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第2節 発芽の調節

 

◆発芽と環境

植物の生活史は種子の発芽から始まる。種子は幼植物が胚の状態で休眠状態にあり,多くの場合,細胞が水を失った状態で活動が低下した状態にある。したがって,その種子に水を与えるなど好適な条件においてやると,胚が成長して根や芽が種皮を破って外に出てくる。この現象を発芽という。発芽には様々な外的条件が関係していることが知られている。すべての種子の発芽に必要な条件としては,次の3つがあげられる。植物の種類によっては,これらの要因以外に光や化学的刺激が発芽に必要な場合もある。

@水:含水率が10%未満の種子が発芽するためには,まず,吸水が必要である。吸水の速い種子もあれば,種皮が硬いため吸水が遅いものもある。堅い種皮を持つ種子を速く発芽させるには,種皮に傷をつけたり,濃硫酸で種皮を溶かすことによって発芽を早めることもできる。

A適当な温度:植物の種類によって適温は異なるが,普通は1530℃で,5℃以下や40℃以上ではほとんどの種子は発芽しないと考えてよいだろう。

B酸素:発芽時の急激な成長と物質生産には,活発な呼吸が行われる。そのためには大量の酸素が必要である。

 

A 発芽と光

多くの種子の発芽には光は無関係であるが,発芽に光を必要とする「光発芽種子」や,反対に光によって発芽が抑制される「暗発芽種子」もある。暗発芽種子にはケイトウなどのヒユ科植物やカボチャなどがある。光発芽種子には教科書にあげたタバコやレタス以外にも,マツヨイグサやタガラシ・イワタバコ・ヤドリギ・ムシトリスミレなど多くの野生植物が知られている。

この光発芽種子の性質は,暗所で発芽すると光合成ができないので種子に蓄えられた栄養がつきて,芽生えが枯死することを未然に防ぎ,地表面がある程度明るい場合にのみ発芽することで,芽生えが生き残れる確率を高める効果があると考えられる。また,これらの種子は,乾燥した状態では光を感じないが,吸水すると光を感じるようになる。その反応は光の強さ・光の波長・温度や種子の古さなどによっても変化する。

赤色光と遠赤色光の発芽に対する効果は,レタスの一品種で初めて発見された。発芽に有効な光は赤色光(波長580700 nm)で,最も有効なのは波長660nmの光であり,反対に遠赤色光(波長730 nm)が発芽を抑制する。また,赤色光の発芽促進効果は遠赤色光によって打ち消され,両者は何回でも繰り返して打ち消しあう。最後にどちらの光が当たったかによって発芽するかしないかが決まる。このような反応の仕組みは,フィトクロムとよばれる色素タンパク質が光の信号を受け取りスイッチの役割をはたしていることによることが分かった。すなわち,フィトクロムは,赤色光を吸収すると遠赤色光を吸収する型(PFR)に変化し,遠赤色光を吸収すると赤色光を吸収する型(PR)に何度でも変化する。そして,赤色光を吸収した結果生じる遠赤色光を吸収する型 (PFR)が発芽を進行させる信号を発するので,最後にどちらの光が当たったかによって,PFRが存在するか否かが決まりそれによって発芽がするかしないかが決まるのである。レタスの発芽に対する光照射の効果は,ジベレリンの投与によって置き換えることができる。つまり,暗黒条件でも,また,遠赤色光を照射した場合でも,ジベレリンを与えれば,このレタスは発芽する。このことは,光の照射がジベレリンの合成を促進することで種子の休眠を破る効果があることを示している。事実,フィトクロムの光反応とジベレリンの合成が次のようにつながっていることが分かっている。

 

赤色光↓

PR   PFR → ジベレリン合成酵素の誘導 → ジベレリン → 発芽

   ↑遠赤色光

 

B 発芽と植物ホルモン

◆種子発芽とジベレリン

イネの種子が発芽するときに,胚乳に蓄えられたデンプンがアミラーゼによって分解される過程を以下に示した。デンプンを貯蔵養分とするイネなどの穀類の種子を例にして,発芽の際に種子内で生じる変化を見てみよう。

@ 種子が十分吸水すると,胚内でジベレリンが合成される。

A ジベレリンが種皮の内側にある糊粉層へ移動して,そこでアミラーゼの合成を誘導する。

B このアミラーゼが胚乳に分泌され,その作用によって,胚乳に貯蔵されているデンプンが分解され,マルトースやグルコースなどの糖が生じる。

C これらの糖が,胚に吸収されて,芽生えの各部へ運ばれ,呼吸基質となって,好気呼吸が行われてATPが形成される。

D また,胚の細胞が分裂増殖して,芽生えが成長していく際には,セルロースなどの細胞壁の成分である多糖類を生成するための材料としてもこれらの糖が利用される。

発芽の初期に胚からジベレリンが分泌され糊粉層に働きかけてアミラーゼを分泌することが分かったのは,次のような実験による。

まず,オオムギの種子を胚のある方とない方に2分して吸水させると,胚のあるほうの糊粉層だけにアミラーゼが生じ,胚乳のデンプンが分解された。このことから,胚では糊粉層におけるアミラーゼの合成を促進する物質がつくられていると考えられた。さらに,胚のない方にジベレリンを与えると,アミラーゼの合成が見られたことから,胚でジベレリンが合成されることが発芽の引き金になることが明らかになったのである。

 

◆発芽と低温

休眠状態にある種子を,湿潤状態で05℃の低温に数日から数か月さらすと,種子の休眠が破られ,発芽が誘導されることが知られている。この処理は「冷湿処理」とよばれ,冬の低温期の前に発芽すると,芽生えが低温のために枯死する危険性があるので,それを未然に避ける意義がある。一定期間の低温を経てからでないと発芽しないという性質は,春になってから発芽するということであり,芽生えの確実な成長を保障することができる。この冷湿処理の効果もジベレリンの投与で置き換えることが可能である。又,種子の休眠はアブシシン酸によって引き起こされているので,アブシシン酸が種子や芽に多量に存在するとジベレリンの発芽促進効果が打ち消される。また,逆にアブシシン酸が少ないと休眠が浅く,秋の小春日和に,発芽や開花が起こりその植物は子孫を残すことができない。

人間が挿し木で繁殖させている桜などの植物では,初冬に狂い咲きするものがしばしば見受けられる。

 

 

 








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