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第5節 連鎖と組換え

 

A だ腺染色体

だ腺染色体

双翅類のだ液腺の間期核に見られる巨大な染色体で,この染色体の著しい特徴は,(1)リボン状で幅5μm,長さ400μmに達し,普通の染色体の100150倍にあたる。(2)だ腺染色体が形成されると,もはや核分裂は進行せず,それ以後は染色体の染色糸だけがつぎつぎ縦裂し,多糸性の染色体ができて幅を増す。このとき長さも増して巨大化する。(3)全長にわたって好塩基性の横縞があり,そのようすは相同染色体どうしでは同一である。この縞の位置にDNAが分布している。(4)相同染色体どうしが対合をして二価染色体となっている。

 このような特徴をもつ染色体は,多くの双翅類の食道・腸・マルピーギなどでも見られ,そのため巨大染色体または多糸性染色体とよぶほうがよいともいわれる。

 

B 遺伝子の連鎖と組換え

C 組換えのしくみと組換え価

遺伝子説と連鎖

メンデルの法則が再発見された1900年以後,次のような研究の積み重ねがあり,1912年にモーガンは遺伝子が染色体上にあるという遺伝子説を確立した。

(1)  サットンが,減数分裂の観察から,相同染色体の対合や分離の現象をメンデルの法則と対応させて説明(1902)

(2)  ベーツソンとパネットは,スイートピーで遺伝子の連鎖を発見(1905)

(3)  モーガンはショウジョウバエで白眼の突然変異を発見し,その伴性遺伝を研究して,染色体と遺伝子の行動が一致することを見る。

 そして,モーガンらは連鎖の現象から,1つの遺伝子連鎖群は1つの染色体に属することを明らかにし,さらに,相同染色体にある2組の遺伝子の間で交さが行われていることを知り,これを説明するために遺伝子が染色体上に一定の順序で直線的に配列していると考え,組換え価から染色体地図をつくった。

 

連鎖と組換え

ベーツソンとパネットによって,連鎖と組換えが研究され,メンデルの法則に従わない結果が報告された。F2の分離比を見ると,二遺伝子雑種の場合の9331とも違い,完全連鎖の場合の〔紫・長〕:〔赤・丸〕=31とも違う。つまり,

 

という連鎖が一部やぶれて,F1の配偶子にAbaBという組み合わせのものが少し現れたと考えれば,この結果が説明できる。

 もし,F1()より配偶子がABAbaBabn11nの比で生じるとすれば,F2は次のようになる。

n AB

1 Ab

1 aB

n ab

n AB

n2

 

n

 

n

 

n2

 

1 Ab

n

 

1

 

1

 

n

 

1 aB

n

 

1

 

1

 

n

 

n ab

n2

 

n

 

n

 

n2

 

注意:遺伝子の表示のしかたは,次のような遺伝子学会の規約(1958)がある。遺伝子の式は分数の形とし,母方からの遺伝子を前または上に書く。1つの分数は1つの遺伝子群に対応する。異なる連鎖群はセミコロンをもって境にした別の分数とし,染色体の番号の順序に配列する。

またはa/a  

 

教科書では,この規約に基づく表記を検討したが,規則を覚える必要があったりするので,特別な配慮はしていない。

 

これをまとめると,

紫・長=3n24n2

1528

紫・丸=2n1

106

赤・長=2n1

117

赤・丸=n2

381

合計 =4n28n4

2132

そこで,F2の全個体数と組換えによって生じた個体数の比を求めると,

 

したがって,

n27.56n3.780    

n8.03n=−0.47

 

 

ゆえに,n8となり,この場合の組換え価は,

 

 

組換え価

相同染色体相互の間における部分的交換の現象を乗換え,あるいは交さという。具体的には減数分裂の第一分裂前期に相同染色体が対合したときに,中央の2本がよじれて,その一部を交換することが多い。その結果として,連鎖している遺伝子の組合わせが変化し,遺伝子の組換えが生じる。また,組換えの生じる頻度を組換え価とよぶが,F1と劣性ホモの個体との検定交雑をして生じた子の形質を調べて,次式によって求めることができる。

 

組換え価〔%=

形質に組換えが生じた個体数

×100

(検定交雑をして)生じた子の全個体数

 

D 染色体地図と遺伝子の配列

染色体地図と遺伝子の配列

染色体上における遺伝子の相対的位置を図示したもので,組換え価から作成する遺伝学的地図と,だ液腺染色体の特有の横じまと染色体異常による形質の変化から作成する細胞学的地図とがある。モーガンらが初めてキイロショウジョウバエで作成して以後,コムギ・カイコガなど多くの生物で前者の方法で染色体地図が作られている。このときは,連鎖している3つの遺伝子に着目して交配をくり返し,2つずつの遺伝子間の組換え価を求めることで,それぞれの遺伝子の相対的位置を決定する方法(三点交雑)が用いられる。

 

ショウジョウバエの染色体地図

各染色体(下図)の左側の数字は末端(図では上端)0.0として相対的な距離を表している。染色体上の○印は動原体の位置,染色体の右側には遺伝子記号とそれを表す形質を( )内に示してある。大文字記号は正常野生型に対して優性であることを,また小文字は劣性であることを示す。

 

ヒトの染色体地図の作り方

染色体地図の作成にあたっては,各染色体を同定することが必要である。ヒトの常染色体は,AG7群に分けられる。その7群をさらに形態をもとに分ける場合,1番,2番,3番, 16番および性染色体のYは他の染色体と識別できるが,それ以外の同定は困難であった。1970年代以後,新しい染色法が開発され,各染色体をそれぞれ特有の縞模様に染色できるようになり,同定が可能になった。

 まず,Casperssonらが,アクリジン系のキナクリン・マスタード(QM)という色素で染色した後,蛍光顕微鏡で観察する方法を開発した。それにより,ヒトの染色体は,強い蛍光を発する部分とそれ以外の部分とが識別され,しかもそのパターンは各染色体により違っている。この模様をQバンドという。次に,熱処理によりDNAの変性と再構成を行わせてギムザ染色をすると,各染色体は長軸にそって濃淡の縞模様ができる(GバンドとRバンド)。この縞の位置や数などで,各染色体を同定できる。このような方法により,たとえば21番と22番の染色体を区別することが可能になり,ダウン症の患者は21番を3本もつことが確定した。

 ヒトの染色体地図の作成に大きく貢献したのは,細胞融合である。ヒト(染色体数46)とマウス(染色体数40)の細胞をHVJウイルス(センダイウイルス)などにより融合させて,雑種細胞をつくる。その細胞は86本の染色体を有するはずであるが,継代培養をしている間に,染色体数がどんどん減少する。その際に減るのはヒトの染色体の方で,マウスの染色体はほぼ完全に残っている。そして,マウスの染色体の1セットに加えて,ヒトの染色体が少数加わった形の安定した雑種系細胞を得ることができる。それらを用いて,次の方法で染色体地図がつくられる。

(1)  分離法 上述の細胞融合で得た雑種系細胞を用い,それぞれの系統の細胞がどんな酵素活性をもつかを調べる。そして,雑種系細胞に含まれているヒトの染色体と酵素活性とを対応させて,どの染色体にどんな酵素の合成を指令する遺伝子が存在するかを決めていく。とくに,欠失や転座のある染色体を指標にして,遺伝子の染色体上の位置づけを行う。たとえば,No.1染色体の短腕の末端近くにあるエノラーゼ1(ENO 1 )遺伝子は,No.1No.17の相互転座をもった人の細胞を用いて位置決定がなされた。

(2)  家系分析 連関(リンケージ)を利用して,すでに位置づけの決まっている遺伝子の近くにある遺伝子を見つけることができる。たとえば,家系を調べることで,ABO式血液型とアデニル酸キナーゼ1(AK 1 )が強い連関のあることがわかった。AK 1遺伝子は(1)の分離法でNo.9染色体に位置づけられたので,ABO式血液型の遺伝子もNo.9染色体にあることが確定した。

(3)  小核移入法 コルセミド(有糸分裂の阻害剤)の存在下で長期間細胞を培養すると,核が小さく,多数に分かれる。この核を脱核した後,細胞融合させる方法である。プロコラーゲン1(PCL 1 )遺伝子がNo.17染色体にあることは,この方法でわかった。しかし,このやり方は成功しないことも多い。

(4)  染色体移入法 染色体が短くなっている分裂中期の細胞を多数集め,細胞をこわしてから,特定の遺伝子機能のない細胞に細胞融合で染色体を移入する方法である。これも成功率は高くない。

(5)  雑種分子法 DNARNAの雑種分子を中期の細胞でつくらせることで,遺伝子の位置づけを行う方法がある。リボソームRNAが,No.1314152122のそれぞれ短腕で合成されていること,ヘモグロビンβ(HBB)遺伝子がNo.11にあることは,この方法でわかった。

(6)  ウイルスによる変形法 アデノウイルスは,No.1No.174箇所染色体の変形(らせん構造がゆるむ)を起こさせる。このような変形と遺伝子の働きを関連させる。

 以上のほかにも,制限酵素によるDNA断片で,遺伝子の微細構造を解析することなども,最近行われている。

 このようにして,ヒトの染色体地図は相当に細かくわかりつつあるが,細胞融合を用いていること,形質の決定は酵素活性が指標となったことなどから,酵素についてよくわかってきたが,他の形質についてはそれほどはよくわかっていない。

 

9染色体

9染色体(No.9染色体)は,ヒトの常染色体(22)の中で,長さが9番目のものである。この染色体には,ABO式血液型を支配する遺伝子があるので,有名になった。

 特殊な染色法で,縞模様に染めたときには,図のようになっている。

上に示してあるのは,それぞれ形質(酵素活性を含む記号)で,それぞれ次の意味である。

 AK 3:アデニール酸キナーゼ3

ACO 1:アコニターゼ(可溶性)

GALT:ガラクトース‐1‐リン酸ウリジルトランスフェラーゼ(ヘキソース1リン酸ウリジルトランスフェラーゼ)

AK 1:アデニール酸キナーゼ1

ABOABO式血液型

 NPS 1:瓜膝蓋症候群1

 ASS:アルギノコハク酸合成酵素

 このように,第9染色体にあることが現在明らかになっているのは,上記の7遺伝子である。それらの中で,酵素に関しては細胞融合を用いた分離法で,ABO式血液型については,前項の「ヒトの染色体地図の作り方」で述べたように,AK 1と強く連関していることが家系調査でわかった。NPS 1についても同様である。

 なお,ヒトの血液型を支配する遺伝子で,Rh式はNo.1常染色体に,MNSs式はNo.4染色体に存在することがわかっている。

 

 

 

 








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