トップ生物I 改訂版第2部 生命の連続性第3章 遺伝>第4節 性と遺伝

第4節 性と遺伝

 

A 性染色体と性の決定

◆性の決定様式

ホシカメムシの精母細胞の分裂中に特殊な行動をする小形の染色体を発見したヘンキングは,その意義が不明なのでX染色体と名づけたが,後にこれによって性が決定されることがわかった。性染色体の組合わせによる性の決定様式は,次に示される4通りであるが,大きく2つに分けると雄がヘテロで雌がホモである場合(雄の配偶子が2種類できる)と,雄がホモで雌がヘテロである場合(雌の配偶子が2種類できる)とに分けられる。前者の場合がXY型とXO型で,後者の場合がZW型とZO型である。したがって,XY型とZW型,XO型とZO型は,ただ雌雄の関係を逆にしたものである。(ただし,学術的には,1959年チューリヒでの国際会議により,ZWZOXYXOと表記されている)

 体細胞の染色体構成を見ると,XY型とZW型とでは,雌雄の染色体数(2n)は同数であるが,XO型とZO型とでは,雌雄の染色体数(2n)は異なっている。

 XY型・・・・・・キイロショウジョウバエ(=♀=8),クワ(=♀=14)

 XO型・・・・・・ホシカメムシ(23,♀=24),ヤマノイモ(35,♀=36)

 ZW型・・・・・・カイコ(=♀=56),ニワトリ(=♀=78)

 ZO型・・・・・・ミノガの一種(62,♀=61)

 動植物に最も普通に見られる型はXY型で,ヒトの場合はXO型とXY型の2つの主張があったが,1956年以後はXY型として認められている。

 染色体が性の決定に重要な役割をもっていることは明らかであるが,性染色体だけによって性の決定がなされるということはまだ検討の余地がある。

 例えば,ショウジョウバエでは,雌性決定要素はX染色体上に,雄性決定要素は常染色体上に存在すると考えられていたり,マイマイガ(ZW)では,雄性因子はZ染色体上に,雌性因子は細胞質にあるとされている。また,発育中の内外・外的環境条件(ホルモン・温度など)によって,性が決定されたり,転換される例も多く知られている。

 

◆性を決める因子

性染色体が性を決める能力は,種によって大きな違いがある。ヒトと同じXY型のショウジョウバエの場合,Y染色体の性決定能力はほとんどなく,常染色体とX染色体の比率によって性が決定される。正常なショウジョウバエの体細胞の常染色体を2Aで表したとき, A80X100の値をもつとする。正常な雌は2A2Xであるから,X/A1.25となり,正常な雄は2AXYであるからX/A0.625となる。このように, X/Aの値を出すと,1.88は超雌,1.25は雌,0.940.73は間性,0.625は雄, 0.42は超雄となる。

 このように,常染色体とX染色体の比で性が決まるのは,植物のスイバでも知られており,Y染色体が性決定にほとんど関与していないことになる。

 これに対して,ヒトではY染色体が高い性決定能力をもつ。XXYXXXYのような場合,すべて男性になる。同様な例は,カイコガで,その場合はZW型であるが,W染色体の雌雄決定能力はたいへん高く,ZZWZZZWも雌になる。

 ヒトのY染色体には,TDFと名づけられている男性決定遺伝子がある。かつて,HY抗原が性決定に働くと考えられ,XX型の人でもHY抗原をもつと男性になることが知られていた。しかし,最近になって,TDFが主役であり,HY抗原の生成を支配する遺伝子は,TDF遺伝子のごく近くにあるので,HY抗原をもつ人は,TDF遺伝子をもつと考えられるようになってきた。

 ヒトの性決定で明らかになったもう一つの事実は,TDFをもつ人(つまり,普通はY染色体をもつ人)は,発生の早い時期に,大きな影響を受けることである。妊娠8週目ごろから,雄性ホルモン(主にテストステロン)が分泌され,妊娠12週から18週にかけてピークに達し,28週目ぐらいで分泌量が低下する。ピーク時の血液中の雄性ホルモンの濃度は,成人男子の値に匹敵する(ただし,胎児は小さいから量としては少ない)。そして,一度低下したホルモンの分泌は,誕生後2日から生後6か月にかけてまた上昇する。このようなホルモン分泌を,ホルモンシャワーとよんでいる。

 つまり,TDF遺伝子があれば,ホルモンシャワーを引き起こさせ,胎児の生殖器官を男性化すると考えられる。誕生後の2度目のホルモンシャワーは,役割がわかっていないが,男性化をより確かにするためと考えられている。

 このようなことから,ヒトは,そのまま発生すれば卵巣ができて女性になるが,Y染色体にあるTDF遺伝子が働くと男性化して精巣がつくられるということがいえる。このことを俗的に表現すれば,「アダムよりイブが先」ということになる。ホルモンシャワーが始まる時期は,母親が妊娠に気づく時期であるから,ヒトは,たいへん早期に性決定が始まるといえる。

 

B 伴性遺伝

◆伴性遺伝

性染色体上にある遺伝子による遺伝のことで,性染色体に遺伝子が存在することを性リンケージ(sex linkage)という。たとえばXY型の場合,Y染色体上に対立遺伝子がなく,X染色体上の遺伝子によって遺伝する場合,その遺伝子は劣性であっても,その作用が現れる。一般には上記のような場合を伴性遺伝という。血友病,赤緑色盲などは,ヒトの伴性遺伝の典型的なものである。

 

◆眼の色の遺伝

キイロショウジョウバエの白眼を現す遺伝子は突然変異によって生じた劣性遺伝子である。

伴性遺伝を説明するときのポイントとして,次の点に留意しておきたい。

@ ](Z)染色体上の遺伝子に対立する遺伝子はY(W)染色体上にない。

A 劣性遺伝子は,対立する優性遺伝子がない場合には単独で(ホモ接合でなくても)劣性形質を現す。

なお,この例の場合,両親(P)の組み合わせには,次の4通りがある。

@白眼♀(ww)×白眼♂(w)  A赤眼♀(WW)×白眼♂(w)

B白眼♀(ww)×赤眼♂(W)  C赤眼♀(WW)×赤眼♂(W)

 

◆赤緑色覚異常

色の区別ができない状態を色覚異常という。ヒトの色覚異常には全色覚異常と部分色覚異常とがある。全色覚異常は色をまったく感じず,明暗の差のみ感じるもので,きわめてまれにしか現れない。全色覚異常には常染色体上にある劣性遺伝子によるものと非遺伝性のものとがあるといわれる。

 部分色覚異常の大部分は赤緑色覚異常で,赤と緑の識別がつかないか識別能力の弱い(色弱)ものであるが,くわしくは緑色覚異常と赤色覚異常とに区別される。日本人の赤緑色覚異常の頻度は,男性で約67%,女性では約0.40.6%といわれる。

 赤緑色覚異常はヒトにおける伴性遺伝の例としてよくあげられ,正常−赤色弱−赤色覚異常と,正常−緑色弱−緑色覚異常とが,おのおの複対立遺伝子の関係でX染色体上にあり,両方とも先に書いた順に優性である。

 ヒトの遺伝を調べるには,交配実験はできないから,家系調査が主となる。赤緑色覚異常が現れたいくつかの家系を調査する。

 @ 赤緑色覚異常を現す遺伝子は,正常なものに対して劣性である。

 A この遺伝子はX染色体上にあり,伴性遺伝することがわかる。

 なお,女子のヘテロ接合は,正常ではあるが,色覚異常遺伝子を次代に伝える者という意味で,保因者とか潜在色覚異常とかよばれる。

 生徒には日常生活において,色覚異常・色弱がほとんど差しつかえないことを話し,差別意識や劣等感をもたせないようにする配慮が必要であろう。

 

◆血友病

先天的に出血しやすい体質性の病気で,多くは,小児期に発病し,血液の凝固性が不充分なために,軽い外傷などによっても容易に出血し,それがなかなか止まらず死亡する病気である。ほとんどすべて遺伝性で,色覚異常のように劣性の伴性遺伝をする。したがって,女子により遺伝されて男子が発病することが多く,女子に発現するのはまれである。色覚異常と違って,女子にほとんど見られないのは,この血友病の遺伝子に致死作用があるからだといわれている。すなわち,男子はこの遺伝子を1つ受けただけ(ヘテロ)で血友病になるが,女子はこの遺伝子を1つ受けただけでは血友病にならない(すなわち潜在している)2つ受けた(ホモ)場合は致死作用によって,母体内で死んでしまう。したがって,生まれ出た女子には,血友病の遺伝子をヘテロにもつものはあっても,ホモにもつものはいない。しかし,近年血友病の患者らしい女子が発見されたので,上の考えには疑問がもたれている面もある。

 一方,かりに血友病の女子が生まれ出ると仮定した場合,父親は必ず血友病の患者であり,母親は血友病の遺伝子をヘテロにもったヒトで,この際生まれる女子に血友病患者の出る確率は1/2であると考えられる。実際問題として,血友病の男子はこどものうちに死亡するものが多く,しかも成長してから血友病遺伝子をもつ女子と結婚するということは,確率的にはほとんどないため,女子の血友病の患者は生まれないと考えることもできる。

 血友病はヒトの遺伝病としてもっともよく知られ,日本では熊本県の天草地方などでその家系が調査され,またヨーロッパの諸王家に多く出たことも有名である。

 たとえば,帝政ロシアの最後の皇太子アレクセイが血友病であり,これが間接にロシア帝国の滅亡を早めたといわれる話がある。

 血友病の原因は,血液中の血小板や組織にあって血液凝固に重要な働きをしているトロンボプラスチン(トロンボキナーゼ)の欠乏によると考えられていたが,最近では血しょう中にあるグロブリンタンパク質に属する抗血友病性タンパク質,あるいはトロンボプラスチノゲンが先天的に存在しないためであるといわれている。いずれにせよ,血液中のプロトロンビンはトロンビンに変わりにくく,血液凝固時間が著しく長くなる病気である。

 

 

 

 








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