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第2節 さまざまな遺伝

 

A 中間雑種

◆多性雑種

生物の形質は,われわれが実験の便宜上定めておくような12の遺伝子のみによるものではなく,多くの遺伝子が複雑に関係している。そこで,多性雑種とは,着目した幾組かの対立遺伝子をもった両親の間の雑種である。雑種とは両親の異なった遺伝子をヘテロにもつもので,表現型は同じであっても,F2以降は対立遺伝子の優劣関係・相互作用・連鎖関係などによって,その分離比は一定でない。優劣関係が完全で,遺伝子相互の作用もなく,連鎖関係がないときには,「独立の法則」にあてはまる。そしてn対の対立遺伝子をもつものの間の多性雑種では,そのF2の表現型の分離比は (31)nの展開式にあてはまる(次表参照)

◆中間雑種

優性と劣性との関係は,二倍体細胞の各対立遺伝子がそれぞれ作用を及ぼし合う結果として起こるものである。したがって,表現型はそれらの対立遺伝子の相互作用の結果を反映している。もし,一方の対立遺伝子が機能をもち,他方が機能をもたない場合は,前者が優性となって現れる。第二の対立遺伝子が第一の作用を抑制する場合は,第二の対立遺伝子が第一のものに対して優性となる。もし一方の対立遺伝子が,十分なだけの物質をつくる作用がないならば,ヘテロ接合の個体は優性形質と劣性形質の中間の形質を示し,中間雑種となる。この場合,不完全優性とよび,優劣がはっきりしている場合を完全優性として区別する場合がある。教科書では例として,マルバアサガオをあげてあるが,これでは花色の赤と白を交雑すると,Flはピンクとなる。また,オシロイバナの花色も例にあげられることがあるが,これは追試のデータが乏しいためにとり上げなかった。そのほかにヒトのABO式血液型におけるAB型などもある。中間雑種の中には,必ずしもちょうど中間の形質を示すわけではなく,AaAAに近い形質となったり,aaにかたよったりすることもある。

 

B 致死遺伝子

◆致死遺伝子

正常な寿命より以前に,一定の時期に個体に死をひきおこす遺伝子のこと。もし,それが優性の突然変異によって生じたものであれば,この遺伝子をもつ個体をすべて殺すことになる。劣性の場合は,右図の黄色のハツカネズミの場合のように,F1で出現する表現型と分離比が,胎死するものがあるために乱れてくる。つまり,黄色のハツカネズミどうしを交配すると,F1は黄色のものと他の色(ねずみ色)のものとが,常に21の割合に出る。黄色は他の色に対して優性であるから,ヘテロどうしの交配と考えると,F1では31に現れるはずである。これは,黄色の遺伝子に致死作用が伴っているとすれば,黄色のハツカネズミはすべてヘテロでしか存在しないから,すべて説明がつく。

 植物の白子もクロロフィルを有しないために生育できないので,一種の致死形質と考えられる。

 致死作用の原因はいろいろあると想像されるが,アカパンカビにおける数多くの代謝異常の株が,特定の物質を補給しなければ死に至ると同じように,重要な代謝系の機能を遺伝的に阻害されるものが多くあると考えられ,発生現象を解くためにも重要な手がかりを与える。

 

C 複対立遺伝子(血液型の遺伝)

ABO式血液型

血液型は赤血球表面に存在する抗原性物質が担っており,ABO式血液型は赤血球表面の糖脂質の糖鎖の種類(単糖の並び順)によって決まる。糖鎖はO型を基本としており,ABO遺伝子座の遺伝子がOOホモでは,糖鎖を変化させない。A型遺伝子はN−アセチルガラクトサミン転移酵素をコードしており,A型ではO型の糖鎖の末端にN−アセチルガラクトサミンが結合している。B型遺伝子はガラクトース転移酵素をコードしており,B型ではO型の糖鎖の末端にガラクトースが結合している。AB型は両方の転移酵素遺伝子を持っており,A型とB型の両方の糖鎖を赤血球表面に持つ。O型のヒトは,AB型糖鎖に対する凝集素を持ち,A型のヒトはB型糖鎖,B型のヒトはA型糖鎖に対する凝集素を持つ。AB型のヒトは凝集素を持たない。

 血液型以外にアサガオの葉の形も複対立遺伝の例として知られている。

 

参考 ヒトの血液型(ABO式以外)

1MN式血液型1926年ランドシュタイナー(Landsteiner)によって発見された。ある人の血をウサギに注入すると,人の血球に含まれる一種の抗原に反応して,ウサギにその抗体が生じる。このウサギの血清を採って,それに多くの血液をひとり分ずつ混ぜてみると,その抗体によって凝着される血液と,反応しない血液とがある。これによってM型・N型・MN型と3種を区別する。MN型とは,どんな人から採ってつくった血清にも反応する型であり,M型とN型とは,それぞれ別種の血清に反応するものである。この区別は遺伝子LMLNによって発現され,M型はLMLMN型はLNLNMN型はLMLNであると考えられている。

2Q式血液型 ブタやウマなどの血液にある抗体によって,一部の人の赤血球に凝着が起こる。この抗原のあるものをQ+,ないものをQといい,それぞれ完全優性を示す1対の遺伝子Qqにより支配決定される。P式血液型とQ式血液型は同一のものであることはほぼ確認された。

3Rh式血液型(Rh blood groups)  1960年ランドシュタイナーとウイナーによって発見され,その抗原がアカゲザル(Macacus rhesus)の血球とヒトの血球とに存在することからRh因子(Rh factor)と名づけられ,その有無によってRh+型とRh型に分けられる。その分布は,欧米人は約85%,日本人は約99Rh型である。抗Rh抗体は,正常なヒトの血清には原則として存在しない。

 

 

D 遺伝子の相互作用

◆補足遺伝子

ある1つの形質に注目すると,その形質が2つ以上の非対立遺伝子が共存したときだけに現れる場合がある。このように互いに補いあって1つの形質を表現する非対立遺伝子を補足遺伝子という。

この種の遺伝についての,もっとも古典的な例はスイートピーの花色についてのものである。異なる2種類の白色系統を交配したところ,F1は紫色に,そしてF2では紫と白が97に分離した。これは,花に花青素を生じるには色素原と酸化酵素とを要することに関係している。白花甲品種は色素原をつくる遺伝子Cをもっているが,酸化酵素をつくる遺伝子Pをもっていない。他方白花乙品種は色素原をつくる遺伝子はもっていないが,酸化酵素はつくり得ると考える。すなわち,前者はCCppで,後者はccPPである。両者の交配によるF1では,CcPpとなり色素原も酸化酵素もつくることができるから紫色花となる。F2では,配偶子の組み合わせから9/16は紫色花のものが生じるが,7/16は,どちらかが欠けることになり白花ということになる。

 

◆抑制遺伝子

2対の遺伝子の一方の優性遺伝子の発現を抑制してしまう場合で,被覆遺伝子によく似ているが,雑種第2(F2)での分離比は133となる。

 カイコのまゆは一般に白色で,これは黄色のまゆに対して劣性であるが,欧州産の白まゆには,黄まゆに対して優性のものがある。この優性白まゆに黄まゆのもの(ホモ)を交配するとF1は白まゆだが,F1どうしの交配によるF2では,白まゆと黄まゆとが133で出現する。黄色を抑制する遺伝子をIとし,黄色の遺伝子をYとすると図のようになる。

 

 

◆条件遺伝子

ハツカネズミの毛色には,白色,黒色,灰色がある。毛の色を黒色にする着色遺伝子をC,黒色を灰色に変化させる遺伝子をAとすると,着色遺伝子と灰色に変化させる遺伝子が共に優性の場合〔AC〕に灰色が,着色遺伝子のみ優性の場合〔aC〕に黒色が,それ以外の場合(〔Ac〕および〔ac〕)に白色が発現すると考えられる。このように,遺伝子Cの存在条件下で働く遺伝子Aのことを,条件遺伝子という。

 

 

 

 








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