トップ生物I 改訂版第4部 環境と植物の反応第1章 植物の生活と環境>第2節 光合成と環境要因

第2節 光合成と環境要因

 

◆環境要因

生物を取り巻く環境を構成する個々の要因を環境要因という。環境要因については様々なとらえ方や分け方があるが,ふつうは大きく無機的(非生物的)環境要因と生物的環境要因に分ける。さらに,それぞれの要因を下表のように細分することができる。また,クレメンツは無機的環境が生物に及ぼす影響を作用と呼び,その逆に生物がその生活の結果として環境に影響を与えることを反作用と呼んだ(1916)。このように無機的環境と生物とはお互いに影響を与え合っている。一方,捕食者と被食者の関係のように生物どうしも互いに影響を与え合って生活しいている。この関係を相互作用とよぶ。

 

表 環境要因

無機的(非生物的)環境要因

@温度要因(気温・水温・土壌温度)

A光要因(光の強さ・波長・日長など)

B大気要因(酸素濃度・二酸化炭素濃度・湿度・気圧・風・浮遊粒子など)

C水要因(降水量・土壌含水量・波や潮の干満・乾燥・酸性度(pH)・塩分濃度など)

D土壌要因(粒度・通気性・保水性・pH・塩類濃度など)

Eその他(重力・磁力・放射線量など)

 

生物的(有機的)環境要因

@種内関係(同種の個体間)にある要因(異性間の関係・親子間の関係・種内競争など)

A種間関係(異種の生物間)にある要因(捕食・寄生・共生など)

 

生物がつくる様々な有機物が生物的環境要因として作用する。

それらの要因の伝播経路としては,

@エチレンガスやピネンなど大気中・水中・土壌中に放出されて作用するもの。

A植物の根からの分泌物や動物の排泄物,微生物の分泌物などで,土壌中や水中に放出されて作用するもの。

B生物個体が他の個体に直接接触することで作用する現象で,個体密度などが影響する。

*ただし,生物的環境要因は生きている生物だけに限定されるが,有機的環境要因には生きている生物以外に,生物の遺体や排出物などの有機物を含む。

 

◆限定要因

制限因子ともいう。生物現象に関係する様々な環境要因のうち,その現象の性質や大きさ・速度などを制限する主要な要因を限定要因という。他の要因が多少増減してもほとんど影響を受けないが,その限定要因のわずかな変化は全体に大きく影響する。

例えば,緑色植物の行う光合成には光の強さや温度・二酸化炭素濃度など様々な環境要因が影響を与えるが,このうち,温度が適温で光が十分であっても,二酸化炭素濃度が不足すると,光合成速度は著しく制限される。

限定要因はリービッヒ(1843)が提唱した,植物の収量は最も少量に存在する無機成分によって支配されるという「最少量の法則」を生物現象全体に拡張したものとも考えることができる。

 

A 光の強さと光合成速度

◆光合成は地球上のすべての生命活動を支える

地球上の生物が営む運動・成長・生殖などのすべての生命活動のエネルギーは太陽の光エネルギーに依存しており,その光エネルギーを生物が利用できる有機物中の化学エネルギーへと変換できるのは緑色植物と光合成細菌だけである。細菌の中には太陽の光エネルギーに依存せずに,無機物を酸化する際に生じる化学エネルギーによって,有機物を合成できる化学合成細菌もあるが,地球全体の有機物生産の大部分は緑色植物によって行われている。

光合成によって大気中や水中の二酸化炭素が有機物に同化され,この有機物が緑色植物自身の構成成分となるだけでなく,呼吸の基質として使われたり,動物に食物として摂取されて動物体の構成成分となったり呼吸の基質として使われる。呼吸に使われた有機物は最終的には二酸化炭素として排出される。また,これらの動物や植物の遺体や排出物は,土壌中の細菌や菌類によって分解され,再び二酸化炭素として排出される。そして,それらの二酸化炭素を緑色植物が吸収して再び光合成に利用することで,炭素は自然界を循環しているのである。

 

◆葉緑体

 色素体の一種である葉緑体は,ふつう直径510μmで厚さ23μmほどの楕円体で,高等植物では1つの細胞に10〜数100個含まれている。しかし,原核生物である藍藻類は葉緑体をもたず,原始的な紅藻類では1個の球状の葉緑体が見られるだけである。その他の藻類では,らせん状(アオミドロ)・板状(ヒザオリ)・星状(ホシミドロ)・半球状(コンテリクラマゴケ)など大きな葉緑体を1〜数個含んでいる。

 多くの高等植物では,葉緑体は内外2枚の膜で包まれ,内部構造としては内膜系(ラメラ構造,チラコイド)・プラスト顆粒とこれらを取り囲んでいる液状空間であるストロマ(基質)で構成されている。

内膜系の微細構造の基本となっているのがチラコイド(扁平な袋状の構造)で,チラコイドが積み重なったグラナチラコイドと,それらを連絡する膜系で,ストロマに直接に接するストロマチラコイドとに分化している。葉緑体成分は70%が水であるが,水を除いた固形成分のうち,60%はタンパク質で30%が脂質である。また,クロロフィルやカロテノイドなどの色素が7%を占めている。

それ以外に葉緑体は独自のDNAやタンパク質合成系をもち,独自に分裂して増殖する。葉緑体は細胞外へ取り出しても光合成を行うなど,ある程度の自律性をもっているが,完全な機能を発揮するには核の遺伝情報にも依存している。

 

◆光の強さと光合成

光の強さを変えて,単位葉面積当たりの二酸化炭素の吸収速度を指標として光合成速度を測定すると,光合成速度が光の強さとほぼ比例関係にある段階と,光の強さが増加しても光合成速度が増加しない飽和状態にある段階とに分けられる。前者の比例段階においては,最適温度で,二酸化炭素濃度が十分であれば,光合成速度の限定要因は光の強さとなる。それに対して,飽和状態にある段階では,それ以上光の強さを強くしても光合成速度は増加せず,二酸化炭素濃度または温度が限定要因となる。光合成で吸収される二酸化炭素量(または発生する酸素量)と,呼吸で発生する二酸化炭素量(または吸収される酸素量)が同じになる光の強さを補償点といい,呼吸によって排出された二酸化炭素がすべて光合成に使われるので,見かけ上は二酸化炭素の出入りはない。また,温度が一定ならば,呼吸によって発生する二酸化炭素の量は光の強さには関係なくほぼ一定である。光の強さがゼロ(暗黒条件)では,呼吸だけが行われているので,二酸化炭素の吸収量はマイナスの値であるが,しだいに光の強さを強くすると光合成によって吸収される二酸化炭素量が多くなり,補償点で両者の値が等しくなる。

植物が成長するには補償点より明るい光を必要とするが,成育に必要な光の強さは植物の種類によって異なっている。弱い光でも成育できるカンアオイと強い光で成育するハマアカザを例に挙げると,ハマアカザは補償点が高く5000ルクス付近であるが,カンアオイは2000ルクス付近で補償点が低く,20005000ルクス程度の比較的弱い光のもとで成育できる。カンアオイのような弱い光で成育できる植物を陰生植物,成育に強い光を必要とするハマアカザのような植物を陽生植物という。

 一方,同一個体中でも場所によって異なる形態の葉が形成される。植物は光合成のために太陽光に向かって葉を展開するが,茎を伸ばして多数の葉を立体的に展開する植物では,上部の葉と下部の葉に当たる光量が大きく異なる。このような光量の違いに対応して,構造の異なる葉が形成されることが,ブナやツバキなど多くの植物で観察される。

葉の組織構造は,上部から表皮・柵状組織・海綿状組織と細胞が層状に積み重なっているが,太陽光のよく当たる葉では,葉緑体をたくさん含む柵状組織が発達し,2層,3層に積み重なって強い光を光合成に有効に利用できる構造となっている。このような葉を陽葉という。一方,下部に展開する葉は,柵状組織は1層程度で発達せず,葉の厚さも陽葉に比べて薄い。このような葉を陰葉という。陰葉は陽葉に比べて光補償点が低いという生理的特徴もあり,同一個体中に,光条件の違いに適応して機能と構造の異なる陽葉と陰葉が形成される。

 

B 二酸化炭素濃度と光合成速度

◆二酸化炭素濃度と光合成

温度を一定にして2段階の光の強さのもとで,二酸化炭素濃度を変化させたときの光合成速度では,二酸化炭素濃度が低い場合は,光の強さにかかわらず光合成速度は等しく,二酸化炭素濃度に比例して増加することがわかる。この条件では,二酸化炭素濃度が光合成の限定要因になっている。さらに,二酸化炭素濃度が増加すると,光の強さによって光合成速度に差が生じてきて,0.2%に達するとこれ以上二酸化炭素濃度が増加しても光合成速度は増加せず,この条件では光の強さが限定要因になることがわかる。

 また,本文で示したように,現在の地球大気中の二酸化炭素濃度の平均的な値は0.037%である。グラフを見ると,この条件下では温度が適温で強い光が当たっている晴天時には,植物にとっては二酸化炭素濃度が最も不足していることがわかる。その上,無風状態では葉が吸収した分の二酸化炭素を供給できず,さらに風の弱い状態でも葉の周辺に存在する葉面境界層(葉付近の風速が極端に低い部分)を破壊できず,二酸化炭素の供給が低下するため,葉の周辺の二酸化炭素濃度は低下する。そのため二酸化炭素濃度が限定要因となる。ところが,光が弱い条件下では,現在の大気中の二酸化炭素濃度で光合成速度が飽和状態であることがわかる。

 

C 温度と光合成速度

◆温度と光合成

いま,いろいろな温度条件のもとで,光をしだいに強くしながら光合成速度を測定すると,図の左のような結果が得られる。これを見ると,光の強さがA点に達するまではどの温度条件でも光合成速度は一定であることがわかる。このように弱光下では光合成速度は温度とは無関係で,光の強さが限定要因になっている。さらに光の強さを強くすると,温度によって光合成速度に差が生じてきて,図のB点ではどの温度条件でも,もはやこれ以上光を強くしても光合成速度は増加せず,温度によって光合成速度が決まってしまうことがわかる。この条件では温度が限定要因になっているのである。これらのことから,光合成には2つの反応,つまり,温度には無関係で光の強さに比例する反応(光化学反応)と,光の強さには無関係で温度に比例する反応(酵素反応)とがあることが推測できる。

 

発展 厳しい環境に適応する植物

 光合成で二酸化炭素を還元して有機物として取り込むのは,ルビスコと呼ばれる酵素の働きによる。ルビスコは,RibuloseBisphosphate-Carboxylase/Oxygenase の省略名である。リブロースビスリン酸−炭酸化−酸素化−酵素という意味である。ルビスコが触媒する反応は,RuBP(RibuloseBisphosphate)と呼ばれる炭素数5の糖に二個のリン酸が結合した糖の一種に,CO2を結合させ,炭素数6の中間体を経て,直ちに,PGA(phosphoglyceric acid)という炭素数3の有機酸を2分子生じるという,やや複雑な反応を触媒する。即ちC5+C1→(C6)→C3+C3 という炭素数のつなぎ替えを触媒する。ルビスコは,当然CO2分子に親和性が高いのだが,酸素にも親和性があり,4分子のCO2と反応する間に1分子のO2とも反応する。 酵素名にOxygenase(酸素化酵素) が付いている所以である。ルビスコがO2を捕捉して,RuBP O2が結合した場合は,炭素数が増えないため,炭素数2のホスホグリコール酸と炭素数3PGA を生じる(C5O2C2+C3)。結果として,光エネルギーを費やして準備したRuBPC5)が,CO2を取り込まずに消費されてしまう。ホスホグリコール酸(C2)は,ミトコンドリアで代謝されCO2を発生するので,この反応は光呼吸と呼ばれる。

35億年前,CO2濃度が高くO20.003%という条件で光合成細菌の中で働き始めたルビスコの反応が,自らの働き(光合成)によって酸素濃度が上昇し,CO2濃度が減少したことによって反応効率が低下してきたとみることができる。

現在の地球大気には,CO2濃度が0.037%しかないのに対して,酸素濃度は21% もある。加えて,強い光の下で活発にCO2を吸収すると周辺のCO2濃度はさらに低下する。とりわけ,乾燥ストレスによって気孔を閉じたときには,植物体内のCO2濃度はゼロに近くなりCO2固定はできなくなる。カルビン回路は回らないので,ADPはすべてATPになり,NADPもすべて還元された状態(NADPH)で貯まる。それでも,クロロフィルをはじめ光合成色素に光エネルギーは吸収され続け,励起分子からのエネルギーは行き場を失い,様々なラジカルを生じる。その中で,酸素ラジカルは周辺の生体分子と反応して障害を与え,葉を枯死させる。ラジカルを発生させないためには光合成色素に吸収されたエネルギーを正常な経路で流し続けなければならない。すなわち,光が当たり続ける限りATPNADPHは消費される必要がある。

植物はこの難題を見事に解決している。前述の光呼吸が,この難題を解決する巧妙な手段である。ルビスコが一見無駄と考えられる,酸素をRuBPに結合させ,ホスホグリコール酸を生じる反応は,カルビン回路を回転させグリコール酸を代謝してCO2を発生させる。これによって,ATPNADPHを消費してエネルギーの過剰な蓄積を防ぐ役割を果たす。

さらに,光呼吸で発生するCO2は,ルビスコが容易に捕捉してカルビン回路に回される。従って,光呼吸は無駄なエネルギー消費ではなく,強い光と,乾燥といった環境条件の変化に対応した巧みで経済的な手法であると考えられる。

その他,光障害を避けるため,植物は葉に当たる光の強さを調節している。葉の傾きを変えたり(マメ科植物やカタバミ科の植物),表面にワックスを分泌したり(ベンケイソウ),さらには,細胞の中で葉緑体の配列を積み重ねたり横に広げたりして,適度な光エネルギーを取り入れるよう調節する例が知られている。

(ちなみに,植物の葉に含まれる全可溶性タンパク質の半分がルビスコであり,ルビスコは地球上にもっとも多量に存在するタンパク質である。)

 

 

 

 








本サイトに掲載された記事や画像の無断転載を禁じます。
Copyright(C) 2009-2012 SHINKOSHUPPANSHA KEIRINKAN CO.,LTD. All rights reserved.