トップ生物II>第3部 生物の多様性と進化>第1章 生物の分類と系統>第2節 植物の分類と系統

第2節 植物の分類と系統

 

 

A 藻類の分類

B 細菌類の分類

◆最も原始的な植物

植物の進化のはじめに,どのようにして葉緑体が作られたのか。また,このよう

な物質をもった最初の植物がどのようなものであったかは,仮説(共生説)はあると

しても不明のままである。しかし,現存の植物の中で最もそれに近いものは,ラン

藻類であるとされている。細菌と同じ原核生物に属し,分裂のみによって増殖する。

クロロフィルaをもっているが,葉緑体を作らない点も原始的である。ラン藻が原

始的な植物であると認められたのは,約35億年前にできたと考えられるストロマ

トライトとよばれる岩石の発見である。この岩石が,ラン藻類(シアノバクテリア)

の集団からできているのがわかったからである。

 ラン藻類によって放出された酸素から派生する過酸化水素やスーパーオキシド

イオンは,地球上の生物がまだすべて細菌類であった時代には,極めて有毒なもの

であった。そのため,細菌類の中には,酸素のない場所,例えば,地中とか汚泥の

中で生活する嫌気性細菌が出現してきた。破傷風の病原菌(クロストリジウム属細

)やメタン生成細菌などがこのなかまである。一方,酸素から派生した有毒物質を

分解する酵素をもった細菌(好気性細菌)が出現し,好気(酸素)呼吸の道を開いた。

 

 

◆磯の藻類

太平洋岸では,干満の差が2mほどに達するので潮のよく引く春先の干潮時には,

満潮のときに深さ約2mになる海底を歩くことができる。そのようなときには教科

p.120の図7に図示されたような潮間帯でさまざまな海藻類を身近に観察するこ

とができる。

 潮間帯上部には,緑藻植物門に属するアナアオサ(アオサ)やボウアオノリなどの

浅所型緑藻類がみられる。潮間帯にみられる緑藻のほとんどが鮮緑色なのは,シホ

ナキサンチンを含んでいないためである。緑藻類でも,深い所に生育する深所型緑

藻類には,褐藻にみられるフコキサンチン(後述)とまったく同じ役割を果たすシホ

ナキサンチン(光合成色素)を含み,タンパク質と結合して赤い状態で存在している。

緑藻は多量のクロロフィルを含むため,深所型緑藻は褐色にはならず,褐色がかっ

た暗緑色にみえる。

 緑藻類の大多数は淡水産である。菌類と共生するもの(地衣類)や動物細胞内に生

活するものもある。車軸藻,コケ,シダ,種子植物と同様にクロロフィルab

カロテン,ルチン,キサントフィルを含む。淡水産緑藻類には,クロレラ,アオミ

ドロ,ホシミドロなどがある。

 潮間帯中間部には,褐色植物門に属するワカメ,ホンダワラ,マコンブ,アミジ

グサ,モズク,ヒジキなど重要な食用種がみられる。このなかまはクロロフィルa

cとカロテンを含む黄褐色,褐色,緑褐色の藻草で大多数が海底に着生し,非常に

大型のものが多い。コンブ科のカジメやアラメの群落は海中林とよばれる。長さ1m

前後,直径2cmほどの柄の先に多数の帯状の葉をつけたカジメなどの群落の景観が,

陸上の林に似ているからである。海中では,光合成に必要な太陽光が弱くなり,質

的にも変化する。海中の森の樹冠が褐色なのは,このことと関係がある。かなり澄

んだ水域でも,太陽光は水深10mあたりで10分の1ほどになり,太陽光の成分の

うち赤色光が最も弱くなるので,赤色光を最も効率よく利用する緑色の植物にとっ

て海中はすみにくい場所である。しかし,褐藻類は光合成色素としてクロロフィル

以外にフコキサンチンを含み,褐藻の色を決めているだけでなく,青色光から緑色

光をとらえる役割を果たしているため,褐藻は海中で効率よく光を利用することが

できる。海中林の下や,より深い場所には,小型の褐藻の他に赤に近い色の紅藻や,

褐色がかった暗緑色の深所型緑藻がみられる。紅藻植物門はクロロフィルaのほか

光合成色素のフィコエリトリンなど,緑,黄,青,赤の4色の色素を含む。浅所に

生える種は赤以外の色素を多く含むのに対し,深所に生える種は赤い色素を多く含

むので,紅藻のなかまは多様の色の変化がみられる。アサクサノリ,テングサ(マク

),フノリ,マクリ(カイニンソウ),ツノマタなど食用や薬用になる海藻が知られ

ている。

 

 

◆光合成色素(同化色素)と分類

 高等植物の葉緑体には,クロロフィルやカロテノイドが含まれている。

クロロフィル クロロフィルは.タンパク質と結合してフィロクロリンという色素

タンパク質として存在する。クロロフィルにはabのほかに,cdeが知られてい

るが,このうち最も普遍的なものはクロロフィルaで,細菌と菌類を除くすべての植

物に含まれている。クロロフィルbは,ミドリムシ・緑藻とそれ以上に進化した高等

植物群以外には含まれていない。クロロフィルabとの緑葉中の含有率は,植物の

種類にもよるが,ほぼ,(23)1で,aのほうを多量に含んでいる。

なお,紅藻類がもつとされていたクロロフィルdは,植物体表面に着生したラン藻

類のものであることがわかった。

クロロフィルの分子構造には,中心にMgがある。これは,ヘモグロビンのヘム

と類似した構造をもっている。このことは,動物と植物の進化的なつながりを暗示

している。 クロロフィルa (C55H72O5N4Mg 青緑色)

      クロロフィルb (C55H70O6N4Mg 黄緑色)

カロテノイド カロテノイドは動植物界に広く存在する色素で,これらの構造から

大きく分けると,炭化水素カロテノイドすなわちカロテン類と,酸素を含むカロテノ

イドすなわちキサントフィル類とで,次のようなものがある。

カロテン類;α-カロテン,β-カロテン,γ-カロテン,リコピンなど

キサントフィル類;ルティン,ゼアキサンチン,ビオラキサンチン,クリプト

             キサンチンなど

 このうち葉緑体の中に見いだされるのは,カロテン類では主としてβ-カロテン

で,それにわずかのα-カロテンを伴い,キサントフィル類ではルティン(狭義のキ

サントフィル)が主で,ほかに植物の種類によってビオラキサンチンやゼアキサンチ

ンなどを含んでいる。このように,カロテノイドは単独で存在することは少なく,

多くの場合は2種以上が混在している。

その他の色素 紅藻や褐藻の葉緑体は,前記のクロロフィルの他に,紅色のフィコ

エリトリンや褐色のフコキサンチンなどの色素をもっている。光合成の光エネルギ

ー受容には,必須ではないが,利用できる光の波長域を拡げ,利用効率を上げるこ

のような色素を補助色素(accesary pigment)とよぶ。カロテノイド色素やクロロフィル

bもこれにあたる。

 カロテノイドに吸収された光エネルギーのうち,約50%はクロロフィルbに伝え

られ,さらにほぼ100%の効率でクロロフィルaに伝えられる。このように,クロ

ロフィルa以外に伝えられるエネルギーも,

       補助色素→クロロフィルb→クロロフィルa

というように,光合成色素分子間を伝達され,利用される。これらの補助色素は葉

緑体チラコイド膜のPS II(色素系II)とよばれる粒子に存在する。

 植物の各門の系統関係を核の性質と葉緑素の種類,体制のちがいによって配列し

たものを次に示す。

 

 

С 陸上植物の分類

◆植物の生活環

生活環を比較してみると,陸上植物において生殖細胞の保護機構に機能的な改善

がみられる。比較的安定した環境である水中に対して,陸上では何らかの保護機構

が必要である。特に陸上で最も栄えている被子植物は,その胞子が「母体(胞子体)

内で保護されていることからも,それはうかがえる。

 

  菌類の分類

E 植物の系統

◆陸上植物への道

現在,陸上植物の進化は,ある種の淡水産緑藻が細胞層を厚くして乾燥に耐える

ように適応し,下部の細胞が吸水と地面への固着の役目をもつようになって,最初

の陸上植物であるコケ植物が出現し,さらに,体のつくりが複雑化して維管束系を

発達させ,陸上生活により適したシダ植物が現われてきたと考えられている。この

考え方は,まず,コケの段階を経て,シダに進み,さらに,種子植物への段階へと

一つ一つの進化段階を登るように前進的に進化してきたということから「前進説」

(西田,1990)とよばれている。しかし,この説には異論があり,リニア類のよう

な原始的なシダが陸上植物の祖先であり,コケ植物はシダ植物が環境に適応して退

化したものであるというコケ植物の「退行進化説」(SchusterRM.,1966)

唱えられてきた。両説とも,緑藻類のなかのシャジクモ類から陸上植物が出現した

点では一致している。最古の維管束植物とされるRhyniaリニア(ライニア)類がシル

ル紀後期(4.1億年前)から発見されているにもかかわらず,維管束をもたない現生

のコケ類に似た体制をもつコケの化石ゼニゴケモドキがリニア植物群の化石より

ずっと後,デボン期後期(3.5億年前)になって発見されていることから「退行進化

説」が提唱されたわけである。しかし,最近になってデボン期前期(4.0億年前)

の地層から発見されたスポロゴニテスSporogonitesがコケに類似した体制をもつ植

物化石であると考えられ,また,これまで原始的なシダと考えられていたリニアに

ついて,2種のうち1種は水分の通道組織がコケ植物の通道組織であるハイドロイ

ドに似ていて,この植物は「維管束のないコケ様の植物」であるとされ,Rhynia

とは別のAglaophytonアグラオフィトン属に分類されている(エドワーズ,1986

EdwardsD.S.)。リニアの1種が維管束をもたないことや最古の維管束植物と考え

られていたクックソニアCooksoniaも胞子のうをつけた軸には維管束が存在しない

ことがわかり,現生では,陸生植物の初期進化の段階では現生のシダとは様相を異

にする維管束をもった植物やコケとも違った維管束をもたない植物が混在してい

たと考えられている(北川,1989)。そのような混在状態から真の維管束が分化した

とされている。さらに,オルドビス紀(4.5億年前)からは最初期の陸上植物のもの

とみられる破片や胞子がみつかるようになり,その特徴はコケ植物に近いことがわ

かっている。このことから,現在では前進説がうけいれられるようになった。現生

陸上植物の分子系統解析でも,コケ植物が最も原始的で,シャジクモ類に近いこと

も,前進説を支持している。

 

 

 

 

◆維管束植物の系統

植物の進化による胞子体と配偶体の関係

 

 コケ植物は,胞子体(2n)の発達が少なく,配偶体(n)が生活史の主要なものとなっ

ている(植物の生活環の項参照)シダ植物では,逆に胞子体が発達し,配偶体は小

さい。このような関係は,植物の進化にもみられ,植物が水中生活から陸上へと進

出したときに,胞子体(2 n世代)が大きくなり,それに応じて配偶体(n世代)が小さ

くなっている。

 このような事実から,最も原始的なシダ植物といわれるリニア類を祖先として,

陸上の多様な維管束植物(シダ,種子植物)が進化してきたと考えられる。

 種子植物は,絶滅したシダ植物である前裸子植物から分岐したもので,前裸子植

物は胞子植物と種子植物を結びつける化石植物として知られている。前裸子植物は,

シダ植物に似た羽状複葉に胞子をつけ,二次的にできた木部(木本植物の材部はほと

んど二次木部)をもつことが特徴である。

岩城・加藤() 多様性の植物学2「植物の系統」 東大出版会 p.88  4.1を改変

 

 裸子植物は胚珠が裸出している植物群の総称であり,現生の種はイチョウ,針葉

樹類,ソテツ類,グネツム類の4つのグループに分けられる。イチョウの仲間は最

古の化石が約30億年前から知られ,現生種はイチョウ1種だけであるが,化石と

の形の類似から「生きている化石」ともよばれる。現生のグネツム類はグネツム,

マオウ,ウエルウィッチア(和名「奇想天外」)3属が知られ,ウエルウィッチア

はアフリカのナミブ砂漠のみに生育している。これらのグループは,形態的に多様

化していて,それぞれの間で形質を比較するためには,変化の少ない安定した保存

性の高い形質を用いなければならない。例えば,花の形態,胚珠のつく位置などが

このような形質に相当する。

 

裸子植物の基本的形質(長谷部1992)

ソテツ類

針葉樹類 イチョウ

枝分かれしない

枝分かれする

軟らかい材をつくる

硬い材をつくる

葉が切れ込む(複葉)

切れ込まない(単葉)

種子は放射相称

種子は左右相称

種子は葉の上につく

種子は茎の先につく

 

 針葉樹類とイチョウは,共有する形質が多いことから近縁であろうと考えられて

いる。ソテツ類と針葉樹類・イチョウは花のつく位置のちがいがある。ソテツ類の

花を観察すると胚珠が葉についていることがわかる。イチョウではギンナン(イチョ

ウの実)が茎の先についていることから,胚珠が茎の先についていることがわかる。

針葉樹の花はつき方がわかりにくいが,茎の先に花のつくグループである。グネツ

ム類は他の裸子植物が仮道管しかもたないのに対し,被子植物と同じように道管を

もち,重複受精に似た受精様式をもっていることなどから,従来,被子植物は,グ

ネツム類から進化したと考えられていたが,その後の研究から,被子植物の中で原

始的と考えられている植物の一部が道管をもたないことやグネツム類の道管は解

剖学的特徴が被子植物のものとは異なっていることから,今日では,道管は被子植

物とグネツム類で平行的に進化したものであろうと考えられている。

 被子植物の起源は,不明な点が多く,植物系統学上未解決の問題の一つである。

被子植物の子房は,裸子植物に見られるような裸の胚珠が,葉状の器官に被われて

形成されたものと考えられている。また,裸子植物の胚珠は,胚のうが1枚の珠皮

で被われているのに対し,被子植物のそれは,2枚の珠皮で被われている。このよ

うな形質から,古生代に多様化したシダ種子類や,それらをもとに中生代に分化し

た群などの絶滅裸子植物の中に被子植物の祖先が存在すると考えられている。現生

種子植物の分子系統解析の結果,現生裸子植物は単系統で,被子植物はこれらと別

の祖先裸子植物から分化したことがはっきりしたからである。現生裸子植物では,

イチョウとソテツ類が近縁でグネツム類は針葉樹類と近縁であることがわかった。

 

 








本サイトに掲載された記事や画像の無断転載を禁じます。
Copyright(C) 2009-2012 SHINKOSHUPPANSHA KEIRINKAN CO.,LTD. All rights reserved.