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第3節 種内関係

 

 

A 群れとその効果

◆群れとその効果

 草食獣は群れて捕食者の接近や攻撃から身を守り,肉食獣の中にも群れて捕食効率

を上げようとするものが少なくない。しかし,一般に,草食獣の群れサイズは非常に

大きくなりやすいのに対し,肉食獣の群れサイズは比較的小さいのはなぜだろうか。

Aに示すように,個体あたりの平均適応度は群れが小さすぎても大きすぎても低く,

平均適応度が最大(Fm)となる群れサイズMが存在すると考えられる。しかし,群れの

メンバーが余計な個体の参加を拒まない限り,この最適群れサイズMは実現しないだ

ろう。なぜならば,単独個体の適応度FsFmよりも低く,単独で行動している個体

が群れの中に入っていこうとするからである。単独個体の利益を考慮すると,この群

れはメンバーの平均適応度が単独個体の適応度とほぼ一致するサイズJまで大きくな

るだろう。これを実現個体群サイズと呼んでいる。一般に,肉食獣では単独個体の適

応度Fsが大きいのに対し,草食獣のFsは小さく,それだけ実現群れサイズは大きく

なってしまうと考えられる。

A 群れサイズと1個体あたり適応度との関係を表す概念図。Mは最適群れサイズ,

Jは実現群れサイズ。

 

B 縄張り

◆縄張り

縄張りは「直接防御あるいは警告を通じた排斥により,個体あるいはグループが排

他的に占有する地域」(ウイルソン,1975)と定義されている。縄張りは,その大きさお

よび何を防衛しているかによってA(隠れ場所,求愛,交尾,造巣,大部分のえさ集め

を行う大きな防衛地域)B(すべての繁殖行動を行い,ある程度のえさをとる大きな

防衛地域)C(巣とそのまわりの小さな防衛地域)D(求愛と交尾のための防衛地

)E(防衛される休息場所と隠れ場所)F(繁殖と無関係に食物を保証する防衛

地域)などに分類されている(ウイルソン,1975)

 かつて縄張りは,えさの食いつくしをふせいで種の個体数を調節するために発達した

といわれたこともあった(Wynne-Edwards1962)。しかし,多くの縄張り行動は上の例

のように,雄が自分の交配相手の雌をできるかぎり多く確保するために発達してきた

ようである。A型縄張りを持つ種では,縄張りを持てなかった個体はえさの少ない場

所で生活せざるをえない。そのとき,それらの個体の死亡率が増せば,縄張りが個体

数抑制の役割を果たしていることになる。しかし,これは縄張りの存在の「結果」で

あって,縄張り制進化の「原因」ではない。縄張り行動の進化の究極要因は,「縄張り

を持った個体の方が縄張りを持とうとしなかった個体よりも多くの子どもを残せたか

ら」ということでなければならない

 とは言え,えさや異性など,子孫を残す上で重要な資源に恵まれた縄張りを認める行

動が,これほど多くの動物に見られるのはやはり不思議な現象である。メイナード・

スミスはその理由をゲーム理論によって説明した。闘争好きをタカ派戦略,闘争嫌い

をハト派戦略,資源を相手が先に得ていた時にはハト派戦略をとり,自分が先に得て

いた時にはタカ派戦略をとるようなやり方をブルジョア戦略とすると,ブルジョア戦

略は進化的に安定な戦略(ESS:evolutionarily stable strategy)として選択され易いという。

縄張り行動とは,まさにブルジョア戦略者の行動である。

 

 順位制とリーダー制

◆順位制

 群れの中の関係を調べると順位があることが多い。メンドリの群れでは,1位の鳥は

他の全個体をつつき,2位の鳥は1位を除くすべてをつつき,最下位の鳥は全然つつか

ないというほぼ直線的な関係が見られる。ネズミや魚の群れでは,最上位の個体だけ

がはっきりしていて,他は皆同等にみえる場合が多い。これを独裁制とよんでいる。

鎌倉市内の森にすむタイワンリスの順位行動が研究され,えさ場での勝敗表(次表)がつ

くられている。(田村他,1988)

 この場合,かなり直線的な順位になっている。とくに,1位の個体は勝率100%で,

最下位の勝率は0%である。そして,雄は雌より,年齢の高いものは低いものより順位

が高い傾向がみれる。雄のえさ場における順位は,配偶行動にもそのままあらわれた。

各雌は異なる日に発情するが,発情した雌のまわりにはたくさんの雄が集まり,順々

に交尾した。この交尾の順番がえさ場での順位と一致していたのである。

 このように,順位の高い個体は,群れの中で一番先にえさを食べたり,優先的に雌

と交尾したりして利益を得ることが期待される。一方,群れの中に順位が確立すると,

低順位の個体は高順位の個体を見ただけで避けたりして,群れ内の闘争の頻度は減る

ことになる。このため,順位制も,縄張り同様「種の繁栄のために進化した」という

誤った考え方がされてきた。しかし高順位を保つにも縄張り同様コストがかかり,各

個体は,自分の力やその置かれた社会的状況に応じて,自分の適応度を高めるべく行

動を決めているはずなのである。なお,ニホンザルの社会に関する最近の研究は「サ

ルはなぜ群れるか」(杉山幸丸,1990,中公新書)が参考となる。

 

 








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