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第2節 生体を守るタンパク質

 

A 赤血球

B 血しょうタンパク質

◆血液凝固現象

出血を防ぐ血液凝固のしくみは,免疫とならぶ生体防御の複雑なシステムの現れ

1つである。最終的な反応は,血液中に溶けているフィブリノーゲンが不溶性の

フィブリンになって傷口を塞ぐことにある。フィブリンの発見者は「細胞は細胞か

ら」を唱えたドイツの病理学者フィルヒョー(18211902)である。1904年には,ド

イツのモラウィッツが主要な反応機構を明らかにした。傷口からでるトロンボプラ

スチンが血液中の不活性トロンビン(プロトロンビン)を活性化し,それがフィブリ

ノーゲンをフィブリンに変える:

トロンビンの活性化 傷口がひき金となってトロンビンが活性化する経路は,少

なくとも12の因子(カルシウムイオンを含む)が関与し,そのうち7つがタンパク分

解酵素である。反応は次々と起こるカスケード(雪なだれ)反応である。血管に傷が

できるとXII因子(ハーゲマン因子)が血管壁のコラーゲン繊維に吸着されて自己分

解し,活性型となる(XIIa)。これはXI因子を限定分解し,できたXIaX因子(スチ

ュアート因子)を活性化し,それがII因子(プロトロンビン)を限定分解してトロンビ

ンにする。以上が内因系の経路である。そのほか,損傷された組織から出される組

織因子(TF)VIIaが結合してXを活性化する外因系のしくみがあり,生理的にはよ

り重要とされている。

フィブリノーゲンからフィブリンヘ 血液中に3mg/mlの濃度で含まれているフ

ィブリノーゲン(3種類のサブユニット各2個からなる)は,上記の反応で生成された

トロンビンの作用によって,19個と21個のアミノ酸からなるABペプチド各2

個が切断されてフィブリンとなる。これらペプチドはアスパラギン酸やグルタミン

酸を含んでおり,マイナスの電荷による反発力によってフィブリノーゲン分子どう

しの会合を妨げている。ABペプチドを失ったフィブリン分子は会合して繊維を

つくり傷口をおおってしまう。

 フィブリンは,トロンビンによって活性化された皿因子の作用で安定な構造とな

る。XIII因子はトランスグルタミナーゼとよばれる酵素でペプチドの遊離カルボキシ

ル基と別のペプチドの遊離アミノ基とをペプチド結合させる:

     −COOHNH2−  → −CONHH2O

 さらに血小板から放出されたアクチン,ミオシン,ATPにより,フィブリン集合

体全体が収縮して血栓となり,傷口をコンパクトに塞いでしまう。

 

カルシウムイオンの働き 血液凝固系の反応の多くはカルシウムイオンを必要と

する。そのためカルシウムイオンを除くと凝固が起らない。血液を採取するとき,

あらかじめ注射器にクエン酸ナトリウム溶液を入れておくのは,カルシウムを結合

させて凝固を防ぐためである。

生理的血液凝固防止 正常な状態で,血液凝固が起きて血栓ができると脳や心臓

の毛細血管を塞いで重大な障害となる。肝臓から分泌される多糖ヘパリンは血液凝

固を阻止する。

 

血液凝固の諸因子

因子

番号

慣用名

分子量〔×103

(アミノ酸数)

血しょう濃度

μg/ml

機能

I

フィブリノーゲン

334

3000

フィブリン形成

 

 Aα鎖×2

 68(625)

 

 

 

 Bβ鎖×2

 55(461)

 

 

 

 γ鎖×2

 49(411)

 

 

II

プロトロンビン

 72(679)

100

トロンビン前駆体

III

組織因子(TF)

 37(263)

0

補助因子

IV

カルシウムイオン

 

(2mM)

補助因子

V

Ac-グロブリン

330(1996)

10

補助因子

VII

プロコンバーチン

 50(406)

5

プロテアーゼ前駆体

VIII

抗血友病因子

 330(2351)

0.1

補助因子

IX

クリスマス因子

 55(415)

5

プロテアーゼ前駆体

X

スチュアート因子

 59(447)

10

プロテアーゼ前駆体

XI

 

160(607)

5

プロテアーゼ前駆体

XII

ハーゲマン因子

 82(596)

30

プロテアーゼ前駆体

XIII

フィブリン安定化因子

 

10

トランスグルタミナーゼ前駆体

 

 αサブユニット

 75(731)

 

 

 

 βサブユニット

 80(641)

 

 

 

 

C 白血球

◆免疫と細胞

免疫という用語は,もともとは税金を免れる免税を意味し,転じて病苦から免れ

るという意味に使われるようになった。英国の田舎で開業していたジェンナー(1749

1823)は牛の乳しぼりをしている女性の手の指に水泡(牛痘)がしばしばできてお

り,流行する天然痘にかからないことに注目した。1796年ジェンナーは牧童に牛痘

にかかった婦人の水泡の液を注射し,2か月後に天然痘を接種したが,病気になら

ずにすんだ。ラテン語で牛のことをvacca,牛痘のことをvaccinaということから,

ジェンナーは種痘のことをvaccinationとよんだ。今日のワクチンの語源にあたる。

ジェンナーの種痘はヨーロッパ中に広まっていった。天然痘と牛痘のウイルスは異

なっているが共通性があり,いずれかを抗原として抗体をつくると,抗体は両者と

反応する(免疫となる)

白血球 血液中には赤血球のほかに白血球がある。これが免疫に関与する細胞であ

る。白血球は,顆粒球(多核形白血球),リンパ球,マクロファージの3種類に分け

られる。このうち顆粒球とマクロファージは異物食作用を示し,リンパ球はT細胞,

B細胞の2種類があり,体液性免疫にあずかる。これら白血球は赤血球とともに,

骨髄の中にある幹細胞からしだいに分化する。リンパ幹細胞のうちのあるものは胸

腺圧(thymus)にしばらくとどまった後,T細胞となり血液中にでる。T細胞は異物(

)を認識し,さまざまな働きをする。他方いったん肝臓に移住した後,骨髄で成熟

する細胞はB細胞となり,抗体産生にあずかる。B細胞とよばれるのは,ニワトリ

では直腸のファブリキウスのうBursa of Fabricius経由で分化するからである。骨髄

bone marrowとする説もある。

 

顆粒状(多核形白血球)

無顆粒状(単核球)

好中球

好酸球

好塩基球

リンパ球(25)

単球マクロファージ

(61.5)

(3)

(0.5)

(B細胞・T細胞)

(5)

 

 

細胞性免疫と体液性免疫 細菌,ウイルスなどが体内に侵入すると,T細胞が認

知してある種の因子(リンフォカイン)を放出する。するとマクロファージが集まっ

て食作用を開始する。顆粒球も食作用に加わる。このように直接的な免疫のことを

細胞性免疫という。これに対して産生された抗体が関与する免疫は体液性免疫とよ

ばれる。後者は異物が最初に侵入して1か月ぐらい経てから(抗原がつくられてから)

有効となる。前者は異物の侵入後ただちに起こる。

マクロファージ マクロファージは白血球の一種であり,大型で単球(核の形状が

球状でくびれがない)の食作用の旺盛な細胞の総称である。マクロファージは通常,

老化した細胞や組織片,侵入してきた異物などを細胞内に取り込み,消化して処理

する働きをしている。また,何らかの刺激を受けると,病原菌などの微生物や腫瘍

細胞を殺して処理する働きもする。免疫については次のような働きをしている。

 マクロファージには,T細胞の機能発現を助ける重要な働きがある。抗原物質を

細胞内に取り込み,適当な大きさの抗原ペプチド(アミノ酸数520程度)にする(

原処理)。次いでその抗原ペプチドを細胞表面に表し,T細胞がそれに反応できるよ

うにする抗原提示を行う(教科書p.6042)。マクロファージとT細胞が反応すると

マクロファージからインターロイキン1(ILl)が出てT細胞の分裂活性化を促進する。

その後T細胞は特定のB細胞を捜しだして結合し,いくつかのインターロイキン(

ンフォカイン)を出してB細胞の分裂活性化を助ける。こうして,抗体産生細胞(

ラズマ細胞)となったB細胞は特定の抗原だけを標的とする抗体を放出する。

 

抗体産生におけるマクロファージの必要性 (a)マウスの脾臓細胞に羊の赤血球

を与えると抗体産生が生じる。(b)リンパ球,(c)マクロファージのそれぞれに羊の赤

血球を与えても抗体産生は生じないが,(b)(c)の混合したものでは抗体産生が生じ

る。

 

D 抗原と抗体

◆抗原と抗体

抗体を産生させる原因となる物質は抗原とよばれる。抗原となる物質の主要なも

のは非自己タンパク質である。ウイルス,細菌などのタンパク質が抗原となる。タ

ンパク質中のアミノ酸配列10個ほどや立体構造の一部が抗原となる。多糖類,脂

質も抗原となることがある。また低分子物質もタンパク質と結合していると抗原と

なる。

 抗体(免疫グロブリンG)2本ずつのH(鎖重53000)L(23000)とから

なり,全体の分子量は152000におよぶ。H鎖とL鎖は1本のS-S結合で連結さ

れ,H鎖どうしも2本のS-S結合でつながり全体としてまとまっている(下図)。この

抗体は免疫グロブリンG(IgG)とよばれているタンパク質で,体液性免疫で主導的な

役割を果たしている。

 このように一定の形をした抗体が多種多様の抗原と特異的に対応しているのは,

HL鎖ともに抗体の種類によってアミノ酸配列が異なっている可変部が存在して

いるためである。H鎖では446個のアミノ酸中110120個,L鎖では214個のうち

107個が可変部である。残りはすべての抗体に共通なアミノ酸配列をもっており,

不変部といわれる。H鎖,L鎖ともに可変部は抗体分子の両腕の先端にあたり,そ

こが異物抗原との結合部位となっている。

 抗体は抗原と強い結合(解離定数は1091010である)をする。酵素と基質の解離

定数は104107にすぎない。抗原抗体複合体は巨大な結合体をつくり,沈殿して

しまう。そこにマクロファージが集まってきて取り込み消化してしまう。

 

◆エイズ

19816月アメリカで2名の患者が25万人に1人というまれなカポジ肉腫で死

亡した。これがエイズの最初の記録である。1993年までに世界中で1000万人のエ

イズ患者がいるといわれ,治療薬はまだ開発されていない。エイズ(後天性免疫不全

症候群acquired immunodeficiency syndrome)は,ヒト免疫不全ウイルス(human

immunodeficiencyvirusHIV)によってひきおこされることが1984-5年に発見された。

 HIVRNAをもつウイルスで,RNAからDNAを合成する逆転写酵素をそなえ

ているのでレトロウイルス(レトロは逆方向に向かうの意味)とよばれる。ふつうは

DNARNA→タンパク質なのに,ここではRNADNAとなり,寄主の核のDNA

中に入りこむ。ときにこのDNAからRNAがつくられて,それからタンパク質が合

成されてウイルスがふたたびできる。HIVは直径100ナノメートルの球状をしてお

り,外側は脂質二重層からつきでたスパイクをもった外被がとりまいている。内部

に内被があり,その中にコアがあってRNAと逆転写酵素を包んでいる。RNA9000

塩基からなり,7種類のタンパク質をコードする。

 HIVのスパイクはT細胞(ヘルパー)の細胞膜について細胞内に侵入し,外被,内

被,コアがほどけてRNAを出す。もってきた逆転写酵素の働きで1本鎖RNAから

2本鎖のDNAがつくられ,これが核内のDNA中に挿入される。ウイルスのDNA

は細胞のDNAと挙動を共にし,細胞分裂のさいには複製される。ときにウイルス

DNARNAをつくってタンパク質を合成させ数百個のウイルスを再生し寄主細胞

を破壊させてとびだし,他の寄主に分散する。そのためエイズではT細胞の減少に

伴う免疫不全が起こるのに数年かかる。直接の死因であるカポジ肉腫やカリニ肺炎

は免疫が正常であれば発病しない。

 

E 抗体生産のしくみ

◆抗体産生のしくみ

いったい,どんなしくみで100万種類以上の抗体がつくられるのであろうか。1900

年ドイツの病理学者エールリヒ(1854-1915)は,抗体産生細胞にはあらかじめ表面に

特異的な側鎖(レセプター)をもっており,抗原が結合すると膜から脱落し,細胞はレ

セプターをどんどん産生・放出すると主張した。これは最初の選択説である。

一般的には,抗原は産生細胞に入りこんで鍵と鍵穴の関係にある抗体をつくらせ

るとする指令説が有力となっていった。エールリヒ説をリバイバルさせたのはバー

ネット(1899-1990)のクローン選択説(1959)である。抗体産生細胞は分化の過程で遺伝

子変異が起こり100万を超える抗原に対応する細胞群ができると考える。11つの

細胞の表面にあらかじめ異なった抗体が存在すると仮定する。クローン選択説は

1976年スイスのバーゼル大学で利根川進(1939)によって実証された

 リンパ細胞は成熟過程で抗体遺伝子の再編成(体細胞変異)がなされ,各細胞に遺

伝子変異をもたらす。抗体H鎖に対応する遺伝子は,制御部(LH),可変部(VHDH

JH),不変部(CH)と続き,各部域間には遺伝情報に関与しない部域(イントロン,第2

部の「イントロンとエキソン」の項参照)が介在する。可変部の3部域には,VH

300個,DH12個,JH4個と複数の遺伝情報部分(エキソン)が存在してイントロ

ンでそれぞれ仕切られている。リンパ球が抗体産生細胞(B細胞)に分化していく間に

VHDHJHの各可変部で各1個のエキソンが残って連なり他は消失してしまう。遺

伝子としては制御部,可変部,不変部と続いている。このとき可変部のエキソンの

組合せは,300(VH)×12(DH)×4(JH)14400通りとなる。L鎖でもVLJL (DLはな

)の変化で1200通りの組合せができる。H鎖とL鎖との組合せから1000万種類以

上の抗体遺伝子の生成が可能となる。

 

◆拒絶反応

ヒトの各組織には組織適合抗原があり,一卵性双生児以外では人によって異なっ

ている。そのため,他人の組織を移植すると,細胞性免疫により白血球やリンパ球

が移植組織を攻撃する。そのため移植臓器が定着できない。これが拒絶反応である。

そこで,あらかじめ組織適合抗原の検査をして比較的似たものどうしで移植すると

定着しやすい。また,シクロスポリンAのようにT細胞の産生を阻害する免疫抑制

剤を投与して拒絶反応を少なくする。腎移植は70%以上の定着が可能となっている。

主要組織適合抗原 臓器移植の際,拒絶反応が起こるのは,組織を構成する細胞

の表面に存在するある分子が個体ごとに少しずつ異なるためである。このような分

子は,移植組織が受容者に適合するか否かにかかわっているため組織適合抗原とよ

ばれる。この分子は共通の祖先の遺伝子が,少しずつ変異を起こし,それぞれが別

の家系にひきつがれてきたことによって多様になっていると考えられる。組織適合

抗原の中でとくに拒絶反応に重要な働きをしているものを主要組織適合抗原とい

う。

 ヒトの組織適合抗原については,1958年に輸血患者血清に白血球と反応する抗体

が見出されたのをきっかけに解明が始まり,HLA(human leukocyte antigen)とよばれる

主要組織適合抗原の遺伝子複合体が第6染色体に存在することがわかった。通常,

主要組織適合遺伝子複合体(major histocompatibility gene complexMHC)の遺伝子座はI

IIIII3つのクラスに分けられる。クラスI領域の産物(クラスI抗原)はすべての

細胞の膜表面に発現している。クラスII抗原は,B細胞・T細胞の一部,マクロフ

ァージ,精子などの表面にあることがわかっている。免疫的に「自己」と「非自己」

を認識するときには,このクラスII抗原が主要な役割を果たす。たとえば,マクロ

ファージが提示した外来抗原(非自己)T細胞が認識する場合,マクロファージの

もつクラスII抗原(自己)と外来抗原(非自己)とを同時に認識する必要がある。

 

◆アレルギー

アレルギー反応は,杉やブタ草の花粉,ゴミ中のダニ,牛乳,サバなどが引き金

となる。血液中にごく微量に存在する免疫グロブリンE(IgE)がこれらのアレルゲン

(抗原)によってできると,IgEは皮膚や鼻の粘膜中に散在する肥満細胞のレセプター

(FCリセプター)と結合する。IgE抗体にアレルゲンが結合すると,細胞内の顆粒がこ

われ,ヒスタミンなど刺激物質が放出される。ヒスタミンは皮膚にじん麻疹を起こ

させたり,肺の気管支をせまくして喘息を起こさせる。また鼻粘膜を刺激してくし

ゃみや鼻汁の症状が起こる。アレルギーの急激な症状はアナフィラキシーとよばれ,

気管支が一時的に閉ざされて窒息死にいたることがある。ペニシリン注射でも起こ

ることがあり,ペニシリンショックとよばれる。

 

 

 








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