第2節 代謝とエネルギー代謝
A 同化と異化
◆代謝(同化と異化)
生体内で営まれている物質の変化で,物質代謝ともいう。この変化は,さまざま
な酵素反応が組み合わさった複雑な化学反応である。代謝はエネルギーの変化を伴
うので,この面から考えると次の二つのタイプに分けることができる。
(1)自由エネルギーの増大する変化(同化)……光合成など。体外から摂取した物質に
よって,生体の構成成分の合成を行う反応。
(2)自由エネルギーの減少する変化(異化)……呼吸,発酵など。体物質の分解によっ
てエネルギーを発生させる反応。
B 化学反応とエネルギー
◆エネルギー代謝
生命現象に伴うエネルギーの出入りと変換のことで,物質代謝のエネルギーの面か
らの表現である。エネルギー代謝には,次のようなものがある。
(1)光エネルギー →化学エネルギー……緑色植物による光合成に伴う変化
(2)化学エネルギー →機械エネルギー……筋肉,繊毛,アメーバなどの運動,細胞
分裂などに伴う変化
(3)化学エネルギー →化学エネルギー……生体物質が他の生体物質に変化
(4)化学エネルギー →熱エネルギー………呼吸,発酵に伴う変化
(5)化学エネルギー →光エネルギー………生物発光
(6)化学エネルギー →電気エネルギー……生物の電気現象
しかし,生物は熱エネルギーを,化学エネルギーや機械エネルギーに変えて利用
することはできない。同化の反応では多くは,生体が利用できる自由エネルギーが
増加するのでエネルギー吸収反応であり,異化の反応では利用できる自由エネルギ
ーが減少するのでエネルギー発生反応である。
C エネルギーの変換
◆ATP
ATP(アデノシン三リン酸adenosine tri-phosphate)は,アデニンという塩基と,五炭
糖のリボースと,それにリン酸が3つ結合したものである。アデニンとリボースの
化合物はアデノシンとよばれ,これにリン酸が1つ結合したものがアデノシン一リ
ン酸(AMP,またはアデニル酸)である。アデニル酸は,RNAの4種のヌクレオチド
のうちの1つである。リン酸が2つ結合したものは,アデノシン二リン酸(ADP)と
よばれている。
ATPは,筋肉(ウサギ)1kgから約3gとれる白い粉末であるが,動物だけでなく,
植物や微生物の細胞にも見い出され,エネルギー発生過程のあるところには必ず存
在する物質である。

◆ATPとエネルギー
ATPの発見は古い(フィスケ,ローマン1929年)が,生体内でのエネルギーの受け
渡し物質として注目されるようになったのは,第2次大戦中にリップマンによって
唱えられてからである。リップマンはATPの末端および第2のリン酸結合の部分に
エネルギーがたくわえられるという高エネルギーリン酸結合の概念を導きだした。
すなわち,ATPがATPアーゼによって分解されるとADPとなり,無機リン酸とエ
ネルギーを遊離する。このエネルギーを熱量で表すと,25℃,1気圧でATP lモル
について約42kJであるが,そのうち生体内エネルギーとして利用されるのは約
33kJである。
◆ATPの働き
細胞には,エネルギーを生成する機能とエネルギーを要求する機能がある。後者
が生物によってなされる仕事であり,これは基本的に3つに分けられる。
化学的仕事(成長,増殖) 細胞の主要な構成成分であるタンパク質,核酸,脂質,
多糖類のような高分子化合物は,たえまなく,単に生物の成長期だけでなく重量の
変化のない成熟期においても,低分子化合物から合成(生合成)されている。
物質の輸送と濃縮の仕事(浸透圧的仕事) 細胞はKイオンやグルコースなど,必要
な物質を外界から取り入れ,その濃度を外界よりも高くすることができる。また,
細胞内よりも濃度の高いところへ不要物を排出することもできる。このように濃度
勾配に逆らう分子の移動を「能動輸送」という。また,神経細胞や筋肉細胞の興奮
や伝達の仕事もここに含まれる。
機械的仕事 骨格筋の収縮,繊毛,鞭毛の運動など
この3つの仕事で,連続的ないくつかの段階によってエネルギーの大部分は,熱
エネルギーとして失われていく。

