トップ生物I 改訂版第1部 生物体の構造と機能第2章 細胞の機能>第2節 細胞と酵素反応

第2節 細胞と酵素反応

 

A 酵素

B 酵素と生命活動

◆酵素

酵素とは,触媒の働きをもつタンパク質というのが現代の定義である。生体内の条件「体温・体内のpH(多くは中性付近)1気圧」のもとで,基質特異性をもって作用する点を十分に理解させる。

 

◆触媒とは何か

デンプンの水溶液は,そのままではグルコースに分解しない。これは,ヨード反応による呈色変化で示すことができる。ところが,だ液を加えてしばらくするとヨード反応が消失する。これと同じことは,濃い硫酸(つまり水素イオン濃度を上げる)存在下で100℃で数時間煮沸すると起こる。これら3本の試験管をあらかじめ用意しておいて,デモンストレーションをしながら,触媒(無機と生体)の説明にかかる。

化学反応(物質の分解や合成)には,ふつうの条件ではなかなか起こりにくいものが多い。ところが,何かの物質を入れると,反応が速やかに起こってくることがある。しかもその物質は反応の前後で変化しない。このように,それ自体変化することなく化学反応の速度を調節する物質のことを触媒とよぶ。アンモニア(NH3)は窒素と水素の化合物であるが,両者を混合しただけでは生成しない。ところが温度を上昇させ(500),圧力をかけ(100気圧),そこに鉄粉(アルミ粉を含む)を加えるとアンモニアが生じてくる。圧力をかけるのは,気体分子の密度を高めるためであり,高温は分子の運動を促進する。そして,鉄粉が触媒の作用をする。鉄粉粒子の凹みに,窒素と水素分子が入りこんで反応を起こし化合してアンモニアとなる。この鉄粉のような触媒は無機触媒とよばれる。酵素は生体触媒である。

酵素が触媒する化学反応を酵素反応という。

 

◆化学反応を促進する方法

一般に次図に示すように,Aという物質とBという物質との間で化学反応が起こる場合,まず,ABとが接触することが必要である。反応の場の温度を上げると,その物質をつくっている分子の運動が活発になるので,接触の機会も増してくる(a)ABの濃度や圧力を増しても,互いに接触する機会が増してくるので,化学反応は起こりやすくなる(bc)

また,ある物質の表面にABとを吸着させれば,ABとは広い空間よりも接触の機会が増すので,化学反応は起こりやすくなる(d)。このように,接触の媒介の働きをもっているものを触媒という。したがって,反応速度を増すためには,物質の濃度・温度・圧力を増したり,触媒を用いたりする。

 

(a)

(b)

(c)

(d)

(a)温度を上げる。

(b)濃度を増す。

(c)圧力をかける。

(d)表面に吸着する。

 

◆酵素の触媒作用

酵素の触媒作用は,酵素の表面に反応物質(基質)を吸着して接触しやすくするだけでなく,反応物質を活性化して,その活性化エネルギーを低くして反応を起こしやすくする性質もある。例えば,化学反応ABが起こるには,活性化エネルギーhが必要であるとする。これは次の図のようにA点の石をB点に落とすことに相当し,その場合,A点よりhだけ高いC点に石を上げなければならない。A点からC点に石を上げることが活性化することに相当し,AC間の距離hを活性化エネルギーと考えてよい。酵素の働きは,AC間の距離hを短くすることと,Aと石をCまで持ち上げること(活性化)で,活性化エネルギーを低くすることにほかならない。活性化を起こす原因については,分極作用,電子変位,結合部のゆがみ,変形などいろいろ考えられている。

活性化エネルギー

 

◆酵素の作用条件

酵素の触媒作用は,いろいろな条件で大きく変わる。温度が低いと活性が小さく,だいたい4045℃にピークに達し(最適温度),それ以上の温度になると急速に低下する。これは,タンパク質の構造が熱によって壊れてしまうからである(変性)。溶液のpHが大きな影響を与える。これも,酵素タンパク質の構造に関連し,ふつう酸性(pH 4以下),アルカリ性(pH9以上)で失活する。例外はペプシン(pH 2が最適),アルカリ性ホスファターゼ(pH99.5が最適)である。最大活性を示すpHを最適pHという。酵素の活性は,作用する物質(基質)の濃度によって影響をうける。また,活性化剤(マグネシウム,カルシウムなどの金属イオン)SH(2-メルカプトエタノール),補酵素(NADNADPなど)に依存することがある。タンパク質を変性させる物質(重金属イオンや表面活性剤など)が混入すると,酵素活性は低下もしくは消失する。試薬を溶かしたりするのに,金属の容器ではなくガラス器具,水も水道水ではなく蒸留水を用いるのはこのためである。

酵素作用が失活した場合,条件をもとどおりにすると,失活酵素は再生されることもあるが,多くは不可逆である。

 

◆酵素の種類

加水分解酵素(ヒドロラーゼ) 水の助けを借りて基質を分解する。消化などに重要な働きをする。

例;アミラーゼ(C6H10O5)n(デンプン+nH2O―→nC12H22O11(マルトース)

マルターゼ C12H22O11(マルトース)H20―→2C6H12O6(グルコース)

除去酵素(リアーゼ) 基質を加水分解によらずに分解する。

例;カルボキシラーゼ(脱炭酸酵素)

CH3COCOOH(ピルビン酸)―→CH3CHO(アセトアルデヒド)CO2

転移酵素(トランスフェラーゼ) リン酸基やアミノ基などの原子団を,1つの基質から他の基質に移す。

例;クレアチンキナーゼ クレアチン+ATPDクレアチンリン酸+ADP

異性化酵素(イソメラーゼ) 基質分子内の原子の並び方を変える。

例;六炭糖リン酸イソメラーゼ グルコース・リン酸Dフルクトース・リン酸

酸化還元酵素(オキシドレダクターゼ) 基質の酸化還元に関与する。細胞内呼吸に重要な働きをもつ。カタラーゼや各種のデヒドロゲナーゼ(脱水素酵素)がある。

例;乳酸脱水素酵素 CH3CHOHCOOH(乳酸)DCH3COCOOH(ピルビン酸)2H

合成酵素(シンテターゼ) 多くの生体物質の合成を促進する。

例;クエン酸合成酵素 活性酢酸+オキサロ酢酸Dクエン酸

 

◆消化

デンプンは,だ液やすい液に含まれるアミラーゼの作用で直鎖部分がグルコースとマルトース(麦芽糖)に分解される。枝わかれの多い部分は,小腸の吸収上皮細胞の細胞膜に固定されているマルターゼによってグルコースに分解される。小腸の吸収上皮細胞の細胞膜にはアミラーゼもあって,短くなったデンプン(デキストリン)を分解する。

タンパク質は,胃でペプシンによって,いくつかのポリペプチドに切断される。ペプシンは不活性型のペプシノーゲンとして合成され,胃内に分泌されてから,ペプシンによって一部が切断され,活性型のペプシンとなる。胃粘膜は多糖のねばねばした液で保護されている。十二指腸で,すい液が送りこまれる。すい液・腸液は弱アルカリ性で酸性の胃液を中和する。すい液中には数種類のタンパク質分解酵素を含んでいる。トリプシンとキモトリプシンで,これらも分泌されるときはトリプシノーゲンやキモトリプシノーゲンの形であり,それらがキモトリプシンやトリプシンによって活性化される。これらはポリペプチドを小さなペプチドに切断する。ペプチドは,小腸の上皮細胞上のペプチダーゼ(カルボキシペプチダーゼとアミノペプチダーゼ)によってアミノ酸に分解される。

脂肪は,十二指腸で胆汁と混ぜあわされ,細かい粒になる。すい液中のリパーゼは,胆汁で活性化されて,脂肪をグリセリンと脂肪酸に分解する。

 

◆細胞呼吸とATP

細胞が酸素を取り入れ,二酸化炭素を放出する現象を細胞呼吸とよぶ。細胞呼吸により,グルコースなどの有機物が分解され,エネルギーが生産される。グルコースは,まず,解糖系により,酸素を使わずにピルビン酸にまで分解される。これは細胞質基質中の10種類の酵素によって起こる反応であり,この過程で2個のATPがつくられる。

ピルビン酸(C3個の化合物)はミトコンドリアのマトリックスに入り,ここでアセチル基に変換され,それが補酵素Aと結びついてアセチルCoAとなり(この過程で二酸化炭素の形でCを一個失う),クエン酸回路に入る。クエン酸回路は8つの酸化反応を含むが,すべてミトコンドリアのマトリックスに存在する酵素によって反応が進んでいく。酸化によりCO2NADHがつくられる。

NADHはミトコンドリア内膜に埋め込まれた電子伝達系に電子を手渡し,電子は最終的には酸素に手渡されて水ができる。電子伝達系を電子が流れていく過程で,マトリックスと膜間腔の間にプロトンの濃度勾配が生じ,それを原動力としてATPがつくられる。内膜には電子伝達に関わる酵素と,それに共役した酸化的リン酸化に関わる酵素(ATPアーゼ)が埋め込まれている。

このように,細胞呼吸はエネルギー(ATP)を生み出す重要な現象であるが,そこには多くの酵素が働いているのである。

 

発展:代謝と酵素

生物が生きていくためにはエネルギーが必要である。

エネルギー代謝からみると,光合成を主とする炭酸同化作用は,吸エネルギー反応である。生命活動を営むすべてのエネルギーの出発点は,太陽エネルギーにある。それが有機物に吸収され,化学エネルギーとして蓄えられる。有機物を分解してエネルギーを取り出す発エネルギー反応が異化であり,このとき生命活動に利用可能なATPが合成される。発生したエネルギーの大部分は,熱エネルギーとして生態系の外に放散し,失われる。絶え間のないエネルギーの供給が生物を生存させることになる。

 

 

 








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