トップ生物I 改訂版第1部 生物体の構造と機能第1章 細胞の構造>第2節 生命の単位=細胞

第2節 生命の単位=細胞

 

さまざまな細胞

p.15の図2で示されるように,細胞の形と大きさは多様である。原生動物のように1個の細胞で独立して生活しているものは,細胞小器官が発達している。同じ独立生活をする単細胞でも細菌は小さく,体のつくりがずっと簡単である。

多細胞生物では,器官や組織があって,それぞれ特有の形,大きさ,働きをもつ細胞からできている。それらは,すべて受精卵に由来するもので,同一の遺伝子ゲノムから各種細胞の分化をもたらす各遺伝子群の発現の調節の仕組みが目下大いに研究されている。

 

◆マイコプラズマとウイルス

マイコプラズマは,1898年ウシ肺疫の病原菌からP.P.E. Rouxによってろ過性微生物として発見された。1956年にマイコプラズマと命名された(D.G.EdwardE.A.Freundt)。マイコプラズマは,長さ0.51μm,幅0.5μm以下の最小の寄生性細胞で,体積は大腸菌の1/80にすぎない。マイコプラズマには細胞壁がなく,ふつうの細菌とは異なる。DNAの大きさは大腸菌の1/5程度である。

これに対して,ウイルスは細胞とはみなされず,遺伝物質(DNAまたはRNA)をタンパク質がおおった小粒子で,大きさは20300nm程度である。ウイルスは,毒を意味し,1898年にLoefflerによってウシの口蹄疫からろ過性病原体として発見された。タバコモザイクウイルスは,アメリカのスタンリー(Wendell Stanley 19041971)によって1935年に結晶化され,生物と無生物の中間体として注目をあつめた。はじめは,ウイルスは原始生命とみなされた。遺伝物質とその保護タンパク質からなるからである。しかし,今日では,むしろ,細胞のDNARNAの一部が独立した後発的なものとされている。細菌に寄生するウイルスは,バクテリオファージとよばれる。ウイルスは他の生物に寄生しなければ増殖できない。ウイルスを最小の生物とみなす考えに反対する向きがある。

 

参考 細胞の研究と顕微鏡

細胞は生物の基本単位で,単細胞生物では細胞は個体そのもの,多細胞生物では細胞は組織さらに器官を構成する。細胞の大きさは様々であり,多くの真核細胞の直径が1030µm程度である。最大の細胞はダチョウの卵で直径30cmのものや座骨神経の軸索のように1mの長さにまでおよぶものもある。最小の細胞は,真正細菌のマイコプラズマで,その直径はおよそ0.25µmのものもある。細胞の機能を解析する上でその構造を知ることは必須である。そういった意味で,様々の細胞に関する研究の発展は,顕微鏡観察技術の進歩によるところがとても大きい。

(1) 分解能について

2つの物体が別々に見える最小の単位を分解能という。下図では下向きの矢印で示してある。観察する範囲は,肉眼,光学顕微鏡,電子顕微鏡でそれぞれ以下の様である。

分解能 mm(マイクロメートル)=10−3m  mm(マイクロメートル)=10−6m nm(ナノメートル)=10−9m

 

分解能εlimit of resolution)は,集光レンズと対物レンズに依存し,以下の式で計算できる。

Reyleighの式)

λ;使用波長(可視光の場合,一般的にλ=0.55mmを用いる)

n;試料と対物,集光レンズの間にある媒質の屈折率。

(高分解能で観察する場合,試料とレンズの間を油で満たす。)

θ;試料中の1点から対物レンズによって集められる円錐状の光の頂角の2分の1

nsinθ開口数N.A.Numerical aperture

波長が短いほど,開口数が大きいほど分解能はよくなる。

〔例〕N.A. 0.90のレンズ,可視光(λ=0.55mm)の場合

 

分解能εは,0.37mmとなる。    

(2) どの顕微鏡を選ぶか?

細胞を観察する場合,大きさや目的に応じて使用する顕微鏡が異なる。

 

 巨大細胞や組織全体観察

実体顕微鏡;低倍率で観察するときに用いる光学顕微鏡(light microscope)である。機種によっては100倍を越えるものもある。通常落射照明を用い試料の表面を観察する。そのため試料を切片にする必要がない。解剖や組織の切り出し作業にも用いる。透過照明を備えた機種もあり,用途に応じて用いる。

 

 薄い細胞または組織切片の観察

正立顕微鏡;照明装置が下部,対物レンズが上部に位置する顕微鏡。

@明視野顕微鏡(bright-field microscope

生徒用顕微鏡として最も普及している光学顕微鏡である。これは反射鏡や照明装置によって下からの透過光を利用する。薄い細胞または組織切片にした試料を透過する光の像を観察するので,コントラストが弱くて観察しにくい場合がある。観察しにくいものは,染色して観察する。

A暗視野顕微鏡(dark-field microscope

暗視野コンデンサーを挿入し,照明を横から当てて,散乱光だけが顕微鏡レンズに入るようにして種々の細胞の成分を観察できるようにした顕微鏡。背景が黒く,散乱光の部分だけが明るく見える。標本を染色なしで観察できるので,細胞を生きたまま観察できる。

B位相差顕微鏡(phase-contrast microscope

専用の位相差コンデンサーと位相差対物レンズが用いられる。それぞれの細胞細部の屈折率の違いによって光の位相差をコントラストに変換することで観察できる光学顕微鏡である。暗視野顕微鏡と同様に標本を染色なしで観察できる。

C微分干渉顕微鏡(differential interference -contrast microscope

分割した2つの偏光が,試料を透過するときに生じる位相差をコントラストに変換することで観察できる光学顕微鏡である。暗視野顕微鏡と同様に標本を染色なしで観察できる。

D蛍光顕微鏡fluorescence microscope

試料に特定の波長の光(励起光)を当て,蛍光を観察する顕微鏡である。励起光には紫外線(UV励起365 nm),青色光(B励起405 nm),緑色光(G励起546 nm)等が用いられている。

蛍光観察をするには目的とする細胞内の物質に蛍光色素を結合させる必要がある。蛍光色素にはFITCfluorescein isothiocyanate. やローダミン(rhodamine)等がある(蛍光試薬についてはニコンのHP http://www.nikon-instruments.jp/jpn/PRODUCTS/OPTION/search/a.htm参照)。

これらの蛍光色素による二重染色,三重染色など多重染色が可能である。また,対象目的とする生体内タンパク質の存在位置や挙動を知るために,そのタンパク質をコードしている遺伝子の一端に緑色蛍光タンパク質(GFPGreen Fluorescent Protein)の遺伝子を附与し,GFP標識融合タンパク質として緑色励起光での蛍光観察も可能である。

E共焦点レーザー走査顕微鏡(confocal laser scanning microscopy

光源はレーザー光を用い,蛍光顕微鏡と同様に特定の波長で励起させ,蛍光を観察する顕微鏡である。光路中のピンホールにより焦点の違う蛍光はカットされ,同様の焦点の蛍光が観察されるので,厚みのある標本でも蛍光はスライス画像として得られる。通常ステージを機械的に上下させる機構があり,複数の焦点距離面の像を積算することで,三次元の情報も得られる。微分干渉像との融合画像も簡単に作成することができる。

 

 培養細胞観察

倒立顕微鏡;照明装置が上部,対物レンズが下部に位置する顕微鏡。培養細胞をぺトリ皿の中で観察できるので,培養途中の生きたままでも観察可能である。上記と同様@明視野顕微鏡,A暗視野顕微鏡,B位相差顕微鏡,C微分干渉顕微鏡,D蛍光顕微鏡,E共焦点レーザー走査顕微鏡がある。

F全反射顕微鏡(TIRFMTotal Internal Reflection Fluorescence Microscope

レーザー光を全反射させカバーガラス表面で形成されるエバネッセント光を励起光として利用することにより,ガラスのごく近傍の蛍光分子のみを蛍光させる顕微鏡。

共焦点レーザー走査顕微鏡画像 左図はローダミン-ファロイジン(Rhodamine-phalloidin)でアクチンフィラメントを標識した血管平滑筋の培養細胞,phalloidinは、F(filamentous)-アクチンに特異的に結合する分子である。右図は平滑筋培養細胞においてGFP標識アクチンの分布を示す共焦点レーザー顕微鏡観察の画像。bar50 μm。 (写真提供:群馬大学 田中秀幸博士)

 

 試料内部の微細構造の観

分解能を上げるため,使用する光源に波長の短い電子線を用いた顕微鏡が電子顕微鏡(Electron Microscope)である。電子を収束させるためのレンズとして磁気コイルを用いる。

透過型顕微鏡(TEMTransmission Electron Microscope

試料に電子線をあて,それを透過してきた電子を拡大して観察する電子顕微鏡。試料は真空中に晒さなくてはならないので,以下の脱水工程が必要である。乾燥による構造崩壊を抑えるために,グルタールアルデヒド等でタンパク質分子同士を共有結合させる(前固定)。次に四酸化オスミウムでタンパク質や脂質二層膜に結合し安定化させる(後固定)。四酸化オスミウムによって生体物質(特に脂質)の電子密度の濃淡も得られるが,さらにコントラストを上げるために,重金属溶液であるクエン酸鉛,酢酸ウラニルで処理する。

電子線は透過力が非常に弱いので,試料の脱水工程の後,エポキシ系樹脂に包埋し,さらにダイヤモンドナイフが付属したウルトラミクロトームで超薄切片(約100 nmのスライス)を作製する工程が必要となる。観察画像は写真フィルムまたはCCDCharge Coupled Device)カメラで撮影(記録)する。

TEMSEM(走査型電子顕微鏡)よりも分解能が高いので,巨大分子にSEMと同様に白金等の金属を蒸着させ影をつくるシャドーイングによって巨大分子個々の観察が可能になる。

金などの電子密度の高い粒子を付着させた抗体によって,特定の分子の位置を電子顕微鏡で観察すること(金コロイド標識抗体を用いた免疫染色電子顕微鏡,略して免疫電顕)や放射性同位体(ラジオアイソトープ)で標識した分子を細胞内に取り込ませその移動を電子顕微鏡で観察すること(電子顕微鏡オートラジオグラフィー)もできる。

平滑筋ミオシンの走査型電子顕微鏡画像 ロータリーシャドー法により観察したニワトリ砂嚢(砂肝)から抽出した平滑筋ミオシン分子の走査型電子顕微鏡画像。左図はミオシン分子が不活性型(調節軽鎖部位が非リン酸化)の分子形態で,尾部が丸まっている。右図はミオシン分子が活性型(調節軽鎖がリン酸化)の場合で尾部がのびている。bar20 nm (写真提供:群馬大学 田中秀幸博士)

 

 試料表面微細構造観察する

走査型電子顕微鏡 (SEMScanning Electron Microscope)

試料に電子線を当て,そこから散乱または発生した電子(二次電子)を検出器でとらえ,モニターに像をつくる電子顕微鏡。試料に走査電子線を照射して顕微鏡像をつくる。電子線を当てると試料表面が帯電してしまうので,試料を固定,脱水した後,表面にパラジウムや金,白金の導電性物質を蒸着させる。SEMの第一の利点は焦点深度が非常に深ことである。また,散乱電子の量は表面角度と電子線照射角度の相対的角度に依存するので,試料表面の盛り上がりや窪みが三次元的白黒濃淡の像として得られる。しかし,TEMと比較すると分解能は約10nmとあまり高くなく,細胞全体や微小生物の表面の構造を研究する場合に用いる。

 

参考文献

細胞の分子生物学 第4版 監訳:中村桂子,松原謙一 Newton Press

染色・バイオイメージング実験ハンドブック 編集 高田邦昭 他 羊土社

解像度について オリンパスHP http://www.olympus.co.jp/jp/insg/ind-micro/terms/resolving_power.cfm

蛍光試薬の一覧 ニコンHP http://www.nikon-instruments.jp/jpn/PRODUCTS/OPTION/search/a.htm

構造細胞生物学のための電子顕微鏡技術  日立ハイテクHP

http://www.hitachi-hitec.com/em/emworld/technique/index.html

 

 








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