それも記載しておく。また,類似の研究をした他の人の調査結果についての文献から関連する事項を引用して裏づけとしてもよい。

一方,得られたデータだけではデータ不足で判断できないこともある。そのときは,調査結果からは「仮説のうちのここまでは証明できたが,この部分は正しいとも誤りとも判断できない。それを検討するためには,さらに,このような調査を実施する必要がある」というように今後の課題についても触れるとよい。

また,先に設定した仮説と正反対の調査結果が得られた場合も,すぐに仮説が誤りであると結論づけずに,調査方法やデータの検討過程が科学的に正しくなされていたかを再検討することも必要である。それでも,仮説が間違いであることが立証された場合は,調査結果をよく見直して仮説を修正し,その仮説で調査結果がうまく説明できるかを検討するとよい。しかし,それでもうまくいかないときは,新たに設定した仮説をもとに,それを検証するための別の調査方法を考えて,再調査を行うことになる。

今回の調査研究については,仮説の前半部分は教科書のグラフを見るだけで明らかであるが,後半部分については直接因果関係があるのかどうかの判断が難しい。しかし,踏みつけが多いグラウンド中央部では植物の種類も変わるとともに種類数も少なくなり,草丈や被度などから判断しても生育は悪くなっているのは事実である。ただし仮説については,このような生物の分布と環境との関係を考察する際に陥りやすい誤りに注意する必要がある。つまり,踏みつけ回数の多い起点近くの土壌は硬くて乾燥していて条件が悪いが,そのことが植物の生育が悪い原因なのか,また,そこの植物が毎日踏みつけられているため,物理的に茎が折れたり葉が枯れたりすることが直接的に原因となっているのか,あるいはその両方が原因なのか,それらを判断することは難しい。このように生物の分布に関係する複数の要因が同じような傾向で変化するため,グラフ上で相関関係があれば,つい因果関係もあると判断しがちであるが,慎重に検討する必要がある。

この場合は,今後の課題としてさらに次のように研究を発表させるとよい。

(1) 同様の調査を少しずつ踏みつけの程度が異なるいくつかの箇所で行って,同じ土壌硬度なら同じような植物が生育しているかを確認する。

(2) 校庭の一部に柵をつくって,立ち入り禁止地域を設け,2〜3か月後に再調査して結果を比較する。この実験ではどのような仮説を設定できるだろうか。

(3) 同じような植物群落で,実験的に踏みつけ回数の異なる実験区を設定して植物の移り変わりを比較する。踏みつけ回数を変えるのは難しいが2〜3日に一度定期的に2回ずつ,5回ずつ,10回ずつ,20回ずつ,それぞれ踏みつけるようにする方法が考えられる。また,均一に踏むには,実験区と同じ面積の板を用意し,その上から踏みつけるとよい。

 

◆報告書の作成

課題研究を終えると,研究報告書を作成し,お互いにパネルなどに研究結果のまとめを掲示したり,研究発表会を開いて互いの研究成果を報告しあって,成果を全員のものとするとよい。

研究報告書は,人に伝えるために書くものであり,その研究をしたことのない友人が読んでもわかるように書く必要がある。とりわけ,科学論文では再現性が重要であり,読んだ人が追試をしてその成果を確認できるように,方法についてはていねいに書いておく。調査研究では,地域によって見られる植物の種類が異なるので,生育形のような共通の尺度で結果をまとめておきたい。

(1) 研究テーマ(題目):研究内容を正確に表すよう,かつ簡潔に表現する。

(2) 研究の目的:この研究を始めた動機や,研究当初の疑問点を書く。

(3) 仮説の設定:仮説を生徒たちに自由に設定させるのは難しいが,次のようなヒントを与えたり,いくつかの仮説の例をあげてそれから選択させてもよい。

@ これまで学習してきたことや日常生活での経験も参考にし,

A 情報収集の過程で知ったことや予備調査の結果を踏まえて,

B 最初にもった疑問に対して,筋道立てて結果を推論してみよう。

C その過程で1つのまとまった理論(法則性)を考えて,それを仮説とする。 ここでは,踏みつけの強い場所にはどんなタイプの植物が多いかを考えて,仮説を設定した。このように,仮説は調査によって検証できる具体的なものでないといけない。その意味で,仮説を単独で立てるのではなく,常に最初の疑問がどのような調査で解決できるかを考えながら仮説を設定するようにする必要がある。

(4) 調査の方法:仮説を検証するために操作の順を追って,再調査ができるようにていねいに書く。使用した器具等については図を用いるとわかりやすい。

(5) 調査の実施:調査研究の場合は調査した季節や調査場所が異なると,違った結果が得られることも多いので,調査を実施した際に気づいたことがらで重要と思われる事項は書いておく必要がある。

(6) 調査結果と考察:当然のことだが結果は測定したありのままのデータを記入し,明らかに失敗だと思われる場合もそのまま記録しておくと,失敗の原因を考える際に役立つこともある。得られたデータのうち,基礎的な数字はオリジナルデータとして表などにそのまままとめておく(教科書p.285の表)。後日,再検討する際にはそのデータが要求される。それに対して,そのデータをいろいろと計算したりグラフ化したりして結果を考察し,1つの結論に到達したわけだが,その過程で試行錯誤的に作成した図表はすべて報告書に載せる必要はなく,仮説の検証に直接必要だった図表のみわかりやすくまとめて載せればよい。

(7) 仮説の検証と今後の課題:教科書の報告書例では,仮説を検証すると,前半部は正しいが,後半の部分で土壌が悪化したために,植物の生育が悪くなったとは断言できない。グラフを見る限りでは,正しいと結論づけてしまいがちであるが,毎日踏みつけが続いている場所では,植物の茎は折れたり,葉が破れたりして直接的に植物の生育が抑制されていることも考えられる。それらを確かめるためには,一時的に踏みつけを阻止して,植物の生育状態にどのような変化が生じるかを調べるのも1つの方法である。その場合は,よく似た植生の場所に踏みつけを継続する対照区を設けて比較する必要がある。

(8) 参考文献:研究を実施する過程で参考にした出版物については,報告書の末尾にまとめて記載する。場合によっては,報告書中に引用した文献だけでもよい。これは,過去の研究で解明されていることと,自分の研究で明らかになったこととを区別するためにも必要である。ふつうは,書名・著者名・出版社・出版年などを書く。雑誌中の論文から引用するときは,論文名・雑誌名が必要。また,ここに「謝辞」として,研究の過程で指導を受けたり,お世話になった人の名をあげてお礼の言葉を記すことや,報告書が長文になるときは結果のまとめを簡潔にまとめた「要約」(和文または英文)を入れる場合もある。

 

◆調査研究の具体例の発展

教科書の「調査研究の具体例」では,環境条件が連続的に変化する植物群落での調査法として「帯状調査法(ベルトトランセクト法)」での調査例をあげたが,植物群落の種類によっては,教科書p.212にあるような「方形枠法」が適している場合もある。例えば,水田と畑地の雑草群落のように大きく環境が異なる2つの植物群落を比較しようとする場合は,帯状調査法ではうまくいかず,それぞれの群落にいくつかの方形枠を置き,その調査結果を集計して比較するという「方形枠法」で調査を行う方がよい。

次に,このような調査結果の一例として,春(5月)に耕作前の水田と,その周辺のあぜ道で行った調査をあげておきたい。方形枠法による調査では,例えば耕作前の水田に行き,長さ1mの角材や折尺4本を正方形になるように置いて,1m×1mの方形枠とし,その中の植物の種類と被度段階を調べて記録する。そして,その方形枠を調査する群落内にランダムに10 20個おいて同様の調査を行い,被度の合計と頻度(出現した枠数)を集計することになる(下に水田での結果例を示す)

▼春の水田の植物群落調査結果(方形枠法による) 

No.

植 物 名

1

2

3

4

5

6

7

8

9

10

頻度

被度合計

順位

1

スズメノテッポウ

4

3

3

4

4

4

3

4

4

4

10

37.00

1

2

スズメノカタビラ

1

1

1

3

3

1

2

3

3

2

10

20.00

2

3

レンゲソウ

+

+

1'

+

1'

2

 

1

2

1

9

6.52

3

4

カラスノエンドウ

 

1'

 

1'

+

1

1'

+

 

1

7

2.68

4

5

ヒメジョオン

 

+

 

 

 

 

 

 

 

 

1

0.04

10

6

シロツメクサ

 

1'

 

 

 

 

 

 

 

 

1

0.20

8

7

ハルノノゲシ

 

 

+

 

 

 

 

 

+

 

2

0.08

9

8

トキワハゼ

 

 

 

+

 

1

 

 

 

 

2

1.04

5

9

ハハコグサ

 

 

 

 

+

 

 

 

 

 

1

0.04

10

10

スイバ

 

 

 

 

 

1

 

 

 

 

1

1.00

6

11

オランダミミナグサ

 

 

 

 

 

1

 

 

 

 

1

1.00

6

12

コオニタビラコ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

+

1

0.04

10

 

そして,同様の調査をその水田のあぜ道とか,畑地や空き地・公園などの雑草群落でも行い,両者の結果を集計して,被度合計の多い順番に並べかえて,被度合計の高い優占種がどう違うか(水田ではスズメノテッポウやスズメノカタビラが優占しているが,あぜ道ではカラスエンドウやスギナが多かった)や,出現した植物の被度合計の順位とそれぞれの被度合計の関係をグラフに表して,2つの群落の種類組成の多様性について比較するとよい。この場合に環境条件との関連性を考察するためには,ランダムにおいた方形枠内の土壌条件とか照度などを何か所かで測定して平均値を比較するとよい。

 

 

 

 








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