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第1節 無性生殖と有性生殖

 

A 無性生殖

◆無性生殖

単細胞生物はすべて分裂によって個体数を増加させる。その際, 1個体が二分裂によって2個体になるのがふつうであるが,マラリア病原虫のように一度に数個体に分裂するものもあり,これを複分裂という。このような分裂によって生じた個体は,もとの個体とまったく同じ遺伝情報をもち,それを次々と複製して子孫に伝えていくのである。酵母菌でみられる出芽も,生じた個体に大小の差はあるものの分裂の一種と考えられる。多細胞動物でこのような分裂によって増殖することができる生物は下等なものに限られ,サンゴ礁を形成するサンゴ虫やミズクラゲのポリプ,ヒドラ,イソギンチャクなどの腔腸動物やプラナリアなどの扁形動物のように,いずれも再生力の強いものである。

 −方,多細胞植物にも無性生殖をするものが多い。一つには,菌類やコケ植物・シダ植物などで見られる胞子による増殖である。胞子はそれ自身単独で発芽し,新しい世代の生物体を生じる生殖細胞である。もう一つのタイプは,栄養生殖とよばれ,本来は受精を行って種子を形成して増殖する種子植物でも,親個体の一部が分かれて新しい個体を形成するものである。

 

◆栄養生殖

いま,ある植物について交雑という方法で品種改良を試み,その結果大きな美しい花の咲く株を得た。この株をふやしたいと考えて,自家受粉によって種子をつくりこれをまいたところ,子どもの株に咲いた花は多種多様で,母株と同じ形質の花を咲かしたものは少数にすぎなかった。交雑という方法で品種改良した以上,この結果は当然なのである。この点,栄養生殖,つまり挿木などによってできた子どもにはそのような心配がない。栄養生殖によって増殖した個体は,すべての遺伝的形質に関して母体と同一のはずであるからである。

高等植物でこのような生殖が可能であるという事は,ヒトにたとえると,成人の体細胞の一部を切除して培養すると完全なヒトの個体が再生するということを意味している。もちろん,ヒトのような高等な動物ではこのような現象は生じない。このことは植物の細胞には全能性があり,いったん分化して葉とか根とかの器官をつくっていた細胞が,ちょうど受精直後の卵細胞のような未分化の状態にもどりうるためだと考えられる。栄養生殖には多くの例があり,自然状態ではタケやハスの地下茎・オニユリやヤマノイモの珠芽(むかご)・サツマイモの塊根・葉の一部に新個体が生じるコモチベンケイソウやコモチシダ,葉の先端が地面に接するとそこへ新個体が生じるクモノスシダなどがある。また,人為的な栄養生殖としては,挿木や接木のほかに,クワやインドゴムノキで行う取木・多くの多年草で行う株分け・ベゴニアの一種で可能な葉挿などがあげられる。

 

発展 胞子生殖

胞子とは,配偶子と異なり,単独で新個体となる(無性生殖する)ことができる生殖細胞である。

多くの藻類や,コケ植物,シダ植物では,配偶子による有性生殖を行う世代と,胞子による無性生殖を行う世代が交互に繰り返される。これを,世代交代といい,世代ごとに繰り返される発生と成長の過程を生活環という。胞子は減数分裂によって形成され,単相(n)である。胞子が発芽し,成長すると配偶体n)を形成する。配偶体は減数分裂を伴わないで配偶子をつくる。受精すると受精卵(2n)は発生し,成長して胞子体になり,減数分裂により胞子をつくる。このように,世代交代の間に核の相が変わることを核相交代という。どちらの相の世代も独立した個体として存在する。

私たちの目につくコケの植物体は配偶体である。コケの配偶体には雄株と雌株があり,それぞれの上部には造精器と造精器がある。雄株の精子により雌株の造卵器の卵が受精すると発生し,雌株の上部に付着した形で胞子体が形成される。植物体として目に付くシダ植物は胞子体である。シダ植物の配偶体を特に前葉体とよび,一つの前葉体に造精器と造卵器が形成される。

菌類の分生子,サビキンのサビ胞子などは細胞の一部から体細胞分裂によって胞子が形成される。減数分裂によって形成される胞子を真正胞子といい,体細胞分裂によって形成される胞子を栄養胞子という。

 

 

B 有性生殖

有性生殖

有性生殖では,生殖のための特別な細(配偶子)が多数生じ,それらが2個合体することで接合子(受精卵)となる。その後,接合子は分裂をくり返して新しい個体になる。このような有性生殖の意義を考えるために,ふつうは無性生殖によって増殖しているゾウリムシの例を考えてみたい。ゾウリムシは時々図のような奇妙な行動を示すことがある。

まず,2つの個体が細胞口の部分で互いにくっつき合う。それから大核が消失し,小核は2回の分裂によって4個になり,そのうちの3個は消滅して1個だけが残る(この過程は配偶子形成に相当する)。この1個はもう1回分裂して2個になり,うち1個は移動核となって,接合面を通って相手の体内に入り,相手のもう1つの核と合体する。なお,相手の移動核も逆の方向に移動し,合体する。

この現象は接合とよばれるが,個体の数という点からみると2個体が接合して,また分離して2個体になるだけのことで,数は増えない(核の交換後,1つの個体は横分裂を2回くり返して4つの個体となる)。だから,一見無意味な現象のようにみえるが,この現象の大切な点は,小核の一部を交換することによって,接合前の2個体と接合後の2個体が,遺伝子組成からみて違った個体になるということである。

生物が種族を維持していくためには,まずたくさんの子孫をつくる必要がある。たくさんの子孫をつくるには,たとえばゾウリムシの場合,無性的に分裂をくり返せばよい。しかし,これだけでは種族の維持にとって大きな不安が残る。無性的に増殖した集団では,すべての個体の遺伝子組成は同一で,集団の全員が同一の形質をもつ。

だから環境条件が変化した場合,無性的に増殖した集団は全滅してしまう可能性がある。環境条件の変動に耐えて種族を維持するには,子孫を増やすと同時に,多様な形質をもった子孫をつくらなければならない。

ゾウリムシの場合,無性生殖は個体数を増やす目的にかない,接合は形質の多様化という目的にかなっている。そして,この2つの目的を同時に達成する方法,つまり,多様な形質をもった子どもをたくさんつくりだすのが高等動物における有性生殖だと考えられる。

 

○参考資料(教材) ミゾジュズモの生活史と観察○

 ミゾジズュモ(Chaetomorpha okamurai UEDA)は淡水産の糸状緑藻類でシオグサ科に属する。日本の各地に普通に生育している。きれいな水が動いているところ,例えば小さい川の石上,排水溝,用水路の石壁,井戸の内壁などに付着,生育する。近年の水質悪化による環境の変化の中で安定して採集しやすい場所として山懐にある社寺の手水所から流れ出ている水路が挙げられる。

・ミゾジュズモの生活史 藻体は黒っぽく見える濃緑色の糸状体で,若い時期はほぐした筆先,成長すると束ねた毛髪を連想させる形態を有する。その根元は多くの糸状体が束になって付着している。藻体は分枝しない1細胞列の糸状体で長さは1015cmになる。基部は不規則に枝分かれした仮根をもつ。細胞は円筒形か細長いだ円形で長さは80250μm,幅は60150μmである。各細胞は網目状の葉緑体をもち,ピレノイドを多数もつ。さらに,多数の核を有する。成熟した細胞では側面に乳頭状の放出孔を形成する。糸状体は上部細胞から順次成熟する。糸状体全体を検鏡すると,上部の細胞では放出孔が開き,遊走子か配偶子が泳ぎ出して細胞内が空っぽになり,細胞壁だけになっている細胞が連なっているのが観察される。その下部の細胞では,内容物がつまっていて緑色を呈している。晩春から晩秋まで生育している。若い糸状体では体細胞分裂が盛んである。10月下旬でも減数分裂,遊走子,配偶子の観察に適している。

 

 

 

糸状体には2種類がある。造胞体(2n24)では減数分裂の結果,べん毛4本を有する遊走子を形成,放出する。遊走子は石などに付着して発芽,核分裂を繰り返して多核細胞になり,やがて糸状体である配偶体(n12)になる。この配偶体からは,べん毛2本を有する配偶子を形成,放出する。配偶子は合体して接合子となり,石等に付着して発芽して核分裂を繰り返して,多核細胞となる。やがて多細胞になり仮根を形成して新しい造胞体に成長する。造胞体の糸状体は配偶体の糸状体に比べると細胞の幅がやや大きい。しかし,肉眼では区別することはできない。

・ミゾジュズモの観察 遊走子や配偶子を生きた状態で観察するには,野外から採集した材料から,1〜数本の糸状体をペトリ皿の水中に入れておく。検鏡して,糸状体の先端細胞が空になっていたり,細胞の側壁に乳頭状の突起があれば好適な材料である。しばらく放置すると放出が始まる。糸状体の周りが淡緑色になる。スポイドでこの部分を吸い取り,プレパラートにして観察すると,動き回っている遊走子か配偶子を観察することができる。べん毛はこのままでは観察は困難である。大きさでは遊走子は配偶子の倍近い大きさである。べん毛を観察するためには固定,染色が必要になる。生きたままでの観察には,光走性を利用する方法がある。遊走子は負の光走性があり,配偶子には正の光走性があることから,顕微鏡を暗室で設置して,スライドガラス裏面に光を遮断するようにして,部分的に明るい場所を設けておく。移動する方向により遊走子か配偶子の区別がある程度はできる。固定,染色によりべん毛を観察するためには,スライドガラス上に糸状体の周囲に生じた緑色部分をスポイドで少量採る。広口びんにオスミック酸,ホルマリンまたは酢酸を入れ,スライドガラスを逆さまにして,びんの口の所で1分以内固定する。固定後,スライドガラスを自然乾燥する。その上にジールの石炭酸フクシンを滴下して染色する。なお,このプレパラートは永久プレパラートにもすることができる。ジールの石炭酸フクシンはA(塩基性フクシン0.3g95%エチルアルコール10ml)とB(石炭酸5g,蒸留水95ml)を作成し,AB両液を混合して使用する。この染色法は細菌,精子などの染色にも応用される。簡便に,べん毛を観察するためにはゲンチアナバイオレットでも代用できる。

一方,体細胞分裂,減数分裂,染色体の観察には,観察材料が豊富であること,さらに分裂時期の期間が長いため,慣れれば便利な材料である。糸状体を酢酸アルコールで固定する。固定後,固定液のままで,冷蔵庫,冷凍庫で保存,使用する。糸状体が脱色されると使用できる。細胞が大きく,細胞壁もじょうぶであるため,そのままでは染色が困難であるし,カバーガラスも割れてしまう。染色方法としては,まず,スライドガラスの上で,細胞を柄付き針でつぶして細胞の内容物を出してから余分の糸状体を除去する。そのあと染色すると操作がスムーズにできる。一つの細胞内の多核は分裂時にほぼ同時性を示す。造胞体では細胞によって体細胞分裂と減数分裂の両方を観察できる。体細胞分裂の染色体の観察には技術を要するが,減数分裂第一分裂の観察には良い教材として利用できる。

 

参考 性の分化とアオミドロの生殖

有性生殖は,進化の過程で無性生殖から発生してきたと考えられる。性の分化が明瞭でない単細胞生物の同形配偶子による生殖は,有性生殖の萌芽的な形と考えられる。アオミドロは雌雄の違いが生じているように見える最も原始的な生物である。アオミドロは二つの個体を接合させ,細胞壁に穴を開けて,片方の個体の原形質を別の個体の細胞に注入して原形質を合体させる。合体した原形質は接合子となり,発芽して成体になる。アオミドロは多数の細胞からなるが,原形質を送り込む個体と,受け取る個体が決まっており,細胞によって原形質が移動する方向が異なることはない。この役割分担は,性の分化の原始的な形態と考えられる。

 

 

 

 








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