トップ生物I 改訂版第1部 生物体の構造と機能第3章 細胞の増殖と生物体の構造>第4節 多細胞生物の構造

第4節 多細胞生物の構造

 

A 植物体のなりたち

多細胞生物の代表として,植物(種子植物)と動物(脊つい動物)の体のつくりをざっとみていく。多種多様の生物の形態についていちいちあげるわけにいかない。むしろ,よく目にする動・植物の主だった器官のつくりを知るようにしたい。

最初に,植物と動物の体のつくりの違いについて,器官レベルでどうなのか問うことが望ましい。

i)動物にあって植物にみられないもの;神経,筋肉,閉鎖循環系,消化器,肝臓,腎臓などの内臓,手,足,眼,鼻,耳など感覚器官,骨,軟骨などなど。

ii)植物にあって動物にないもの;光合成系,維管束,葉,茎,根,花などなど。

 

植物の組織と組織系

植物体は,動物体と比べて器官の分化が少なく,内部構造もずっと簡単である。植物の器官を構成している組織を調べてみると,位置上の連続性や生理的なつながりなどによって,いくつかの組織群に分けることができる。このような組織群を,

組織系という。

組織系の分け方は,人によりいろいろである。ザックスは,形態をもとにして,表皮系・基本組織系・維管束系の3つに分けた。表皮系は主に表皮組織よりなり,植物体の保護にあずかる。維管束系を構成するのは主に通道組織で,それに機械組織も加わっている。この組織系は,植物体内の物質の移動に関与する。残りが基本組織系で,主に柔組織よりなり,光合成や呼吸などの機能をつかさどる。

ファン・ティーゲムは,組織系を,表皮・皮層・中心柱の3つに分けた。この場合,どこまでを中心柱とするかについて少し問題がある。根では,中心柱のまわりに内皮があるので,この3つの区分は容易である。

ハーバーランドは,生理作用に重点をおいた分け方をした。彼は,皮層・機械・吸収・同化・通道・貯蔵・通気・分泌・運動・感覚・刺激伝達の11の組織系に分けた。この分け方は,働きを考える際に便利ではあるが,発生が進んで組織の分化が発達した後にのみ適用できる分け方で,教科書もそれにそって記されている。

いずれの分け方も,それぞれ利点や欠点があるが,比較的多く支持されているのは,初めに述べたザックスの分け方である。

 

形態による植物の分類

植物を形態(内部構造)をもとにして分けると,次の表のようになる。多細胞の植物では,葉状植物と茎葉植物に大別される。茎葉植物というのは,蘚類(スギゴケのなかま)・シダ植物・種子植物の総称であって,茎と葉の区別をもったものをいう。それ以外の苔類 (ゼニゴケのなかま)・藻類・菌類・細菌類などは,すべて葉状植物である。藻類の中でも,コンブやホンダワラなどの褐藻類には,外見上茎と葉のように見えるものがあるが,内部の構造を観察すると,組織の分化がなく,茎や葉とはいえないことがわかる。

茎葉植物の中で,シダ植物と種子植物は,体内に水や養分の通路となる維管束が分化している。それで,それらをまとめて維管束植物という。根・茎・葉の区別が明確であるのは維管束植物である。教科書では,種子植物を例にしている。

 

形態(内部構造)に基づく植物の分類

特徴

植物群

核の有無

原核生物(細菌類・ラン藻類)

真核生物(その他の植物)

細胞の数

単細胞植物(細菌類・藻類の一部)

多細胞生物(その他の植物)

器官の分化

 

茎と葉の区別

茎葉植物(類・シダ植物・種子植物)

葉状植物(その他の植物)

維管束の有無

維管束植物(シダ植物・種子植物)

その他の植物

 

植物の外形も多様である。葉状植物では,球形(細菌類や単細胞の藻類),長軸のある卵形・円筒形・棒状・糸状(細菌類,菌類,藻類),長軸に極性が生じたもの (アオサなど),扁平で平板状に広がったもの(藻類や地衣類),分枝が生じたもの(海産の藻類),分枝した枝間に分業が生じつつあるもの(紅藻類や褐藻類)などがある。

茎葉植物でも,「ろうそく形」の針葉樹や,樹冠が丸くなった広葉樹,全体が半球状になる低木,水平に近い枝を広げる変本類など,外形は多様である。

 

植物の組織の分類

植物の組織の分け方も,いろいろある。

ふつう,細胞分裂を行っている分裂組織と,分裂組織でつくられた細胞が,成熟・分化して,もはや分裂しなくなった永久組織に分けることが多い。しかし,両者の区別ははっきりしないことが少なくなく,一度分裂しなくなった組織も再び分裂することもあり,永久組織という名は適当でないとして用いない人も少なくない。

下の表は,いわば古典的な組織の分類を示したものである。永久組織を用いたい人も,表皮・柔・機械・通道などの組織名は用いるのがふつうである。

 

植物の組織の主な種類と特徴

組織の区別

細胞の特徴

主な動き

分裂組織

細胸壁が薄く,原形質に富む。

細胞分裂によって細胞を

ふやす。

(永久組織)

ふつう細胞壁が厚く,液胞が大きい。

 

表皮組織

ふつう1層の平たい細胞

植物体の保護

柔組織

細胞壁が薄く,原形質が活動している。

光合成・物質の貯蔵など

機械組織

細胞壁全体か,または,そのかどが厚い。

植物体の支持や保護

通道組織

 

 

道管

細胞壁が木化している。上下の細胞間に仕切りがない。

水や養分の通路

仮道管

細胞壁が木化している。上下の細胞間に仕切りがある。

水や養分の通路

 

師管

生きた細胞よりなる管

葉でつくられた栄養分の通路

 

また,茎や根の先端部にある分裂組織を,古くは成長点とよんでいたが,その部分は点ではなく,ある広さをもつことなどから,成長点という語も適切でないとして用いないことが多くなった。その代わりに葉や茎の原基となる「茎頂分裂組織」,根の原基となる「根端分裂組織」,ふたつを合わせて「頂端分裂組織」と呼ぶ。葉や茎は同じ原基から発生するので,植物形態学では葉と茎を合わせて「シュート」と呼ぶが,高校の教科書では一般的でないため用いなかった。

なお,植物の組織などの学習では,羅列的に覚えたり,表で名を暗記したりするよりも,実物を観察することが大切であり,できるだけ実験・観察に基づく学習を期待したい。

 

◆葉

葉は表皮におおわれ,内部は葉肉とよばれる。表皮とくにその裏面には2個の孔辺細胞に囲まれた気孔が散在し,水の蒸散とガス交換を調節する。葉肉の細胞は,葉緑体を多く含み,光合成を行う。表皮のすぐ下に柵状組織,裏面の近くには間隙の多い海綿状組織がある。葉の内部にも維管束が走り,葉脈を形づくる。葉脈は双子葉類では網状をなし,単子葉類では平行に走っている。

葉が1枚の場合は単葉,2枚以上の小葉からなるものは複葉という。葉の変形として巻きひげ,サボテンの葉針などがある。

◆維管束

細胞が縦または横に連なり細胞間の隔壁が消失した管が集まった維管束には,師管と道管とがある。シダ植物や裸子植物には道管がなく仮道管があり,細胞間の隔壁が残っている。同化物を移動させる師管は薄い原形質と核からなる生きた細胞からなり,細胞を隔てる膜にはいくつかの師孔があって師板とよばれる。道管は死んだ細胞からできており,細胞壁が肥厚して環状,らせん状,網状などの模様を生じる。

 

◆茎と根

茎は葉や花をつけ,水分や養分,同化物の通路となる。茎の先端では,頂端細胞が盛んに分裂して,一次組織をつくる。草では一次組織はやがて分裂をやめるので太くならない。木では,維管束と皮層の間に形成層・コルク形成層とよばれる二次分裂組織がある。形成層の細胞の増殖によって内側に木部,外側に師部がつくられる。コルク形成層は内側にコルク皮層,外側に樹表をおおうコルク層を形成する。ジャガイモは茎の変形(塊茎)である。

根は地中にあって水や栄養分を吸収する。根の先端には根冠があり,その上に頂端分裂組織があって伸長する。さらにその上部に根毛と側根を形成する部域がある。根が変化して養分を貯えるようになったものが貯蔵根である。

 

B 動物体のなりたち

脊つい動物では,細胞の分化がいちじるしく,100種類以上にのぼる。それらが組織をつくり,さらに器官ができる。ここでは,代表的な組織の4つをみていく。

 

◆上皮組織

動物の体表または体腔の表面をおおう上皮組織(epithelial−tissue)は,立方体または円柱状の細胞層からなっている。薄い平たい細胞一層からなる扁平上皮は心臓や血管,リンパ管の内側をおおい,多層の多層上皮は皮膚の表面を形づくっている。上皮にはかみの毛の主成分であるケラチンフィラメントが多数含まれて角質化することがあり,毛,つめ,羽毛は上皮の分化したものである。

上皮にはさまざまに分化したものがあり,繊毛をそなえた繊毛上皮(気道),視覚,嗅覚,味覚,聴覚など感覚受容器を形成する感覚上皮,分泌する腺上皮(唾液腺),精原細胞や卵原細胞をつくる生殖上皮,吸収にあずかる吸収上皮(小腸)などがある。

 

 

◆結合組織

結合組織は他の組織や器官を支持して,それらに一定の形と位置を保たせる働きをする。繊維芽細胞が主な細胞で,繊維をつくるコラーゲンを細胞外に分泌する。これに粘度の高いヒアルロン酸など多糖類も分泌されて,他の組織を包んだり,細胞群をまとめあげる。たとえば筋肉を包む白いすじはコラーゲン繊維膜である。皮膚の表皮(上皮)のすぐ下には,結合組織の真皮があって,皮膚に弾力性をあたえている。牛皮は,コラーゲン繊維の集合体である。

骨組織も一種の結合組織である。骨細胞がコラーゲン繊維を分泌し,それに水酸化リン酸カルシウム(ヒドロキシアパタイト,Ca10[PO4]6[OH]2)が沈着して骨を形成する。骨は血管や神経が分布するハーバース管を中心に多数の同心円状層状構造からなっており,層状構造にそってくぼみがあり,その中に平たい骨細胞が存在する(教科書p.53,図24)

 

◆筋組織

筋肉は,骨格筋,心筋,平滑筋に分けられる。骨格筋と心筋は横紋がみられるので横紋筋とよばれる。骨格筋は意思による支配下で運動できるので随意筋,心筋と平滑筋は自律神経系支配で不随意筋である。骨格筋は多核細胞,心筋と平滑筋は単核細胞である。骨格筋と心筋の収縮は速く,平滑筋はおそい。

骨格筋は,細長い巨大な筋細胞(筋繊維)からできており,基底膜(コラーゲンと糖タンパク質からなる)でおおわれている。その両末端はコラーゲン繊維からなる腱によって骨につながっている。筋細胞中には,筋原繊維という細胞小器官(1μm)がぎっしり縦方向に走っている。筋原繊維は2つの線()で仕切られたサルコメア(筋節)からできている。サルコメアの中央部(A)は暗く,その両側()は明るい。すべてのサルコメアが同調して存在しているので筋繊維に明暗の横紋が見られる。

心筋では短い筋原繊維がさまざまな方向に走り,となりの細胞の筋原繊維とは速連構造(介在板)で接している。平滑筋には筋原繊維がなく,収縮性繊維(アクチンフィラメント,ミオシンフィラメント)が散在している。

 

◆神経組織

神経組織は,神経細胞とそれを支持する神経膠細胞(グリア細胞)からなる。

神経細胞は,核をもつ細胞体と多数の突起からできている。

突起には1本の長い軸索と多数の樹状突起からなる。これらを総称してニューロンまたは神経単位とよばれる。

軸索は,興奮を速やかに遠くはなれた他の神経細胞または筋肉細胞などに伝達する。軸索は微小管で支持されている。軸索はリン脂質(ミエリン)からなる髄鞘で取りまかれ,さらに外側にシュワン細胞(神経膠細胞の一種)でおおわれている。髄鞘の約2mm間隔でくびれた部をランビエ絞輪という。樹状突起は他の神経細胞の軸索とシナプス連結して興奮伝達にあずかる。

 

◆動物の器官

動物の組織は,一般に,上皮・結合・筋肉・神経の4つに大別される。血液とリンパは,液体中に細胞が散在した特別な結合組織とみなされることが多い。しかし,上皮・結合および遊走細胞(組織間を自由に動く細胞)3つに分ける人もある。

動物は,器官の分化が著しく,体内に多くの器官をもつものが多い。それらの器官は,しばしばいくつか集まって一定の機能を示す。たとえば,歯,胃,腸,すい臓などの器官は消化に関与している。このように関連した器官をまとめて,器官系という,器官系は,消化,呼吸,循環,排出,生殖,保護および支持,運動,神経,感覚,発音・発光・発電,内分泌などに分けられる。

各器官系の働きは,次のようである。

(a)

消化系……消化と吸収(エネルギー源のとりこみ)

(b)

呼吸系……外呼吸(ガス交換)

(c)

循環系……酸素・栄養分・ホルモンなどの運搬(老廃物の運搬)

(d)

 

(e)

生殖系……有性生殖

(f)

保護および支持系……体の支柱(骨格系),体表面の保護(皮膚)

(g)

運動系……運動(筋肉系ともいう)

(h)

神経系……興奮伝達と機能調節

(i)

感覚系……刺激の受容と神経への伝達

(j)

発音・発光・発電系……ヒトは発音系のみ

(k)

内分泌系…ホルモンの分泌

主な器官と器官系は次の図のようである。

 

◆動物の体型

動物の外形はさまざまであるが,それらを整理するには,立体幾何学的なとり扱い,つまり図形を貫く軸(主軸や副軸)を設定したり,断面を設けたりして,その軸や面についての相称性を問題にするやり方がなされる。

 

1無軸型……

点相称も面相称もみられないもの。代表はアメーバで,不定形と      もいう。

2均軸型……

全面相称型ともいい,相称軸や面が多数,あるいは無数に存在す        る型。簡単にいえば球形で,原生動物のタイヨウチュウなどがそ        の例。ほとんどの動物の卵細胞もこれである。

3単軸型……

1本の主軸があり,これを含む相称面が1つあるいは多数存在す        る形。相称面の数によって,さらに放射相称型,二放射相称型,        左右相称型に分けられる。

放射相称型は,3つ以上の相称面をもつもの。ヒトデ・クラゲ         などの刺胞動物や,ウニ・ヒトデなどのきょく皮動物。

二放射相称型は,2つの相称面,すなわち2本の副軸をもつ型         で,サンゴ虫類やクシクラゲ類。

左右相称型は,両軸相称型ともいわれ,ただ1つの相称面をも         つ型で,この相称面を正中面という。この型は,重力場におけ         る前進運動に適した型といわれ,水中・陸上・空中で生活する         多くの動物で見られる典型的な形である。

 

動物の中には,前後の軸に沿って,相同な立体的な構造単位がくり返されているものがあり,この単位を体節という。環形動物や節足動物でよくみられ,脊つい動物では,発生の初期に,中胚葉で体節構造が最もはっきりしている。成体でも,脊ついなどで,体節構造が見られる。

 

*興味のある話*

◆ヒーラ細胞

1951年,アメリカのボルチモアのジョンズ・ホプキンス大学医学病院で31歳の黒人アメリカ女性が子宮頸がんのために亡くなった。彼女のがん細胞は細胞生物学者G.O.Geyによってガラス器内で培養され,以来今日にいたるまで全世界の細胞生物学研究室で実験用に用いられている。この細胞株は患者の氏名の略称をとってヒーラ(HeLa)細胞と呼ばれている。カルテが消失しているので,Henrietta LacksHelene Laneのどちらに由来したのか不明である。

ヒトの組織から単離した細胞を培養すると,ふつう15回ほど分裂すると死滅することが多い。これは突然変異を起こすためではないかとみられている。

ヒーラ細胞の染色体数は80個もあり,正常の46個に比べてずっと多く,長期間にわたって分裂可能性を保っている。

 

 

 

 

 








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