トップ生物I 改訂版第4部 環境と植物の反応第2章 植物の反応と調節>第1節 成長の調節

第1節 成長の調節

 

 

◆植物の反応と調節の概要

生息場所を移動できない植物は,周囲の環境条件に巧みに適応して生きている。種子の休眠と発芽から,成長・老化に至るまで,植物の一生は複雑な調節を受けている。発芽した芽生えは重力を感じ,茎は上方へ根は下方へ成長する。実際,植物を宇宙空間の微少重力環境で育成すると,根は色々な方向に伸びる。植物の成長は,光や水などの環境要因に対して鋭敏な調節が行われている。また,季節の変化に応じて花芽をつけたり落葉したりする。これらの調節には様々な植物ホルモンが重要な役割をはたしている。

 

A 屈性と傾性

◆屈性と傾性

 植物の芽生えを横たえておくと,根は重力の方向に,茎はその反対方向へ曲がる。また,芽生えを窓際に置くと茎は光の来る方向に,根は光から遠ざかる方向に曲がる。このように植物が外からの刺激に反応して屈曲する性質を屈性という。刺激の来る方向へ屈曲する場合を正の屈性,遠ざかる方向への屈曲を負の屈性という。刺激の種類には,重力,光,接触,水分などがあり,それぞれ,重力屈性,光屈性,接触屈性,水分屈性という。以前,これらの反応は,屈地性,屈光性などと呼ばれたが,現在は上記のように,刺激の種類+屈性という呼び方に統一された。

屈性の他に,植物の器官が刺激の方向とは関係なく一定の方法に曲がる反応がある。これを傾性といい,刺激の種類によって温度傾性や光傾性などがある。タンポポの花弁が光に反応して開閉する性質は光傾性,チューリップの花弁が温度に反応して開閉する性質は温度傾性の例である。

 

屈性や傾性の他にも,植物の器官や細胞は色々な運動をする。植物の運動をまとめると以下のようになる。

◆植物の運動

植物の運動には,その運動をひき起こす仕組みによって成長運動・膨圧運動・乾湿運動などがある。また,単細胞植物や群体をつくる植物では,変形菌の変形体にみられるアメーバ運動,クラミドモナスやボルボックスにみられるべん毛運動などがある。

運動の種類

運 動 の し く み

植物体の一部が他の部分より速く,あるいは大きく成長するために,植物体が一定の方向へ屈曲する運動。

植物の屈性や傾性は,この成長運動である。

植物体の一部の細胞の膨圧に変化が起こり,細胞が膨張したり収縮する結果,植物の一部が屈曲あるいは変形する運動。

オジギソウの葉の接触などによる折りたたまれる運動。ネム・ハギなどの睡眠(就眠)運動。気孔の開閉。

湿

湿度の変化によって起こる物理的運動で,多くは死細胞の細胞壁の含水量の変化による伸び縮み運動である。

ホウセンカの果皮のはじける運動。シダの胞子のうのはじける運動。

タヌキモの捕虫嚢では,水やイオンの能動輸送によって,捕虫嚢内が陰圧になっている。刺激により入口が開くと水の流れによって虫が入り込む。この場合は細胞そのものの膨圧変化が捕虫運動を行うのではない。

 

B 屈性のしくみ

◆ダーウィンなどの実験

イネ科のクサヨシ(カナリアソウ)の幼葉鞘を用いた実験は進化論で有名なチャールズ・ダーウィンと,その息子フランシス・ダーウィンが行ったもので,植物の光屈性研究のさきがけとなったものである。この研究は1900(明治13)に発表された。

【植物成長物質・オーキシンの発見】

その後,ボイセン・イエンセンやウェントの実験に用いられたものはエンバク(燕麦)またはマカラスムギ[Avena sativa L.]と呼ばれる植物である。これはカラスムギに起源を持つ栽培種と考えられる。

 これらの実験で用いられた器官は子葉鞘(または幼葉鞘)である。子葉鞘は第一葉をおおう鞘状の部分で,暗所でよく伸長成長し,中にある未熟な第一葉が土の中から地上に出るまで第一葉を保護しながら成長する器官である。子葉鞘は地上に出ると光が当たるので成長を停止する。子葉鞘は透明なので,子葉鞘を通して第一葉に光が当たり,第一葉が光合成を始め,子葉鞘を突き破って空気中へ出ると葉を広げてさらに成長する。子葉鞘はイネ科植物の薄くて細長い第一葉が土の抵抗を押しのけて地上に出るまでの保護器官()である。

教科書p.21312に示すように,子葉鞘の先端部には下部の伸長を促進する物質が含まれ,その物質が下部に移動して下部の細胞を伸長させたり,不等伸長によって屈曲を引き起こすことが,ボイセン・イエンセンやウェントの実験によって明らかになった。子葉鞘の細胞を伸長させる物質は,オーキシン(auxin)と呼ばれた。語源は,ギリシャ語の成長auxie に由来する。

その後,その物質の化学的実体が研究され,オーキシンa,オーキシンb,ヘテロオーキシン(異なるオーキシンという意味)などが発見されたが,自然の植物体に存在して働いているのは,ヘテロオーキシンであることがわかった。後に,ヘテロオーキシンはインドール−3−酢酸(indole-3-acetic acidIAA) であることが明らかにされた。オーキシンの本体がIAAであることは,ヒトの尿の中にIAAが含まれていて,それがオーキシン作用を示すことが発見されたことによって証明された。一方,当初オーキシンであると考えられたオーキシンa,オーキシンbは,現在の最新技術で,その化合物の性質が再調査され,オーキシンの作用を示さないことが日本の研究者によって証明されている。

 オーキシンのように,植物のある部分でつくられ,からだの他の部分に運ばれ,ごくわずかの量で植物の成長や反応を調節する物質を植物ホルモンという。

 

読み物 根の重力屈性(ツィーシールスキーの発見)

 根は重力の方向に曲がって成長する。ダーウィンの研究に先立ち,その仕組みの研究を行ったのは,ポーランド生まれの植物学者にツィーシールスキーである(1872)。根を横たえておくと重力の方向に曲がって成長するが,先端(根端)を切り取ると曲がらなくなることを発見したのである。根をしばらく横たえて重力の刺激を与えてから,根端を切り取った場合は,横たえられていた時の重力の方向に曲がる。このことは,重力の刺激を感じるのは根端で,それに反応して曲がるのは根端より基部の部分(伸長帯)であり,何らかの信号が根端から伸長帯に伝達されることが示された。

 

C オーキシン

◆オーキシン

前述のように,オーキシンは,ウェント(1928)のエンバク(マカラスムギ)の屈光性の研究から発見された物質で,成長素・成長ホルモンともよばれた。オーキシンの語源は,ギリシャ語のauxieで「成長」を意味する。この物質の化学的本体について多くの研究がなされ,オーキシンa,オーキシンb,ヘテロオーキシンなどが発見されたが,自然の植物体に存在して働いているのは,ヘテロオーキシン(インドール−3−酢酸)であることがわかった。下記の図に示すように,インドール−3−酢酸(IAA)は,比較的簡単な構造の化合物で,植物体内でトリプトファン(アミノ酸の一種)から合成される。オーキシンaとオーキシンbについては,現在の最新技術で,その化合物の性質が再調査され,オーキシンの作用を示さないことが日本の研究者によって証明されている。

 その後,24D(24−ジクロロフェノオキシ酢酸)NAA(1−ナフタレン酢酸)などオーキシンと同じ作用を示す物質が合成され,これらを総称してオーキシンとよぶようになった。しかし,単にオーキシンという場合には,IAAをさすことが多い。現在では,4−クロロインドール−3−酢酸も天然オーキシンとして同定されている。

 

◆オーキシンと屈性

 ツィーシールスキー(読み物参照)やダーウィンの研究で始まった屈性現象には,オーキシンが中心的な役割をはたしていることがその後の数多くの研究によって明らかになった。植物が横たえられると,茎は上に,根は下に曲がって伸長する。その理由を考えてみよう。

 垂直に立っている植物では,頂芽で合成されたオーキシンが茎の上から下へ移動する(極性移動参照)。茎が横たえられると,オーキシンは重力の方向に運ばれて茎の下側に集まってくる。その結果,茎の上側のオーキシン濃度が低くなり,下側の濃度が高くなる。通常,茎の成長にはオーキシンが不足していて,オーキシン濃度が上昇すると成長が促進される。茎の下側のオーキシン濃度が上昇すると,成長速度が上側より大きくなるため茎は上に曲がる。

 一方,根の成長は,オーキシン濃度が茎より低いところで制御されており,茎の成長を促進する濃度では根の成長は抑制される。根のグラフの頂点より右側に示されるように,根では,オーキシン濃度が高い部分の成長は,低い部分より抑制される。したがって,下側で増加したオーキシンによって,根の下側の成長が抑制されるので下に曲がる。微量のオーキシンの定量と放射性同位元素で標識したオーキシンの移動を調べることによって,オーキシンは根の中心部(中心柱)を通って下降し,根端部に達した後,根端から外側の細胞(表皮と皮層)に入って上昇することが分かった。

 近年,オーキシンの移動を司る輸送タンパク質の局在やオーキシンによって誘導される遺伝子の発現状態を比較することによって,この移動様式が支持されている。

このことから,19世紀にツィーシールスキーが発見した根端の役割が理解できる。根端の細胞が重力刺激を感受し,オーキシンの移動が制御されて根の重力屈性が起こる。重力を感受する仕組みの全容はまだ明らかではないが,最初に重力を感じるのは根端の中心部にある平衡細胞(コルメラ細胞)に含まれるアミロプラストと呼ばれるデンプンの袋である。アミロプラストが重力の方向に沈降することが刺激となって、オーキシンがその方向に移動すると考えられている。このオーキシンの移動にはカルシウムが関与している。

 

◆頂芽優勢

 茎の先端にある頂芽が盛んに成長しているときは,下方にある側芽の成長は抑制されているが,頂芽が切り取られると,上位の側芽が成長を始める。この現象を頂芽優勢という。しかし頂芽を切り取った跡にオーキシンを与えておくと側芽の成長は抑制されたままとなる。また,頂芽からのオーキシンの移動を阻害する物質を頂芽の下側に塗っておくと,側芽が成長し始める。したがって,頂芽優勢はオーキシンによって引き起こされていることが分かる。頂芽から移動してきたオーキシンは側芽周辺のサイトカイニン合成を抑制して,側芽でのサイトカイニン量を低下させ,側芽の成長を抑制すると考えられている。

 

◆極性とオーキシンの移動

 植物が成長して茎や枝がつくられると,頂芽から根に向かって細胞の形や性質に勾配が形成される。ヤナギの枝を切り取って湿った容器内につるしておくと,枝の上部からは芽が出て下部からは根が出る。このとき,芽と根の出る位置は決まっていて,枝をつるしておいた方向とは関係がない。枝には上下の方向が決まっていたのである。枝や茎にはこのような方向性を極性という。若い植物の芽生えにも既に極性が形成されており,オーキシンはこの極性にしたがって,子葉鞘や茎の中を上から下へ移動する。このことをオーキシンの極性移動という。オーキシンの極性移動は,放射性同位元素で標識されたオーキシンをつかった実験で確かめることができる。

 

◆発根の促進

 植物の種子には,受精卵から発生して形成された幼根が備わっている。発芽したばかりの若い植物では,幼根が成長して形成された根系が水と栄養の吸収機能を果たす。しかし,多くの植物は,成長に伴って,地面に近い茎からも根を発生する。幼根が成長した根以外の部分から発生した根を不定根と呼ぶ。すなわち,不定根は,茎など根以外の部分から発生したもので,葉から発生する場合もある。イネ科植物では特に不定根の発達が顕著で,地表に近い茎にある節から多数の不定根が発生して成長を支える。成長したイネ,トウモロコシ,タケなどの地表部を観察すると多数の不定根を観察できる。このような不定根は「冠根」と呼ばれ,植物体の成長に伴って大部分の根の機能を支えるようになる。

 不定根は,植物の栄養繁殖(挿し枝,挿し芽,葉挿しなど)に不可欠な器官である。このため,サクラ,チャ,キクなどで挿し木や挿し芽でクローン繁殖するときには,発根促進剤が用いられることが多い。不定根の発生はオーキシンによって誘導されるため,発根促進剤はオーキシンまたは植物に吸収されてオーキシンに変化するオーキシン前駆体が主成分である。市販の発根促進剤には,オキシベロン(インドール酪酸)(バイエルクロップサイエンス株式会社),ルートン(αーナフチルアセトアミド)(石原産業株式会社)などがある。

オーキシンによる不定根の誘導を実験的に観察することができる。その実験例を図に示す。アズキの茎を様々な濃度の天然オーキシンであるインドール酢酸(IAA),合成オーキシンであるα−ナフタレン酢酸(NAA),細胞内でIAAに変化するインドール酪酸(IBA)の溶液に浸し,5日後に一本あたりに発生した根の数を数えた。グラフは,横軸にこれらのオーキシンの濃度,縦軸に発根数を示したものである。

 

図1 オーキシンによって誘導される不定根の数とオーキシン濃度

   IBA:インドール酪酸,NAA:ナフタレン酢酸,IAA:インドール酢酸

 

 

図2 維管束の内鞘部分から発生し,皮層と表皮を押し破って発生する不定根(AR)

   アズキの茎の横断切片の顕微鏡写真(トルイジンブルー染色),

    Pi:髄,Cor:皮層,Ep:表皮,X:木部,P:師部

 

◎実験 アズキの芽生え茎切片からの発根

実験方法

8cmに成長したアズキの芽生えを用意し,それぞれの処理に10本〜20本用いる。

1)Aで切除して,直径2cm程度のバイアル瓶に水を入れて立て,一週間後に観察。

2)上部をB,C,D,Eで取り除いたものと,発根を比較する。

3)オーキシンなど発根剤濃度をテストするときは,AEで切除した短い茎を使用する。

 

左図 茎切片の調製  右図 アズキ芽生えの葉と頂芽を切除した際の発根数

オーキシンを主に生産する若い葉や頂芽を取り除くと,不定根の発生が抑制されていることがわかる。

 

 

『参考』 IAAはアミノ酸トリプトファンからつくられる。

植物体内で,インドール酢酸は,アミノ酸の一種であるトリプトファンから合成される。

 

オーキシンの分布と移動

IAAは遊離型あるいは結合型(アミノ酸や糖などと結合したIAA)として存在するが,とくに種子では結合型が多い。結合型IAAはオーキシンの貯蔵型であると考えられる。植物ホルモンとしての作用を示すのは遊離型IAAであり,結合型IAAはオーキシン作用を示さず,糖やアミノ酸から遊離するとオーキシン作用を示す。IAAの多くは茎の先端で合成されていると考えられていてIAAの含量は茎の先端ほど高い。ただし,発芽したばかりの芽生えでは,種子のなかに貯されていた結合型IAAが先端に運ばれて遊離型となる。生長が進むと葉や根でもIAAは合成されるようになる。

 茎の先端で合成されたIAAは基部方向に求基的に運ばれ,さらに根の先端部に向かって求頂的に移動する。このような極性移動はIAAの特徴で,他の植物ホルモンには見られない。根の先端(根端)への移動は中心柱を通って行われるが,根端に達したIAAは皮層組織を通って基部方向へ移動する。また葉で合成されたIAAは同化産物と同じように師管を通り,根で合成されたIAAは道管中を蒸散流によって上昇することが報告されている。

 

オーキシンの極性移動のしくみ

オーキシン(IAA)は細胞から細胞へ決まった方向に移動する。そして,移動の方向が重力や光の刺激で制御されている。IAAを細胞に取り込むタンパク質と細胞の外に排出するタンパク質があってそれらが細胞の上側と下側多く分布すると,IAAは上から下の細胞へ次々と輸送される。図に示すように,IAAを取り込むタンパク質は,AUX1とよばれ,細胞膜の外側・細胞壁空間にあるIAAを細胞中に取り込む。細胞質に入ったIAAは,原形質流動などで細胞の中を移動し,細胞膜の内側に埋め込まれている排出タンパク質によって細胞の外へ出る。排出作用はPINMDR1という2種類のタンパク質の共同作業と考えられている。このうちPINタンパクは,重力や光の刺激に応じて細胞内での分布が変わるタンパク質であり,これが重力屈性や光屈性の際のIAA輸送に関与していると考えられている。

 

重力屈性のしくみ

 図は根端部におけるIAAの移動とこれを司るIAA排出タンパク質PINの分布を示す。

若い芽や葉で合成され下方に運ばれてきたIAAは根では中心柱の中を下方に移動する。根端に達したIAAは,根冠にある平行細胞に入り,ここで横方向に排出され,根の外側の細胞(表皮と皮層)を通って上部へ移動する。これらの移動方向はPIN1〜PIN4タンパク質が図に示す位置に配置されてIAAを排出することによる。根の重力刺激が根冠細胞で感受されることは,古く1872年のツィーシールスキーの実験で知られているが,根冠細胞中の平衡細胞が重力刺激を感受する細胞である。平衡細胞はアミロプラストと呼ばれるデンプン粒を含んでいて,根端が水平になると,これが重力によって下方に沈降する。この刺激によってPIN3が不等(下方)に分布し,IAAが下方に移動する。その結果,根の下側に沿ってIAA濃度が上昇し,上側より多くのIAAが下部の伸長帯へが移動する。根の伸長帯では,オーキシン濃度が高いほど伸長が抑制されるため根は下側に曲がる。茎では,茎の内皮細胞のアミロプラストが重力で沈降し,内皮細胞の下側にPIN3が分布して,IAAが下側に移動する。その結果,横になった茎の下側のIAA濃度が上昇する。茎ではIAAが不足しており,濃度の上昇が伸長を促進するので,茎の下側の細胞の伸長が促進され,茎は上に曲がる。

 

◆光屈性とオーキシン 

オーキシンの移動が光屈性現象の原因と考えられている。茎の陰側へオーキシンが移動し,光側と陰側のオーキシンの不均等分布が起こり,陰側での成長を促進することが屈曲の原因と考えられている。陰側へのオーキシンの移動の仕組みは不明であるが,細胞膜にあるオーキシンを輸送するタンパク質の働きが注目されている。従来,光によるオーキシンの不均等分布の機構については,@IAAの陰側への移動,A光側での光によるIAAの分解または不活性化の両説があったが,現在は@説が定説となっている。ダイコンの胚軸などで,成長を抑制するある種の物質が光側でつくられるため光側の成長が抑制されることが光屈性の原因であるという考えも提出されている。

 

 

D 成長と運動のしくみ

発展 植物細胞の伸長と肥大

植物の茎や根が細長く伸びるのは,細胞が細長く伸長するからである。その仕組みを考えてみよう。茎や根の先端では頂端分裂組織で細胞が増殖し,分裂した細胞が縦方向に10倍以上も伸長する。このとき,分裂したばかりの若い細胞は細胞壁が薄くて柔らかく,柔軟な細胞壁で取り囲まれている。通常この細胞壁には分裂面と平行な方向にセルロースの微小繊維が張り巡らされていて,細胞壁は分裂面と平行な方向には伸びにくい性質がある。これにはジベレリンという植物ホルモンが関係している。この細胞では,分裂面と垂直な方向には伸びやすいため,細胞は垂直方向により大きく伸長する。オーキシンはこの伸長成長を促進する。一方,植物ホルモンのエチレンなどが作用すると,セルロースの微小繊維が無方向に張り巡らされるために,細胞は等方向に肥大する。このため,エチレンは伸長成長を抑制し,茎を肥大させる。セルロース微小繊維の方向は,細胞内の表層にある微小管と呼ばれるタンパク質の繊維が張り巡らされている方向と同じであることから,微小管が張り巡らされる方向が伸長成長の方向に関係していると考えられている。

 細胞が伸長する場合でも肥大する場合でも,細胞の容積が増大する。植物細胞の成長に伴う細胞容積の増大は,主に吸水によって液胞が増大することによる。吸水成長は,細胞壁が柔らかさを保ちながら伸展することによって起こる。細胞内外の浸透圧差によって細胞壁にかかる圧力(膨圧)が生じ,細胞壁が徐々に進展することによって吸水が起こり細胞容積が増大する。細胞の齢が進んで,細胞壁が堅くなると伸長成長は起こらない。オーキシンやジベレリンは細胞壁の伸展性を高く保つことによって伸長成長を促すと考えられている。

 

◆植物の草丈の調節

ダイコンやレタスなどの植物は,春になると急速に茎を伸ばして草丈が高くなり花を付ける。これらの植物は冬季には,茎が短く葉がバラの花びらのように積み重なっているのでロゼット植物とよばれる。ロゼット植物が春になって茎を伸ばす現象は抽臺(ちゅうだい)と呼ばれる。抽臺はジベレリンという植物ホルモンによって引き起こされる。春になって気温が上昇し日長が長くなるとこれらの植物ではジベレリンが合成され,ジベレリンが茎の伸長を促進する。春が来る前に,レタスにジベレリンを与えると抽臺する。

《茎の伸長成長とジベレリン》 ロゼット植物とは対照的に,多くの植物は夏期に茎を伸ばして成長する。ヘチマやヤブガラシなどの蔓植物は特に伸長が速い。このような茎の伸長にはジベレリンが必要である。メンデルが遺伝子の研究に用いたエンドウの草丈が高いか低いかという対立形質は,ジベレリンの合成遺伝子の支配であることが分かっている。通常,他の遺伝子が健全であれば,ジベレリンの合成能力が茎の長さを決める要因となっている。したがって,草丈の高いエンドウに,ジベレリンの合成を阻害する薬品を与えると草丈を低くすることができ,同時にジベレリンを与えることによって草丈を高く戻すことができる。

 

◆膨圧運動

 オジギソウの葉に手を触れると葉が下降する。この運動は膨圧運動と呼ばれる反応で,刺激の方向とは関係なく起こる傾性(接触傾性)の例である。この反応は,葉の付け根にある葉枕(ようちん)と呼ばれる膨らんだ部分の細胞の膨圧が変化することによって起こる。葉枕の下部の細胞から上部の細胞にカリウムイオンが移動し,それによって水が下部から上部へ移動することによって上側の細胞が膨らみ下側が萎むので葉が下降する。このように細胞の浸透圧の変化とそれに伴う膨圧変化によって起こる運動を膨圧運動と呼ぶ。

 

◆気孔の開閉

 気孔の開閉も膨圧運動によって孔辺細胞が膨らんだり縮んだりすることによって起こる。孔辺細胞は内側(気孔を取り囲む側)の細胞壁が外側より厚くなっていて吸水によって細胞が膨らむと外側に湾曲するため気孔が開き,細胞が萎むと扁平になって気孔が閉じる。吸水は,孔辺細胞が周辺からカリウムイオンを取り込むことによって浸透圧が上昇し,それに伴って吸水が起こることが主な原因である。孔辺細胞のカリウムの取り込みは,細胞膜にあるカリウムチャンネルというタンパク質によって行われ,その働きはアブシシン酸という植物ホルモンによって抑制される。水分が不足すると植物は気孔を閉じて気孔からの蒸散を防ぐが,アブシジン酸はその信号を送る働きをしている。水分の不足は根で感知され,根から葉へアブシジン酸が送られて気孔が閉じると考えられている。一方,気孔の開口は,二酸化炭素濃度の低下や光によって誘導される。この反応は,光合成のための調節と考えられる。

 

◆花や果実の成長と老化

《果実の成長》花が受粉すると子房が発達して果実として成長する。子房の成長は受粉によって発生した種子から分泌されるオーキシンやジベレリンよって調節されている。受粉せずに子房が発達すると種なしの果実ができる。受粉の前にブドウの房をジベレリンで処理すると種なしブドウができる。開花の前にジベレリン処理をして子房の発達を促し開花の後に再度ジベレリン処理して花軸の伸長と子房の成長を促し種なしブドウがつくられている。

《果実の成熟》果実は成長が終わるとやがて成熟して柔らかくなる。この過程には,気体の植物ホルモンであるエチレンが働いている。赤く熟れたリンゴと未熟な青いバナナを同じ容器に入れておく実験によって確かめることができる。この実験から,同じ容器に入っているリンゴが一つ熟して腐り始めると一斉に熟して腐り始める理由が分かる。花が老化してしなびる過程にもエチレンが作用する。反対にサイトカイニンという植物ホルモンは老化を抑制するので,切り花などを長持ちさせるために,エチレンの発生を抑制する薬品やサイトカイニンの作用をもつ薬品が利用される。

 

◆落葉・落果

 葉や果実が老化すると落葉・落果が起こる。落葉・落果・落枝など,植物の器官が植物体から落ちることを器官脱離という。このとき,葉柄や果柄の付け根には離層と呼ばれる細胞層がつくられる。離層には,分離が起こる線に沿って小さな細胞が並んでおり,細胞間の接着を緩める酵素がつくられて細胞間の接着が引き離されて葉や果実の植物体からの離脱が起こる。この過程にもいくつかの植物ホルモンが関与している。細胞間の接着を緩める酵素はエチレンが誘導する。当初,ワタの果実を落果させる物質として発見され,器官脱離(アブシージョン)物質という意味で命名されたホルモン・アブシジン酸はエチレンを誘導することによって器官脱離を起こすことが分かった。アブシジン酸は,種子や芽の休眠を起こす物質として発見されたドルミンと同じ物質であったので,アブシジン酸の主要な働きは休眠誘導であると考えられている。

 

◆ジベレリン

イネの草たけの異常徒長をひきおこすカビ(馬鹿苗病菌,Gibberella fujikuroi)から抽出された物質で,最初黒沢(1926)により発見され,その後,住木・薮田ら日本人学者の手によって研究が進められ,ジベレリンと名づけられた。

 トウモロコシの短茎種にGAを与えると,普通種なみの草たけにまで成長するが,普通種に与えても効果はみられない。このことは普通種の植物体内には多量のGAが生産されているが,短茎種はGA,またはこれと同様な働きをもつ物質の生産が非常に少ない遺伝子をもつためと理解されている。(全ての短茎種がGA不足というのではない)

ジベレリンはまた,IAAと同様に果実の肥大に有効で,とくにたねなしブドウは,GAを噴霧することによってつくられる。これはたんに種子をつくらないのみならず,天然のものより着果率も高く早く酸味がとれ,早く出荷できるので,農業上有益である。

 ジベレリンについてもう1つ重要な作用は,植物の開花,特に長日植物の開花促進に有効であることであろう。ホウレンソウやキャベツなどは長日植物であるが,これを長日処理しないでも,GAを与えると花芽の形成を始める。このことは,フロリゲンと仮称されていた物質が,GAでないかということを想定させるが,短日植物にまったく効果のないことや,植物の種類によっては他のオーキシンによって花芽をつくることが知られていることなどから,フロリゲンには,GAを含めた多くの化学物質があることが予想されている。

 

※ジベレリン(1/10万の水溶液)を開花前の蕾とその後と2回作用させる。子房壁が肥大して無種子の果実となる。おもに利用されているのは小粒のデラウエアという品種で,開花がそろう点と2回の処理ですむという点に経済性がある。

 

◆サイトカイニン

サイトカイニンは核酸の塩基の一つであるアデニンの誘導体で,IAAと協力して細胞の分裂や分化を制御している。

 

◆エチレン

 エチレンは単純な炭化水素分子であるが,オーキシンなど他のホルモンとも協力して植物体の成長を制御している。また,葉の老化や果実の成熟を促進している。

サイトカイニンの一例

エチレン

 

◆アブシシン酸

Addicottが,ワタの果実の離層形成を促進し,落果・落葉を早める物質を発見し,離層形成(abscision)にちなみabscisin(アブシシン・アブサイシン)と命名した。

 一方,Wareingらが樹木の芽の休眠を促す物質を発見し,これに休眠(dormancy)にちなみdormin(ドルミン)と命名した。後に,アブシシンとドルミンは同一物質であることがわかり,アブシシン酸として統一された。アブシシン酸は,一般にオーキシン・ジベレリン・サイトカイニンなどの働きを抑制する。

 

◆植物ホルモンの働きの比較

植物ホルモンのおもな作用を簡単に比較すると,次のようになる

 

 +・・・促進 −・・・抑制 0・・・作用なし

グループ名

オーキシン類

ジベレリン類

サイトカイエン類

アブシシン酸

ホルモン名

インドール酢酸

ジベレリンA1
A2A3など

ゼアチン

アブシシンドルミン

同効物質

生理作用

ナフタレン酢酸
24-Dなど

 

カイネチン

 

細胞の伸長

0(or)

細胞分裂

発  根

0(or)

離層形成

(or)

0

0

単為結果

0

0

光発芽種子の暗発芽

0

0

葉の老化防止

0

 

◆気孔開閉のメカニズム

孔辺細胞の容積の変化はどのようにして生じるのだろうか。かつては,孔辺細胞だけに葉緑体があることから,昼間に光が当たると光合成が行われ,形成された糖分が細胞液に溶けてその浸透圧が高まる結果,吸水が生じると説明されていた。しかし,その後の研究によると,気孔が開くときにはカリウムイオンの孔辺細胞への取り込みが増加することが確認され,孔辺細胞の膨圧の変化は,カリウムイオンの吸収と放出によるという考え方が有力とされている。増田芳雄(1992)は「植物ホルモン入門」の中で,「気孔が開いていると蒸散により葉から次第に水が失われる結果,植物は水不足となる。そうすると葉の組織内のABA含量が急激に高まる。増加したABAの作用により孔辺細胞のカリウム−水素イオンポンプが作動し,カリウムイオンが孔辺細胞から放出される。その結果,孔辺細胞内の水ポテンシャルが上がり,孔辺細胞の吸水力がなくなるため,孔辺細胞内の水は周りの細胞に移動し,孔辺細胞の膨圧が下がり気孔は閉まる。一方,サイトカイニンはABAと全く逆の作用をし,孔辺細胞内のカリウムイオンの流入を促進し,膨圧を高め気孔を開かせる。」と書き,気孔の開閉への植物ホルモンの関与を述べている。

 

植物ホルモンの研究史

 植物ホルモンヘつながる研究の幕あけはチャール

ズ・ダーウィンによってもたらされ,実験生物学の

華やかな19世紀末から20世紀前半にかけて数々の

研究へとつながっていった。もちろん,ダーウィン

のころはまだ植物ホルモンの概念は完成していなか

った。植物も動物のようにホルモンをもっているら

しいということは,フィティングの研究で示された。

彼はランの花粉から抽出した液を,そのランのめし

べの柱頭にぬりつけると子房が成長していくことを

発見し,花粉の中に花粉ホルモンがあるとした。

 これはオーキシン,あるいはジベレリン様物質の

発見につながることにもなるのだが,研究の主流は

やはり屈光性の追及からのものであった。このこと

についてはボイセン・イエンセンの研究が重要であ

った。雲母片をさしこむ実験で,成長を促進する物

質があるということをつきとめたからである。

 このあと,いろいろな研究が重なりあうことで,

多くの物質が植物の成長や開花に関与していること

がわかってきたが,やはり,日本人の発見したジベ

レリンについては触れておきたい。現在の遺伝子工

学では日本人の業績は大きなものがあるが,当時と

してはすばらしい発見であったのだから。

人物紹介

ダーウィン

(Charles Robert Darwin18091882イギリス)

  博物学者であり進化論学者 ビーグル号で世界

  一周し「種の起原」を著す。

ボイセン・イエンセン

(Peter Boysen Jensen 18831959デンマーク)

  コペンハーゲン大学教授 植物生理学者 生産

  生態学の基礎をきずく。光合成と呼吸の関係を

  解明。

ウェント

(Frits Went 1903〜オランダ生まれのアメリカ人)

  カリフォルニア工科大学教授からネバダ大学,

アベナ屈曲試験法の糸口をつけ,その後生態学的研究に移行する。

1880年 チャールズ・ダーウィ

 ンとフランシス・ダーウィン

 屈光性を発見

1909年 フィティング

 ラン花粉の抽出液が子房を肥大。

 植物ホルモンの発見

1910年ごろ ボイセン・イエン

 セン 雲母片を用いて屈光性

 を調べる

1919年 パール 子葉鞘の先

 端部を切り,ずらせてのせる

 と屈性を示すことを発見

1920年 ガーナーとアラード

 光周性の発見

1926年 黒沢英一

 ジベレリンの発見

1928年 ウェント

 植物成長ホルモンが寒天中に

 移行することを発見

1933年 ケーゲル

 人尿中よりオーキシン分離

1934年 ゲイン

 エチレンに果実の成熟を促進

 する作用を発見

1938年 薮田・住木

 ジベレリン結晶化

1955年 スコーグ

 カイネチンの発見

1963年 アンディコットと大

 熊 アブシシン酸の単離

 

 

 

 

 








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