トップ生物I 改訂版第4部 環境と植物の反応第2章 植物の反応と調節>第4節 植物の生活と環境

第4節 植物の生活と環境

 

A 植物の一生と植物ホルモン

発芽した植物が成長して開花・結実するまでの生活史は,様々な種類の植物ホルモンによって調節されている。ここでは,生活史のそれぞれの段階にどのようなホルモンが作用しているかについて学習する。

 

◆発芽

@ 発芽に必要な養分は,デンプン(コムギ)・タンパク質(ダイズ)・脂肪(アブラナ)などの形で,胚乳や子葉に貯蔵されている。

A 発芽に吸水は不可欠の条件であり,適温と酸素を合わせた3つの条件がすべての種子の発芽に必要である。また,光を要求する光発芽種子や低温処理が必要な種子もある。

B 形成された種子をまくとすぐに発芽する場合もあるが,多くの種子は一定の休眠期間を経ないと発芽できない。

C 種子の休眠の維持にはアブシシン酸が関係し,ジベレリンがその働きを打ち消し,休眠を打破して発芽を促進する働きがある。

D 休眠期間の短縮のためには,光を照射(ジベレリンを活性型に変える)・温浴法・0℃に数日間保つ・種皮を傷つける・硫酸等の化学物質で処理する,等の方法がとられる。

 

◆屈性

@ 植物体に刺激を加えた場合に,植物器官が刺激源に対して,一定方向に屈曲する性質である。刺激の種類によって,光屈性・重力屈性・化学屈性・接触屈性等と呼ばれる。

A 多くは刺激が原因で器官の両側のオーキシンなどの植物ホルモンの濃度分布が不均等になり,両側の細胞の成長速度に差が生じることが原因で生じる。刺激源の方向に曲がるものを正の屈性,反対側に曲がるものを負の屈性という。

B 発芽・発根した植物は環境要因の働きで正しい方向に屈性を生じる。水や無機塩類を求めて根は重力の方向に屈曲し(正の重力屈性),光を求めて茎は上向きに屈曲する(正の光屈性)。茎が負の重力屈性を示し,根が正の重力屈性を示すことは植物の最も基本的な成長調節である。屈性自体はオーキシンの不等分布が主要因であるが,根と茎で逆の反応がおこる詳細な理由(茎と根のオーキシン反応性が違う理由)はまだ分かっていない。

 

◆成長

@ 生物体量(特に原形質と細胞壁)の増加を成長というが,植物体の成長には「細胞数の増加」と「細胞自身の体積の増加」という2つの側面がある。

A 細胞分裂を促進して細胞数を増加させるのはサイトカイニンの働きであり,細胞の体積を増大させるのはオーキシンやジベレリンの働きである。サイトカイニンはダイコンの子葉などの成長を促進する。

B 一方,成長を抑制する作用を示すホルモンが,エチレンやアブシシン酸である。植物の成長は,これらのアクセルとブレーキの役割を果たす植物ホルモンの働きによって,調節されている。

 

◆開花

@ 植物が開花するためには,まず花芽が形成され,次にその花芽が成長してつぼみとなって,そのつぼみが開いて開花するという段階がある。

A 植物の葉や茎の栄養成長が進み,その栄養成長を行ってきた分裂組織(葉芽)が,生殖成長をする分裂組織(花芽)に分化することを花芽形成という。

B 花芽形成の条件としては,日長時間や温度条件・窒素などの栄養物質・二酸化炭素などの様々な要因の相互作用が考えられ,フロリゲン(花成ホルモン)の存在が仮定されている。

C 形成された花芽が成長したつぼみが開花するためには,花芽形成とは別の環境要因が必要な場合もある。開花すると美しい花弁や蜜・花粉が昆虫などを誘引して受粉を媒介させたり,風や水流などによって花粉が運ばれたりして受粉が行われる。

 

◆結実

@ 果実を形成することをいうが,一般には受粉によって子房が肥大して果実となり,受精によって胚珠が発育して果実の中で種子となる。

A 受粉によって花粉から少量のオーキシンが供給されると,これが刺激となって胚乳でのオーキシンやジベレリンが生成され,胚の発達とともにサイトカイニンの生成が促進される。

B これらの植物ホルモンの働きで果実の成長が調節されている。

 

◆果実の成熟

@果実が一定の大きさまで成長すると,子房組織内にエチレンが生成され,果実の成熟が促進される。

A 果実の成熟が進むと,一般にはデンプンなどの糖化が進み,果皮の色は緑色から赤や青色などそれぞれの果実特有の様々な色に変わって,それがシグナルとなって鳥などの動物を誘引して種子の散布をはかっている。

 

◆休眠

@ 生物の発生過程で成長や活動が一時的に停止する現象を休眠というが,多くの植物では主に芽や種子・胞子などが完成後の一定期間,(自然)休眠が見られる。

A 芽や種子の休眠はアブシシン酸などの発芽抑制物質の蓄積によるもので,カエデの冬芽形成の研究では,短日条件下でアブシシン酸が葉で合成されて,それが芽に移行して休眠冬芽が形成されることが知られている。

B 休眠は,それを維持しているアブシシン酸などの発芽抑制物質が減少することと,これに拮抗する物質,例えばジベレリンが増加することによって終了し,発芽に至ると考えられる。

C 芽や種子などの休眠期間は,一時的な低温・高温処理や光の照射,適切な植物ホルモンの投与や芽の部分的傷害などによって,著しく短縮されることがあり,これを休眠打破という。

 

◆落葉・落果

@ 葉がある限度の生理的齢に達すると,クロロフィルが分解され,葉内の養分がより若い葉など他の部分へ転流する。また,葉の基部には離層が形成され,落葉がおこる。

A 常緑樹では新しい葉が展開されてから古い葉が落葉するが,落葉樹では寒冷期または乾燥期の前に一斉に落葉してこれらの不利な季節を葉のない状態で過ごす。

B 落葉落果を促すホルモンとして,大熊和彦ら(1965)がワタ幼果から発見したアブシシン酸は,その後の研究によってエチレンを誘導することで,落葉を促すことがわかっている。この意味で,アブシジン酸は「器官脱離(落葉)ホルモン」ではなく,休眠ホルモンであると考えられる。

 

◆環境の変化と植物の生活

環境に変化によって植物の生活史の各段階が調節されているが,植物ホルモンがその調節の過程で重要な役割を果たしている。生活史の各段階に対する植物ホルモンの働きを,教科書p.230の図32に簡略化してまとめた。それらの働きをホルモンの種類別に整理すると下表のようになる。

 

発芽

分化

成長

開花

結実

落葉・落果

休眠

オーキシン

 

 

 

ジベレリン

 

 

 

エチレン

 

 

 

(成熟)

 

サイトカイニン

 

*

 

 

 

 

アブシシン酸

 

 

 

フロリゲン()

 

 

 

 

 

 

(凡例) +:促進的に働く,−:抑制的に働く,空欄:無関係,+*:細胞分裂を促進

 

 

 

 








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