トップ生物I 改訂版第1部 生物体の構造と機能第1章 細胞の構造>第3節 細胞の構造

第3節 細胞の構造

 

◆細胞膜

細胞をおおっている細胞膜は,厚さ約8nmの二重膜からできている。リン脂質が水をきらう炭化水素部分を内側にして二重膜をつくり,親水性部分を表面にだしている。これにタンパク質がところどころに埋めこまれている。脂質とタンパク質の重量比はおよそ11である。タンパク質には糖質が結合していることが多い。この構造は流動モザイクモデル(Singer1972)としてひろく認められている。

 

細胞膜のタンパク質には,脂質二重層中に埋めこまれている内在性タンパク質と表層に結合している表在性タンパク質とがある。ナトリウムポンプや,ホルモンの受容体などは内在性タンパク質である。細胞膜直下には,スペクトリンなどが網目状に配列した支持構造があり,裏打ち構造とよばれる。ミトコンドリアや葉緑体の膜,核膜にも細胞膜と同様な二重膜があり,総称して生体膜とよばれる。

 

◆細胞壁

細菌や植物細胞のまわりには,セルロースとペクチン,リグニンなどからできた細胞壁(cell wall)が存在する。細胞膜(形質膜plasma membrane)は細胞壁に接している。したがって,細胞壁は細胞外構造ということができる。

 

A 細胞小器官
◆核

細胞核は,有糸核分裂に際しては一時消失する。細胞周期の間期にみられる核について述べる。核は細菌やラン藻などの原核生物には存在しない。また,ほ乳類の赤血球のように消失しているものもある。核は細胞に1個あるのがふつうであるが肝細胞では2個あることがあり,また,骨格筋では多数存在する(多核細胞)。核の形は,一般的には球形であるが,柱状,紡錘体状のものがある。核は内外2枚の厚さ約8nmの二重膜からなる核膜でおおわれている。2枚の膜の間には2050nmのスペースがある。核膜には直径50100nmの孔があり(核膜孔),核と細胞質を連絡し,物質の出入りにあずかっている。外側の核膜は,ときに小胞体とつながっていることがある。

核の中には,染色質が多量に分布している。あるものは核膜の内側の膜(内膜)に付着している。染色質は,DNAとヒストンなどのタンパク質が結合したもので,DNAの二重らせんが折りたたまれた状態にあるといわれている。核の中には1個ないし数個の核小体()が存在する。これは,リボソームRNAの合成と,リボソームの組み立てを行っている。

 

◆ミトコンドリア

ミトコンドリアは,糸状の粒という意味のギリシア語に由来し, 1897年にべンダ(C.Benda)が命名した。生きた細胞をヤヌス緑で染めると糸状体として認められる。長径0.15.0μm,短径0.11.0μmのひも状をしており,細胞呼吸の場である。

 

◆小胞体とリボソーム

細胞内に網状に広がっている構造物のことを,1945年に細胞学者ポーター(K.R.Porterアメリカ)らが小胞体(endoplasmic reticulum)と名づけた。小胞体は平たい袋状をして,互いに続いている。小胞体膜は細胞膜と同じ構造をしている。リボソームのついていない小胞体を滑面小胞体といい,イオンの輸送や分泌にあずかっている。リボソームのついているものは粗面小胞体といわれる。

リボソームは,タンパク質合成の場であり,細胞内では小胞体に付着していることが多い。直径15nmの小粒で,大小2つの亜粒子からなっている。大亜粒子は23×13nm,小亜粒子は22×7nmの大きさである。それぞれ多数のタンパク質と数種類のRNA(rRNA)とからなっている。リボソームが伝令RNA上に何個もついてタンパク質合成を行っているものをポリソームとよぶ。

 

◆ゴルジ体

解剖学者カミロ・ゴルジ(Camillo Golgi 18441926イタリア)は,1898年に彼の創案による銀染色法を用いてフクロウの小脳中に黒く染まる袋状構造を発見した。その後,この構造はいろいろな細胞に存在することがわかり,ゴルジ体とよばれるようになった。これは,小胞体の袋の集合体で,粗面小胞体がちぎれて袋になったような形をしている。小胞体で合成された分泌タンパク質は,ゴルジ体に集められる。それらは,小胞として運ばれ,細胞外へ分泌される。

 

◆中心体

細胞学者エドアルト・ベネーデン(Edouard von Beneden18461910ベルギー)が,1870年ウマの回虫卵で発見した。ベネーデンは体細胞の染色体数が一定であることを明らかにした人である。中心小体(centriole)は,直径0.2μm,長さ0.4μmの中空の円筒で,長径20nmの微小管 (microtubule)3本の組みが9つ配列してできている。ふつう2本の中心小体が互いに直交して存在し,核の近くに見られる。中心小体2本からなる1組みを中心体(centrosome)とよぶ。細胞分裂の前中期に中心体はそれぞれ2つに分かれ,組みになっている。中心体は1組みずつ細胞の両極に移動し,星状体を中心体の周りに形成する。また,両中心体間に紡錘体が出現する。

 

◆葉緑体

緑色植物(紅藻,褐藻を含む)にみられる色素体で,細菌,変形菌,糸状菌には存在しない。種子植物では凸レンズ形のものが多いが,紡錘形や円板形のものもある。アオミドロではらせん状のひも形,ホシミドロでは星形をしている。種子植物の葉肉では,葉緑体は直径510μm,厚さ23μmの大きさで,光合成の場である。

 

◆液胞

成長した植物細胞に見られる。トノプラスト(tonoplast)とよばれる膜でおおわれている。成長しつつある植物細胞では,液胞はミトコンドリア程度の大きさで,前液胞といわれる。細胞が成熟すると,液胞はしだいに大きくなり,細胞内で大きな部分を占めるようになる。内部に塩類・糖・有機酸・色素などを溶かしこみ,浸透圧を生じる。

植物細胞,酵母に広く存在し,有害産物などを溶かしこんで蓄える。排出しにくいため生成されたのであろう。動物細胞ではほとんど存在しない。例外的に知られているのはホヤの血液中の細胞で,海水中のバナジウムを濃縮して液胞中に蓄える。ホヤに有害なバナジウムを除去するためとみなされる。

 

◆リソソーム

生化学者クリスチャン・ド・デューブ(Christian de Duveベルギー)1955年に発見した細胞内小粒である。直径0.20.1μmの小粒で,内部にホスファターゼ,タンパク質分解酵素,グリコシダーゼ,DNaseRNaseなど加水分解酵素を多量に含んでいる。細胞が外からとり入れた異物や,不要な細胞成分を消化分解する役目をする。細胞が死んだとき自己消化する。

 

参考 細胞分画

細胞を機械的に破壊し,遠心分離によって細胞内の各構成要素を分離する方法を細胞分画法という。

(1) 細胞の破砕

@ミキサーやミンサー(ミンチをつくる機械)で組織片を細かくし,すり鉢やホモジナイザー(破砕機)で組織片や細胞をすりつぶす。

A酵素処理で細胞を解離し(植物の場合細胞壁も酵素処理で取り除く),浸透圧を低張にすることや超音波で細胞膜を破り,細胞の内容物を取り出す。細胞を破砕する際には,細胞内の急激なpH変動を防止する目的で,リン酸緩衝液やトリス塩酸緩衝液(トリスヒドロキシメチルアミノメタンtris hydroxymethyl aminomethane)等の緩衝液を加える。そのうえで細胞内に含まれるプロテアーゼ(タンパク質分解酵素)を阻害するために,プロテアーゼインヒビター(タンパク質分解酵素阻害剤)やキレート剤(EDTA)を加える。

また,内容物の安定のために適当な濃度の塩(NaClKCl),タンパク質内SH基の酸化を防止するためにジチオトレイトール (DTTdithiothreitol)2-メルカプトエタノール等の還元剤を加えることもある。プロテアーゼの活性を阻害するために,破砕操作は低温(4℃程度)で行う。

 

(2) 遠心法

 細胞を破砕することによってできた懸濁液を,抽出液(extract)またはホモジネート(homogenate)という。この抽出液に含まれる細胞小器官やタンパク質等の巨大分子を分離するために遠心分離機を用いる。遠心分離器は,大きくて重い物体ほど速く沈降するという理論に基づいて,回転によって重力の何十万もの遠心力を生じさせ,細胞小器官を沈殿,分離することができる。小さくて軽い粒子は拡散しようとする拡散力が大きいため沈殿しにくいが,遠心分離機で拡散力より大きい遠心力を生じさせることにより沈殿させることもできる。この遠心においても,低温(4℃程度)で行うために冷却遠心分離機を用いた方が好ましい。超高速で行う遠心にはローターを真空中で回転させる超遠心分離機を用いる。

 

上記の遠心法では大きさのかなり異なったものを分離できるが,分離した画分(沈殿物)には異なった成分も混ざっているため,さらに分離しなければならない。そのために,成分の特徴を利用してさらに遠心法で分離したり,密度の差による密度勾配遠心法を用いたりして分離する。タンパク質に関しては上清を塩析後,透析してクロマトグラフィーで分離する。DNARNA等の成分は上記と異なる遠心法で分離する。

 

(3) 密度勾配遠心法

式量の大きいスクロースや塩化セシウムで遠心管内に密度勾配を生じさせ,試料を分離する遠心法を密度勾配遠心法という。密度勾配遠心法には,以下の2つの方法がある。

@速度沈降法

遠心管中にあらかじめスクロース溶液で遠心管の上部から下部へ密度が高くなる密度勾配をつくり,この密度勾配液の上に試料を静かに入れ,遠心する。沈降速度は物体大きさと形によって決まり,沈降係数の大きいものほど早く沈降する。沈降したものは特定の部位で試料がバンド状に分離する。成分は遠心管の底に穴を空け,分ける。

A平衡沈降法

あらかじめスクロース溶液に懸濁した試料を高速で長時間遠心すると,遠心管中で上が薄く下が濃い濃度勾配ができる。このとき,試料の成分は上下し,成分の密度と同じ点にとどまり,試料がバンド状に分離する。

 

□アングルローターとスイングローター

アングルローターは回転前も回転中も駆動軸に対する遠心管の角度が一定であるローターである。高速ローターとしての強度を保ちつつ慣性モーメントが小さく,遠心管が遠心力により変形しにくいという利点がある。

スウィングローターは遠心管を挿入したバケットがローターの回転と共に遠心方向にスウィングし,水平になるローターである。バケットは常に遠心力の方向に向いているので,試料が舞い上がったり密度勾配が乱れたりしないという利点がある。そのため,密度勾配法にはこのローターが使用される。

  回転するとき沈殿物は遠心力の方向に沈殿するので,遠心管を立てておいた場合,アングルローターでは下部外側に斜めに,スイングローターでは下部に水平に沈殿する。

□クロマトグラフィー

タンパク質の画分の分離には,@電荷の違いで分けるイオン交換クロマトグラフィー,A疎水性度で分ける疎水クロマトグラフィー,B大きさで分けるゲルろ過クロマトグラフィー,C特定の分子に結合する能力で分けるアフィニティーカラムクロマトグラフィーが使用される。

 

□遠心力と回転数

質量mの粒子を半径r,角速度ωで回転すると,遠心力Fがはたらく。

Fmrω2  ………@

m:粒子の質量〔g〕,r:半径〔cm〕,ω:角速度〔rad/s

 

遠心加速度をαcm/s2〕とすると,遠心力Fは,

F ………A

となるので,@Aから,

α2 ………B

となる。

 

遠心分離を行う場合,遠心加速度は地球の重力加速度gの相対値との比である相対遠心加速度RCFRerative Centrifugal Force)を用い,×gまたはGを付けた形で表す。

αRCF×g ………C

BCより,

αRCF×g2

RCF2/g ………D

 

回転軸を中心に1分間当たりに回転する回数を回転数Nrpm〕という。

1回転当たりかかる時間tは,

t1/Nmin〕=60/Ns………E

である。

ωt2π ………F

であるので,EFより

ω2πN/60 ………G

 

相対遠心加速度RCFと回転数Nの関係はDG及び重力加速度g980.665cm/s2〕より,

RCFr(2πN60)2/g

RCF1.118×10−5rN2 ………H

 

〔例〕最大回転半径:rmax7.18cm〕,最高回転数:Nmax100000rpmのアングルローター

最大遠心加速度RCFmaxは,上記のH式に代入して

RCFmax1.118×105×7.18×(100000)2802724

よって,このアングルローターの最大遠心加速度は802724×gまたは802724Gと表される。

すなわち,このローターは重力加速度の約80万倍の遠心加速度までつくりだすことが可能であることを意味している。

 

参考文献

細胞の分子生物学 第4版 監訳:中村桂子,松原謙一 Newton Press

ローターについて,遠心力と回転数について 日立工機のHP http://www.hitachi-koki.co.jp/himac/

 

興味のある話細胞骨格

細胞骨格

真核細胞の細胞質中には多数の細い繊維(フィラメント)が存在して,細胞の形を保つのにあずかっている。これら繊維構造を細胞骨格(cytoskeleton)という。細胞骨格には直径7nmのミクロフィラメント(アクチンフィラメント)10nmの中間径フィラメント,250nmの微小管の3種類がある。ミクロフィラメントは細胞膜下などにあって補強役を果たすとともに,ミオシンと反応して運動性を示す。アメーバ運動などにあずかる。中間径フィラメントは核膜から放射状に伸びて細胞膜にいたり,細胞の形を保つ。また核膜をつくりあげる。微小管は細胞分裂のさいに星状糸や紡錘糸として重要な役割を果たす。また,神経軸索を支え,物質運搬のレールとなる(レール上を走る「トロッコ」はモータータンパク質キネシンである)。これら3種類のフィラメントはいずれも単位タンパク質からなり,重合・脱重合することができる。

 

発展 電子顕微鏡で見た細胞構造と働き

 

真核細胞は核,ミトコンドリア,葉緑体,小胞体などの細胞小器官を含んでおり,これらは電子顕微鏡観察技法によってその微細構造が確認できる。

 

(1) nucleus

直径3~10μmで球形の細胞小器官である。遺伝子の本体であるDNAを含む。DNAはヒストンというタンパク質に巻き付き,クロマチン繊維として存在する。DNAからRNAの転写もここで行われる。核質の一部には核小体が1〜数個存在し,そこにはmRNAtRNAやリボソームを構成するrRNAが存在している。核は核膜という二重の脂質二層膜に包まれており,核膜に存在する核膜孔を通して物質の移動が行われる。電子顕微鏡観察によって核膜が二重膜であることが確認できる。

 

(2) 細胞(形質)cell membraneplasma membrane

厚さ10 nmで細胞質を取り囲む,5nmのリン脂質が疎水面で重なった脂質二層膜である。細胞膜に含まれる様々な膜タンパク質はポンプやチャネルとして機能し,特定の物質を細胞の内外へ輸送する。膜タンパク質には受容体として働き,細胞内情報伝達系に関与しているものもある。細胞膜を形成する膜タンパク質や脂質は糖鎖修飾されていて,多くの糖タンパク質や糖脂質は,重要な生理作用を担う。

 

(3) 小胞体endoplasmic reticulum

一重の脂質二層膜に囲まれた平らな構造,袋,管状の細胞小器官。小胞体の膜は核膜の外膜とつながっている。タンパク質の合成を行うリボソームが付着している小胞体は粗面小胞体(rough endoplasmic reticulum),リボソームの付着していないものは滑面小胞体(smooth endoplasmic reticulum)とよばれている。粗面小胞体は,膜タンパク質や分泌タンパク質の合成に関与し,合成されたタンパク質は輸送小胞によってゴルジ体や他の細胞小器官,細胞膜へと輸送される。滑面小胞体は,脂質の合成(肝細胞やステロイドホルモンを産生する細胞)やカルシウムイオンの貯蔵・放出(筋小胞体等)の機能を担っている。

小胞体画像 右図が粗面小胞体,左図が滑面小胞体の透過電顕画像である。粗面小胞体にはリボソームが付着しているのが分かる。bar200 nm。(写真提供:群馬大学 田中秀幸博士)

 

(4) ゴルジ体golgi apparatus

扁平な袋状の二重の脂質二層膜が重なった構造をもつ細胞小器官。小胞体から輸送された膜タンパク質の糖鎖修飾等に関わり,分泌タンパク質などはゴルジ小胞とよばれる小胞によって細胞外へ輸送される。

 

(5) ミトコンドリアmitochondria

直径0.2~1.0 μmの球形から円筒形で,二重の脂質二層膜からなる細胞小器官である。好気呼吸の場であり,ATPを合成している。内膜にはクリステとよばれるひだ状の部分が多数存在し,電子伝達系に関与する。クリステ以外の空間をマトリックスとよび,クエン酸回路に関わる多種の酵素が存在している。

ミトコンドリア画像 bar200 nm。(写真提供:群馬大学 田中秀幸博士)

 

(6) 葉緑体chloroplast

直径約5μmの扁平な円盤状で,二重の脂質二層膜からなる細胞小器官である。クロロフィルを含むチラコイドとよばれる袋をもっている。光合成の他に窒素代謝,アミノ酸合成,脂質合成などの働きがある。

 

(7) 細胞骨格cytoskeleton

真核細胞の細胞質中には3種類の細胞内細繊維(フィラメント)が存在して,細胞の構造を機械的に維持している。これらの繊維構造を細胞骨格(cytoskeleton)という。細胞骨格には直径6 nmのアクチンフィラメント,10 nmの中間径フィラメント,25 nmの微小管の3種類がある。

アクチン分子は細胞質及び核内に分布しているが,重合したアクチンフィラメントは特に細胞内膜直下に多く存在し,直鎖状のもの,網目状のものがある。ミオシンとの相互作用で運動性を示す原形質流動やモノマーアクチン(球形((globular))アクチン,Gアクチン)の解離と再合成(脱重合と重合)によるアメーバ運動等に関与している。

中間径フィラメントは核膜内膜直下で網目状構造を形成し,核膜から放射状に伸びて細胞質を横断して,細胞の強度を保つ。また,上皮細胞では隣り合う細胞間の接着帯の構造を担う。

微小管は細胞分裂のさいに星状糸や紡錘糸として重要な役割を果たす。また,神経の軸索を支え,物質運搬のレールとなる(レール上を走る「トロッコ」はモータータンパク質キネシン及びダイニンである)

これら3種類のフィラメントはいずれも単位タンパク質からなり,重合・脱重合することができる。

アクチンと微小管(TEM画像) 右図がアクチンフィラメント,中図が微小管,右図が中間径フィラメントである。

bar100 nm。 (写真提供:群馬大学 田中秀幸博士)

 

アクチンと微小管(共焦点レーザー走査顕微鏡画像)  マウス骨格筋の培養細胞のアクチン(赤)はAlexa FluorR 594-ファロイジンで,微小管(緑)はAlexa FluorR 488-チューブリン抗体で,核(青)はDAPI(4',6-diamidino-2-phenylindole)でそれぞれ標識。bar20 μm。(写真提供:片山豪博士)

 

 

細胞の研究史

◆細胞の発見

 ロバート=フック(Robert Hooke 16351703イギリス)は,ばねの弾性率に関するフックの法則で知られているが,顕微鏡を用いて,コルクの小片を観察して,それが空の小さな部屋からなることを見い出し,細胞と名づけた(1665)。彼はその著「ミクログラフィア」(顕微鏡図説)の中で,コルクの細胞は死んでいるので,穴があいているが,生きているときは,液がつまっていると述べている。しかし,細胞の名をつけたが,生物体の構成単位と考えたわけではなかった。植物学者のロバート=ブラウン (Robert Brown 17731858イギリス)は,植物細胞中に黒ずんだ小さなものがあることを発見し,核と命名した。それは,ほとんどすべての植物細胞に存在する。ブラウンは,水に浮かんだ花粉の観察からブラウン運動を発見した人である。

 

◆細胞説

植物学者マチアス=シュライデン(Matthias Schleiden18041881ドイツ)は,高等植物の胚のう形成の過程を観察していて,核が細胞に成長するという誤った説を提出した(1838)。シュライデンの細胞説の発表を聞いて,医学者テオドール=シュワン(TheodorSchwann 18101882ドイツ)は,ただちに動物細胞を調べてみた。動物の細胞は,植物のそれと違って細胞壁がなく細胞の輪郭がはっきりしなかった。シュワンは,カエルのおたまじゃくしの脊索から細胞をとり出して,植物細胞と同じ構造をしていることを示し,さまざまな動物細胞を調べ,血液中では赤血球など細胞が遊離していること,卵も卵黄を含んだ巨大な細胞であることなどを明らかにした。神経鞘の細胞は,発見者の名をとってシュワン細胞とよばれている。こうして,シュライデン,シュワンの研究によって,生物体を構成する単位としての細胞説が確立した。

 解剖学者ルドルフ=ケリカー(Rudolf von Kölliker18171905スイス)は,細胞説からみた組織学と発生学の基礎を築いた。ケリカーに影響を受けて発展させたのはルドルフ=フィルヒョー(Rudolph Virchow18211902)である。彼は,これまでの細胞についての知見をまとめて,「すべての細胞は細胞から(Omnis cellula e cellula)」というキャッチフレーズを発表した(1858)。植物学者フーゴ=モール(Hugo von Mohl 18051872ドイツ)は,細胞の内容物に原形質(Protoplasm)という名を与え(1846),現在でも原形質流動の用語に残っている。

1665年 フック

 細胞の発見

1825年 ラスパイル

 凍結切片法の発明

1831年 ブラウン

 核の発見

1838年 シュライデン

 新しい細胞説の発表

1839年 シュワン

 細胞説の確立

1846年 モール

 原形質の発見

1858年 ゲルラッハ

 細胞染色法の導入

1855年 フィルヒョー

「すべての細胞は細胞から」

 を提唱

1862年 ワルダイヤー

 染色体の命名

1869年 クレブス

 パラフィン切片法の発明

1870年 ベネーデン

 中心体の発見

1897年 ベンダ

 ミトコンドリアを発見

1898年 ゴルジ

 ゴルジ体の発見

1912年 カレル

 組織培養法を完成

1933年 ルスカ

 電子顕微鏡を発明

1955年 デュープ

 リソソームの発見

1957年 ロバートソン

 細胞膜の単位膜説を提唱

 

 

B 原形質流動

◆原形質流動

植物細胞にみられる方向性をもった原形質の流動をいう。シャジクモの巨大な細胞では中央部に液胞があり,細胞膜に接したゲル層の上をゾル層が約50μm/sという速い速度で一定方向に循環流動している。ゲル層にはアクチンフィラメントが方向性をそろえて存在している。その上をミオシン分子が速い速度で走って水流を起こすものとみなされている。ATPがエネルギー源として用いられる。シャジクモの原形質流動の速度は骨格筋の滑る速度の10倍も速く,シャジクモのミオシンが効率よく関与しているものと考えられている。

 

 

◆原形質流動の観察とタイプ

原形質流動は,細胞が生きていることを実感させる運動である。多様な材料で観察することができ,古くから多くの研究が発表されている。ふつう,次のタイプに分類できる。

(1) 周回運動(回転運動)細胞膜にそって細胞の縁を回転するような経路で流れる運動で,代表的なのは,シャジクモの節間細胞やオオカナダモの葉の細胞で見られる。特に,シャジクモの原形質流動は,詳しく解析されており,細胞質のゾルとゲルの界面に沿って滑りの力が生じ,それによって流動する。この界面には,アクチンを主成分とするミクロフィラメントが分布していて,それに沿って果粒が流れていくことがわかっている。各種の植物の根毛でも,周回運動が見られる。

(2) 循環運動 細胞質内を部分的に循環して流れる運動である。ムラサキツユクサの雄しべの毛で見られるのが,その代表である。タマネギの鱗片葉で見られるのもこの型である。ただし,タマネギの場合は,切ってすぐのプレパラートでは,活発な流動はふつう見られない。したがって,実習する場合には,あらかじめ切片をつくって,1晩ぐらい水に浸しておいたものを観察させる必要がある。

(3) 往復運動 一定時間一方向に流れてから短時間停止し,次に逆方向に流れる運動をいい,変形菌類(俗に粘菌という)の変形体に特有な運動である。この運動は大変活発であって,顕微鏡で観察すると,メダカの尾の血流のように見えるが,往復運動で流速が時間とともに変化する点が違っている。変形体の原形質流動に関しては,フィサルム・ポリセファルムというアメリカ原産の種について,詳しく調べられている。この流動は,筋肉と同様に,アクチンとミオシンの両タンパク質が関与していること,流動のエネルギー源がATPであることなどが,実証されている。

(4) アメーバ運動 アメーバで見られるように,内部の流動にともなって外形が変化する運動である。もともと原形質流動というのは,植物細胞の運動(cyclosisという)に対してつくられた語で,アメーバのように流動によって外形が変わるのは原形質流動ではないといわれていた。しかし,(3)の粘菌の変形体(この場合は,古くから原形質流動とされている)でも,流動にともなって外形が変わるから,原形質流動とアメーバ運動を区別するのは,あまり論理的な根拠はない。アメーバ運動のしくみも変形体の原形質流動と同様であって,アクチンとミオシンが関与し,ATPがエネルギー源となっている。

 

 

 

 








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