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第1節 細胞膜と物質の出入り

 

A 拡散

拡散と浸透

拡散は分子の熱運動の結果である。水に色素を加えた場合を考察してみよう。色素は次第に広がっていき,やがては全体に色素が均一に混ざった色素溶液ができる。

このとき溶液=系のなかの色素つまり溶質分子はランダムに運動し,偏っている状態から系全体に均一に分散する。この過程が拡散(diffusion )であり,自由エネルギーが減少するこの反応は自発的に起こる。すなわち,外からエネルギーを供給することなく起こる。自由エネルギーが減少した分だけエネルギーが放出し,系が安定した状態,すなわち平衡(equilibrium)に達するとそれ以上の変化は起こらず,仕事をすることもできない。

溶質分子だけが熱運動をしているのではなく,溶媒分子,つまりこの場合の水分子もランダムな熱運動をしていて,均一に拡散する。

拡散の過程で溶質分子は濃度の高いほうから低いほうへ,溶媒分子は逆のほうへ移動する。たとえば酸素濃度が高いほうから,細胞呼吸によって酸素が消費された細胞内へ取りこまれるのは拡散による。

拡散が膜を隔てて行われる現象を浸透(osmosis )とよぶ。溶媒だけでなくすべての溶質を透す膜を全透膜,水や一部の溶質を透すが,他の溶質は透さない膜を半透膜(semipermeable membrane)とよぶ。

 

B 浸透圧

C 動物細胞の浸透現象

◆動物細胞の浸透現象

赤血球を浸透圧の異なる溶液に浸けると,細胞は膨張したり,縮小したりする。浸透の結果であり,疑う余地はない。しかし,よく考えてみると奇妙な点がある。細胞膜は水だけを通す半透膜と仮定していた。しかし,細胞膜は脂質二重層でできている。だとすると,この膜は疎水性で,水分子が通りやすいはずはない。にもかかわらず,赤血球や腎臓の上皮細胞では細胞膜に水分子を透す孔が開いていると考えなければ説明できないほど,水の浸透性は高い。膜には水を透す孔が開いているのではないだろうか。

そして,チャネル(channel)を作るタンパク質を取り出すのに成功したのが,ピーター・アグレであった(1992年)。水分子を選択的に通すこのタンパク質はアクアポリン(aquaporin)と名付けられた。アクアは水,ポアは孔である。アクアポリンは細菌から動物や植物まで,すべての細胞膜に普遍的に存在することが分かっている。

 

D 植物細胞の浸透現象

 

◆浸透圧と膨圧

細胞膜はいろいろな物質を透過させるが,膜の通りやすさは水と比べて,どの物質も極端に低い。そのため細胞膜は,溶質をほとんど透過させず,水だけを通す半透膜とみなすことができる。

いま,弾性のある半透膜の袋にスクロース溶液を入れて空気が残らないように密閉し,この袋全体を水に浸すと,水が膜を通して袋の中に入りこみ(浸透),袋の容積は大きくなる。袋の容積を元の通りに保つには,外部から圧力を加えて袋を押し縮めるようにしなければならない。この圧力が浸透圧であり,浸透圧は袋内のスクロース溶液の濃度に比例する。

この圧力を最初に測定したのがペッファーWilhelm Pfeffer(1887)であった。ペッファーは,フェロシアン化銅の半透膜をつくり,その中にスクロース溶液を入れ,検圧計とつなぎ,図のような浸透計を作った。フェロシアン化銅をはった素焼の円筒を水に入れると,まず,水が半透膜を通して円筒内に入る。これが浸透で,この結果,円筒内部と連結してある検圧計の水銀が上昇する。この水銀柱の高さが示す圧力は,水が外部から中に浸透しようとするため生じたもので,この圧力を浸透圧という。ペッファーは,この浸透計を用いて稀薄溶液の濃度と浸透圧の関係,温度との関係を測定した。

その結果をもとにして,ファントホッフvan’t Hoff(1887)は稀薄溶液の浸透圧Pは,一定温度(絶対温度)において濃度C〔モル/l〕に比例することから,浸透圧が理想気体法則に従うことを認めた。すなわち

PRCT〔気圧〕   R:気体定数(22.4/273=0.0821) T:絶対温度

したがって,1モル/ l溶液の浸透圧は,0(絶対温度273K)では浸透圧が22.4気圧になる。

 

 

上の装置で,外液の濃度を円筒内のスクロース溶液の濃度と等しくすると水銀柱は上昇しない。このとき,外液は内液と等張(isotonic)であるという。同じモル濃度であっても,電解質の場合は複数のイオンとなって浸透圧的に働くから,非電解質よりも高い浸透圧を示す。例えば,食塩の1モル溶液は20℃では43.2気圧を示す。

水の細胞内への浸透によって細胞内に生じる圧力を膨圧(turgor pressure)と呼ぶ。植物細胞においては,細胞壁が膨張に抵抗するため,大変に大きな膨圧(数気圧〜数十気圧)が生じるのが普通に見られる。これに対し動物細胞内部の液の浸透圧は体液とほぼ等しく,膨圧は無視できるほど小さい。

動物細胞は細胞壁をもたないため,外液の浸透圧があまりに低いと,細胞膜は膨張にたえられなくなり破裂する。赤血球細胞でこれが起こるのが溶血(hemolysis)である。植物細胞の場合は,浸透圧の低い外液に浸しても,細胞壁があるため破裂することはない。浸透圧の低い外液に浸された植物細胞は,一定容積までふくらみ,そこで平衡に達する。

細胞内の濃度よりも高い濃度の溶液に入れると,動物細胞は収縮する。植物細胞の場合は細胞が水を失うことにより収縮するが,細胞壁は収縮しにくいため,細胞壁と細胞膜が離れる。これを原形質分離(plasmolysis)という。

 

★吸水力

植物細胞が,まだどれだけ水を吸収する力があるかを吸水力(suction force)と呼ぶ。蒸留水に植物細胞を浸した場合には,それは細胞内液の浸透圧と膨圧の差で示される。

吸水力=浸透圧−膨圧

 

次に,植物細胞を蒸留水ではなく,細胞より低張の液に浸した場合を考えてみよう。細胞内液と細胞外液の浸透圧差が,水が細胞内に浸透しようとする圧力なので,先ほどの式「吸水力=浸透圧−膨圧」の“浸透圧”の部分を細胞内外の浸透圧差,すなわち“細胞内液の浸透圧−細胞外液の浸透圧”に置き換えると式は

吸水力=(細胞内液の浸透圧−細胞外液の浸透圧)−膨圧

となる。

(細胞外液の浸透圧Q,細胞内液の浸透圧P,膨圧T,吸水力Sとすれば,式はSPQT)

 

 

E 選択的透過性

受動輸送

細胞膜を通しての物質の輸送を,受動輸送,能動輸送,膜動輸送に分類することがある。受動輸送(passive transport)は拡散による輸送で,エネルギーの供給を必要としない。物質は濃度の高いほうから低いほうへ移動する。能動輸送(active transport)は濃度勾配に逆らっての移動でエネルギーの供給を必要とする。膜動輸送 endocytosis または exocytosis)は食作用(phagocytosis)や飲作用(pinocytosis)のような膜全体を動かして行われる物質の移動である。

特定の物質に対する透過性の違いを細胞膜の選択的透過性と呼ぶ。まず,脂質二重層という細胞膜の特性が選択的透過性をもたらす。細胞膜の中層部は疎水性のため,疎水性(非極性)分子は脂質二重層に溶け込んで容易に膜を通過することができるのに対し,イオンや親水性(極性)分子は膜を直接通過することは妨げられる。酸素や二酸化炭素,炭化水素などの非極性分子は容易に細胞膜を通過するが,グルコースのような親水性分子はゆっくりとしか通過しないし,小さな分子である水でさえ,極性分子であるがゆえに透過はあまり速くない。

親水性の物質については,膜を貫通する輸送タンパク質を経由することで,脂質二重層と接触することなく通過できる。細胞膜には水分子を通過させるアクアポリン(aquaporin)だけではなく,多くのイオンや物質を通す輸送タンパク質(transport protein)が発見された。アクアポリンは水を通す通路を提供しているだけだが,輸送タンパク質のなかには,物質をつかんで反対側に輸送できる運搬体タンパク質(carrier protein)がある。こういった物質に特異的な輸送タンパク質は細胞膜の選択的透過性をもたらす。たとえばグルコースの運搬体タンパク質はグルコースだけを運ぶことができ,フルクトースを運ぶことはできない。輸送タンパク質の助けによって濃度勾配を下るように輸送される受動輸送を促進拡散(facilitated diffusion)とよぶ。

運搬体タンパク質には,ATPのエネルギーを使って働くものがあり,能動輸送及び輸送体タンパク質の項目でさらに説明する。

受動輸送と能動輸送

 

能動輸送

生物の体内でも,細胞の内と外では,イオン濃度が大きく異なっている。これは,まだ塩分の濃くなかった原始海洋で出現した細胞が,そのときの塩組成をそのまま保持してきているからとみなされている。しかし,そのために濃度勾配に逆らって塩組成を保つしくみを発達させることになった。つまり,細胞は生活に必要な物質の吸収やイオン濃度の維持を,単なる拡散によって受動的に行っているのではない。たとえば消化管ではグルコース濃度の勾配に逆らって吸収することもあるし,褐藻類のあるものでは海水中に少ないIBrを多量に濃縮している。濃度の勾配や電位差に逆らって物質やイオンが細胞膜を出入りすることを能動輸送という。能動輸送にはエネルギーが必要で,ATPが消費される。このことはATP生産反応(呼吸や発酵)を阻害すると,能動輸送の能率が急激に低下することからも理解される。

典型的な能動輸送の例は細胞膜にある運搬体タンパク質の一種,ナトリウムポンプ(またはナトリウム-カリウムポンプ)である。これはATP分解酵素を持ち,ATP分子を分解する際に,ナトリウムイオン3分子を細胞外へ,カリウムイオン2分子を細胞内に移動させる。

哺乳類細胞と血液のイオンの濃度差のデータを下に示した。差が明瞭になるようにグラフで示したり,比を計算させるとよい。

 

 

哺乳類細胞と血液のイオン組成〔mmol

 

イオン

細胞内

血液

 

K

140

5

 

Na

10

145

 

Cl

5

115

 

Mg2+

1

1

 

Ca2+

10−4

1

 

 

 

能動輸送(ナトリウムポンプのしくみ)

@A Naがナトリウムポンプ(輸送タンパク質)に結合すると,ATPによってポンプがリン酸化される。

B リン酸化によってポンプが構造変化を起こし,Naが細胞外へ排出される。続いて,Kがポンプに結合する。

C Kがポンプに結合することによって,リン酸基はポンプから離脱する。そして,Kは細胞内へ運搬された後,ポンプは@の構造へ戻る。

 

発展:チャネルとイオン−輸送タンパク質

すでに「動物細胞と浸透」,「受動輸送」,「能動輸送」の項目でチャネルとイオンについて触れてきた。

細胞膜中に選択的透過性をもたらすさまざまな輸送タンパク質が埋めこまれており,特定の分子が膜を横切って運ばれて膜を透過できることになっている。

輸送タンパク質にはチャネルタンパク質(channel protein)と運搬体タンパク質(carrier protein)の2種類がある。チャネルタンパク質は単なる通路を提供するだけなのに対し,運搬体タンパク質は,特定の分子を結合して一連の構造変化を行うことにより運ぶ。

チャネルタンパク質の孔は小さい。あまり大きいと何でも通過してしまってチャネルの意味がないからである。また,なんらかのゲート()を持っているチャネル(ゲート付きチャネル gated channel )が多く,イオンチャネル (ion channel)の多くはゲート付きである。ゲートはふつう閉じており,電気的,機械的または化学的な刺激によって開く。刺激の種類により,電位作動性チャネル(膜電位の変化に応答する),機械刺激作動性チャネル(変形などの機械的刺激に応答する),リガンド作動性チャネル(特異的にタンパク質に結合する低分子物質=リガンドに応答する)などに分けられている。神経軸索上を活動電位が伝わる際の主役は電位作動性Na+チャネルである。内耳の有毛細胞には機械刺激作動性チャネルがあり,脊つい動物骨格筋の神経筋接合部の筋細胞の後シナプス膜にはアセチルコリンをリガンドとするリガンド作動性チャネル,アセチルコリン受容体がある。

さらに通常,チャネルは通過できるイオンや物質を選択するフィルターを入口近くに持っている。

チャネルを構成する膜貫通タンパク質は幾重にも折れ曲がったペプチド鎖である。ナトリウム,カリウム,カルシウム,塩素,サイクリックヌクレオチド感受性陽イオン等々のイオンチャネルが知られている。

運搬体タンパク質には促進拡散に関係するもの,能動輸送に関係するものなど様々なタイプがある。「生物U」に出てくる運搬体タンパク質としては前述のナトリウム−カリウムポンプ,ミトコンドリア内膜の電子伝達系におけるプロトン(水素イオン)ポンプがある。運搬体タンパク質の構造と輸送のしくみなど詳細な研究が日本の研究者によってなされている。

 

 

 








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