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第1節 細胞説の確立

 

参考 細胞説

◆細胞を見る技術

細胞は体をつくっている基本単位であり,細胞の構造や,それが並んでつくりあげている組織・器官の構造を知るためには,細胞を詳しく観察しなければならない。しかし細胞の大きさは1/100mm程度であり,肉眼で見ることは難しい*。顕微鏡で拡大して見る必要があり,そのためのさまざまな技術が開発されてきた。

) ヒトの目の分解能は0.10.2mmと言われている。ヒトの目がどのくらい見えるかを表すのに,ふつう「視力」が用いられる。視力は,2つの点が離れていることを見分けられる一番小さな角度で表す。これを最小視角といい,最小視角の逆数が視力である。最小視角が1(1度の60分の1)のものを見分けられる視力を1.0と決めている。最小視角が2分なら視力は0.5である(1/2=0.5)

・顕微鏡の分解能(解像力) 2つの点を,別々のものとして見分けられる最小の距離を分解能という。分解能は対物レンズの性能によって決まる。分解能は以下の式で与えられる。

分解能=波長÷開口数

ここでの波長とは観察する光の波長(普通は可視光)である。開口数(NA)は,対物レン

ズに「NA0.6」というように表示がされているが,だいたい0.051.4の値をとり*,これが大きいほど高い分解能が得られる。

可視光(平均波長0.55μm)で開口数1.4とすると,分解能は0.4μmになる。このあたりが光学顕微鏡の限界に近い。

) 開口数は次の式で与えられる。a=nsin(u/2)ここでnは観察対象とレンズの間にある物質の屈折率。ふつうは空気なので屈折率は1である。油浸レンズを使えばnが大きくなり,分解能が上がる。uは開角。開角とは,レンズの光軸上にある点状の物体に焦点を合わせたときに,この点から対物レンズに入る光線の方向がなす角のうちの最大のもの。

・ミクロトーム 光学顕微鏡で観察するためには,光が透過するくらいに組織を薄くしなければいけない。教科書では,組織を発泡ポリスチレンにはさんで手に持ち,剃刀で薄く切るやり方が紹介してある。このやり方では厚さがまちまちになり,あまり薄く切ることはできない。普通は組織をパラフィンに包埋し,ミクロトームで薄切する。

材料がぷるぷるしたりへにゃへにゃすると,薄く切れない。薄切するためには固める必要がある。その作業が包埋である。ふつう,組織をパラフィンに包埋する*。パラフィンはろう(ワックス)であるため,氷となじまない。そこでまず組織をエタノールなどで脱水し,その上で加熱して溶かしたパラフィンを組織に浸透させ,冷やして固める。こうすると510μm程度の厚さの切片を作ることができる。

切片を作る装置がミクロト一ムである(ミクロ微細な+トーム切ること,どちらもギリシャ語)。回転式ミクロトームの場合,歯が上向きに固定されており,ハンドルを回すと試料台が上下に動く。この試料台にパラフィンに包埋した試料を固定する。回転とともに試料が下がっていき,刃にふれて薄く切れる。次に試料台は上昇して,試料台がごくわずか前進する。次の回転で下がり,前進した分の厚さに切片が切れる。前進する値は任意に設定できるため,定まった厚さの切片が切れることになる。回転式は連続切片を容易につくれ,広く使われている。回転を手動ではなく,電動で行うものもある。昔は,刃は自分で研いで使っていたが,使い捨ての刃が登場して便利になった。

滑走式ミクロト一ムの場合には,刃のほうを氷平に滑走させて試料を切る。切った後,刃を元にもどすと,試料台がわずかにせり上がり,次に切ると,そのせり上がった分の厚さの切片ができる。植物のように硬い試料の場合は,滑走式が好まれるようだ。

注)簡単には,組織を凍らせて固めて切るというやり方がある。氷結法は簡便であり,また,生きた組織を特別の処理をせずに固めるため切片にしても酵素の活性が失われないなどの利点もある。ただし,氷はぼそぼそするため,薄く切る段階で壊れやすく,きれいな切片を得ることは難しい。

・固定 パラフィンに包埋する作業は,脱氷や加熱をともない,もちろん細胞は死ぬし,タンパク質や脂質などの構成成分も,分解されたり,変形したり,溶け出ていったりする。また,細胞は死ぬとともにリソソーム内の分解酵素により,どんどん壊されていく。これらを阻止し,細胞をすみやかに殺してできるだけ生きた次態に近い構造をずっと保つようにする操作を固定という。よく使われる固定液(10%ホルマリン液・ブアン液など)にはホルマリンが入ってるが,ホルマリンは組織にすみやかに浸透し,タンパク質に架橋を導入して酵素活性を失わすとともにタンパク質が変形せず分解しにくくする働きをもつ。また,安価なのがよい。動物標本をホルマリン液中に保存することもよく行われる*

注)ホルマリンはこのようにとてもよい固定液であるため,取り扱いには注意を要する。なぜならホルマリンの蒸気に当たるだけで角膜や嗅上皮のタンパク質が固定されてしまうからである。固定の際には換気に気をつけること。

・染色 色素細胞や葉緑体などを除けば,細胞は色のついた構造をもたない。また,細胞質の屈折率は水とあまり違わないため,細胞をそのまま顕微鏡で観察しても無色透明に見え,構造を認識することが難しい。そこで,細胞のさまざまな構成物を色素で染め分ける技術が開発されてきた。

もっとも広く用いられている染色がヘマトキシリン・エオシン法である。ヘマトキシリンは塩基性色素*であり,核酸を強く染めるため,核がヘマトキシリンで青紫に染まる。エオシン*は酸性色素であり,細胞質や細胞外の繊維が赤く染まる。このように,塩基性の色素と酸性の色素で染め分けることがよく行われる。

注) ヘマトキシリンは中米に生育するマメ科植物Hematoxylon campechianumの幹からとられた天然の色素。ヘマトキシリンの染色機構はかなり複雑である。ヘマトキシリンそのものには染色性はない。酸化するとヘマチンが生じ,媒染剤として液やアルミニウムイオンを加えると,組織と結合した際に青紫色になる。組織内のマイナスに帯電している部分(PO43- SO42- COO-など)に結合する。

エオシンは合成されたアニリン色素。 eos はギリシャ語で赤い空の色を表す。水の中ではマイナスに帯電しており,組織のプラスに帯電した部位と結合して赤く染める。タンパク質の等電点は少し酸性に偏っているため,エオシン液に少量の酢酸を加えてタンパク質をプラスに帯電させて染めるやり方もある。

 

 

 








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