トップ生物I 改訂版第4部 環境と植物の反応第1章 植物の生活と環境>第1節 水の吸収と移動

第1節 水の吸収と移動

 

◆吸水のしくみ

陸上植物の吸水は主として根で行われており,根毛または根の表皮細胞から内部の細胞へと浸透的に水が移動する。表皮細胞で吸収された水は,皮層を通り内皮を通過して,維管束系の木部道管細胞に入る。根の細胞が浸透圧の差を利用して水を吸収する力は根から地上部へ水を押し上げる力として働く。これを根圧という。根圧の存在は,植物を茎の基部で切断すると,切口から水が排出されることからもわかる。この吸水は浸透圧の差を利用した能動的なもので,低温や酸素の欠乏で抑制される。次の項で述べるように,吸水から蒸散にいたる水の移動は,葉の蒸散作用に大きく依存しており,蒸散のさかんな日中には吸水も活発に行われる。

根毛から道官にいたる水分の経路を詳しく見ると,2通りの経路がある。一つは,細胞壁の部分を通過する経路であり,もう一つは細胞の中を通過する経路である。細胞壁を通過する経路では,水分子は細胞壁を構成する多糖類の水和水として,また,自由水として移動している。細胞壁空間の領域は,細胞質(サイトプラズム)に対して,アポプラストと呼ばれるので,この水の移動経路をアポプラスミック吸水と呼ぶ。細胞を通過する経路では,水分がいったん表皮細胞の細胞膜を通して細胞内に入り,隣接する細胞内を順次道管まで移動していく経路である。 表皮細胞と皮層細胞の連続した細胞集団をシンプラストと呼ぶので,この水の移動経路をシンプラスミック吸水という。このうち,前者が主たる経路と考えられている。しかし,根の中心部にある維管束は内皮細胞によって取り囲まれていて,全ての水は内皮細胞の中を通過する。その理由は,内皮細胞の放射方向の細胞壁にはカスパリー線と呼ばれる水を通しにくい層があり,水はこの線を通過できないからである(図1の内皮細胞の図参照)。したがって,どちらの経路を通ってきた水も内皮組織では,細胞の中を通って道管細胞に入ると考えられている。

 

◆水の運搬−水が上昇するしくみ−

大気圧は1気圧なのでこれだけでは水は約10mまでしか上昇できないはずである。しかし,樹高が100mを越える樹木の先端にまで水が運ばれているのはどのようなしくみのよるのだろうか。この水の移動のメカニズムについては,様々な説が提唱されて議論されてきた。まだ,十分に解明されているわけではないが,ディクソン(1909)らによって提唱された「凝集力説」に基づいて,おおよそ,次のようにまとめることができる。

(1) 葉における蒸散によって,葉の基本組織系の細胞が水を失う結果,細胞溶液の溶質濃度が高まり,浸透圧が上昇する。

(2) 浸透圧が高まったそれらの細胞は,より低い浸透圧を持つ隣接する細胞から水を浸透的に吸収する。このようにして,次々に隣接する細胞間に浸透圧の勾配が生じ,葉の道管から隣接する細胞へ,水が浸透的に引き出される。

(3) その結果,道管内には負の圧力が生じ,道管内の水柱を上に引き上げようとする力が生じる。

(4) 道管内の水分子どうしの間には凝集力が働くために,管内の水柱全体が引き上げられ,結果的に根の道管にも負の圧力が及ぶことになる。

(5) 根の道管の負の圧力に加えて,根では外から内部への浸透圧差に起因する根圧が生じているので,土壌中の水が表皮細胞から吸収され,道管に達する。

(6) 結局,10mを超える高さに水が引き上げられる原動力は,葉から空気中へ水が蒸散するときに生じる吸引圧に起因すると考えられる。液体の水が空気中に蒸発するときの圧力差が,道管中の細い水の柱を100mも引き上げる力を生じると考えられる。

 

◆蒸散の調節

前の項でも述べたように,蒸散作用は根における吸水とそれに伴う無機栄養塩類の吸収および,それらを植物体に分配するために非常に重要である。それとともに,水が水蒸気となる時に大量の気化熱を奪うので,葉の温度を低下させ,太陽光による葉面の温度上昇を防ぐために役立っている。

 蒸散の調節はこの気孔の開閉によって行われている。一般に,気孔は昼間開いて夜間には閉じる。また,晴れた高温の日にはよく開き,雨や寒い日には閉じる。また,風が強く蒸散の激しいときなど,葉の水分が不足している時には気孔は閉じることが知られている。気孔を形作る孔辺細胞の浸透圧が高くなると,吸水が増えて孔辺細胞が膨らむ。孔辺細胞の細胞壁は内側が厚く外側が薄いため,膨らむと内側に湾曲する性質がある。このため,孔辺細胞間の内側のすき間が大きくなり気孔が開く。反対に孔辺細胞から水分が失われると,細胞は扁平になり,気孔は閉じてしまう(教科書p.22119)。

 

◆根の働きと菌根菌

 植物の根は,水やミネラルを吸収することを主な機能とした器官である。葉や茎や花などの地上器官を支えるために植物は長大な根を土壌中に展開している。一方,土の中には様々な生物が生きているが,光が届かない地中での生命活動は,植物の根が地中深くまで供給する有機物と,地上から水に溶けて浸透する有機物や無機塩類などに依存している。紫外線が届かず,湿度が保たれている土の中は,微生物の繁殖に適した環境でもある。

 土壌中の微生物の中には,植物の根に寄生して直接有機物を獲得しているものがある。マメ科植物に寄生し,根粒を形成して空気中の窒素を固定して共生関係を営む根粒菌 [Rhizobium 属,Bradyrhizobium属など]や,270種あまりの非マメ科植物と共生する放線菌(フランキア)がある。フランキアと共生を営む非マメ科植物をアクチノリザル植物という。アクチノリザル植物の多くは,双子葉の灌木か高木であり,植物群落の形成過程では,パイオニア植物(先駆植物)として貧栄養な土壌環境で森林を形成する働きをしている。

一方,もっと幅広く多くの陸上植物と共生関係を営んでいる菌根菌と呼ばれる糸状菌の仲間がある。これらの糸状菌は,根粒菌と同様に植物の光合成産物を根から提供される一方で,土壌中のリンや水などの養水分を植物に供給する共生関係を太古から営んでいる。この共生関係,とりわけ土壌から吸収しにくいリンの供給は,多くの植物の成長を助ける働きをしている。近年この共生関係の詳細が明らかになるにつれて,森林を中心とした自然環境の保全においても,農作物の育成においても,広く菌根菌を健全に育成する土壌環境の醸成が重視されてきている。

 菌根菌には内生菌根菌と外生菌根菌がある。内生菌根菌は,菌糸が根の内部に入り込んで伸長する菌で,内部に状体(vesicle)を形成するものと,樹枝状体(arbuscule)を形成するものがある。これらの形態は菌糸が変形したもので,根の皮層細胞の細胞質を押しのけて細胞膜と細胞壁の間に形成される。外生菌根菌は,細胞壁間隙に菌糸を伸ばし,植物の根の外周を菌糸で包み鞘状の構造を形成して寄生する。両者は,合わせて「VA菌根菌」とよばれ,大部分の陸上植物と共生するといわれている。この共生は農業上も利用されており,農地にVA菌根菌の胞子を蒔くことによって農作物の健全な育成が図られている。

 菌根菌の菌糸には隔壁がなく細胞質流動(原形質流動)によって水とミネラルが高速で長距離移動する。内生菌根菌の中に,巨大な胞子を形成するGigaspora属がある。この胞子は,直径0.5mm程度の球形で,肉眼でも見える大きさである。この胞子は発芽して菌糸を伸ばし植物の根に侵入するが,その前に菌糸が枝分かれすることが知られている。この菌糸の枝分かれを誘導する物質・分岐因子が根から分泌されていることが知られていたが,近年その成分がストリゴラクトン(Strigolactone)と呼ばれる微量物質であることが明らかにされた。この物質群は,既にソルガムなどの根に寄生する寄生雑草ストライガ(Striga)の発芽誘導物質として知られていた物質の仲間であった。植物の根が分泌する物質に対して,菌類と寄生植物(種子植物)が信号として認識して利用していることは,土壌中での生物間の情報伝達機構の広がりを考えると大変興味深い。

 根の皮層組織に侵入した菌糸は樹状体や嚢胞体と呼ばれる構造体を細胞膜と細胞壁の間に形成して栄養交換器官となる。根からの有機物を得た菌糸は,土壌中に伸び広がって土壌から無機物と水を吸収する。無機物の中でも植物の3大栄養素(窒素,リン酸,カリウム)の一つであるリン酸は土壌中に少なく,植物が吸収しにくい成分である。菌根菌は,そのリン酸を土壌の広い範囲から吸収して根に運ぶため植物の生育を助長する。また,無機元素と同時に水も広い範囲から輸送するため,菌根菌と共生した植物は乾燥にも強くなる。

このように,植物は自らの成長に必要な元素,窒素とリン酸を手に入れるため,根粒菌や菌根菌を根で育成することによって,得難い窒素源の獲得と,土壌中のリンを広範囲から集めることに役立てている。これらの菌類と植物との共生は,貧栄養の土壌や,塩ストレスの強い環境で,これらの植物が繁殖するために特に役立っていると考えられる。

現在は,農作物との共生を促すため,農地に散布するための菌根菌の胞子が工場生産されて市販されている。

根の表面が土壌と接触する範囲は,根の半径0.5 mm 程度の太さと 長さ1 mm 程度の根毛を合わせても直径 2 mm 程度の範囲でしかないが,菌根菌はその100 倍もの範囲へ菌糸を伸ばして土壌中の水やリン酸を吸収する。

 

 

 

 








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