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1節 遺伝子工学

 

A 遺伝子組換え

◆自然界の遺伝子組換え

 遺伝子は染色体の乗換えのように自然界でもどんどん組換えが行われている。その

観点からすれば遺伝子工学も自然界で普通に行われていることの延長と言えなくもな

い。

 

B 遺伝子組換え技術の危険性

◆遺伝子組換え技術の規制

 遺伝子組換え技術は,開発直後からその危険性を防ぐために,さまざまな規制が加

えられている。この技術の開発者の1人のバーグは,19747月に,「危険に関する

問題が解決するまで,この実験は中止すべきである」というアピールを,英国の科学

雑誌「ネイチャー」,米国の科学雑誌「サイエンス」および「米国立科学アカデミー会

報」に発表した。翌75年には,米国カリフォルニア州にある「アシロマ会議センター」

で・米・英・仏・ソ連・オーストラリア・イタリア・ベルギー・スウェーデン・デン

マーク・日本など十数か国からなる90人の科学者と,法律家,報道関係者など約60

人が集まり,「組換えDNA技術」の規制問題を論議した。このアシロマ会議では,組

換えDNA技術は人類の福祉に貢献する重要な技術であることを認めたが,安全性に

ついて十分な配慮をなすべきであるという結論になった。

 その後,19766月に,米国国立衛生研究所(NIHと略称される,ただの研究所で

はなく膨大な予算配分を行い,アメリカの医学研究を支配している)は,「組換えDNA

研究のガイドライン」を発表し,それに沿わない研究には研究費を支給しないことを

明らかにした。このガイドラインは,その後世界各国でつくられた規制案の模範とも

いえるもので,同様な規制が広くなされるようになった。

 NIHガイドラインでは,物理的封じ込めと生物的封じ込めの2つから成っている。

物理的な封じ込めは,実験室から危険な微生物が外へ出ないことを目標としている。

それには危険度に応じて,P1P4まで4段階あり,段階に応じて厳しい設備が要求さ

れる。P1は整備されたふつうの実験室並みおよび消毒設備程度であるが,P2は安全キャ

ビネットが必要,P3になると安全キャビネットのほかに実験室内の圧力を大気圧より

低くして微生物が外へ漏れないようにすること(維持費の高い微細フィルター付き空

調装置が必要になる)P4では実験専用の建物か区画を設け,菌の採取は手袋を通し

て行い研究者が直接菌に触れないようにすることが要求されている。生物的封じ込め

は,EK1EK3(日本ではB1B3)とし,それぞれ用いる菌株を規定している。そして,

危険度の高い実験ほどP段階が高く,用いる菌も弱い菌(EK3の方がEK1よりふつう

の条件では生育しにくい)を指定している。NIHガイドラインは,予想される実験につ

いて,それぞれ物理的に封じ込めと生物的封じ込めの組み合わせを示している。

 しかし,この規制は,その後の研究成果から厳し過ぎるとされ,80年代になってか

ら規制はしだいに緩和されている。すなわち,ヒトのDNAを扱う実験はEK1ならP4

EK2ならP3の設備が必要とされたが,現在ではそれぞれ2段階下がり,EK1ならP2

EK2ならP1で行えるようになった。

 さらに平成16年度は大幅に基本方針がかわり,より緩やかで現実的な規制となった。

高校でもそれまではP2を必要としていたような実験(例えば大腸菌で蛍光タンパク質

を発現するような実験)も安全委員会を設置することなく「気軽に」実習を行うこと

が可能になった。ただし,違反者には罰金刑や禁固刑が課せられるようになった。

 もともと自然界で自然に生じたDNA断片を他の生物が取り込むことは,大腸菌の

プラスミドなど,ごく普通の事象である。そのため細胞は外来の遺伝子を破壊する仕組

みを持っている。そして,時として外来遺伝子が本来の遺伝子と同じように機能する

こともある。進化の一過程である。遺伝子組み換え技術はその過程を急速に大規模に

行っているとも言える。だから安全と言うこともないし,また,非常に危険と言うこ

ともない。しかし,SF的ではあるが,未知の危険なウイルスを人為的に作成する可能

性は無視できるほど低くはないと言えよう。現実に,遺伝子治療では,その患者で異

常となった遺伝子をウイルスに組み込んで患者に導入することが行われる。つまり,

ある目的に従ってウイルスを作り替えることは可能になっている。

 

 








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