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第2節 細胞の構造

 

A 核

B 細胞質

◆核

細胞核は,有糸核分裂に際しては一時消失する。細胞周期の間期にみられる核に

ついて述べる。核は細菌やラン藻などの原核生物には存在しない。また,ほ乳類の

赤血球のように消失しているものもある。核は細胞に1個あるのがふつうであるが

肝細胞では2個あることがあり,また,骨格筋では多数存在する(多核細胞)。核の

形は,一般的には球形であるが,柱状,紡錘体状のものがある。核は内外2枚の厚

さ約8nmの二重膜からなる核膜でおおわれている。2枚の膜の間には2050nm

スペースがある。核膜には直径50100nmの孔があり(核膜孔),核と細胞質を連絡

し,物質の出入りにあずかっている。外側の核膜は,ときに小胞体とつながってい

ることがある。

 核の中には,染色質が多量に分布している。あるものは核膜の内側の膜(内膜)

付着している。染色質は,DNAとヒストンなどのタンパク質が結合したもので,

DNAの二重らせんが折りたたまれた状態にあるといわれている。核の中には1

ないし数個の核小体()が存在する。これは,リボソームRNAの合成と,リボソー

ムの組み立てを行っている。

 

◆細胞膜

細胞をおおっている細胞膜は,厚さ約8nmの二重膜からできている。リン脂質が

水をきらう炭化水素部分を内側にして二重膜をつくり,親水性部分を表面にだして

いる。これにタンパク質がところどころに埋めこまれている。脂質とタンパク質の

重量比はおよそ11である。タンパク質には糖質が結合していることが多い。こ

の構造は流動モザイクモデル(Singer1972)としてひろく認められている。

 

 細胞膜のタンパク質には,脂質二重層中に埋めこまれている内在性タンパク質と

表層に結合している表在性タンパク質とがある。ナトリウムポンプや,ホルモンの

受容体などは内在性タンパク質である。細胞膜直下には,スペクトリンなどが網目

状に配列した支持構造があり,裏打ち構造とよばれる。ミトコンドリアや葉緑体の

膜,核膜にも細胞膜と同様な二重膜があり,総称して生体膜とよばれる。

 

◆細胞壁

細菌や植物細胞のまわりには,セルロースとペクチン,リグニンなどからできた細胞

(cell wall)が存在する。細胞膜(形質膜plasma membrane)は細胞壁に接している。したが

って,細胞壁は細胞外構造ということができる。

 

◆ミトコンドリア

ミトコンドリアは,糸状の粒という意味のギリシア語に由来し, 1897年にべンダ

(C.Benda)が命名した。生きた細胞をヤヌス緑で染めると糸状体として認められる。長径

0.15.0μm,短径0.11.0μmのひも状をしており,細胞呼吸の場である。

 

◆小胞体とリボソーム

細胞内に網状に広がっている構造物のことを,1945年に細胞学者ポーター

(K.R.Porterアメリカ)らが小胞体(endoplasmic reticulum)と名づけた。小胞体は平たい袋状

をして,互いに続いている。小胞体膜は細胞膜と同じ構造をしている。リボソームの

ついていない小胞体を滑面小胞体といい,イオンの輸送や分泌にあずかっている。リ

ボソームのついているものは粗面小胞体といわれる。

リボソームは,タンパク質合成の場であり,細胞内では小胞体に付着していること

が多い。直径15nmの小粒で,大小2つの亜粒子からなっている。大亜粒子は23×13nm

小亜粒子は22×7nmの大きさである。それぞれ多数のタンパク質と数種類の

RNA(rRNA)とからなっている。リボソームが伝令RNA上に何個もついてタンパク質

合成を行っているものをポリソームとよぶ。

 

◆リソソーム

生化学者クリスチャン・ド・デューブ(Christian de Duveベルギー)1955年に発見

した細胞内小粒である。直径0.20.1μmの小粒で,内部にホスファターゼ,タンパ

ク質分解酵素,グリコシダーゼ,DNaseRNaseなど加水分解酵素を多量に含んで

いる。細胞が外からとり入れた異物や,不要な細胞成分を消化分解する役目をする。

細胞が死んだとき自己消化する。

 

 

◆ゴルジ体

解剖学者カミロ・ゴルジ(Camillo Golgi 18441926イタリア)は,1898年に彼の創

案による銀染色法を用いてフクロウの小脳中に黒く染まる袋状構造を発見した。そ

の後,この構造はいろいろな細胞に存在することがわかり,ゴルジ体とよばれるよ

うになった。これは,小胞体の袋の集合体で,粗面小胞体がちぎれて袋になったよ

うな形をしている。小胞体で合成された分泌タンパク質は,ゴルジ体に集められる。

それらは,小胞として運ばれ,細胞外へ分泌される。

 

◆中心体

細胞学者エドアルト・ベネーデン(Edouard von Beneden18461910ベルギー)が,

1870年ウマの回虫卵で発見した。ベネーデンは体細胞の染色体数が一定であること

を明らかにした人である。中心小体(centriole)は,直径0.2μm,長さ0.4μmの中空の

円筒で,長径20nmの微小管 (microtubule)3本の組みが9つ配列してできている。ふ

つう2本の中心小体が互いに直交して存在し,核の近くに見られる。中心小体2

からなる1組みを中心体(centrosome)とよぶ。細胞分裂の前中期に中心体はそれぞれ

2つに分かれ,組みになっている。中心体は1組みずつ細胞の両極に移動し,星状

体を中心体の周りに形成する。また,両中心体間に紡錘体が出現する。

 

◆葉緑体

緑色植物(紅藻,褐藻を含む)にみられる色素体で,細菌,変形菌,糸状菌には存

在しない。種子植物では凸レンズ形のものが多いが,紡錘形や円板形のものもある。

アオミドロではらせん状のひも形,ホシミドロでは星形をしている。種子植物の葉

肉では,葉緑体は直径510μm,厚さ23μmの大きさで,光合成の場である。

 

◆液胞

成長した植物細胞に見られる。トノプラスト(tonoplast)とよばれる膜でおおわれて

いる。成長しつつある植物細胞では,液胞はミトコンドリア程度の大きさで,前液

胞といわれる。細胞が成熟すると,液胞はしだいに大きくなり,細胞内で大きな部

分を占めるようになる。内部に塩類・糖・有機酸・色素などを溶かしこみ,浸透圧

を生じる。

 植物細胞,酵母に広く存在し,有害産物などを溶かしこんで蓄える。排出しにく

いため生成されたのであろう。動物細胞ではほとんど存在しない。例外的に知られ

ているのはホヤの血液中の細胞で,海水中のバナジウムを濃縮して液胞中に蓄える。

ホヤに有害なバナジウムを除去するためとみなされる。

 

 

興味のある話細胞骨格

細胞骨格

真核細胞の細胞質中には多数の細い繊維(フィラメント)が存在して,細胞の形を

保つのにあずかっている。これら繊維構造を細胞骨格(cytoskeleton)という。細胞骨

格には直径7nmのミクロフィラメント(アクチンフィラメント)10nmの中間径フィ

ラメント,250nmの微小管の3種類がある。ミクロフィラメントは細胞膜下などに

あって補強役を果たすとともに,ミオシンと反応して運動性を示す。アメーバ運動

などにあずかる。中間径フィラメントは核膜から放射状に伸びて細胞膜にいたり,

細胞の形を保つ。また核膜をつくりあげる。微小管は細胞分裂のさいに星状糸や紡

錘糸として重要な役割を果たす。また,神経軸索を支え,物質運搬のレールとなる

(レール上を走る「トロッコ」はモータータンパク質キネシンである)。これら3種類

のフィラメントはいずれも単位タンパク質からなり,重合・脱重合することができる。

 

 

参考 細胞説

◆細胞を見る技術

細胞は体をつくっている基本単位であり,細胞の構造や,それが並んでつくりあげ

ている組織・器官の構造を知るためには,細胞を詳しく観察しなければならない。し

かし細胞の大きさは1/100mm程度であり,肉眼で見ることは難しい*。顕微鏡で拡大

して見る必要があり,そのためのさまざまな技術が開発されてきた。

) ヒトの目の分解能は0.10.2mmと言われている。ヒトの目がどのくらい見えるか

を表すのに,ふつう「視力」が用いられる。視力は,2つの点が離れていることを見

分けられる一番小さな角度で表す。これを最小視角といい,最小視角の逆数が視力で

ある。最小視角が1(1度の60分の1)のものを見分けられる視力を1.0と決めている。

最小視角が2分なら視力は0.5である(1/2=0.5)

・顕微鏡の解像力(分解能) 2つの点を,別々のものとして見分けられる最小の距

離を解像力と言う。解像力は対物レンズの性能によって決まる。解像力は以下の式で

与えられる。

解像力=波長÷開口数

ここでの波長とは観察する光の波長(普通は可視光)である。開口数(NA)は,対物レン

ズに「NAO.6」というように表示がされているが,だいたい0.051.4の値をとり*

これが大きいほど高い分解能が得られる。

可視光(平均波長0.55μm)で開口数1.4とすると,解像力は0.4μmになる。このあ

たりが光学顕微鏡の限界に近い。

) 開口数は次の式で与えられる。a=nsin(u/2)ここでnは観察対象とレンズの間にあ

る物質の屈折率。ふつうは空気なので屈折率は1である。油浸レンズを使えばnが大

きくなり,解像力が上がる。uは開角。開角とは,レンズの光軸上にある点状の物体

に焦点を合わせたときに,この点から対物レンズに入る光線の方向がなす角のうちの

最大のもの。

・ミクロトーム 光学顕微鏡で観察するためには,光が透過するくらいに組織を薄

くしなければいけない。教科書p.56では,組織を発泡ポリスチレンにはさんで手に

持ち,剃刀で薄く切るやり方が紹介してある。このやり方では厚さがまちまちになり,

あまり薄く切ることはできない。普通は組織をパラフィンに包埋し,ミクロトームで

薄切する。

 材料がぷるぷるしたりへにゃへにゃすると,薄く切れない。薄切するためには固め

る必要がある。その作業が包埋である。ふつう,組織をパラフィンに包埋する*。パ

ラフィンはろう(ワックス)であるため,氷となじまない。そこでまず組織をエタノ

ールなどで脱水し,その上で加熱して溶かしたパラフィンを組織に浸透させ,冷やし

て固める。こうすると510μm程度の厚さの切片を作ることができる。

 切片を作る装置がミクロト一ムである(ミクロ微細な+トーム切ること,どちらも

ギリシャ語)。回転式ミクロトームの場合,歯が上向きに固定されており,ハンドル

を回すと試料台が上下に動く。この試料台にパラフィンに包埋した試料を固定する。

回転とともに試料が下がっていき,刃にふれて薄く切れる。次に試料台は上昇して,

試料台がごくわずか前進する。次の回転で下がり,前進した分の厚さに切片が切れる。

前進する値は任意に設定できるため,定まった厚さの切片が切れることになる。回転

式は連続切片を容易につくれ,広く使われている。回転を手動ではなく,電動で行う

ものもある。昔は,刃は自分で研いで使っていたが,使い捨ての刃が登場して便利に

なった。

 滑走式ミクロト一ムの場合には,刃のほうを氷平に滑走させて試料を切る。切った

後,刃を元にもどすと,試料台がわずかにせり上がり,次に切ると,そのせり上がっ

た分の厚さの切片ができる。植物のように硬い試料の場合は,滑走式が好まれるよう

だ。

注)簡単には,組織を凍らせて固めて切るというやり方がある。氷結法は簡便であり,

また,生きた組織を特別の処理をせずに固めるため切片にしても酵素の活性が失われ

ないなどの利点もある。ただし,氷はぼそぼそするため,薄く切る段階で壊れやすく,

きれいな切片を得ることは難しい。

・固定 パラフィンに包埋する作業は,脱氷や加熱をともない,もちろん細胞は死

ぬし,タンパク質や脂質などの構成成分も,分解されたり,変形したり,溶け出てい

ったりする。また,細胞は死ぬとともにリソソーム内の分解酵素により,どんどん壊

されていく。これらを阻止し,細胞をすみやかに殺してできるだけ生きた次態に近い

構造をずっと保つようにする操作を固定という。よく使われる固定液(10%ホルマリ

ン液・ブアン液など)にはホルマリンが入ってるが,ホルマリンは組織にすみやかに

浸透し,タンパク質に架橋を導入して酵素活性を失わすとともにタンパク質が変形せ

ず分解しにくくする働きをもつ。また,安価なのがよい。動物標本をホルマリン液中

に保存することもよく行われる*

注)ホルマリンはこのようにとてもよい固定液であるため,取り扱いには注意を要す

る。なぜならホルマリンの蒸気に当たるだけで角膜や嗅上皮のタンパク質が固定され

てしまうからである。固定の際には換気に気をつけること。

・染色 色素細胞や葉緑体などを除けば,細胞は色のついた構造をもたない。また,

細胞質の屈折率は水とあまり違わないため,細胞をそのまま顕微鏡で観察しても無色

透明に見え,構造を認識することが難しい。そこで,細胞のさまざまな構成物を色素

で染め分ける技術が開発されてきた。

 もっとも広く用いられている染色がヘマトキシリン・エオシン法である。ヘマトキ

シリンは塩基性色素*であり,核酸を強く染めるため,核がヘマトキシリンで青紫に

染まる。エオシン*は酸性色素であり,細胞質や細胞外の繊維が赤く染まる。このよ

うに,塩基性の色素と酸性の色素で染め分けることがよく行われる。

注) ヘマトキシリンは中米に生育するマメ科植物Hematoxylon campechianumの幹か

らとられた天然の色素。ヘマトキシリンの染色機構はかなり複雑である。ヘマトキシ

リンそのものには染色性はない。酸化するとヘマチンが生じ,媒染剤として液やアル

ミニウムイオンを加えると,組織と結合した際に青紫色になる。組織内のマイナスに

帯電している部分(PO43- SO42- COO-など)に結合する。

 エオシンは合成されたアニリン色素。 eos はギリシャ語で赤い空の色を表す。水の

中ではマイナスに帯電しており,組織のプラスに帯電した部位と結合して赤く染め

る。タンパク質の等電点は少し酸性に偏っているため,エオシン液に少量の酢酸を加

えてタンパク質をプラスに帯電させて染めるやり方もある。

 

 

細胞の研究史

◆細胞の発見

 ロバート=フック(Robert Hooke 16351703イギリス)は,ばねの弾性率に関するフックの法則で知られているが,顕微鏡を用いて,コルクの小片を観察して,それが空の小さな部屋からなることを見い出し,細胞と名づけた(1665)。彼はその著「ミクログラフィア」(顕微鏡図説)の中で,コルクの細胞は死んでいるので,穴があいているが,生きているときは,液がつまっていると述べている。しかし,細胞の名をつけたが,生物体の構成単位と考えたわけではなかった。植物学者のロバート=ブラウン (Robert Brown 17731858イギリス)は,植物細胞中に黒ずんだ小さなものがあることを発見し,核と命名した。それは,ほとんどすべての植物細胞に存在する。ブラウンは,水に浮かんだ花粉の観察からブラウン運動を発見した人である。

 

◆細胞説

植物学者マチアス=シュライデン(Matthias Schleiden18041881ドイツ)は,高等植物の胚のう形成の過程を観察していて,核が細胞に成長するという誤った説を提出した(1838)。シュライデンの細胞説の発表を聞いて,医学者テオドール=シュワン(TheodorSchwann 18101882ドイツ)は,ただちに動物細胞を調べてみた。動物の細胞は,植物のそれと違って細胞壁がなく細胞の輪郭がはっきりしなかった。シュワンは,カエルのおたまじゃくしの脊索から細胞をとり出して,植物細胞と同じ構造をしていることを示し,さまざまな動物細胞を調べ,血液中では赤血球など細胞が遊離していること,卵も卵黄を含んだ巨大な細胞であることなどを明らかにした。神経鞘の細胞は,発見者の名をとってシュワン細胞とよばれている。こうして,シュライデン,シュワンの研究によって,生物体を構成する単位としての細胞説が確立した。

 解剖学者ルドルフ=ケリカー(Rudolf von Kölliker18171905スイス)は,細胞説からみた組織学と発生学の基礎を築いた。ケリカーに影響を受けて発展させたのはルドルフ=フィルヒョー(Rudolph Virchow18211902)である。彼は,これまでの細胞についての知見をまとめて,「すべての細胞は細胞から(Omnis cellula e cellula)」というキャッチフレーズを発表した(1858