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第3節 植物の花芽の形成

 

A 花芽の形成と日長

◆光周性

光周性は,最初アメリカのガーナーとアラード(GarnerAllard1920)によって偶然に発見された。タバコの一品種で,葉の大きなマリーランドマンモス(Maryland Mammoth)が,他の品種はどんどん開花したのに,秋になっても花をつけないので,温室に入れておいたところ,12月中旬にやっと花をつけた。自家受粉で得た種子を翌年まいたら,これもクリスマスになって開花した。これでは他の品種と交配ができないので,花期を早める条件を研究し,ワシントン地方の夏期の日長時間が長いことに関係があるのではないかと考えた。早速実験室内で日長時間を9時間にしたら,すぐ花芽の形成が始まった。このようにガーナーとアラードは,昼夜時間の長さが開花に関係している現象を発見して,光周性と名づけた。

 光周性は,長日性と短日性(光周性に無関係の中性はここでは考慮に入れない)の別があるが,光に反応するのは葉であることが実験的に示されている。たとえば,さきのマリーランドマンモス種では,長日条件でも,1枚の葉だけを黒い紙でおおうことによって短日処理すると,茎頂部に花芽を形成した。この実験から,光周性を感じる反応が葉部でまず起こり,そこにある種の化学物質がつくられて茎頂部に移動し,開花を促すことを示している。このことは,オナモミ(短日植物)を用いた接ぎ木実験によってさらに詳しく確かめられ,その有効物質はフロリゲンと名づけられた。長日性,短日性をさらに追求するうちに,花芽が形成されるか否かは,日照時間ではなく,暗期の長さが重要であることがわかってきた。すなわち,長日植物の花芽形成には,日照が長いことより,短い夜間が重要であり,同様に,短日植物には連続した長い暗期が必要なのである。したがって,短日植物に短日処理を施していても,夜間に一度強い閃光を与えるか,電灯光を5分間与えるだけで花芽が形成されなくなり,逆に長日植物を短日条件に置いても,夜間に,上記のような光を与えると花芽が形成される。このような短い光の効果を光中断と呼んでいる。また,夜間に与える光の波長は,赤色光(660nm)が最も有効であることも証明されている。後述のようにこの光の効果はフィトクロムを介して現れる。

 

B 花芽形成のしくみ

◆限界日長時間

植物の花芽の形成には,明期より暗期のほうが重要なので,短日植物は長夜植物であり,長日植物は短夜植物といえる。短日植物(長夜植物)であるオナモミの場合は8.59時間以上の暗期が必要で暗期がこれより短いと花芽の形成が起こらなくなる。このように花芽の形成に最低限必要な暗期の長さを限界暗期という。その植物の限界日長時間とその地方の日照時間の関係から,その土地に見られる植物の開花時期を推定してみるとよい。ただし,肉眼で観察できる開花には,花芽形成からある程度の日数が必要であることと,夜明け前や日没後の薄明も植物には明期として働くので,天文的日長時間と植物的日長時間とは多少差があることに注意をする必要がある。

植物の花芽形成に必要な限界日長時間の例

 

 

◆フィトクロム

植物は種々の光条件を感知して成育する。赤色光と遠赤色光を感じるフィトクロム(Phytochrome)は,花芽の分化にも関係している。

 短日植物は,花芽分化に十分な暗条件を与えても,暗期の途中で光を与えると催花しなくなる(光中断)。このとき光を単色光にして与えると,660nmの赤色光が最も有効である。しかし,この赤色光は長日植物では逆に催花を促進するように働く。

また光中断における赤色光の効果は,これに続いて与える730nmの遠赤色光によって,打ち消されることがわかった。

 

 上図の実験から,植物には660nmの光を吸収する形になったり,730nmの遠赤色光を吸収する形になり得る物質があると考えられ,光周性はこの物質に深い関係をもつとして,フィトクロムと名づけられた。660nmの光を吸収する(吸収スペクトルの最大値が660nm)フィトクロムをR-フィトクロムとし,730nmの遠赤色光を吸収するそれをF‐フィトクロムとすると,両者は互いに変換可能であると考えられている。

 

 フィトクロムは,アメリカのボースウィック(Borthwick)やヘンドリックス(Hendricks)らによってレタス(Grand rapidsという品種)の発芽や短日植物の暗期の光中断実験によって発見された。Phyto-は植物,-chromeは色素の意味である。フィトクロムは色素部分とタンパク質部分からできており,色素部分の構造はバトラーによってすでに決定されたが,RF変換のしくみやその他不明な点が多い。

 

◆光周性(日長効果)の例とその応用

(1) 街灯や広告の夜間照明の近くでは,サルビア,イネ,アサガオ(いずれも短日植物)などの植物が秋になっても開花しないことがしられている。イネでは収穫に影響するので問題になっている。

(2) カーネーションは長日植物なので,自然では春から夏に開花する。これを秋から冬に開花させるには,電灯を用いて長日条件を維持し,必要あれば温室で保温する。キクは一般に短日植物なので,冬には長日条件にして花芽の形成を抑制し,温室または暖地で育てる(たとえば渥美半島の電照菊)ことによって開花時期を調節する。夏には高冷地でおおいをかけて短日処理をして開花させる(シェード・カルチャー,遮光栽培)

(3) クリスマスごろ,花屋の店頭をかざるものにポインセチアがある。赤い花びらのように見えるものは葉(苞葉)が赤色化したものである。この葉の赤色化をひきおこすのは短日条件であり,多くは短日処理を行って市場に出す。

 

(4) コスモスの一重の在来種は短日植物の代表的なものである。品種改良によって,日長に関係しない中性で早生の“センセーション”がつくられ,その中からバラ色で中心が濃いピンクの“ラジアンス”が作出された。これらの中性のコスモスは種子をまいてから50日前後で日長と関係なく開花するので,コスモスはもはや“秋”の花でなくなったともいえる。

(5) 飼料に用いる青刈りトウモロコシやダイズは生殖成長を起こさず栄養成長のみ起こさせて茎や葉を成長させる。そのためには,短日型の品種を春にまけばよい。

・動物での例と応用

(1) アユは短日条件になると生殖腺が発達する。秋に産卵して死んでしまうアユを電灯をつけた池で飼うと,生殖腺の成熟がおさえられて冬を越す。冬から春に自然にはみられない大形のアユが食べられるわけである。

(2) 多くの鳥類は長日条件で生殖腺が発達し生殖行動を示す。ウグイスを正月に鳴かせるためには,秋のはじめ,早目に暗箱に入れ,秋の終わりから電灯をつけて飼い,同時に動物性のえさの割合を多くすればよい。

 

C 花芽の形成と温度

◆春化処理

植物体内で寒さによって起こる変化を春化(バーナリゼーション)と呼ぶ。植物に人為的に低温を与え,春化の効果を引き出すことを春化処理という。

コムギには春まきコムギと秋まきコムギがあり,秋まきのものは,春まくと成長はするがなかなか穂が出ず,そのうちに秋の寒さで枯れてしまうということが知られていた。この現象を含めて,春化現象を組織的に研究したのはドイツのガスナー(1918)であり,それを発展させたのがソビエトのルイセンコである。このように,秋に発芽する植物は寒さにあうということが,開花結実の条件になるという現象は,ダイコンやキャベツなど,二年生草本や多年生草本の一部によく見られるものである。春化は,低温と水分および酸素の存在が必要であり光は関係ない。したがって種子に水を含ませ,膨潤したものを冷蔵する。秋まきコムギでは−210℃ぐらいのなかに2週間ぐらい入れておく。この温度や期間は植物の種類や品種によって異なっている。温度には適温があり,高すぎても低すぎても春化の効果が落ち,期間を長くしなくてはならなくなる。また,効果には累積性があり,二回あるいは三回に分けても合計である期間継続すれば春化の効果が現れる。

春化のメカニズムはまだわかっていないことが多いが,低温によって植物体内での物質変化が変わり,特別なホルモンがつくられるという説が強い。冬が長くまた,気温が低い地方ではこの春化処理の効果は大きく,農業上も利用されている。

 

興味ある話  イチゴが1年中食べられるのは?(作物と日長と温度)

 イチゴは78月に出芽した幼苗が秋の低温・短日に反応して花芽を分化し,春になって高温・長日によって開花結実が促進される。花芽分化後に保温促成すれば12月以後に収穫できる(石垣いちご,ハウスづくり,ビニルトンネルづくり)。幼苗を89月に高冷地(1000m以上)に仮植え(山上げ)して低温による(10℃,数10)花芽分化を促進してから910月に山下げして促成すれば11月から収穫できる。イチゴ苗は低温に強く,花芽形成が進んだものでも0℃前後で暗黒貯蔵すれば100日以上も冬眠を続ける。2月に冷蔵庫に移し,9月に定植すれば1011月に収穫可能となる。また,11月に苗を冷蔵して花芽分化を促進してから12月にハウスに定植すると2月に収穫できる。

 

 

 

 








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