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節 生命の起源と細胞の進化

 

 

A 化学進化

◆自然発生説

無機物から有機物ができ,生命が生まれるという考えは自然発生説と言われる。

古代エジプト人はナイル川の濁水からヘビが生まれ,インドやバビロニアの人々も

汚いゴミ箱からネズミが自然にわいて出ると信じていた。アリストテレスは多くの

昆虫やダニなどはその親から生まれる他に,露・泥・ゴミ・汗などから生まれ,エ

ビやウナギなども汚泥から自然に発生すると考えた。

 レディはハエが自然発生しないという実験を行った(1668)。網をかけなかった

びん内には肉にハエの卵が産みつけられたが,網をかけた方にはハエが産卵できず

ハエは発生しなかった。結果は明らかであった。

 ほぼ同時期に顕微鏡が発明され,微生物が発見されると,多くの人々は微生物は

空気中の「生命力」から自然発生すると考えた。

 

 18世紀にイタリアの科学者スパランツアーニは,煮沸した肉汁を空気から完全に

しゃ断した場合(ガラス管の口を溶かして封じた)には,肉汁は透明なままであるこ

とを実験によって示したが,反対者は長時間の加熱(3045分間)によってフラスコ

内の空気の「生命力」が破壊されてしまったのだと批判した。

 

1860年頃,パリ科学アカデミーはこの問題を解決した者には賞金を与えることに

した。受賞者はパスツールであった。パスツールは白鳥の首形のフラスコを作って,

新鮮な空気は肉汁に触れるが,微生物は入らないような工夫をした。このようなフ

ラスコは1年以上も透明なままだったが,口を折るとすぐに腐敗した。つまり肉汁

の変質によって微生物が発生できなかったわけではなかったのである(1861)。こ

うして自然発年説は明快に否定された。

 

◆地球の形成

太陽のコンピュータモデルから,科学者は約50億年前には太陽系が,ガス(気体)

とダスト(ちり)の渦巻く塊だったという仮説を立てている。数百万年の間に,この

物質のほとんどは内部で崩壊し,太陽を形成した。残りのガスとダストはぼうだい

な円盤となって若い太陽の周囲を囲み,この物質が集合して,地球を含む惑星を形

成したと考えられている。

 地球と同じ年齢と思われる隕石の証拠によれば,私たちの惑星は約46億年前に

生じた。初めは高温の熱球で,若い地球は今日の地球とは異なっていた。小隕石が

表面に衝突し,火山の爆発が惑星を揺るがしていた。溶岩が熱気を噴出し,初期の

大気を形成した。やがて地球の表面の温度は水の沸騰点以下に下がった。大気中の

水滴が集まり,雨となって降った。こうして3836億年前に大洋が形成された。

 地球の最も初期の直接の証拠となるような岩石は残っていない。地球上で最古の

岩石は39億年前のものだけである。

 

◆化学進化

生命の起源について,1924年ロシアの青年科学者オパーリンは原始地球上で非生

物的な有機物の生成が起こり,これらの有機物の発展として生命が発生したと論じ

た小冊子を出版した。オパーリンは宇宙的な観点から,木星には簡単な有機物が存

在していること,これは非生物的に生成したと考えられることなどから生命の起源

を考察した。オパーリンはさらに考えを発展させ,1936年に『生命の起源』,1957

年に『地球上の生命の起源』を出版した。

 彼は生命の発生のために物質進化の4段階が必要であると考えた(1957)

 第1段階:炭化水素および簡単な有機化合物の生成

 第2段階:アミノ酸,ヌクレオチド,炭水化物などのより複雑な有機化合物の生成

3段階:タンパク質様物質,核酸様物質などの高分子物質の生成

4段階:代謝が可能な高分子物質からなる多分子系の生成

 このような化学物質発展の過程を化学物質の進化という意味で化学進化という。

 

◆有機化合物の実験的生成

オパーリンは自分の説を検証する実験を行わなかった。シカゴ大学の大学院生ミ

ラーはユーリーの指導のもとで,ユーリーの計算した原始大気の組成をもとにして,

原始地球のモデルを作り,実験を行った。火花放電は原始大気中で頻繁にみられた

と想定される雷による空中放電の代用である。実験の結果,海洋に当たる水中にグ

リシンやアラニンなどのアミノ酸を初めとし,生物体と関係の深い有機化合物が生

成していた。

 その後,原始大気はユーリーが考えたほど還元的ではないという説を受けて,混

合気体の組成を変えて,実験がくり返された。その結果,タンパク質の構成アミノ

酸のほとんど,核酸塩基,リボース,ピルビン酸など多くの有機酸,炭化水素,各

種の糖,さらに血色素のヘムやポルフィリンまでが合成されている。(以下,主に石

川統「生命の起源を探る」による)

 

 ミラーの実験では,反応の第一段階としてシアン化水素とホルムアルデヒドが合

成される。第二段階でこれら2つからアミノアセトニトリルができ,それがさらに

グリシンに転化することが分かっている。現在ではグリシン以外のアミノ酸や有機

酸もシアン化水素とホルムアルデヒドを経て合成されることが分かっている。

 現存の生物にとってシアン化水素は猛毒であるが,核酸塩基のひとつアデニンは

シアン化水素から簡単に生成する(オローの実験)。ちなみに,アデニンの分子式

C5N5H5はシアン化水素の5量体に相当する。また,アデニンと糖をリン酸溶液中で

混合し,紫外線を照射するとATPが合成される(ポナムペルマの実験)

 

◆生体高分子の出現

簡単な有機物を生成するのに必要だった種々のエネルギーが有機分子の重合の

際には阻害的に作用すると考えられるため,生体高分子の出現を解決するのは最大

の難関である。

 オパーリンの仮説「熱くて,薄いスープ」の中では,重合は起こりそうにない。

重合体は一般に水中では解離して単量体に戻る傾向をもつし,熱はこの過程を促進

するからである。

 ウーズは生命はスープのような海ではなく,非常に早い時期の原始地球を取り巻

いていた熱くて濃密な大気中で生まれたと主張する。フォックスらは火口近くで干

上がった小さな水たまりや,太古の海の熱くて岩だらけの岸などに見られたかもし

れない,熱い乾いた条件下で,アミノ酸の重合が容易に起こることを示した。グル

タミン酸を少し余計に加えたアミノ酸混合物を150200℃に加熱してポリペプチ

(彼らは熱プロテノイドとよんだ)を生成させた。

 赤堀四郎のポリグリシン説はアミノアセトニトリルが重合しあってポリグリシ

ンができてから,アミノ酸残基が置き換わるという説である。反応の一部は実験的

に確認されている。

 

B 細胞の進化

◆原始細胞

オパーリンはコロイド化学を参考にコアセルベート(corecervate,液滴)を細胞の起

源と考えた。コアセルベートはコロイド粒子に富む相が小胞を形成して,粒子に乏

しい相と分離して溶液中に浮遊するものである。膜状のもので包まれ,周囲の環境

と区別される。酵素を使って作ったコアセルベート内では外から与えた有機物が反

応を受け,代謝されるし,小さなコアセルベートが大きなものに吸収される現象も

ある。これは生物が食物を取り込むのに似ている。

 オパーリンが使った材料は生物起源の物質である。この種の研究には非生物起源

の物質を用いるべきだという主張もある。原田肇とフォックスは熱プロテノイドを

材料にして,プロテノイド・ミクロスフェア(ミクロ=微細な,スフェア=球体)

作った。これはコアセルベートより安定で分裂や発芽も観察できた。

 柳川弘志と江上不二夫は海水中の遷移元素が化学進化の過程で触媒として重要

な意味を持ったという仮説の下に,修飾海水(遷移元素濃度を上げ, NaCl濃度を下

げた)中でアミノ酸混合物を105℃,4週間反応させてマリグラヌールという構造体

を作った(マリ=海,グラヌール=粒子)。アミノ酸から一気に構造体ができたこと,

高分子物質の生成が水溶液中で起こったことで注目される。

 

実験11コアセルベートの形成

 

◆細胞の進化に関する仮説−マーグリスらによる共生説−

真核細胞のミトコンドリアや葉緑体は,いずれも大腸菌など原核生物にみられる

環状のDNAをもっている。このため,これらの細胞小器官の現す形質は,核のDNA

とは無関係の遺伝様式(細胞質遺伝)を示す。

 そこで,真核細胞は本来は別個の独立した原核生物が共生してつくられたものだ

という仮説がマーグリスらによって提唱された(1971)

 すなわち,まず,嫌気性のマイコプラズマのような原核生物を宿主として,好気

性細菌が寄生し,両者はその後共生関係をもつようになり,好気性細菌はミトコン

ドリアに変化し,好気性のアメーバ様生物が生まれてくる。これにスピロヘータが

寄生してやがてべん毛となり,動物細胞ができあがり,さらに,ラン藻が寄生して

やがて葉緑体に変化して植物細胞が生じたという説である。

 この説を支持する実例として,オーストラリア産のシロアリの腸内に共生する原

生動物の一種Myxotricha paradoxaが知られている。

 この動物の表面には大小多数のスピロヘータおよび多数の細菌が付着し,スピロ

ヘータはこの動物の運動に役立っている。また,この原生動物はミトコンドリアを

もっていないが,小胞体やリボソームに囲まれた細菌(図中の内部バクテリア)が原

生動物の中に存在し,この細菌がミトコンドリアの役目をはたしているものと考え

られている。

 マーグリスの説には,真核生物細胞の核の起源については,なにものべていない

が,これについても23の仮説が提唱されている。ゴクソイルGoksoyrJ.(1967)

は,真核生物の細胞は,個々の原核生物細胞のDNAが増量し,それにともなって

細胞質も増加してできてきたものでなく,たくさんの原核生物細胞が融合して1

の大型細胞をつくり,ついでDNA1か所に集合し,まわりに膜が形成され,核

ができたとしている。

 

 








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